見出し画像

実験溶液の操作 #00102

 実験溶液の操作について説明します。今回は盛りだくさんなので、見落とすことがないように注意深く動画で勉強してください。紹介する技術は、バイオ実験において非常に頻度の高いものばかりです。(小野堅太郎)


1.メスシリンダーの使い方

 実験用ガラス器具には目盛が付いていますが、参考程度の値です。しかし、メスシリンダーは違います。きっちりと体積を計る実験器具です。ですので、メスシリンダーは洗浄の際に内側をブラシで擦ってはいけませんし、自然乾燥させる必要があります(「実験器具の洗浄と乾燥」の動画を参照)。

 ですので、メスシリンダーはガラス製実験器具の中で最も高価です。なのに、非常に割れやすいです。我々の研究室では、メスシリンダーの口の部分の突起が割れないように、もしくは転がって割れないようにストッパーを付けるようにしています(下写真のメスシリンダーに取り付けた赤と青の装置)。

 メスシリンダーで溶液の体積を合わせることを「メスアップ」といいます。目盛の読み方は、目的の目盛の位置と同じ高さに視線を持っていきます。動画では、撮影上、メスシリンダーを持ち上げていますが、これをやってはいけません。メスシリンダーは水平な台の上において、視線の方を必ず移動させてください。

動画では持ち上げてますがダメですよ。

 蒸留水を入れたビーカーから注いでいってメスアップするのが基本です。しかし、慣れないと水を入れすぎてしまい、試薬の秤量からやり直しとなってしまうかもしれません。そうならないように溶液をぴったり簡単に体積を合わせたい場合は、洗浄瓶(下写真の中央)に蒸留水を入れ、これで追加していくとオーバーすることなく安心してメスアップできます。

本来の目的とは違っていろいろ役に立つ洗浄瓶

 こうして体積を合わせることで、溶液の作製が終了となります。溶液は複数の溶液を混合して作ることもあります。下の写真のようにA溶液とB溶液を用意してビーカーに混ぜ合わせるということもよく行います。この混ぜ方の裏技を最後に説明しています。

2.ピペッターの使い方

 100 mL以上の溶液を計ったりするのはメスシリンダーが効率的です。しかし、10 mLや20 mLを計り取るのはメスシリンダーは得意ではありません。そのサイズのメスシリンダーは一応ありますが、細く縦長で扱いにくいです。そこで有用なのが、ピペッターです。口で吸い取るピペッターが過去に使われていましたが、溶液が口に入ったら危険です。現在は下の写真のような充電式の「電動ピペッター」が主流です。細胞培養をやっている研究室ならクリーンベンチの近くにあると思います。

ボタンが二つあり、上が吸い取り、下が吐出しです。

 ピペッターには、細長いピペッターを接続します。うちの研究室では滅菌済みの袋詰めディスポを使用しています。研究室によっては、ガラスピペットを滅菌缶に入れて使用しているところもあるかもしれません。

撮影の際は、説明のためビーカーを持ち上げていますがその必要はありません。

3.マイクロピペッターの使い方

 1 mL以下の溶液を計ろうと思ったらピペッターでも難しくなります。そこで登場するのがマイクロピペッターです。使用頻度が最も高く、高い技術を要求されます。サイズは、5 μL、10 μL、20 μL、100 μL、200 μL、1000 μL (=1 mL)、5 mLと様々なものがあります。最後の5 mLは、計量容量としてはピペッターと同等です。このサイズは「最大容量」を示しており、正確に測れるのはこの20分の1までと考えてください。10 μLのマイクロピペットであれば、せいぜい0.5 μLまでしか計れません。では、1 mLの20分の1は50 μLです。だからと言って、50 μLを1 mLのマイクロピペットで計ってはいけません。100 μLサイズを使用しましょう。

マイクロピペッターの台は自作です。

 目的の容量に合わせるには、プッシュボタンを回転させてグリップ部の数字を合わせてください。

 マイクロピペッターの先端には「チップ」と呼ばれるディスポを装着します。チップは専用のボックスに収納され、オートクレーブ滅菌されています。蓋を開けて、マイクロピペッターを上から「トン!」と1,2回軽く叩いて装着します。

チップを付けたら、蓋を閉じましょう。

 チップを装着したマイクロピペットは、先端が何にも触れないように置いてください。下の写真のようにチップボックスの上に置いても構いません。

 マイクロピペットのプッシュボタンを親指で押し込んで、溶液にチップを差し込み、親指の押し込みをスムーズに解除することでチップ内に溶液が吸い込まれます。プッシュボタンは2段階のストッパーが付いており、吸い取るときは1段階目のストッパーの部分で吸い取る必要があり、2段階目のストッパーまで押し込んではいけません。

吸い取る際に溶液がチップ内ではじけないように、プッシュボタンの解放はスムーズに!

 逆に、吐き出すときは1段階目のストッパーを超えて押し込む必要があります。1段階はマイクロピペットで設定した容量になっており、それを超えると気泡が入ります。実験によっては、気泡の混入がよろしくない場合がありますので、気泡を入れずに指定容量を全部吐き出せるようにトレーニングしてください。

 異なる溶液ごとにチップを交換する必要があります。チップを外すにはプッシュボタンの横にあるイジェクターボタンを親指でおして外してください。10 μL以下のマイクロピペットにはついていないので、チップを指で直接引き抜きます。

4.溶液の混ぜ方

 溶液の混ぜ方も様々です。チューブの底を振る、チューブを上下に回転させる、横や上下に振るなどあります。他にも、指でチューブ底をはじく「タッピング」というのもあります。

タッピングの様子

 より激しく混ぜる必要がある場合は、ボルテックス(vortex:渦)します。ボルテックスする器械をボルテックサーといいます。

動画で使用方法を確認してください。

5.分注方法

 作製した溶液を小分けにすることを「分注」といいます。キムワイプを敷いて、その上に滅菌したチューブを必要数だけ出します。

 マイクロピペットを用いてチューブに溶液を入れていきます。

6.ピペッティング

 溶液の混ぜ方の中でも「ピペッティング」は必ず習得してください。マイクロピペットを用いて溶液を攪拌させる方法です。動画を見た上で、しっかりと練習しておいてください。

7.段階希釈

 ピペッティングが重要となるのは、特に「段階希釈」を行うときです。実験では標準曲線を出すために、標準物質を種々の濃度で用意することが多々あります。例えば100%の溶液を10%、1%、0.1%、0.01%といった10分の1毎にした溶液が必要な場合に段階希釈をすることになります。

8.溶液混合の裏技

 実験は片付けまでが実験です。片付けの洗い物が少ないに越したことはありません。1つ裏技を紹介していますので、試してみてください。


解説動画

00:16 メスシリンダーの使い方
03:33 ピペッターの使い方
05:02 マイクロピペッターの使い方
09:16 溶液の混ぜ方
10:32 分注方法
11:57 ピペッティング
12:28 段階希釈
14:22 溶液混合の裏技

今回は習得すべき内容が多いですが、頑張りましょう!

全記事を無料で公開しています。面白いと思っていただけた方は、サポートしていただけると嬉しいです。マナビ研究室の活動に使用させていただきます。