【一口馬主論議】マル外牝馬の難しさ

本日、DMMバヌーシーのHPでヴァンビスタの引退が発表されました。

この子のことをご存知でない方も多いと思うので簡単に説明すると、DMMで募集されていた矢作厩舎のマル外の牝馬で、デビュー前から関係者一同ベタ褒め。DMM現3歳世代のエースになるかも...とまで言われていた馬です。

私自身出資はしていなかったのですが、現役時代好きだった米三冠馬Justifyの産駒で、POGにも指名していたことからずっと追いかけていた馬でもありました。

結果は勝ち上がることが出来ず引退。

今回は一口馬主でよく「難しい」と言われるマル外の牝馬について見てみましょう。


ヴァンビスタの経緯

ということでもう少し詳しく彼女のことを振り返っていきましょう。

募集価格は3.9万円×2000口の総額7800万円募集。マル外ということを勘案してもかなり割高ではありますが、そこは矢作セレクトのブランド料といったところでしょうか。
募集当時はラヴズオンリーユー・マルシュロレーヌのBC制覇などもあり、世間は世界の矢作フィーバーでした。筆者も血統的や馬体といった要素も相まって結構気にいっていましたが、価格が高かったことにより断念。

ヴァンビスタ 五代血統表
net keibaより

血統面で目を引くのはやはり父の米三冠馬Justifyでしょう。現3歳が初年度産駒ですが、日本では3歳世代のダートの強豪ユティタムを出した程度で、他の産駒はあまり活躍できず。
とはいえ産駒の不振は日本に限った話で、オーストラリアやアメリカの芝路線では既にGⅠ馬2頭、重賞馬も多数輩出しており、種牡馬としては先代の三冠馬American Pharoahを凌ぐ勢いです。筆者もJustify産駒は芝適正アリと考えていたので、物議をかもしたヴァンビスタの芝での新馬戦挑戦に関しては今でもそこまで否定的には考えていません。

半兄に米芝重賞勝ち馬、母系を遡ってもGⅠ馬が複数と血統的には申し分がないです。
特に日本においては主流血統であるSS、キンカメ系を持っていない為、ほとんどの内国産種牡馬を付けることが出来る点も(繁殖として見るなら)素晴らしいですね。

現役時代は3戦0勝。デビューはコンディションもあり12月頭と少し遅い時期。調教のタイムも抜群に良く、1番人気で迎えましたが、最下位入線。

パドックで怯えたことか、レース中の骨折か、はたまた芝適性か... 敗因は様々あると思いますが、あれだけ吹いておいての結果だったので各種SNSは大荒れ。
その後はコンディションとの戦い。薄い蹄や筋肉に痛み止めを打ちながら何とか2回レースを走り今に至ります。

日本におけるJustify産駒の傾向として「調教番長」的なところがあるので(恐らく原因はウッドチップとの相性の良さ)、調教での評判の良さなどはその点を差し引いてみるべきだったのかなと個人的には感じています。
ただ、それでも順調にいけば勝ち上がり程度の能力は十分にある馬だったと思うので、そこに関しては改めて一口馬主の難しさをこの馬に教えてもらいました。

繁殖としてのマル外牝馬

「繁殖目的の馬を会員に売りつけて、怪我しない程度に数戦走らせて引退かよ。バヌーシークソだな」こんな意見がSNSや某掲示板にもありましたが、この意見が全て間違っているとは言い切れません。

バヌーシーに限った話でもありませんが、マル外の良血の牝馬を6000~1億くらいで募集して、会員が納得する程度に適当に数戦走らせて引退...
一口馬主ではよくある話です。
ぶっちゃけドゥラメンテの種付け相手なんかは、ノーザン系クラブ・オーナーズの会員の夢の跡になっています。そして産駒が他クラブで募集され重賞勝ち、ブチ切れるキャロット会員の皆様
DMMでもファイナルドリームなんかが似たような例でしょうか(募集価格1億9800万円)。


嫌な言い方にはなりますが、一口馬主の間では、マル外の牝馬に出資することは生産牧場の養分になるだけと考える方も多くいます。
実際筆者もシルクでアメファラ産駒の良血の牝馬(マル外ではなく持込馬ですが)を悩みに悩み抜いた挙句出資を諦めた経験があります。
下記記事1番最後の馬


ただ、クラブ側も元から「多分走らないだろうけど、血統的に繁殖入りさせたいし会員に売りつけて馬代だけでも回収しておくか」とまでは考えていないんじゃないかなぁと思います。
どこのクラブもマジで走らないなら、多少良血でも普通にサラオク送りにしてますからね。

牝馬ということもあり、メンタル面での難しさ等が重なりなかなか本来の実力を発揮できずに終わってしまった...というパターンがほとんどなんじゃないでしょうか。
ヴァンビスタも調教タイムは良かったですし、このパターンだと思います。仮にクラブにそういう意図があったとしても、調教師や外厩の方々がそれに加担する筋合いは無いですからね。

しかし、地方移籍か繁殖入り…と考えたときにこの馬の持つ要素が大きな判断材料となったことは間違いないでしょう。

結局マル外の牝馬は出資すべきなの?

先に結論を言いますと、ノーです。

私も正直今でも迷っていますが、一口馬主として回収率も重視するのであれば明確に出資すべきではないと言えます。
理由を挙げます。

奨励金が貰えない

これは牝馬に限らず外国産馬全体の問題ですが、外国産馬は内国産馬所有奨励賞という補助金が貰えません。
この奨励金はJRAが国内の生産者を支援する目的で給付されているもので、未勝利でも1着なら200万円程度が給付されます。
一口馬主の皆様ならこの金額の大切さはよく実感していることでしょう。正直これが貰えないのは外国産馬のかなり致命的な点でもあります。

出走するレースが限られる

かつて外国産馬にはクラシックや天皇賞といったレースの出走にかなりの制限がありました。クロフネとアグネスデジタルのエピソードは競馬ファンの間でも有名ですね。
現在では随分と緩和されましたが、それでも特に外国産の牝馬に関しては下級条件の牝馬限定戦等は出走が出来ません。重賞であれば出走は可能ですが、重賞に出走出来る馬がほんのひと握り。大半の馬が条件戦を戦うことになると考えれば、この事項は留意しなければならないでしょう。

内国産馬に比べて情報が少ない

これは今年某ノ〇マンディーのある募集馬のキャッチフレーズです。
フロリダのセールのプレビューでは10.2秒をマークしました。
日本の感覚で言えばセールでの計測タイムが10秒台前半はかなり凄まじいタイムなので、一見素晴らしい才能を持った馬に思えます。しかしながら、実はアメリカのセールではこのタイムは割と平均的なタイムであるということはあまり知られていないんじゃないでしょうか?
今回の場合だと「フロリダ州のセール」と言われているので、恐らくオカラで開催されるOBS社のセールではないかなぁと推察できますが、ここのセリだと、ハロン9秒台でやっと素質馬として注目される程度なので、10.2秒というタイムは決して取り立てて早い訳ではありません。

このように、外国産馬は特に情報の非対称性が酷く、出資にあたっては相当の知識が必要と言えるでしょう。

これに関しては、出資者だけでなく調教師等の関係者も同様で、産駒の傾向に基づいた調教のノウハウが少なく、適性条件や調教に手探りになってしまう事もあります。

まとめ

20年前ならいざ知らず、日本競馬の血統レベルが上がった現代において、外国産馬に出資する理由の9割はロマンと趣味です。
筆者も外国血統は大好きですが、牡馬よりさらにリスクの高い牝馬に関しては積極的には出資出来ません。
それでも外国血統を楽しみたいのであれば、リーディング種牡馬×外国産繁殖のような馬に出資すべきでしょう。バイヤー系クラブであればこうした馬でも近年では募集価格が高騰する傾向にありますが、牧場系クラブのような庭先取引を中心に行っているクラブであれば、母がGⅠ馬・重賞馬でも外国産の母の方がリーズナブルな募集価格になっている傾向があります(勿論レースレベルの問題はありますが)。
なんせあの凱旋門賞馬デインドリームの産駒(牡馬)ですら、1億2000万円程度で募集されていますからね。

これまで述べた様に、難しい所の多いマル外牝馬ですが、クラブ次第ではメリットもあります。
キャロットであれば将来的な母優が見込めますし、実績制のシルクであればその価格と人気の少なさから実績積みに最適だったりします。
様々な情報を比較衡量し、後悔のない出資に出来ればいいんじゃないでしょうか。

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