【新馬戦】血統厨による新種牡馬考察【POG2024】

新年度も始まり、そろそろPOGや一口馬主の募集の季節も近づいてきました。そろそろこれらのイベントに向けて幼駒をチェックし始める競馬ファンも多いと思います。私も血統厨として、社台Gの繁殖牝馬名簿を知人から借りて輸入繁殖牝馬などを見たりしているのですが、なんといっても気になるのは新種牡馬。
POGでも一口馬主でも、新種牡馬の産駒は案外人気しないことも多く、私もシルクに入会する際に出資を決めた馬は当時新種牡馬だったスワ―ヴリチャードの産駒で、なんと抽優を使えば確実に出資できるライン、しかもリーズナブルな2800万円での募集でした。

ということで今回は今年に産駒デビューの新種牡馬たち、そして次回は来年産駒デビューの新種牡馬を見ていきたいと思います。

2024/6/19追記
本当はダービー以前に出すつもりが思った以上にボリューミーだった&忙しくて間に合いませんでした。POGの指名は最早終わりつつある気もしますが、これからの新馬戦の参考にでもして頂ければ。


サートゥルナーリア

現役時代の実績
18’ホープフルS、19’皐月賞、19’有馬記念2着
種付け料 600万円(受胎条件)

個人的には今年度の新種牡馬の横綱だと思っている馬で、初年度600万円(現在は800万円)という高額な種付け料はその証拠ではないでしょうか。
血統表を見るまでもなく、本馬の特筆すべき血統的背景は母シーザリオ 半兄 エピファネイア・リオンディーズという点でしょう。シーザリオ直仔ではない上に現役時代GⅠの勝ち鞍がなかったオーソリティですら種牡馬としてのオファーがあることからも明らかなように、この一族に対する市場の需要は極めて高いと言えます。シーザリオに由来する2歳G1やクラシックに余裕で間に合う早熟性はPOG関係なくともその価値は明らかですね。
また、現在市場には存在しない中距離型のロードカナロア後継種牡馬という点も個人的には高評価ポイントだったのかなと思っています。

加えて、サンデー孫世代(要は父ディープ等)の牝馬と配合することで、サンデーサイレンス18.75%の奇跡の血量が成立する種牡馬であることも魅力ではないでしょうか。半兄のエピファネイアがエフフォーリアやらデアリングタクトを輩出したことからもその有用性は明らかです。
昨年は『SSフリー』の種牡馬であるレイデオロが期待の割には不振でしたが、やはり時代が経過したことで「SSを持っていない」ではなく「SSを持っており、能力を受け継ぐ」という方が重視される時代に入ってきたのではないかなと感じます。

個人的に注目している産駒はサンデーRで募集されていたシユーマの22(クライスレリアーナ)で、今をときめくSiyouniの近親という血統背景から、将来的な繁殖としての活躍まで見据えてかなり期待している一頭です。
ただ、3/4同血の兄(カナロア産駒)がかなり体質が弱かったので、そこにシーザリオの体質の弱さが加わる所は少し懸念点ではあります。

余談ですが、名前の由来となったサートゥルナーリア祭と聞くと、ストライクウィッチーズを思い出すのは私だけでしょうか。

ルヴァンスレーヴ

現役時代の実績
17’全日本2歳優駿、18’JDD、18'南部杯、18’チャンピオンズC
初年度種付け料 150万円(受胎条件)

先に評価を言っておくとあんまり期待はしていない馬ですね。現役時代、特に3歳時はクソ強かったのは事実であり、私も去年一口で産駒募集を見る前はかなり期待していた1頭だったんですが、思いのほかパッとしなかったですね。ここからは私の予想になってしまうのですが、産駒は中途半端に芝ダート兼用でいけるけど、上級条件では…という感じの一昔前のシャバいダート系内国産種牡馬のイメージが重なります。
安い日高系のクラブで募集されているなら一考の余地はありますが、ノーザン系・POGではちょっといいかな…というのが現状の私の方針です。

ただ安い種付け料・ダート三冠路線整備の影響もあり、生産界からの人気は高く、初年度には200頭超えの牝馬を集め、種付け料も倍額の300万に上昇しています。まぁとはいえ、ひとつ前のサートゥルにも言える事ですが、産駒デビュー前の種付け料は幼駒の出来というより市場の需要に依る所も大きいのであまり種付け料を参考にするのは良くないと思います。

血統面では父シンボリクリスエスということで、エピファネイアと並んで同馬の後継としての役割が期待されます。同父のダート馬というとサクセスブロッケン!!!!!!が思い出されますが、時代が悪かったのもあり種牡馬入りすらできなかったのは今考えると惜しいものです。
ただKris S.系のダート馬というと、後に解説するナダルの方が期待値も高いかなとはどうしても感じてしまいますね。
現役時代の切れ味からはイメージしづらいかもしれませんが、ルヴァンスレーヴはロベルトの3×5を持っています。個人的にはここが変に顔を出して欲しくないので、産駒を見る際は母がロベルトフリーかつサンデー持ち…というような仔に注目していきたいですね。

母系に目を向けると、日本の血統オタクならよく目にする名前もチラホラ。社台Fの根幹牝系の一つであるファンシミン牝系であり、その主要ラインともいえるダイナフェアリーから続く一族の出身です。牝系全体ではラインクラフトやソングオブウィンド、ダイナフェアリーからのラインでもチュウワウィザード等がいます。特に後者は一族全体として日本ダートに特化しており、ルヴァンスレーヴの産駒たちにもその傾向が受け継がれることが期待されます。

ナダル

現役時代の実績
20'アーカンソーダービー(GⅠ)、20'サンヴィンセントS(GⅡ)、20'レベルスS
初年度種付け料 400万円(受胎条件)

ということでもう1頭のKris S.系ことナダルです。ダート三冠を見越したノーザンFがドレフォン、マインドユアビスケッツに続いて導入した種牡馬で、現役時代は4戦4勝でアーカンソーダービーを制したものの、その後怪我でケンタッキーダービーを前に引退となってしまった未完の大器ですね。

この世代はAuthentic、Tiz the rawの世代なんですが、コロナウイルスの世界的流行の真っ最中だったというのともあり、ケンタッキーダービーが9月に開催され、ベルモントS、トラヴァーズSの方が先に実施されるという訳分からん世代でした。

本馬が制したアーカンソーダービーに関しても、ケンタッキーダービー延期の影響で60年振りに分割開催が行われ、同じレースの勝ち馬が2頭いるという不思議な状況が起こっています。
Div1のシャーラタンがバファート師のお薬容疑で出走できなくなり、Div2の本馬が怪我で早々に引退したアーカンソーダービー組の影響で、米三冠路線が全てTiz the Lawの単勝1倍代に終始していたのはよく覚えています。

種牡馬としての活躍は現役時代のキャリアの短さ、及び祖父Archや父Blameの血を持つ馬が日本にあまり導入されてないので未知数ですが、現状各クラブで募集されていた産駒を軽く見た感じだと、重厚で雄大な典型的なロベルト系っぽい感じの産駒が多いように見受けられ、一定の活躍は期待できるように感じられました。産駒にも自身の馬体のデカさが受け継がれているという点は種牡馬としてかなり好材料だと思います。
その他血統面で特筆すべき事項としては5代母Patelinですかね。カーリンの5代母と共通している名牝系であるのですが、いかんせん本馬の牝系はそれくらいしか特筆すべきところはありません。

適性はやはりダートのマイル~中距離かなと思いますが、芝でも結構やれる産駒は出るんじゃないかなと思います。まぁ米国産種牡馬なんて、BCスプリント勝ちのドレフォンから皐月賞馬が出ることもありますから、未知数な部分も多いんですけどね。

ゴールドドリーム

現役時代の実績
17’フェブラリーS、17’チャンピオンズC、18’帝王賞、18’・19’かしわ記念
初年度種付け料 150万円(受胎条件)

前述のルヴァンスレーヴと近い世代の割に、思いのほか対戦歴の少なかったダート戦線の強豪。この辺の世代はインティ然りオメガパフューム然りチュウワウィザード然り、割と個性派かつレベルも高いので種牡馬として楽しみではあります。
言わずもがな中央春秋ダート制覇、ダートGⅠ5勝の実績はルヴァンスレーヴにも負けず劣らずのもので、彼が社台スタリオン入りしなかったのは結構意外でした。レックスの共有だからですかね?

父ゴールドアリュールは言わずと知れたサンデーサイレンス系ダート部門総大将。種牡馬の父としても、スマートファルコン、エスポワールシチー、コパノリッキーを輩出し、彼らの産駒が地方を中心に暴れ回っており、サイアーラインも当面は繋がるでしょう。
牝系に目を向けると近親に活躍馬は少ないですが、Number-Specialという世界的有数の名牝を祖とするライン。言うまでもなくSpecialからはヌレイエフやサドラーズウェルズが、Specialからはジェイドロバリー等が出ています。
本馬もNumber≒Nureyevのニアリークロス(Special4×5等)を持っており、似たような配合からは活躍馬は多く出ています。Specialクロスの代表的な活躍馬と言えばエルコンドルパサーでしょうか。
日高ならジェイドロバリーを血統に持つ牝馬も多いでしょうし、そうしたところでSpecialを強調した配合なんかは面白いかなと思います。

他の父ゴールドアリュールの種牡馬も調子いいですし、同じくらいの活躍は期待していいでしょう。ただ、レックスでは割高感もある180万の種付け料は、同父のエスポワールシチーと同水準帯ですし、初年度から求められるハードルは高いかなと思います。

アドマイヤマーズ

現役時代の実績
18'朝日杯FS、19'NHKマイルC、香港マイル
初年度種付け料 300万円(受胎条件)

ダイワメジャーも昨年末に種牡馬を引退。そんな中ダイワメジャーの正統後継とも言うべき馬の種牡馬入りです。3歳までにマイル路線のGⅠを3勝、特に史上初の3歳馬での制覇となった19年香港マイルはビューティージェネレーション・ワイクク・インディチャンプらを下しており、実績面では父より上とも評価できるかもしれません。

正統後継と称したように、適性・早熟性などはダイワメジャーをイメージしても良いかなと思っており、配合もダイワメジャーの傾向を見習っても良いかなと思います。とはいえ、ダイワメジャー自体はそこまで〇〇との配合が走る...!という馬でも無いのでなかなか難しいところですが、レシステンシアやブルドッグボスのようなダイワメジャー×デインヒルのパターンが個人的には良いかなと思っています。
デインヒルとの配合という点では、本馬はデインヒル肌の牝馬が大量にいるオーストラリアへのシャトル供用も行われており、デインヒルとの相性の良さで南半球で成功したモーリスのような活躍も予想され、シャトル先の産駒傾向もチェックしておきたいですね。

母系を含めた血統面をもう少し掘り下げると、Haloの3×5×5が少し難しいなと思う所があります。

ミスターメロディ

現役時代の実績
19’ 高松宮記念
初年度種付け料 100万円(受胎条件)

地味に今年産駒デビュー後に評価上げそうだなと思う種牡馬ランキング第2位、ミスターメロディ。現役時代のG1制覇は4歳時に制した高松宮記念のみとこれまで紹介したメンツには一歩劣りますが、早熟性・スピード・芝ダートを問わない適性…と現代のマーケットで求められている資質を持ち合わせている種牡馬です。受胎率が5割前後という極めて低い水準ながら、174頭、164頭、147頭と三年間の種付け頭数の多さを維持できているのはその証左でしょう。
この資質の源泉となっているのが父Scat Daddy。現役時代はシャンペンSとフロリダダービーの世代限定GⅠを2勝のみと、取り立てて王道路線で活躍した馬ではありませんでしたが、種牡馬としては早逝するまでのたった4世代の間に三冠馬Justifyをはじめとした多くの活躍馬を出した名種牡馬でした。後継種牡馬も英ダービー馬City of Troyを出した先述のJustifyは勿論のこと、UAEダービーを18馬身差で制したMendelsshon、欧州のトップサイア―の1頭であるNo Nay Never、日本で種牡馬として活動しているカラヴァッジオなど世界中にその血を広げており、種牡馬の父としての能力も十分にあることが分かります。
世界を席巻するStrom Cat系の中でも、特にメインストリームである(にも拘らず日本では層が薄めの)Scat Daddyの後継種牡馬と考えると、その期待値は150万の種付け料以上のものはあると思います。
配合面では基本的にStorm Cat系× Deputy Ministerという王道のアメリカ的な配合で、肌馬が若干限られそうな気はしますが、種牡馬生活に影響を及ぼすほどではないでしょう。
母系に目を向けても、クーリンガーを輩出し、自身も米ダート重賞戦線で実績豊富なKool Arrival-Klassy Kimのラインなので、ダート適性に関しても本馬の現役時代同様期待できるのではないでしょうか。

世界中での実績があるScat Daddy系ですし、アメリカ系の肌馬に…日本系の肌馬に…と拘泥せず、色んな繁殖を試してみれば距離を克服する産駒も出てきて面白いことになるかな…と期待しています。

モズアスコット

現役時代の実績
18’ 安田記念 20'フェブラリーS
初年度種付け料 200万円(受胎条件)

芝ダート兼用の短距離馬としてはこちらも見逃せません。こちらも現代の主流種牡馬であるFrankelの直仔で血統的にも市場の需要は多そうな種牡馬です。Frankel産駒自体は以前の記事でも紹介したように、日本で現在繋養されている種牡馬は今一つ現役時代の実績に欠けていながらも需要は高く、マイル路線の芝・ダート両刀のGⅠ実績持つ本馬に寄せられる期待は当然高いです。初年度は167頭の牝馬に付け、その後も350万円まで種付け料が上昇しながらも130頭前後の種付け数を維持していることからもその期待値が伺えるでしょう。

本馬の実績にも表れている馬場適性の広さは配合からも分かります。
父Frankelは日本の高速馬場でも複数の活躍馬を出している言わずと知れた名種牡馬ですし、他方母系はアメリカでの重賞馬が多数並ぶピカピカの牝系で当然ダートの活躍馬も多いです。ただ、ヘネシーやミスワキなど芝での活躍馬を一定数出す種牡馬が血統表でも名を連ねているように、一概にアメリカ牝系だからダート…とも言い切れないのが興味深い点で、奥が深い種牡馬だと言えます。血統表内のどの種牡馬を強調するのか、はたまた完全異系の繁殖でアウトブリードを行うのか、配合次第で色んな馬が出てきそうでこちらも幅のある種牡馬になりそうだなと思います。

タワーオブロンドン

現役時代の実績
19’ スプリンターズS
初年度種付け料 150万円(出生条件)

ミスターメロディ・モズアスコットに続いてこちらも芝・ダート兼用っぽい雰囲気のスプリンターです。現役時代は2度のレコード勝ちを記録した快速馬でした。この頃のスプリント・マイル路線は色んな強豪馬がいて面白かったよなぁ…と思うことも多く、彼やダノンスマッシュの産駒たちがまたこの路線を盛り上げてほしいなと期待しています。
ゴドルフィンのスプリント種牡馬ということで、ファインニードルを思い出す方も多いんじゃないでしょうか。双方ともにミスプロ系×母父Darshaan系ということで、血統構成は若干似つつも、こちらはサンデーサイレンスを持っておらず、後述する名牝系に属しているという点で差別化されています。

父は欧州馬ながらCurinを下しBCクラシックを制したRaven's Passで、一見ダート適性もありそうなのかなという気がしますが、この時代のアメリカはオールウェザー(AW)の導入が始まっていたことは考慮すべきでしょう。Raven's Passが勝利した2008年のBCはオールウェザーが導入された初年度であり、2着も欧州所属のHenrythenavigatorであったこと・当時の米国ダート最強格のCurinが4着に留まったことなどを理由に賛否が分かれる結果となっており、結局2年後にはダート開催に戻ることとなりました。(まぁ2008年はゴルディコヴァ・コンデュイットらも勝利した欧州馬無双だったので、この時代の欧州馬のレベルがクソ高かったのもありそうですが…)
実際本馬も香港スプリントでは凡走、函館SSでも単勝1倍台の圧倒的人気ながら3着、他方で府中1400mのレコードホルダーと、どちらかと言えばダートや洋芝よりも日本的な高速馬場への適性を強く感じます。

そして本馬を語るうえで欠かせないのが世界有数の名牝系出身であることでしょう。本馬の母スノーパインは世界的良血シンコウエルメスのラストクロップ、つまりMargarethenを祖とする牝系の出身です。同牝系の活躍馬ははシンコウエルメスの半兄で英愛ダービー馬ジェネラス、名牝トリリオン・トリプティク母娘、安田記念を制した香港最強馬ブリッシュラック、モーリスドゲスト賞3連覇のムーンライトクラウドに凱旋門賞連覇のトレヴ… 近年の日本馬に限ってもディーマジェスティやらイグナイターやら枚挙に暇がありません。
今年デビューの種牡馬の中ではサートゥルナーリアと比肩するほどの世界的良血馬であることは間違いないです。種牡馬として見た場合、やはりこうした名牝系出身馬は活躍する傾向が強いですし、血統的な観点からも期待値が高い種牡馬だと言えます。
取りあえず相手はサンデー肌の繁殖が安パイな気はしますが、母系はDarakaniやサドラーなど欧州的な重厚さも感じさせれらますし、サドラーのクロスを意識した配合ならば、自らがなしえなかった距離の壁を突破する産駒も出てくるのかなとも予想しています。

フィエールマン

現役時代の実績
18’ 菊花賞 19’20’天皇賞・春
初年度種付け料 300万円(受胎条件)

ここからは一転して王道の芝中長距離馬たちです。
国内の長距離GⅠを3勝という実績は素晴らしいものですが、繁殖という観点ではステイヤーはなかなか敬遠されるのが近年のトレンド。ただこの馬に関しては日本では4歳時の有馬記念(4着)を除くと全て馬券内で、2000mの秋天で2着など中距離への適正も十分見られた馬でした。まぁ今になって思うとアーモンドアイやらリスグラシューやらクロノジェネシスやら、この時代の中距離路線は相手が悪かったと言わざるを得ない感じもあります。
ただやはり同じく春天連覇で中距離GⅠでの連帯歴もあるフェノーメノが種牡馬としては失敗に終わったことも影響してか、社台SSではなくブリーダーズSSでの繋養である点はかなりの不安材料です。
一応初年度産駒からは2億円で落札された母シャンブルドットの2022(ダノンセンチュリー)などがおり、決して期待値が低いわけではありませんが、これらの初年度産駒が走らなければ種牡馬としての活躍は難しくなってしまいます。

血統に目を向けると父ディープインパクトは言わずと知れた大種牡馬で、本馬のステイヤーとしての素質の源泉となっています。
母リュヌドールは叔母に欧州の名マイラーLuth Enchanteeを持ち、自身も伊GⅠリディアテシオ賞(牝馬限定 芝2000m)を制し、ジャパンカップにも遠征した名牝です。母父のGreen Tuneも仏2000ギニーなどの実績で知られる馬なので、母系自体は欧州系ではありますが、血統的には割とマイラー寄りの一族である事には留意が必要です。
翌25年デビュー世代はディープインパクト系最大の大物コントレイルが控える世代、今年の活躍が今後の種牡馬生活のカギを握りそうです。

ウインブライト

現役時代の実績
19’ QE2世C、香港C
初年度種付け料 120万円(受胎条件)

Masami Matuokaの名を香港に知らしめた香港・中山巧者です。実は筆者は以前BRFを見学した際に種牡馬としての本馬に会ったことがあります。ゴールドシップ、ジョーカプチーノと並んでいたこともあって白い三連星感がありましたね。
中山巧者かつ岡田系の馬という事で、やはり参考になるのはマツリダゴッホでしょう。彼の産駒は案外中山では走らなかった(むしろ苦手だった)ことを考えるとウインブライト産駒も案外中山より夏の札幌・函館辺りが向いてそうだなと思います。
ステイゴールド産駒の後継種牡馬たちについては常々、オルフェーヴルは実質ノーザンテースト、ゴールドシップは実質マックイーン、インディチャンプは実質キンカメ、正統後継はドリームジャーニ―だけ…と言い続けているのですが、ウインブライトはドリジャ以来のステイゴールド正統後継かなと思っています。昨年ウインの募集馬で同産駒を見ていましたが、走るタイプのステイゴールド感がある産駒がチラホラいました。
ただ、以前ある牧場関係者から聞いた話では、ステイゴールドの直仔より孫の方が頭がアレ(オブラートに包んだ表現)という話も聞いており、気性という点では少し注意した方がいいかもしれません。(余談ですが、筆者が出資しているゴールドシップ産駒も気性がアレ過ぎて先日去勢しました)

また、この馬の血統面でちょっと覚えておきたいのは豪サラの名門ミスブゼン-ゲランの牝系出身という事でしょう。豪サラと言っても2つの意味があるのですが、今回の場合は戦後の競走馬不足を補うため50年代辺りにオーストラリア、NZから輸入された馬たちのことを指します。
ゲラン牝系は本馬の母サマーエタニティを生産した白井牧場の誇るファミリーラインであり、一族からは現代でもハクサンムーン・サトノレーヴ等の活躍馬を輩出しています。ゲラン牝系の血を広げるためにもハクサンムーンともども頑張ってほしいところですね。

ノーブルミッション

現役時代の実績
14’ タタソールズ金杯、サンクルー大賞、英CS
初年度種付け料 150万円(受胎条件)

フランケルの全弟にして古馬でGⅠ3勝の大物が日本に参戦。
当然あの兄ですからデビュー当時から期待値も高かったのですが、花開いたのは5歳時。英愛仏の3か国GⅠ制覇を達成し、高い評価で種牡馬入りしました。兄との競合回避を目的に欧州ではなく米国で種牡馬入りをし、初年度産駒からトラヴァーズS、ジョッキークラブ金杯を制したCode of Honorを出すなど期待に違わぬ活躍を見せてくれました。
とはいえ活躍はそれっきりで、それ以降の産駒はBCスプリントを制したNobalsくらい… 2年目は体調不良で60頭程度の種付けを行えなかったという事情もありますが、種牡馬としての評価は落ち気味でした。当時のアメリカの種牡馬マーケットではMagician(18年にアメリカに売却)、ケープブランコ(14年に日本に売却)とGalileo系種牡馬の失敗が相次いでおり、加えて全兄のFrankel産駒が日本で割と結果を残していた状況も相まって日本で売却されることとなりました。

ただ、アメリカ同様日本もGalileo系に関しては極めて不毛な国な訳で、唯一成功を収めているフランケルの全弟とはいえ活躍できるかはなかなか未知数なところです。兄とは異なり明らかに中長距離型な典型的Galileo系という感じの馬ですし、これまでの本邦輸入Galileo系競走馬と同じような結果になるんじゃないかとも思ってしまいます。
ただ市場自体はモズアスコットの項でも触れたようにフランケルへの需要が高い影響で、初年度は140頭超えの牝馬を集めました。とはいえやっぱり全弟というだけで種牡馬としては別物…と考える人も多いのか、同系統のタニノフランケルがスタッドインし50頭以上の牝馬を集めた翌2022年には種付け数が半減しており、初年度産駒が走らないと相当厳しそうだなとも思います。今年からはウエストオーバー・アダイヤーというガッツリ上位互換の競合も増えますし…

フォーウィールドライブ

現役時代の実績
19’BCジュヴェナイルターフスプリント 
初年度種付け料 100万円(受胎条件)

アメリカンファラオの後継!2歳から仕上がる早熟性!スプリント実績のあるスピード!となんか一見すると売れそうな種牡馬に見え、実際初年度は満口で100頭以上の牝馬を集めましたが… 何がいいんですかねこの種牡馬。
実際のところ本馬が現役時代結果を残した芝短距離路線は米国の中では屈指の低レベルな路線。本馬が勝利した19年にGⅡに格上げされ、2022年にはGⅠに昇格。ただ歴代勝ち馬はいずれも米国内の芝スプリント路線では活躍すれど、欧州遠征では惨敗を繰り返す馬ばかり。それどころかGⅠ昇格後は普通に欧州からの遠征馬しか勝利しておらず、底が知れているレースであると言えます。
この馬自体も、BCの後は翌年5月のチャーチルダウンズの一般戦(レース自体はリステッド・重賞ウィナーが集まっていましたが…)で7着に終わり引退。種牡馬としての価値が落ちないうちにさっさと売り逃げしたようにしか思えません。

まぁカフェファラオ・ダノンファラオの活躍も相まって、当時の日本でアメリカンファラオの血が熱望されていたのは事実です。アメリカ本国での活躍は芳しくないですが、日本では上記2頭を筆頭に活躍馬も多く、アメリカンファラオが何らかの要因で日本競馬に適合していることは間違いないでしょう。ただ2022年からはヴァンゴッホがスタッドイン、今年からはカフェファラオが種牡馬になる訳ですから、それを待つ方が100倍有益だと思います。

というか、今年デビューのアメリカンファラオ産駒が妙に出来がいいのが揃っているんですよね…
普通に出来が良くて血統も良いアメファラ産駒がやっすい値段で日本人に購買されているのを見ると、本国での評価は本当に落ちているんだなと実感しますし、これは来年辺りアメリカンファラオ自体が日本に来る可能性もあるんじゃないかなと思っています(仮にも三冠馬なので単純に金積んだら来てくれる訳でもなさそうですが)。

産駒の傾向自体はアメリカンファラオを基準に考えた方がいいでしょう。芝実績はありますが、適性は父同様芝ダート兼用、距離は父より短めのイメージです。ブリモルの代表産駒であるアンモシエラがダート馬であるように、アメリカの芝馬は普通に血統的にはゴリゴリダート馬なので、産駒は普通にダートで走る傾向が強いことは留意すべきです。
ただ早熟・短距離向き・芝ダート兼用…と要素が揃っていて、初年度には140頭近い種付けをしているにもかかわらず、中央の新馬戦でまだ1頭しか掲示板入り(執筆時点)してないのはもう既に先行きが怪しいような気も…

シスキン

現役時代の実績
19’フェニックスS 20’愛2000ギニー
初年度種付け料 350万円(受胎条件)

なんで日本にいるんだ種牡馬シリーズ第一弾。無傷の5連勝で愛2000ギニーを制したことで知られた馬です。2歳GⅠ、2000ギニーに間に合う早熟性に加え、マイル実績も十分、血統も欧州で主流のガリデインを持たない…という本馬の特性を考えると当然欧州でも種牡馬としてのオファーが多かったような気はしますが、なぜか社台SSでスタッドイン。
今思い返すとこれはどう考えてもコントレイルの影響でしたね。コントレイルの母父はUnbridled's Songで、本馬の父父でもある馬。シスキンの日本での種牡馬入りオファーは恐らく2020年の夏ごろ。当時コントレイルは2冠を達成し、前年には同じく母父にUnbridled's Songを持つスワ―ヴリチャードがジャパンカップを制しており、市場のUnbridled's Song系需要が急増することを見越してのオファーだったと思われます(んでもってナダル同様コロナ禍に乗じて平時では来ないクラスの馬の導入)。
スワ―ヴリチャードは昨年の爆発で種付け料は1500万、コントレイルも既に産駒の高額落札が続出、海外に目を向けても今は亡きArogateの産駒がアメリカを席巻…と市場のUnbridled's Song需要は激増。社台・ノーザンFの先見の明は本当に恐ろしいですね。
余談にはなりますがノーザンFは近年のUnbridled's Song系有数の大物牡馬Cave Rockの全弟であるアシュルパニパルもしれっと所有しており、マジでノーザンは日本のUnbridled's Song系需要を牛耳るつもりなんだなと恐ろしくなりました。

さて、シスキンに話を戻しますと、近年の同系の種牡馬ではトップクラスの大物牡馬。愛2000ギニー以降は勝ち鞍こそありませんでしたが、次走サセックスSでも3歳馬最先着など古馬相手にも互角にやり敢えており、現役を続けていれば勝ち鞍は積めていたでしょう。BCマイルでの大敗も、本馬が遠征では悪い気性が出るタイプなので気にする必要はないと思います。

母系に目を向けるとお馴染み世界的名牝系のBest in Show牝系。日本ではアーモンドアイ、カジノドライヴなどがこの牝系出身でお馴染みですね。
Sex Appealを通していないのでアーモンドアイらと比較すると同牝系の中では傍流と言えるかもしれませんが、それでもシスキンの近親にはGⅠ5勝Close Hatches、昨年のBCディスタフを制したGⅠ4勝(執筆時点 多分今年もGⅠ勝つ)Idiomaticなど2頭のエクリプス賞最優秀古牝馬が出ており、普通に良血と言えるでしょう。
ただ牝系自体はアメリカでの活躍馬は多いものの、母父のOasis Dream、母母父のZafonic、母母母父のSir Ivor等々(かなりスピード寄りですが)欧州での実績馬ばかりで、父系も割と日本では芝馬が出ると考えると、適性は完全に芝寄りであると予想されます。
イメージとしてはマイル寄りのハービンジャーですね(血統も実績も全く違いますが…)。恐らく導入意図も似たようにサンデー薄め液の側面はありますし、直系は残らなくても母系で後々影響力を発揮しそうな種牡馬です。種付け料も似たようなもんですし。

初年度産駒こそアクシデントもあり数頭しかいませんが、2022年産産駒がこれからクラブでの募集も増えますし、個人的には一口馬主で狙っていきたい種牡馬です。


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