障害者雇用代行ビジネスの問題点は?【時事ニュース2023年1月】
障害者の雇用代行ビジネス?なにそれ?
1月の新聞記事(北陸中日新聞の1面)
◎「障害者の雇用代行ビジネス」が増えている。
◎批判されている。
ことが話題になっていた。
今回の記事では次のことがわかる。
◎障害者雇用代行ビジネスってなに?
◎なぜ増えてるの?(企業・事業所のメリット)
◎なぜ批判されているの?
障害者の雇用代行ビジネスをなぜ学ぶのか?
◎障害がある当事者や関係者にとって、どうお金を稼ぐのかは重要な問題だから。
◎会社は積極的に障害者雇用を進めていくことが求められているから。
◎事業所は仕事の中身や経営について悩んでいるから。
批判されているにもかかわらず、増えている障害者雇用代行ビジネスは、障害者にかかわる様々な問題を内包している。
だから、学ぶ必要がある。
はじめに 障害者雇用代行ビジネスってなに?
ビジネスの事業所は貸農園を管理・運営している。
・事業所が農園を管理・運営して、障がい者が野菜を栽培・収穫する。
→これだけだったらよくある福祉事業所。
※でも、「貸」農園というのがミソ。
ポイントは、障がい者を雇用している(雇用契約を結ぶ)のは別の会社(A社・B社・C社など)だということ。
つまり、どういうこと?
→A社・B社・C社の社員(障がい者)が貸農園で働いているという構図。
だから障がい者に給料を払うのは、A社・B社・C社。
ビジネス事業所とA社・B社・C社との関係は?
・ビジネス事業所は別の会社(A社・B社・C社)に障がい者を紹介する。
・別の会社(A社・B社・C社)は、ビジネス事業所に紹介料と農園利用料を支払う。
なぜ、会社(A社・B社・C社)は「障がい者の給料」「紹介料」「農園利用料」を払ってまで、障がい者を雇用するのか? ~法定雇用率の話~
押さえておきたいポイントは法定雇用率。
会社は障がい者を雇わなければならないと法律で決まっている。
法定雇用率は増加してきたし、今後も増加していく。
1987年には1.5%
→2022年には2.3%
今後も、
2026年度中に2.7%まで、段階的に引き上げる。
法定雇用率を達成しないとどうなるのか?
・障がい者雇用の不足1人につき、月額5万円支払う(納付金)。
(反対に、超過1人につき、月額2万7千円もらえる。)
・行政指導の対象となる。→改善しなければ企業名の公表
※官公庁の入札で不利になることもある。
※企業イメージのダウンにつながる。
①企業のメリット
障がい者の法定雇用率がクリアできる。
・給付金(障がい者雇用の不足1人につき、月額5万円)を払わなくてよい。
・会社のイメージアップ。
会社のHPでダイバーシティ(多様性)を表すために障がい者雇用率をアピールしている会社もある。
障がい者に見合った仕事を準備しなくてよい。
障がい者を自分の会社で雇うと、特別な仕事を”わざわざ”準備する必要がある。
※ちなみに、国や自治体で会社の相談に乗ってくれる機関があるし、
新卒採用では特別支援学校も会社と一緒に考えていく。
でもやっぱり労力はかかる…。
ほかの社員への配慮をしなくてもよい
一緒に働くときには、トラブルが起こりうる。
・職場の人たちに障害をどこまで伝えるのか?
・「さぼっているのか障害なのかがわからない。」「どこまで配慮すればいいの?」
というほかの社員からの悩み、不満がでてくることもある。
おいしい野菜がもらえる
新鮮な美味しい野菜をほかの社員に配ったり、食堂で使ったりできる。
※レタスとかは安定してとれるし、最近は野菜も値段高いからね。
②事業所のメリット
作物の出来は問われない。
市場に出さないから規格(大きさ・重さ・長さ)は関係ない。
(野菜を育ててたら「規格外」ってたくさんあるんよね。)
給料を払えるかどうかの心配をしなくていい。
・別の会社(A社・B社・C社)が給料+紹介料+農園利用料を払ってくれる。
・農園の仕事がどこまでできるのかを、採用の時にシビアに判断しなくていい。→誰を採用しても良い。
(例えば、毎日、元気に出勤できればOK! みたいな。野菜の出来が成果として問われるわけではないからね)
雇われる障がい者へのメリットもある。
・安定した給料(月11~13万円程度)がもらえる。
障がい者が働く場の平均給料
A型事業所(雇用契約あり):月額8万円弱
B型事業所(雇用契約なし):月額1万6000円
・成果にとらわれず自分のペースで仕事ができる。
ストレスの少ない安心した環境で仕事ができる。
(ときどき野菜ももらえるかもしれんし)
③なぜ批判されてるの?(会社にも事業所にも障がい者にもメリットがあるのに)
目的、目指している未来が国や世界と違うから。
目指しているのは、共生社会とインクルーシブ(みんないっしょ)
共生社会とは?
・障害の有無、男女、年齢などにかかわらず、お互いを大切に思える社会。
・さまざまな人が分け隔てなく暮らしていくことのできる社会。
インクルーシブ(みんないっしょ)とは?
インクルーシブ教育は、「障害の有無にかかわらず、みんな同じ教室で学ぶ」ことを目指した教育。
「障害者権利条約」という国際人権条約でも「障害を理由とするあらゆる区別は差別」だといわれている。
つまり、区別をせずにみんないっしょ(インクルーシブ)を進めることが国際的にも目指されている。
参考:日本の障害者施策の経緯(文科省HP)
戦前:家族に依存する障害者保護
(社会や国では面倒を見ないよ)
戦後:障害児に対して特殊教育という形で特別な教育の機会が与えられる。
↓
養護学校
↓
特別支援学校
※特殊教育が養護学校、そして現在の特別支援学校へとつながっていく。
日本のこれまでの障害者施策の原則は?
健常者と障がい者を分ける分離教育が原則。
(つまり、特殊教育という流れを受けて進められてきたので、それぞれをわけて教育していくっていうのが歴史的に続いてきたんよね)
→この分離教育が国連から批判されたりしてる。
障害者雇用代行ビジネスは”分離”をすすめる!?
日本や世界が目指している共生社会とかインクルーシブ(みんないっしょ)と違って、障がい者と健常者の「分離」を進めていくのではないかということで障害者雇用代行ビジネスは批判されてる。
(会社が雇用しているにも関わらず、働く場を完全に分けてしまっているからね。そもそも「障害者ビジネス」とかいうときの「ビジネス」っていう言葉は批判的な意味合いがもともと含まれてるし。)
今回の話を「考えるきっかけ」にすべき
障害者代行ビジネスは、障がい者に関する問題を浮き彫りにしたんじゃないか?
◎障がい者雇用に関する課題
◎会社にとって・・・
障がい者は雇わなければならない。(法定雇用率の上昇)
でも、企業にとってはかなりの負担。
障がい者に見合った仕事・ほかの社員への配慮をどう進めればいいのか?
◎事業所にとって・・・
福祉事業所の経営はどう進めればいいのか?
障がい者のために働く場所を提供したい!という熱い思いがあっても、給料などを払うためには経営を考えないといけない。
※昔は補助金だけでほそぼそとやっていくことはできていた。でも今は補助金が減ってそれだけでは生き残れない。
◎障がい者の給料が低い課題
障がい者が働く場
A型事業所(雇用契約あり)月額平均:8万円弱
B型事業所(雇用契約なし)月額平均:1万6千円
どうやったら障がい者の給料を増やせるのか?
◎共生社会・インクルーシブ(みんないっしょ)に向けた課題
歴史的に分離教育が進められてきた日本。
分離教育から共生社会・インクルーシブ(みんないっしょ)をどう進めるのか?
だから今回の話を「考えるきっかけ」にすべき。
「障がい者団体から批判されてるし、悪い事業所なんやろう」と、障害者雇用代行ビジネスをしている事業所を単にやめさせようとすべきではない。
そうじゃなくて、障がい者を取り巻く環境には課題がたくさんあるんや、というのを認めたうえで、よりよい未来にするためにどうすればいいのか?
ということを考えていくべき。
参考書籍・文献・HP
①北陸中日新聞(2023年1月10日の1面)
②障害者雇用率を段階的に引き上げ、2026年度中に2.7%へ
今回の感想
特別支援学校の教師として、生徒や保護者にこの事業所に行きたいと言われたら、どう考えるやろうか?
「障害者雇用代行ビジネス」
「○○ビジネス」っていう名前の付け方自体が批判的やねんけど、ビジネスモデルとしては本当によく考えられたモデルやと思う。
企業にもメリットがある。事業所にもメリットがある。さらに、雇用されている障がい者にもメリットがある。
でも、ここで批判されているのは「分離をすすめる」という点。でも、単に「事業所をつぶせー」ではなく
「分離」から共生社会・インクルーシブ(みんないっしょ)に進むためにどうすればいいのか?
障がい者を取り巻く課題をどう考えて、どう未来を進めていけばいいのか?
これらの課題をクリアしていくことは、当事者だけではなく、他のどんな人にとっても過ごしやすい社会になると思うんやけどなぁ。
みなさんの考えもぜひ聞かせてください。
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