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歯の被せモノの意外な役割〜歯冠修復における接着の重要性〜 #00049

 歯科治療における接着の重要性について解説します。今回は、歯冠修復物における接着の効果についてです。内容は歯科医師や歯学部生などの歯科関係者向けです。(池田弘)

 クラウン、インレー、アンレーなどの歯冠修復物(補綴物)を支台歯に接着させる場合、接着性レジンセメントなどを使用して合着させます。この接着の第一の目的は歯冠修復物が外れないようにするためです。これは皆さんご存知だと思います。しかし、接着は単に外れないようにするためにしているのではありません。歯冠修復物と支台歯が壊れないためにも非常に重要なんです。歯科医師の先生方の中には、「上手に支台歯形成できるから歯冠修復物は外れない!!だから、そんなに接着していなくても脱離しないから十分である!」というお考えの方もいらっしゃると思います。しかし、接着の効果を知れば、もう少し正しい接着操作を知りたくなるかもしれません。

 上述したように、接着は歯冠修復物や支台歯の破損を低減させることに役に立ちます。これについて少し説明します。

 接着することは2つまたはそれ以上のモノを一体化させる効果があります。一体化したモノに対し、外からチカラがかかると、そのチカラは接着した界面を介してモノとモノを伝わり、全体に均一に分散されます。別の言葉で言うと、”チカラがいなされている”です。一方、接着していない場合はどうでしょうか。モノとモノ同士は単に接触しているだけですので、チカラをいなすことはできません。局所的にチカラがかかりやすくなるのです。特に、接触している部分にはチカラが集中しやすくなります。これを応力集中と言います。この応力集中が起きてしまうと、普通は壊れないような小さなチカラでモノが壊れてしまうのです。この現象は、歯科に限らず、自然界や建造物に多く見られる現象です。接着していない(または接着が弱い)場合、応力集中が口腔内の歯冠修復物やその他の補綴装置でも起こるのです。

 接着の効果は、支台歯と歯冠修復物が外れないようにすること、破損しないようにすること、この二点です。接着操作が正しく行うことができれば、脱離や破損などの臨床的失敗を減らすことが可能です。

 この記事に関する内容に興味がある方は動画をご覧ください。

00:10 歯冠修復と接着
00:50 歯冠修復における接着の重要性
01:40 歯冠修復物はどこから割れる?
03:20 接着が破折防止に及ぼす効果
04:40 接着がもつ破折の防止効果

補足・訂正

 接着操作は、補綴装置の材質やセメントの種類によって異なります。正しく接着させるためにはこれらを知る必要があります。これについては、別の記事や動画で詳しく解説させていただきます。 

動画クイズの答え

 YouTube動画エンディングのクイズの答えは、「MMA系レジンセメント」。商品名で挙げるとスーパーボンドなどがある。MMA系レジンセメントはショックアブソーバーの役割も果たしやすい。そのため、クラウンなどの歯冠修復物にかかる衝撃を支台歯に逃す機能がある。研究例として以下を挙げる。

村原貞昭ら、「CAD/CAMハイブリッドレジン冠の繰り返し衝撃荷重に対する破折抵抗性」、接着歯学 2017年 35巻  

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