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研究者たちの履歴書

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マナビ研究室メンバーたちの履歴書。子供時代、学生時代、研究者時代。留学体験記や人生譚をまとめています。研究者を目指す人たちに何か役に立つヒントがあるはずです。
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記事一覧

大学業務過密時の優先順位: 大学のお仕事③

 大学教員の3月4月は忙しい。授業の準備、書類の提出、業務の引継ぎなどなど。これをいかに捌いていくか、毎年悩ましい。(小野堅太郎)  よもや大学教員は、学生さんのいない3月は暇だとお考えの方はいないでしょう。進級判定、次年度の授業の用意、研究報告書、次年度研究計画書、次年度TA申請、大学院生の指導実績報告、院生の論文まとめ、博士号審査の対策などなど、忙しいのです。4月に入れば、新入生説明会、授業スライドの調整、資料の用意、院生の指導計画書、科研費報告書、自己評価報告書、研究

学内委員会をどう運営するか: 大学のお仕事②

 教授になって7年ほど経ち、数々の大学運営に関する委員会に所属し、いくつかの長を任されてきた。失敗と成功体験からいくつかのことを学んだので書き残したい。(小野堅太郎)  兎にも角にも研究中心で仕事を行ってきたので、「大学運営の仕事」といっても全くわからなかった。しかも、誰も教えてくれない。後でそれぞれの組織毎に「規約」なるものがあることがわかり、現状に沿っていないからと規約改正になり、本来の仕事より規約改正がメインの仕事になったものもあった。一委員である場合は、そんな感じで

大学カリキュラム編成は、結構難しい: 大学のお仕事①

 小・中・高校もそうであろうが、大学も時間割を組むのは難しい。何が難しいのかをご紹介してみる。(小野堅太郎) 科目間の連携・順番 まず、学問は必ずしも独立していない。国語は全ての学問の学びに必要なので、教科書を読める人は全ての学問を自学でき、より深くまで学ぶことができる。英語が苦手な人、特に英訳で点が取れない人は、英単語を暗記できていないことよりも国語が不得手であることがある。中学校まで「理科」として一科目に分類されていたものも高校からは、化学、生物、物理、地学に分かれます

外国人から見た日本語の難しさ:台湾留学生の日本体験記③

 来日して数日が立ちました。日本語で買い物をするのに少しずつ慣れて来ました。そろそろ入試対策です。インターネット接続のため電話でNTTに設営の依頼をしましたが、日本語で申し込むのは苦難でした。さらに、日本の教科書で大きな言語の壁にぶつかりました。(徐嘉鍵) 日本語学校の案内本が揃うと、早速、入試への対応を始めました。勉強の仕方を2つ考えました。①日本語学校に通って勉強する、と②日本に留学した経験がある両親にアドバイスをもらいながら自力で勉強する、です。入学試験の対策

日本で感じた独特の食事情:台湾留学生の日本体験記②

 来日二日目、日本での海外生活が始まりました。朝食の時、台湾と日本の朝食事情が異なることを気づきました。(徐嘉鍵)  初日の塩ラーメンを食べた後、すぐに寝たのですが、疲れのせいか夢が出てきませんでした・・・。日本での最初の朝、カーテンを開くと優しい日差しが部屋に入り込んできました。まるで日本のお日様が私を歓迎してくれるようだ、と勝手に想像してました。  その時、腹から食べ物が欲しいとのメッセージが出てきました。あ!昨日、朝食の用意を忘れていました。どうしよう、何を食べよう

私が日本に留学した理由(わけ):台湾留学生の日本体験記①

 小野の研究室に2021年4月から徐嘉鍵(シュウ ジャジェン)先生が新しい助教として就いてくれました。台湾出身で九州歯科大学に私費留学し、大学院へと進んだ経歴を持ちます。果たしてどんな先生なのか。自己紹介を兼ねて、経歴を記事にしてもらいました。(小野堅太郎) ーーーーー  来日して14年目(2021年)になりますが、本当に「光陰矢の如し」でした。台湾は日本の近隣国であり、親日国として知られています。よく両国間の文化や価値観が共通することが多いと言われていますが、意外にそう

研究論文の査読業績を集約するPublons(パブロンズ)を使ってますか?:研究者たちのデジタル履歴書③

 researchmapにもORCIDにもない研究者業績管理の穴といえば、「査読業績」です。科学論文は多くの研究者達のボランティア作業である「査読」という検証を受けたうえで「承認(アクセプト)」されたら掲載されます。しかし、査読者は基本的に「匿名」なため、業績に残しにくいです。これを解決してくれるのが「Publons(パブロンズ)」です。Publons初心者ですが、紹介します。(小野堅太郎)  科学論文には大きく分けて2つあります。「査読あり」と「査読なし」の論文です。「査

国際的研究者IDシステムORCID(オーキッド)とは?:研究者たちのデジタル履歴書②

 前回紹介したresearchmapは日本語話者向けの研究者情報システムでしたが、国際版として英文でのORCID(オーキッド)があります。英語だからと嫌がらずにORCID登録を済ませておくと、researchmap入力が楽になるのでおススメです。(小野堅太郎)  ORCIDは「(Open Researcher and Contributor ID」の略になります。IDは「identification」の略とすれば(intelligent designではありませんよ)、直訳

researchmapを知っていますか?:研究者たちのデジタル履歴書①

 研究者の業績管理は、経歴が長くなってくると大変である。医療系大学に所属するなら、研究だけでなく、教育や臨床の実績もある。これら積み重なった業績は、自らの大学人としての足跡を示すことになり、近年は社会に公開することが求められている。2020年にグレードアップしたresearchmapについて紹介してみる。(小野堅太郎)  まず、皆さん、researchmapを知っていますか?。研究者ではない方のほとんどが知らないのではないかと思います。では、「研究者なら全員知っています。」

私の今までの研究人生⑧後輩に託する思い:稲永清敏名誉教授(九州歯科大学)

 いよいよ最終回です。全8回にわたって、稲永先生(名誉教授)の研究人生を紹介させていただきました。小野も共に研究を進めたものとして感慨深いです。本記事のお言葉、大切にして研究を引きつがせていただきます。(小野堅太郎) ーーーーーーーーーーーーーーー 14.痛覚研究に託する思い 生理学教室における痛覚の研究は、今から10年ほど前、歯科侵襲制御学分野が行っていた乳がん細胞Walker 256Bを使った癌性疼痛モデルの開発に小野君がかかわったことに始まります。少し遡りますが、小

私の今までの研究人生⑦ヒト研究、アンジオテンシン物語:稲永清敏名誉教授(九州歯科大学)

 稲永先生(名誉教授)の唾液腺研究はヒト研究へと発展します。そして、若いころから取り組んできた最大の研究テーマ「アンジオテンシン」についてです。小野もこの研究にハマりました。感涙です。(小野堅太郎) ーーーーーーーーーーーーーーー 12.ヒトの唾液分泌 ラットの唾液腺の論文をいくつか出すうち、放射線科の森本教授からヒトの唾液腺のMRI画像と唾液分泌機能との関係を共同で調べませんかという話が持ち上がりました。これには、主に小野君(九州歯科大学・生理学分野准教授)と歯周病科か

私の今までの研究人生⑥研究をさらに展開:稲永清敏名誉教授(九州歯科大学)

 九州歯科大学生理学講座に赴任し、新しく立ち上げた唾液腺研究。これをさらに発展させ、「喉の渇き」について切り込んでいく。多くの大学院生たちの努力により解明へと突き進む!(小野堅太郎) ーーーーーーーーーーーーーーー 10.ラット耳下腺唾液分泌測定 唾液は唾液腺にある腺房細胞で生成され分泌され、機能のひとつとして、口腔内の湿潤性を保つはたらきがあります。唾液分泌が減少すると湿潤性が失われ、口の渇きがおこります。喉の渇き(口の乾き)と唾液分泌の関係をもう少し調べてみたいという

私の今までの研究人生⑤研究室配属立ち上げと新研究領域への挑戦:稲永清敏名誉教授(九州歯科大学)

 1994年、九州歯科大学生理学講座の教授として赴任してきた稲永先生(名誉教授)。教育(研究室配属の立ち上げ)と研究(唾液腺研究)に邁進する。(小野堅太郎) ーーーーーーーーーーーーーーー 8.基礎配属と研究室配属への思い出 教授になってから、皆さん経験することかと思いますが、新任教授は教授会で色々な役を頂く(押し付けられる?)ことです。私が赴任してきた丁度その年は、九州歯科大学では、進学・専門課程制度を廃止して6年一貫教育制度に切り替え、新しいカリキュラムに移行した年で

私の今までの研究人生④研究留学と他大学への転出:稲永清敏名誉教授(九州歯科大学)

 いよいよ稲永先生(名誉教授)はケンブリッジへの留学、そして九州歯科大学へと赴任します。院を修了して6年後に留学です。九州歯科大学に来られたのは1994年(43歳)でした。(小野堅太郎) ーーーーーーーーーーーーーーー 6.ケンブリッジ留学 1985年8月より1987年2月まで、1年7ヶ月英国にBritish Councilの奨学生となり留学する機会を得ました。最初の2ヶ月は、ケンブリッジ市内で英会話教室に通いました。というか、通わされました。British Counci