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■行政組織の大不振の理由(3)組織の「重要機能」を知らないでマネジメントを実践し大敗している。

0.はじめに

◆ドラッカーが指摘する成果不足の行政組織の深刻な現状

 ドラッカーは、活力ある行政が必要とした上で、「行政は病んでいる。それも強力で健全、かつ生気にあふれた行政が必要とされている、このときに病んでいる」とします(『断絶の時代』)。
 本稿の「組織とマネジメント(経営)の関連」を確認する前に、以下のドラッカーの動画の内容である「行政組織に関する指摘」を理解し、本稿の理解を深めます。
―動画の目次―
 1. 組織の必要性
 2. 行政の病
 3. 行政組織の役割
 4. 行政組織の改革
 5. 行政への不安と期待

◆本稿の概要

 前稿(1)(2)でも述べたように、マネジメント(経営)の実践に必要な、社会的な観点からのマネジメント(経営)の考え方の流れは、下記のようになります。マネジメント(経営)は社会的な仕組みです。

  ①社会における人の幸せ実現を実現する↓
  ②そのためには健在な社会が必要になる↓
  ③その実現に貢献する組織機能を発揮する↓
  ④機能発揮の方法論としての体系的なマネジメント(経営)の活用

 この考え方の流れを活用して、マネジメント(経営)意義を関係者に語り、浸透させ、共有し、社会における「人の幸せ実現」を目指します。

 以前の別稿で①と②を検討したことから、本稿では③を確認し、「組織の機能発揮の観点」からマネジメントを理解して実践し、同時に機会ある毎に、組織を機能させるマネジメント(経営)の意義を社会的な観点から関係者に語り、その理解とマネジメント(経営)の実践を求めます。

1.組織は社会に貢献する

◆常に社会への貢献からの観点で組織を観る

 マネジメントは組織に成果をもたらす考え方と仕組みです。そのマネジメントの対象になる「組織」の意義と主要な特性、そして現状(動画の内容)が理解できると、マネジメントの意義と役割もさらに明確になり、マネジメント(経営)の的確性が向上します。組織の成果を通じて「人々の幸せ実現」に貢献できます。

 社会における組織のあり方は重要です。しかし組織内部を対象とすることから、ややもすると内部の都合や事情に配慮し、社会の一つの機関であることを忘れる場合があります。
 組織は社会の一つの機関です。組織の外での成果で、社会の安定と発展に貢献することで、その存在を可能とします。よってマネジメント(経営)を担うリーダーに必要なのは、組織内部の都合ではなく、常に社会への貢献から組織を観ることの徹底です。

◆組織が機能することで、1人でやれないことがやれる

 リーダーが所管する組織の「意義」を考えると、それは、「1人ではできないことを成し遂げるためのもの」といえます。ドラッカーにも影響を与えた組織論で有名なチェスター・バーナードは、組織を「人間が意識的に協働するためのシステム」とします。この組織が正しく機能することで、1人では不可能な取組が社会で実現し、社会の安定と発展を支え、「社会で生活する人の幸せ実現」につながります。

 例えば、市民が生活で使用する加工食品、日用品、家電製品、乗用車、住宅、企業に必要な社屋、工場、倉庫など、多くの物事が企業という「組織」で作られています。1人ではできないことで住民の生活向上につながります。

 地域社会を支えるインフラでも同様です。朝起きて顔を洗う水は水道局が、料理や掃除の際にでるゴミ処理は清掃局が、住宅や道路、各施設は整備部が、地域の公衆衛生は福祉部が担当します。
 すべて1人ではできない組織の偉大な取組です。これらも、社会の安定と発展に欠かせないものばかりです。それは市役所という「組織」で企画・提案・実施されます。

◆行政は必要な機能の検討ではなく、流行の手法を好む

 ドラッカーは「企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である。組織が存在するのは組織自体のためではない。自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである(マネジメント:エッセンシャル版)」とします。

 ではその組織の機能とは何かです。ここでは直ぐに方法と手段を考えるのではなく、機能を検討し、その後にその機能を果たす方法・手段を検討します。
 しかし、マネジメント(経営)を民間の手法と考えがちな行政組織では、流行の手法の選定や視察に忙しく、必要な機能体系の検討が不足します。よって、庁内は、相互の関連が少ない、話題になった方法・手法が導入されて「流行手法満載」になり、想定した成果を実現できないことが発生します。

これが失敗例の典型であり成果不足の原因でもある

 例えば、行政の総合計画(価値提案)と行財政改革(内部改革)、そして人材育成ビジョン(能力開発)は一貫した計画体系としての取組が不可欠ですが、実際は、それぞれが異なる部署が、異なる時期に、異なる考え方で検討します。同じにしたらと助言すると、次回にと答え先送りします。
 この結果、価値提案→必要な内部改革→担える人材開発に一貫性がなく、担う人材の裏付けのない、旧式の仕組みで総合計画を推進します。エビデンスのない総合計画の内容は当然のように未達になります。これが現在の成果不足の大きな問題でもあります。

組織の重要機能を取り入れたマネジメント(経営)の構築

 組織の中心となる重要機能を把握し、それを取り入れたマネジメント(経営)体系を構築します。機能とは目的を具体的な手段に結びつけるものです。目的→機能、機能を果たすための「目標」→「計画」→「住民に向けた行動」といった展開になり、最後の行動の結果が成果になります。
 これらを使命を基盤として統合したものがマネジメント(経営)の仕組みです。このように組織の機能発揮にマネジメント(経営)が関与し、組織に成果をもたらします。

2.組織の3つの重要機能

 社会の安定と発展に貢献する組織の重要機能は、「成果」「結合(協働)」「変革」です(下図参照)。

(1)組織の最初の重要機能は「成果産出」

◆成果を通じて社会を良くし人を幸せにする

 組織の重要機能の最初は「成果産出」です。ドラッカーは、あらゆる組織が社会の一つの機関であり、よってその目的は社会にあるとします。例えば保健所の目的は、組織の外の地域住民の健康や衛生状況を適切な水準に維持し、社会に貢献することです。
 それは行政組織内の部署でも同じです。まち整備部は、暮らし訪れる人々が希む安心できる環境と住みよいまちづくりを通じて社会に貢献することです。この組織特有の目的が使命です。
 よって組織の存続に必要なことは、組織活動による「成果産出」を通じて社会的な目的(使命)に挑み、社会を良くし、幸せな人を創造することです。

◆組織は個々の特定のニーズに対応し成果を出す

 社会には、多種多様な種類の組織があります。数が多いのが企業組織で、規模が大きいのが行政組織です。この大小様々な組織が社会で存在できるのは、個々の組織が使命として、社会・コミュニティ・個人の多様なニーズから特定のニーズを選択し、それを充足させることで福祉的、経済的な成果をあげているからです。

 例えば、人並みの生活を維持したいといった社会のニーズがあるから、行政組織が誕生します。対応すべきニーズに適切な公共サービスを提案することで福祉的な成果をもたらし、社会での使命を果たします。
 同様に、病気を治したいことから病院が建てられます。成果は健康を維持できる人が増えることです。学びたい人がいるから学校の建設が始まります。成果は学ぶ人が増えることです。

 社会の機関であり手段でもある組織には、使命と住民ニーズに基づいた社会に貢献できる成果が必要です。組織は、組織の外が必要とするものを提案し、求められた成果を実現することで自己の役割を果たします。組織は成果産出の機関です。マネジメント(経営)はこれを可能にします。

◆現状はまったく機能していません

 人口減、住民の困窮、消滅可能性自治体発生、GDPランキングの下落や賃金上昇の国際的指標との比較などからかすると、行政組織の成果産出の機能発揮はまったく不十分です。現状のままでは日本の衰退は確実です。
 内閣府の国民へのアンケート調査(下図参照)を見ても、日本と地方の再生の協働者になる国民が、行政の政策成果を驚くほどまったく評価していません。企業なら即座に倒産です。抜本的な改革が必至です。

(2)組織の2番目の重要機能は「結合(協働)」

◆知識を結合し働く人の幸せに貢献する

 組織の機能発揮の2番目は「結合」です。ドラッカーは、「組織とは、知識労働者を糾(きゆう)合(ごう)し、彼らの専門知識を共通の目的に向けて動員するための人の集合体であり、自己実現を図る手段」とします(ネクスト・ソサエティ)。

 人の協働体である行政組織や各部署が知識社会で成果をあげるには、結集した専門家が保有する知識と、他の専門知識との結合が必要になります。専門家の結合による「よき仕事ぶりと成果の実現」は、組織と社会への貢献となり、同時に専門家の仕事のやりがいと自己実現を可能にします。組織は知識の結合による成果で、社会への貢献と働く人の幸せを実現する道具です。

◆組織て個人のあり方が重要

 知識の結合には、行政組織はそこにあるだけでは不十分です。以下のマネジメント(経営)に関する取組で成果を産出し、社会にとって有用な存在であると認められることが大切です。 
 ①人を引きつける誇りと共感できる組織目的の明示
 ②仕事を生産的なものにして、そこで働く職員の強みを活かした結合

 職員個人も、組織目的を徹底して理解します。その上で自分がなすべきことを表明し、意義のある挑戦的な目標を設定し、集中すべきことを決定し、自己の強みを活かした他との積極的な結合を通じた、成果に貢献する考動が求められます。
 現場での実践では、リーダーによる協働の促進が行われますが、職員にも協働責任があります。自らの情報を公開し、積極的な協働で自己と組織力を高めます。

 このように行政組織と職員が成果をあげるか否かは、リーダーの役割を担う職員の結合の仕方、職員の仕事の価値ある結合のやり方、つまり組織の重要機能を理解したマネジメントの取組にかかっています。マネジメント(経営)は組織の結合に貢献します。

◆しかし、現状は縦割り組織から結合(協働)機能が未発揮

 縦割り(サイロ)型組織は、各部署が担当する専門分野に関する課題を迅速に解決し効果的に成果を産出できる利点があります。しかし、組織間、組織内の縦割り意識と上下に強い指揮系統の組織特性から、生前から死後までの衣食住、複雑に絡みあう社会問題、能登半島災害時などの対応に必要な、総合的で横断的な課題の取組には不適な部分が多々あります(下図参照)。
 関連する各部の足並みが揃わず、政策の重複とコミュニケーション不足、統合性の欠落から、効果性の劣る非効率な行政サービスの提案になります。結合(協働)といった組織の本質を理解した、「サイロ型組織」の欠点を是正する横断的協力体制の整備が必要です。

(3)組織の3番目の重要機能は「変革」

◆知識社会での対応

 最後が組織は変革の機関であることです。人の協働体である組織が存在する社会は既に知識社会です。資本と労働から、知識が組織の中核的な資源になり、知識労働者が組織の重要な働き手になります。
 その知識は、インターネットやAIを使えば、世界に存在する知識とそれに関する情報が、誰でも手に入れ活用・加工することで新知識とし発信できます。このように知識は急速に変化し既存知識は陳腐化する特性があります。

◆変化のための仕組みをもつ

 ドラッカーは「今日のような乱気流の時代にあっては、変化は常態である。あらゆる組織が、まさに自らの構造に変化のマネジメントを組み込むべき」とします(『ポスト資本主義時代』)。

 ここから行政組織には、二つのことが必要になります。
  ・一つは、自らが行っていることについて「体系的に廃棄する能力」を  
   もつことです。
  ・もう一つが、「新しいものの創造」への専念です。

 この「廃棄」と「創造」の二つのマネジメントに無関心では、行政組織は急速に肥大と浪費、陳腐化が進行し、成果をあげる能力を失います。事実、失っています。さらに頼りとする知識労働者である職員を、結集する魅力と結合する能力も失います(動画参照)。現状はまったく無関心で劣化しています。

 変化と競争が伴う新時代の知識社会で、専門知識を強みとする行政組織が成功するには、自らを、変化は機会として捉える変革の担い手(機関)にしなければなりません。
 変化をマネジメントする最善の方法は、自らが住民起点の変化を創り出すことです。組織は変革の機関であり、その機能発揮には廃棄と創造のマネジメントが必要です。マネジメント(経営)は組織の変革に貢献します。

◆現状は改革を嫌い機能していない

 行政には企業のような明確な競争がないこと、また差し迫った倒産のリスクも少ないことから、ややもすると改革に対して「現状のままでも問題は起きていない。なぜ改革をしなければならないのか」といった思考になりがちです。
 この背景には、「改革で自分の慣れた仕事を変えなければならないことへの不安」と「新しいことを覚えるのが面倒」といった近視眼的な内部思考があります。社会は常に変化しています。住民ニーズも変わります。変化と改革を積極的に受け入れる組織に改革しなければなりません。組織の重要機能は「変革」です。

3.組織の重要機能のまとめ

◆マネジメント(経営)の仕組みに組み込む

 マネジメント(経営)の理解と実践においては、組織は成果の機関、結合の機関、変革の機関として、それぞれの機能を発揮する展開が不可欠になります。
 具体的には、社会の安定と発展に貢献する成果産出を最大限重視する取組、組織内外の協働を促進する結合の取組、変化を恐れない変革の取組です。マネジメント(経営)の仕組みにこの要素を組み込みます。

◆必要なのは、組織の重要機能を取り込んだ、マネジメント(経営)への取組

 マネジメント(経営)がなければ、組織は重要機能を発揮できなくなります。①大義を叫んで成果を軽視し、②サイロ型組織で協働を嫌い、③自己変革を避けて現状を好む行政組織と職員では、役所は人が定時に集まる単なる集合場所になり、社会に貢献することは不可能になります。それは社会の沈滞になります。
 その社会の沈滞は、「失われた30年」と人口減、そして744消滅可能性自治体の発生という事実で確認できます

 マネジメント(経営)は、社会に必要なもの、組織に必要なもの、それは働く人にも必要なものです。借金に頼り切る国家と地方経営、円安に安住する企業経営の継続では、日本と地域の未来、行政の存在価値,、そして「人の幸せ」なくなります。組織の重要機能を取り込んだ、マネジメント(経営)への取組は行政職員の責務です。自己改革が必要です。(完)        


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