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接着前処理:プライマー #00068

インレーやクラウンなどの歯冠修復物(補綴物)の接着操作は、予後の成否を決める重要なステップです。しかし、修復物の材質やセメントに応じて適正な操作は異なり、複雑です。前回の記事(#00065、66、67)では、接着前処理の概略、材質の分類、粗造化の方法について解説しました。今回は、接着前処理のプライマーの種類について解説します。(池田弘)

 プライマーの塗布は、冠内面を粗造化した後におこないます。ここで言うプライマーとは、接着性モノマーを主成分とする液体のことで、歯冠修復物とレジンセメントの間に化学結合を生じさせることで接着強さを向上させるために使用されます。臨床的には、金属用プライマー、セラミックス用プライマー、コンポジットレジン用プライマーなどがあります。さらに、金属用プライマーは貴金属用、非貴金属用、両用プライマーに分類されます。セラミックスプライマーは、ガラスセラミックス用プライマー、高密度焼結体用プライマー、両用プライマーに分類されます。そして最近では、全ての材料に接着するユニバーサル(マルチ)プライマーも存在します。これらプライマーは含有する接着性モノマーの種類によって化学結合できる材料が変わってきます。今回は、接着性モノマーの観点から、3つに分類して解説します。

 一つ目の接着性モノマーは、イオウ含有モノマーです。この接着性モノマーは、分子構造内に硫黄を含んでおり、金(Au)と化学的に結合することができます。そのため、金を含む貴金属に有効です。代表的なイオウ含有モノマーとしてチオウラシル系のMTU-6やトリアジンジチオン系のVBATDT(VTD)などがあります。

 二つ目の接着性モノマーは、酸性モノマーです。この接着性モノマーは、分子構造内に酸性の官能基を含んでおり、これらが酸化物と化学的に結合することができます。酸化膜がある非貴金属や高密度焼結体に有効とされています。代表的な酸性モノマーとして、カルボン酸系の4-METAやMAC-10、リン酸エステル系のMDPなどがあります。

 そして三つ目の接着性モノマーがシランモノマーです。通常、シランカップリング剤と呼ばれます。このシランカップリング剤は、分子構造内にシラノール基(正確には、加水分解反応した後にシラノール基が生成する)を含んでおり、ガラスセラミックス表面に存在するシラノール基と反応することで化学的に結合することができます。代表的なシランカップリング剤は、γ-MPTSがあります。

 これら接着性モノマーが含まれるプライマーを適切な材料に使用すれば、化学的な結合が獲得できます。以下にまとめの表を示します。

図1

00:00 前回まで
01:42 プライマーの役割
02:55 接着性モノマー
05:30 イオウ含有モノマー
07:00 酸性モノマー
07:50 シランモノマー
08:25 まとめ

補足・訂正

 レジンセメント自体に接着性モノマーが含まれているセルフアドヒーシブ型のレジンセメントがあります。これらはプライマーがなくても材料に接着すると言われていますが、セルフアドヒーシブ型レジンセメントを使用する場合にも、材料に応じた適切なプライマーを併用することをお勧めします。プライマーの使用は、確実に接着強さを向上させます。

動画クイズの答え

Q. 数種類のプライマーを混ぜて使用しても良い?

A. メーカー指定の組み合わせは大丈夫であるが、それ以外は基本的におすすめできない。また、保存状態(保存温度、期間)はプライマーの劣化に関係するので非常に重要である。確実な接着を行うためには、指定通りの保存が必要がある。


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