皆既月食は見えなかったけど、大事な贈り物をもらった夜

楽しみにしていた皆既月食は見えなかった。でも、自分の中で大切な感覚を久々に感じられた、いい夜だった。

月食のことは当日の夕方のネットニュースで知った。家族にそのことを伝え、「娘も一緒に見れるかな〜時間的に無理かな」なんて話していた。ご飯とお風呂を済ませ、19時半から妻は寝かしつけに。自分は仕事に戻った。

20時になった。パソコンを閉じた。そそくさと部屋を出てマンションの非常階段に出た。月は見えない...。おかしい。そのまま一番上の階まであがり、よじ登って屋上に上がろうとしたが、一歩間違ったら死ぬと思い断念。元の位置に戻る。

スマホを取り出し、twitterを見る。やはり東京からは月は見えていないらしい。youtubeでWeatherNewsの中継を見る。北海道では見えているが、その他の地域ははやっぱり厳しいみたい。全国地図の上にいろんな人の撮った空の様子が並ぶお馴染みの光景。

非常階段の扉が開いた。マンションの同じ階のご近所さんが現れた。
「お久しぶりです!うーん、月見えないです...。」
「あ、あれ!うっすらと見えるの、あれ月じゃない??」
そんな会話をしながら、マスクしながら少しキャハキャハした。

また、非常階段の扉が開いた。妻が来た。
「こんな格好ですみません。」「いえいえ〜私もよ。」

三人横並びで、雲の奥に隠れた月を見ようと空をじーっと見つめながら、日常生活や仕事の話など他愛もない会話をする。

数分が経ち、ふとある感覚を思い出した。自分にとってとても大切な感覚。
それは、自分が小さな頃地元のお祭りでお神輿が出てきた瞬間にそれを見てる人たちがパッとつながる記憶であり、大人になって隅田川の花火大会をベランダから仲間と見ながら感じた記憶だった。

非日常がつくるゆるやかな横のつながり。
コロナでなくなってしまった非日常のきっかけ。

「そしたら、また12年後かな 笑」
ご近所さんとの会話は幕を閉じ、非常階段から部屋に戻った。

残念ながら月は見えなかったけれど、ふと幸せを感じられた夜。
大切な瞬間を届けてくれて、ありがとう。

「かんじんなことは、目に見えないんだよ」サン=テグジュペリ『星の王子さま』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?