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境界線、あちら側とこちら側。

その日は、東京で知り合った知人の結婚式だった。
そこで私は、兼ねてより一方的に知る、とある男性と出会った。

一般人と言うには名の知れたその男性の存在を目の当たりにした時、ただ一言、「そうか」と思った。
名前としての文字の並びと、文字を発した時の音の響きしか知らなかった、つい先刻まではリアルな現実にはいなかった存在が、私の世界に現れる。この人は、こんな空気を纏うんだ。そうか。
首元に小さく閉められた蝶ネクタイ。結婚式といえばスーツ、スーツといえばネクタイ。そんな当たり前を小さく崩した姿に、その男性のことなど知るはずもないのに、「らしいな」と思った。

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