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痛み(Pain)とは①末梢受容器編:後編 #00097

 痛みの定義と活動電位のおさらいをしたので、いよいよ侵害受容器の話に入ります。どうやって我々は外部・内部の侵害(ケガ)情報を受容しているのでしょうか。(小野堅太郎)

 情報の受容は「受容体」と呼ばれる分子センサーが必要です。20年前は、侵害情報を受容する分子はほとんどわかっていませんでした。1990年代末に、熱受容体のTRPV1(発見当初はVR1という名前)がカプサイシンによっても活性化することが明らかになったことをきっかけに、現在では多くの受容体が知られています。その多くはTRPチャネルファミリーに属します。そのため、感覚や痛みに関する教科書の記述は、私が学生だった時代は数行であったものが、数ページに渡っています。

 さらに、触覚に関与する機械受容体としてPiezoチャネルが発見され、TRPV1の発見者とともにノーベル生理学賞の受賞となりました。細胞の破壊によるATP漏出を検出するATP受容体P2X(プリン受容体の一部)は、動画では「ノーベル賞に繋がった」といっていますが、正確には「ノーベル賞クラス」であり、受賞にまでは至っていないようです(これも凄い発見なのですが)。感覚の業績へのノーベル賞に関しては、聴覚、視覚、嗅覚、体性感覚(触圧覚、温度感覚、痛覚など)ときているので、そろそろ味覚の受容体への受賞が期待されるところです。

 さて、これらの侵害受容体は侵害受容神経の自由神経終末という「侵害受容器」の細胞膜に発現するイオンチャネルです。通常は閉じているのですが、温度刺激や機械刺激などによりチャネルが開くと細胞内に陽イオンが流れ込みます。これにより細胞膜電位を上昇させます。細胞内は「分極」しており-60 mVぐらいですが、陽イオンの流れこみで分極状態から脱出するような電位変化「脱分極」が引き起こされます。このような感覚受容器での刺激に応じたアナログ脱分極を「受容器電位」といいます。これと同義の言葉で「起動電位」というものもあります。しかし、厳密には2次感覚細胞(味細胞や有毛細胞などニューロンと接続する細胞)での電位変化を受容器電位といい、1次感覚細胞(自由神経終末などニューロン自身)では起動電位とよぶ習わしがあります。間違ってはいませんが、動画ではずっと「受容器電位」といっていますので、少し問題があります。すいません。

 この起動電位ですが、閾値を超えると活動電位を発生します。鋭痛を伝えるAδ線維では跳躍伝導をするので、伝導速度が速く、脊髄反射に関与します。一方、鈍痛を伝えるC線維では髄鞘がないため跳躍伝導がないため遅い伝導速度で中枢に伝わります。今回の説明はここまでです。次の動画で「中枢伝導路」について詳しく説明します。

00:15 侵害受容体
04:53 起動電位(受容器電位)
08:32 質問タイム
11:50 辛味は味なのか?

補足・訂正

 「受容器電位」は「起動電位」に読み替えてください。P2Xはノーベル賞受賞まではしていませんでした。動画のテロップで注釈していますが、大きな間違いではないので気にしなくてもいいです。

 動画で少し紹介するTRPM8はメンソール受容体としても知られる冷受容体です。TRPV1とPiezo発見の二人のノーベル賞受賞者はともにTRPM8の発見にも関わっているので、これも受賞理由に上げられています。TRPA1は動画では「機械受容分子」として挙げていますが、分子自体の機械受容は否定されており、厳密には「機械刺激で結果的に関与してくる分子」です。TRPA1の冷受容に関する報告は種差が大きく、内容が拮抗しているためまだ結論が出ていません。

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