出資馬が競走能力喪失した話

正直こうして書くのも気が重いですが、一口馬主として向き合わなければならない現実に直面したのでそのお話をしようと思います。


トラウムライゼについて

背景等

今回のメインテーマとなるのは、私の出資馬「トラウムライゼ」です。

DMMバヌーシーで1.4万×2000口の総額2800万募集された現2歳の馬で、父はモーリス、母はファイナルドリームの牡馬です。
母はタタソールズで2億円近い金額で落札され、同クラブで募集されたフランケル産駒。血統背景の割に安い募集価格はDMMのアワーブラッドということが背景にあるということですね。

血統

netkeibaより

父は言わずと知れた名種牡馬モーリス。近年ではモーリス×デインヒル系牝馬のニックスがオーストラリア等を中心に注目されはじめており、本馬の母もデインヒルの血を多く持っています。
近親にはカナディアン国際(加G1)を勝ちジャパンカップにも参戦したフランス馬サラリンクス等がいます。6代母にはスイートミモザ(仏オークス)、レヴモス(凱旋門賞)、ルモス(英長距離三冠)をなどを排出した名牝Feemossがおり、母父は名マイラーフランケルですが、ステイヤー色の強い「ザ・欧州の繁殖牝馬」という感じの母系ですね。

とはいえ1番に目に付くのはキツめのクロスでしょうか。母がデインヒルの2×3を持っていた為、自動的にデインヒル4×3が成立。他にもサドラー4×4等の多数のクロスが成立しています。
母が欧州のメジャー中のメジャーを突き進んだような血統構成なので、どうしてもキツめのクロスが出来上がってしまうのは仕方ない感もあります。ナダル産駒の妹も物凄いことになってますし。

過剰なインブリードは気性難、虚弱体質のリスクも伴いますが、本馬に関してはそういった側面もそこまで見られず、私も出資時点では特に気にしたことはありませんでした。
前者に関しては、母が若干そういった問題を抱えていましたが、気性難が目立つような馬(例:ヘイロー等)の血が濃いわけでもないですし、歩様等を見ても気性が悪すぎてデビュー出来ない...ということはないと思ってました(あと前年にレジェシを見てたので…)。
後者に関しても、初仔とは思えない程馬格がしっかりしており、馬体にも目立った瑕疵は確認出来ませんでした。加えてカイバ食いが極めて良いことも好材料でしたね。「食えること」はサラブレッドに限らずアスリート全般で大正義だと考えています。
ただ後に「体質の弱さ」を指摘されたので、そうした所にインブリードが影響していた可能性は否めません。

狂った歯車

熱中症

さて、私は上記の血統背景や馬体に惚れこみ、彼に一口出資することとなった訳です。そんな私の期待も裏切らず、2歳の6月下旬には池江泰寿厩舎に入厩、8月の新潟デビューを目標に調教を行っていきました。
そんな中、7月下旬のある日、彼が熱中症になったとの報告が届きます。酷暑に加え、熱を集めやすい青鹿毛の毛色、熱を逃がしにくい大型の馬体…私もまぁ仕方ないことだと思い、一旦夏デビューの夢は諦めることとなりました。

まさかこの時の熱中症が致命的な事態につながるとは知らずに…

外厩への放牧

夏デビューが白紙となり、放牧となった彼の行先は(これまで利用していた)チャンピオンヒルズではなくJOJIステーブルに。チャンピオンヒルズにはエアコンがない為…とのことでした。同外厩は調教の設備面では多少劣りますが、元池江厩舎のスタッフが運営している外厩ですし、調教師との連絡を密に取ってくれるかなという期待もあり、この選択にも特に違和感を感じませんでした。
実際移動後も問題なく体調も回復し、順調に調教も進められていたのですが、11月下旬、事態が一変します。

フレグモーネの発症

「週末に左トモを外傷し、腫れが…」
11月14日、こんな報告が届きました。「デビューはまた延期か…」とため息をつきながらも、9月にもあったことなのでと心穏やかに見守っていました。
「ん?」となったのは3日後。怪我の詳細な状況が更新され、事態は思ったより深刻であるということが明らかになります。8月に発症した熱中症の影響で怪我の予後が芳しくなく、フレグモーネを発症したとのことでした。
これを受けてバヌーシー会員の最悪なところ界隈はそこそこ荒れ、外厩のDMに凸するアホ会員まで現れました。

さて、ここでフレグモーネとはどんな病気なのか見ていきましょう。

フレグモーネ
皮下の組織に見られる急性の化膿性疾患である。化膿を起こす細菌は、外傷部位から侵入することが大半である。馬では病勢のテンポは極めて早く、一夜のうちに馬の肢が腫れ上がることも稀ではなく、激しい疼痛を伴う。早期発見、早期治療が肝心である

JRA『競馬用語辞典 フレグモーネ』
https://www.jra.go.jp/kouza/yougo/w86.html#:~:text=%E7%9A%AE%E4%B8%8B%E3%81%AE%E7%B5%84%E7%B9%94%E3%81%AB%E8%A6%8B,%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%8C%E8%82%9D%E5%BF%83%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82

痛々しい文字の羅列が続きますが、フレグモーネ自体は致命的な病気でないことも事実です。書いてあるように、早期発見、治療が重要な病気であり、早期の処置が出来れば比較的早くレースに復帰出来るものでもあります。実際、現役競走馬でもフレグモーネの症状が見られても数週間後にはレースに出走していることも多くあります。最近だとメイケイエールがフレグモーネでVM回避、安田記念に出走したことが記憶に新しいでしょうか。
このことから、私もそこまで神経質に反応はしていなかったのですが......

栗東トレセンに入院、状態悪化

フレグモーネと発覚した後は、治療設備の整っているトレセンに入院することに。
その後の闘病生活は壮絶の一言でした。
詳細は省きますが、2週間経った頃には患部の他にも腸の状態も芳しくなく、絶食に近い状態になっていました。12月5日にはフレグモーネの感染が腱まで来たことによる競走能力喪失診断。正直なところ、この頃には"覚悟"をすることになっていましたね。
最終的にはJRAに研究馬として提供されることに。具体的な発表はされませんでしたが、これ以上の言及は避けておきます。

振り返って

一口馬主を初め3年、今や6頭に出資するまでになりましたが、出資馬の怪我自体これが初めて。こうした結果になったことはなかなか受け入れ難いことでした。それなりに競馬ファンをやってきて、サラブレッドが脆いこと・経済動物であること...ということは勿論理解しているつもりでしたが、それでもいざ直面するとなかなかしんどいものがあります。

そうした諸々の感情にも整理をついた頃、一口馬主として『どうすればこうした事態を避けることが出来るか』について考えることにしました。

その際、ふと気づいたのが某大手牧場系列の馬と他牧場生産馬のトラブル後の経過の違いです。やはりノー〇ン系の外厩はありとあらゆるトラブルに対して万全の体制で応えうる設備も人員も整っています。何かアクシデントが起きても天栄やしがらきで迅速に対応出来ますし、だからかノー〇ン系馬はトラブルが起こった際の立て直しも早い印象を受けます。
しかしながら、今回の場合、「エアコンがある外厩に...」「この外厩には坂がないので...」「ウチには常駐の獣医師がいないので...」。〇〇が悪い!という話では無いですが、シンプルに設備等の不足に起因してトラブルへの対応がどうしても後手に回ってしまうなと感じました。
当然、トラウムライゼの事例は"アンラッキーが重なった"一事例に過ぎないのかもしれませんが、今後の出資方針には少なからず影響を及ぼすことになりそうです(心情的な所も含め)。

余談 : 一口クラブにおいてどこまで情報を隠さないか

他方で、今回過酷な闘病生活をある程度包み隠さず詳細を伝え続けてくれたクラブの対応は悪くなかった思います。クラブによってはこうした深刻な怪我が起きた際、事情を極めて分厚いオブラートに包んで伝えてくる所も多いと聞きます。
情報を包み隠さず公開することで、前述のようにアホ会員が凸したり...というようなリスクは当然付きまといます。実際それで破綻しかけたクラブもありますが、今の所バヌーシーはその辺を誠実に伝え続けているんじゃないでしょうか。

今回も闘病生活中の動画更新は正直見るに堪えず、私自身まだ見ることが出来ていないものもあります。それでも責任持って出資している以上、そうした現実と向き合う機会を作ることは重要だと思います。

補足: 今回生死の方はまだ名言はされていませんが、亡くなったという事実は明言はしないという競馬界の暗黙の了解もある為、その点はモヤッとはしますが仕方ないのかなと思います。というか、以前バヌーシーは所属馬が〇〇行きになった際も暗に伝えていたので、明言はせずとも察せるレベルまで公開しているのは寧ろかなり肝が座っている方針を取っているなと感じます。


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