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学校弁護士-スクールロイヤーが見た教育現場-【読書感想】

教員免許を取得して社会科教師として勤務しつつ、弁護士資格を持ってスクールロイヤーを担当している、すなわち双方の知見を持つ筆者が「学校弁護士」について論考する一冊です。

https://www.kadokawa.co.jp/product/321904000015/

スクールロイヤーに明確な定義はないようですが、学校の問題に対して法律を用いて解決しなければならないときに、何らかのかたちで学校や教育委員会と関わる弁護士として理解しました。

一般に弁護士は、一方の当事者の法的な代理人となります。しかし、スクールロイヤーは、誰かの代理人として適法か違法かを判断し、主張すればよいものではないと筆者は主張します。いじめ問題についても、加害者、被害者、それぞれの保護者、クラスメイト、担任、校長。さまざまな当事者が存在します。その中で全体を俯瞰しながら「子どもの最善の利益」を実現するために現実的な対案を示すことがスクールロイヤーの役割として重要であるとしています。これは、地域においてさまざまな当事者の利害を調整することがある地方公務員にとっても、非常に示唆に富む考え方だなと思いました。

また、筆者は、いじめ防止対策推進法をはじめ法律や制度の考え方と教育の現場が、非常にかけ離れたものになっていることを指摘しています。例えば、同法では「被害者が心身の苦痛を感じた」ことを「いじめ」として定義しているため、クラスメイトの告白を断ったことですら「いじめ」として位置づけられ、情報を学校内で共有しなければならなくなる、と。こうした事態について、現場を知らない文部官僚や学識経験者だけで制度を作ったからだと筆者は批判します。このような、一般的な法や制度に対して、実際の現場で当てはめに苦慮するのは、地方公務員なら誰しも経験することでしょう。そうした視点から読んでも興味深く感じました。

この本では、筆者がいじめ以外にも、教師として、スクールロイヤーとして、様々な教育現場の課題に向き合っている様子が描かれています。虐待、不登校、保護者対応…等。いずれの場面においても、スクールロイヤーを学校に導入することが万能薬ではないこと。あくまで調整役として、課題解決のきっかけ作りを目指していることが強調されます。結局のところ教育の主役は生徒であり、教師なのです。これも非常に大事な視点です。地域や職場でコーディネーター(的な役割を持つ人)を置くことがしばしば議論されますが、その地域や職場の課題を解決できるのは、あくまでその構成員なんですよね。

一つ気になったのは、全体として、法や制度を立案する者は、その現場を経験すべきとの考えがあること。正直なところ、それは現実的ではありません。もちろん法や制度を立案するにあたって、現場の意見を取り入れるよう努力はすべきでしょう。しかし、一言で現場といっても、さまざまな現場があり、関係者がいて、考え方があります。ある現場を経験したからといって、一般に共通する法や制度を立案できるものでもないからです。

もちろん、法の理念と教育現場の現実の狭間にあって、現実的な対案を模索する著者の姿勢には共感するところがありました。教職員の方はもちろんですが、教育委員会事務局の職員の方にも読んでいただけたらと思います。

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