【性の6時間記念コラム】なぜサラブレッドは自然交配しかダメなの?
※筆者は法学部生なので、生物学的ガバがあれば許して下さい
みなさん、クリスマスはいかがお過ごしでしょうか?
筆者のような限界独身男性は有馬記念の予想をしながら1人寂しく過ごすのですが、世間の陽キャさんたちは素敵な時間を過ごすようです。
所謂性の6時間と呼ばれる奴ですね。
まぁ私はよく知りませんけど!!!
しかし、我々競馬民にとっての性の6時間は、北半球のサラブレッドが繁殖期に入る2月~5月頃。
筆者も毎年ジャパンスタッドブックのデータベースを利用し、恋バナをする女子の如くオルフェーヴルの交配相手をチェックしながら「キャー!!!オルフェーヴル今年はあの牝馬に付けてる💞」と盛り上がっています。
ところで、皆さんはサラブレッドがクローンはおろか、人工授精でさえ認められていないということはご存知でしょうか?
国際競馬統括期間連盟(IFHA)により決められている国際協定には以下のようにあります。
簡単に意訳・要約すると
・サラブレッドはセ〇ク〇によって生まれたものじゃないとダメだよ
・自然妊娠じゃないとだめだよ
・クローン・胚移植・人工授精によって生まれた馬はサラブレッドとして認めないよ
厳しくね?
そう思われる方もいるかもしれません。実際、畜産業界では牛などに人工授精は当たり前に行われている行為ですが、何故サラブレッドだけ禁止されているのでしょうか?
このルールにはいくつか理由がありますが、最も大きな理由は「遺伝的・血統的多様性の喪失の防止」でしょう。
医療技術が進歩した現代でも、種付け頭数は1シーズン250回程度が限度、シャトル種牡馬でも300頭程。全盛期のディープは大体年200頭超種付けを行っていました。
サンデーでもサドラーでもエクリプスでも、どんな種牡馬でも市場全体の2-3%より多くの産駒を送り出すことは不可能です。
これがもし、精子の凍結保存、人工授精が許された場合、産駒数が大幅に増えることは間違いないでしょう。
現状ですら欧州なんかは血統の閉塞が問題となつているのに、更にそれを進めてしまえば、いよいよセントサイモンの悲劇をもう一度引き起こすどころか、一国の血統的資産が丸ごと吹き飛ぶ事態が起こりかねません。
少し古い話にはなりますが、1840年代に発生し、アイルランドで数百万人の死者を出したジャガイモ飢饉では、無性生殖で欧州中に広まったジャガイモの遺伝的多様性の無さがジャガイモ疫病の流行の一因だと考えられています。
遺伝的・血統的多様性の重要性を分かりやすく示すエピソードの1つですね。
次に考えられる理由としては「血統的資産の保護」でしょう。
皆さんは数年前、タイキシャトルのたてがみが盗難された事件があったのをご存知でしょうか?
盗難でなくとも、ごく稀に競走馬のたてがみは馬主さんのご好意で販売されることもありますね。
勘のいい方は気づかれたのではないでしょうか?
「あれ?クローン作れるんじゃね?」
筆者は生物学の専門家では無いので、現代のクローン技術が体毛1本から作れる代物ではあるかは知りませんが、そう遠くない未来に実現する可能性は極めて高いと考えられます。
その時、「クローン ディープインパクト」なんて誕生すればどうなるでしょうか?
仮にレースに出られなかったとしても、種牡馬としての需要は引く手数多。先述したような血統的多様性の問題は勿論の事、オリジナルの繁殖的価値も暴落しますし、違法に入手された細胞からコピー繁殖馬を作り出す生産者も現れるでしょう。
「サラブレッドの繁殖」という一連の経済活動自体が崩壊しますし、それはつまり繁殖馬選定というクラシックレースの存在意義すら失われます。
最後に考えられるのは「胚移植による代理母問題」があります。
もう少し詳しく説明すると、母馬から受精卵を採取し代理母に移植するという技術で、繁殖入りが遅い競技用の馬等では既に利用されている技術です。
確かに素晴らしい技術なのは間違いなく、サラブレッドにおいても高齢の繁殖牝馬の受精卵を若い代理母に移植することで出産時の死亡リスクや高齢による仔出しの低下を防ぐことが出来ると考えられます。
しかしながら、これを許すといくつか問題が起きます。
例えば、仔出しの良い高齢の繁殖牝馬の受精卵を他の若い代理母に移植、その後産まれた産駒が走ると、価値の上がった代理母を繁殖牝馬として売る... といった詐欺まがいの行為が可能になります。
このように、サラブレッドに自然交配が求められる理由は伝統的理由以上に様々な理由があります。
セントサイモンの悲劇や早世傾向にある大種牡馬... 時にこれらの事象は、血統の多様性を保つ為に自然が作り上げた抑止力であるかのように感じさせられます。
ドゥラメンテに思い入れの強い筆者としても、精子の凍結保存技術自体は非常に魅力的ではあるのですが、ある意味この"神の領域"に踏み入ることは予想外の事態を引き起こしてしまう気がします。
まぁ、12月24日の夜にこんな記事を書いている筆者は、とりあえず馬の血統より自分が末代にならないかを心配した方がいいのは紛れもない事実なんですけどね。
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