息子とピアノと先生

子供を持って初めて知った言葉がいくつかあるが、リトミックもその一つだった。保育園とかでよく聞くので、普通は知っているものなのかもしれない。
保育園のカレンダーに「リトミック」と月一で書いてあり、ググってみると、「音楽を通して子供の感性を養う」ものだそうだ。

保育園でそのリトミックがあった日、
「ピアノを弾いてみたい」
と言った。保育園のリトミックがよほど楽しかったらしく、家でもダンスや歌を披露してくれた。可愛くて悶絶するところだった。
「ピアノ、習ってみる?」
「うん」
こうして息子のピアノデビューが決まった。

調べてみると、音楽教室が家の近所で個人の教室だけでも4件あり、よく聞くヤマハだの山野だのも含めれば、もう、よりどりみどりであった。よりどりみどりではあったが、メールでやり取りできる教室は1つだけだった。他は電話だったため、コミュ障としては敷居が高い。とりあえずメールすると、ものの数分で返事が来た。朝7時であった。それだけでなんだか先生が好きになった。サクサクと体験の日程が決まった。

ピアノの体験教室ということで、ちょっといい服を着せた。パパ側の祖父母からもらった、私の服よりもお高いお洋服である。私の方はどうでもいいのでユニクロを着て行く。値段差がえげつないことになっていく。電動自転車の後部座席に息子を乗せ、教室へ向かった。

ピアノの教室へついて、先生が出迎えてくださった。
「こんにちは・・・」
息子がもじもじしながらも小さな声で言う。どれだけ感じの良さそうな人でも、知らない人だといつもは恥ずかしくて何も言えなくなってしまう子なのだが。そのまま、部屋へ案内されたが、息子はずっとはにかんだ笑顔のまま、かなり機嫌が良さそうであった。
「どこの保育園?」
先生に聞かれたが、いつも知らない人相手だと答えないのに
「〇〇保育園」
しっかりと答えた。
「あ、じゃあ会ったことあるね!」
「うん。ある。お歌も知ってるよ」
たまたまだったのだが、このピアノ教室の先生が、息子の保育園のリトミックの先生だった。0歳の頃から知ってる人だったので、息子もいつもよりリラックスしていたようだ。

教室についての一通りの説明を受け、ピアノの体験に移った。真剣な顔で鍵盤を弾いていく息子。照れて何もできなくなるかと思っていたのに。鍵盤をじっと見つめ、ゆっくりしっかり押していく。ポーンポーンと鳴り、息子の顔がほころんでいく。鍵盤に不釣り合いな小さな指が、慎重に慎重に、押していく。知っている人とのピアノだったからだろうか、息子はずっと、ニコニコするか真剣な表情をしているかで、ずっと先生の指さす先か鍵盤かを見つめていた。少しでも困るといつも私を困った顔で見つめる息子は、その間はいなかった。

帰ってパパを見つけると、息子はずっと習ったことを報告した。
「教室から帰って、ママがごはん作ってる間ずっと、ドレミファソー!って歌ってたんだよ」
すぐに、先生にメールをした。来月からお世話になります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?