見出し画像

ネタ帳のメモ

「世の中には、はっきりと黒か白かに分かれる事象は多くない。ほとんどがぐちゃぐちゃに混ざって、入り乱れてる。
たまにこの卵の白身と黄身みたいに、綺麗に分かれているものもあるけど、全ては生モノだから、こうやってちょっと突つけば簡単に均衡は崩れ、混ざりあってしまう。
だから、白か黒かの価値判断はその“割合”に依るんだよ。そしてその“割合”っていう曖昧なモノを判断する基準は、各個人の倫理観に委ねられる。でも倫理観の育成には道徳が大事なのに、教育では蔑ろにされすぎてるんだ。
だって教える人間がいないもの!正しい倫理観を持った人間なんていないんだよ。
それはどこだって、誰だってそう。人間は欲深いからね。全て自分の都合の良い様になることしか考えていないのさ。そこに倫理や道徳心なんて存在しない……。
ほら!そんな自分本位の物差しでしか示せない価値基準なんて、意味がないんだよ。そうでしょ?」
「お前はいつもそうやって長々言葉を並べては、俺を論破する。楽しいか?」
「論破してるつもりはないさ。ただボクの考えを喋っているだけだよ。楽しいか楽しくないかの二択なら……楽しいかな?君のその顔も含めてね」
「悪趣味だな」
「なんとでも言いなよ」
「……全てを諦めた世界で、お前は生きてて楽しいのか?」
「また二択?それにその質問、好きじゃない」
「嫌いでは無いなら答えて欲しい。俺もお前の長ったらしい話、好きではないからな。等価交換だ。」
「……まず大前提として、ボクが全てに諦念を抱いてると思わないで欲しいな。ボクだって夢や希望の1つや2つ、持ってるさ」
「へえ、それは初耳だな。因みになんだ?」
「教えない」
「だろうな。別に興味はない」
「そう……1番はボクのこういう考えを聞いてくれる他者がいることかな。
ボクは思考できる脳があって、そしてそれを表明、表現できる手段を持っている。ボクがこうして君に一方的に考えを話したって、仕方のないことは解ってる。でも誰かが聞いてくれなくちゃ、ボクの頭のなかで緩やかに死んでいくだけだ。
今までの哲学者や思想家や宗教家だってそうだろ。誰かに話して、その誰かが広めた。君がその“誰か”の役割をしてくれるとは思ってはないけど、ボクが口から発した言葉を君が聞くというコミュニケーションが大事なんだよ」

「今私がここで貴方に恋をしたら、それは本心ではなく、ただのストックホルム症候群。少しでもマシに生き延びるために、私の生存本能が私にそうさせるの。
でも残念ながら私の生存本能はあんまり性能が良くなくってさ、簡単に死のうとしちゃうんだよね。だからここで貴方に恋することも、身体と心を許すことも、絶対にないの」

人間はいつも競わされていて可哀想だなと思う。
ただ価値観や価値というものは、相対評価のなかで育まれるものであるから、他と比べてしまうのは致し方ないのだろう。
ただそれに順位をつけることや、優が「善」に、劣が「悪」に結び付くことを植え付けた最初の人間は、本当に罪深い。稼働人数5、60人のコールセンターの中で個人が、チームが一位になることがそんなに重要か?まあ、重要なのだろう。それが生きる目的ならば。私は生憎、それが第一目的ではなく、ただ生活するための資金集めとしてでしかここにいないので、無理矢理競わされても負け馬にしかならんのよ。
人間は脳が発達しすぎて、寿命が延びすぎて、生まれてから死ぬまでの長い時間の暇潰しに、すこしでも満足感を得ようとする。その満足感はきっと自分が優位に立つことで得られるものが多いと思うし、その為に他人を差別し、蔑むのだと思う。また優位であるという自覚が欲しいから、目に見える順位や地位に執着するんだろうな。
私のロールモデルというか、そんな感じのものが老荘思想なので、常に無為自然に生きたいと願っているが、今現在の人間社会では限りなく不可能である。無私無欲でいたら、社会に搾取され、ただの歯車になる他ない。他人の欲のために利用されるなんて真っ平だ。

Bを見送るA。再び寝転がる。
しばらくして起き上がると、頭に妙機械が付いた格好である。
Aはゆっくりとそれを外し、テーブルの上に置く。
「……と、今のはボクの夢だった訳だけど、僕の古い記憶でもあって、まだ人間どうしで言語コミュニケーションとれていた時代のボクの記億……。
今から250年くらい前、繁栄しすぎた人間を収束させるために、1人の女性が立ち上がった!彼女は優秀すぎる科学者だった」
「人間の脳は発達しすぎだ。だからこんなに争うし、差別をするし、傲慢で、怠惰で、利己的で、地球を破壊し尽くして、宇宙まで手を広げ足を伸ばし、自分を1番だと思い続けていたいの。そんなんじゃ平和になんて一生なれっこない。でもね、ひとつ方法を思い付いたんだ。知りたい?
人間の脳を進化前に戻しゃ良いだろ!縮めんの、脳を!そして野生へ返す。文明を全て失くすの!!」

「ボクは精神だけの存在だからね。実体を持たない。だから見た目も好きなように変えられるのさ!今君が見ているのはボクの理想のボクさ」
「え、それが理想なの?もうちょっと、なんとか出来たんじゃ……」
「うわ、君のルッキズムを押し付けないでほしいな。それは君の好みで、理想で、ボクには関係ないからね」

誰も傷つけずに生きることは不可能なのか?本当にそう。
自分が傷つかずに生きるためには誰かを無意識に傷つけてしまう頻度がなぜか多くなるし、誰も傷つかずに生きるために、自分に負荷をかけ、無理をして磨り減らしながら生きていくしかなくて、バランスの悪い世の中だなあと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?