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石器からどうやって青銅の利用へと移行したか:道具と武器の歴史①

 歯科医療の歴史シリーズの連載記事で、銃や歯科医療機器の変遷を書いていたら、道具や武器の歴史にも興味を持ってしまいました。不定期な連載になると思いますが、余談的新連載を始めたいと思います。ルーツから話さないと気が済まないたちなので、「石器」から解説します。(小野堅太郎)

1.石の加工

 石器といっても、そこら辺の石を使って木の実を割ったりしたら石器となります。ヒト以外にも、霊長類では道具の利用は観察されています。チンパンジーが木の枝を利用してアリ塚の穴に差し込んでアリを食べたりするように、道具の使用は人間に限ったものではありません。生活環境の中から便利な対象物を使って獲物を得たり、他者を攻撃するということは他の生物たちも普通に行っていることです。

 ではヒト特有の道具利用といえば、「加工」です。そもそも存在している石を割って加工して縁を尖らせ、木の柄をつけて使いやすくするなんてことをするのは人間だけです。おそらく、遊びで石を壁に投げつけて、割れて尖った破片を拾ったことが始まりでしょう。石を細かく割ってナイフ様のものを作り、食品や衣服の加工に使用したり、木を削って新たな道具を作っていったと考えられます。そしてその便利な石器は、人を傷つける武器としても使われるようになったのでしょう。さっきから「人間」と言っていますが、ヒト(ホモ・サピエンス)以外の人類であるホモ・ハビリス、ホモ・エレクトス、ネアンデルタール人なども石器を作っていたことが明らかとなっています。

 「加工」は、たまたま便利なものを見つけたというような「偶然」ではなく、自分で作れるという「必然」を基にしているところが優れています。燧石(すいせき:火打石、フリント)はガラス質の硬いけど加工しやすい材料として石器によく利用されます(燧石はいずれ火縄銃の解説をやるときに再登場するでしょう)。初期の石器は石を砕いただけのもの(打製石器)でしたが、削ると、めちゃくちゃ鋭利な小型の石器が加工できます。これらガラス質の石器を矢の先に付け、弓を使った狩りや戦いに使用されるようになったわけです。 

2.青銅の加工

 青銅は、銅(Cu)とスズ(錫:Sn)の合金で、スズの割合が大きくなってくると、銅の茶色から金色、そして白色へと変化します。え、緑では?と歴史教科書の青銅器から緑を思い出す人がいるでしょうが、あれは表面の銅が錆びて酸化した「緑青」が付いている状態です。屋外に雨ざらしのブロンズ像は緑で、屋内で磨かれているブロンズ像が金色なのは、そのためです。

 長い石器の時代から、人は火(熱)を使って鉱物を柔らかく溶かし、加工することで新たな道具や武器が発明されていきます。しかし、窯(ストーブ)で薪を燃やしても500℃くらいです。融点が1000℃程度の金、銀、銅(周期表の11族)は全然解けません。熱エネルギーは火が燃えることで発生します。現代科学でC+O2→CO2と習ったように、炭素が酸素分子と結合して二酸化炭素ができる際に熱エネルギーができるわけです。よって、より高温が欲しければ、「炭素の塊に酸素をたくさん送り込めばよい」ことになります。

 炭素の塊といえば木炭です。木炭は、薪を空気のない状態で加熱して作られます。空気(酸素)がないと、薪の主成分セルロース(C6H10O5)n の炭素元素の大半は二酸化炭素のようなガスにならずに残ったままで、残りの水素原子と酸素原子が外れ、他の揮発性物質と共に薪から抜けていきます。木炭という炭素の塊により、効率的な熱産生材料として木炭は数十万年前から生活に利用されてきたわけです。

 耐熱性の高い窯や「るつぼ」が開発されると、木炭に息を吹き込んで1000℃以上の熱を生み出すことができるようになります。これにて、金、銀、銅はなんとか溶かせるようになりました。型に入れて成型したり、叩いて延ばしたり、磨くこともできるので、たくさんの金属アクセサリーなどが作られるようになります。しかし、金、銀、銅では石より柔らかいので、道具や武器には使えません。

 そんな中、今から5000年前(紀元前3000年)にメソポタミアで青銅が開発されるわけです。炉の中でなかなか溶けない銅に融点230℃のスズを混ぜていくと、表面から合金化して融点が下がるので1000℃までいかなくても、銅もろともドロドロに混ぜあっていきます。この銅とスズを溶かし合わせてできた「青銅」ですが、融点は900℃に下がって加工しやすくなったことに加えて、石並みに硬いことがわかります。青銅器時代の始まりです。

 硬さの1指標として「モース硬度」があります。ナイフでひっかいて傷がギリギリつく硬さが5で、ダイヤモンドで傷がつく場合が10に設定されます。モース硬度3の銅よりは青銅は4になるので硬いですね。サヌカイト7,燧石6,黒曜石5ですからメジャーな石器より青銅が硬いわけではありません。ちなみに歯のエナメル質は6です。

 しかし、無骨な石器に比べて、青銅は薄く鋭利に自由に成型できます。再利用、再形成が可能です。これにて一気に石器が消えていくことになります。ふいごの発明など、さらなる青銅の冶金技術の向上もあって、世界中に青銅の農具と武器が広がっていくわけです。薄く青銅を加工して、うろこ状にして紐でつなぎ合わせた鎧も出てきます。メソポタミアのシュメール人たちは軍隊を組織し、青銅武器をフル活用します。

3.鉄の加工

 金の加工には砂金を集めるわけですが、砂鉄も一緒に取れてきます。よって、青銅に比べたら鉄は比較的容易に手に入る物質でした。でも、青銅のように簡単には溶けてくれないのです。鉄の融点は1500℃です。鉄鉱石から鉄を溶かしだそうとしても、そこまで高温の冶金をできる施設はそうそうありません。青銅器時代にも鉄器が存在しますが、極わずかのようです。そんな中、紀元前1400年、メソポタミアを含むヒッタイト王国で鉄の精錬が開発されます。

 鉄については長くなるので、続きは次回の記事でお会いしましょう。


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