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スプリンクラーなら誰にも負けんよ?高校野球

約熱の太陽、いきものがかりの夏空グラフィティ並のテンポで、夏のグラウンドは一瞬でからっからになる。
グラウンドの砂埃や無駄なイレギュラーを防ぐためにグラウンドに水分もたらす物がスプリンクラーだ。

スプリンクラーとは水をグラウンドへ撒くための地面に設置された水のマシンガンのようなもので、それが回転し、周囲全方向へ水が撒かれる。

僕たちのグラウンドにはスプリンクラーが多くあり、後輩はスプリンクラー隊として毎日水を撒く際にスプリンクラーの設置から水の方向の操作までを管理する。

僕を含めた10名程のスプリンクラー隊はそのスプリンクラーのプロだった。それでお金はもちろん稼いではいないが、少なくとも気持ちはプロだった。

どのくらいプロかというと、体が勝手に反応してしまうレベル

ある日練習試合で他校に行った時、他校の一人がスプリンクラーを指示した。もちろん他校なので、僕たちはスプリンクラーをする必要は全くないが、

その「スプリンクラー!」という声に、我々スプリンクラー隊のモリ君は

「はい!」といって方向すらもわからないのに真っ直ぐ走り始めた。

帰ってきたからよかった。


もう一つプロだと言わしめる要素はその管理技術だ。
我々は水の勢いをスコップを使って調節する。
それもスコップで水の上から押させ、上手く距離を測りながら出来るだけ広い範囲に水が届くようにする。

特にマウンドの真後ろのスプリンクラー担当は凄い緊張感の中で闘う。
もしスコップで水を押さえなければ自軍と相手のベンチをびしょ濡れにする。それが意味するのはグローブ、バット、先輩、監督の濡れ、

要するに死だ。

しかし、彼らはやってのける。
ベンチのラインギリギリを狙い20メートル以上の長さの水が出るスプリンクラーをスコップの強弱と「抑えろ!」と「もっと」の声のみで調整するのだ。

ある日事件は起きた、マウンドの後ろのスプリンクラーのヘッド(水を出すはずのピストルの部分)がなぜが取れたのだ。

だが、スイッチは入ってしまっている。まさに映画のような緊張感の中、
全体のスイッチを管理する役に「止めろぉぉぉーーーーー!!」と全員で叫んでいるが、スイッチ役の周りは一度スイッチをオンにするとかなり大きな音があり、聞こえない。

まずいぞ、どうなるんだ。1%ほど好奇心も含まれた緊張に


みんなが固まった瞬間


信じられない程の水が噴水のように跳び上がった。

一瞬、石油を当てたのかとも思った。一瞬。

石油なら今頃後輩諸君には甲子園より大きな球場が与えられていたであろう。


だが、自分は自分の持ち場を離れられない。
どうする。

とマウンド付近を見た時。
そのうち上がった水すらもスコップでコントロールし、撒く男がいた。

プロだった。



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