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Johnny and The Moondogs『Silver Days(Air Time)』(Warwick M16051, Subway MX 4729)

リンゴじゃなくてピートがいますがピートの演奏は入ってません。

 ビートルズがスウェーデンのラジオ番組でスタジオ・ライヴを行なった際の音源を収録した海賊盤レコード『Johnny and The Moondogs / Silver Days』です。「ビートルズ」という言葉がどこにもありませんが、海賊盤ですから、デカデカと「ビートルズ」と銘打って売ってしまうといろいろマズいのでそうしたのでしょう。でもビートルズと書こうか書かまいが、中身はビートルズの非公認音源ですからそんなの最初からマズいに決まっています。ものによっては、レーベルやジャケットに載っている曲目も適当な架空のタイトルが並んでいる盤もありまして、そういう偽装工作をしたところでどうせ中身はビートルズなので、ただの不良品にしか見えなかったり。その点、こちらのJohnny and The Moondogsはクオリーメン(The Quarrymen)と並んでビートルズの前身にあたるバンド名ですからわかりやすいですし、曲目もまともです。

 ジャケット写真にはなぜかリンゴの前にドラマーを務めていたピート・ベストがいて、この海賊盤のジャケットで初めてその存在が知られた写真なのだそうです。すでにマネージャーのブライアン・エプスタインによるイメージ戦略によって革ジャン不良スタイルからスーツ・スタイルになっていて、1962年の初頭に撮影されたものだと言われています。このレコードに収められたのは1963年以降のものなので、もちろんピートの演奏は収録されていません。もっと言えば、ピートの加入は1960年の8月なので、Johnny and The MoondogsからSilver Beatlesに改名した後。なので、ジャケットの写真も、タイトルになっているグループ名も、そして内容も、全部かみ合わなくなっているのですが、写真の貴重さが優先されてとにかくこうしてドーンと出てしまったのでしょう、そういう適当なところがいかにも海賊盤らしいというわけです。

金色のシールになっていてテカテカしるんですが、写真ではうまく伝わりません。

 レコードのタイトルについては、表ジャケットに書かれた『Silver Days』とも呼ばれたり、表ジャケットにある丸いシールと裏ジャケットの曲目(シールになっています)にある『Air Time』とも呼ばれたり、そのあたりもいまひとつハッキリしていません。自分の場合は面倒なので『Johnny and The Moondogs』と呼んでますが。おまけに表ジャケットに表記されているレーベル名とレコード番号と、実際に中に入っている盤のレーベルのレーベル名とレコード番号も違っていて、もうなにがなにやら……。古いレコードなので単にジャケットと中身が入れ違ってしまっているだけなのかとも思いましたが、海外のサイトにある写真を見たらやはり組み合わせになっているものを見つけたので、これもまた海賊盤業者による意図的な目くらまし的なことだったのかもしれません。

レーベルにも特にそれらしい表記はまるでなし
「RADIO BROATCATS」「1960-1964」あたりがビートルズぽい?

 改めて気になったところ書き出してみたらいろいろ長くなってしまいましたが、とにかくこの盤は中身がすばらしいんです。1963年10月24日。デビュー後初の海外ツアーとして訪れたスウェーデンで録音されたもので、『POP '63』というラジオ番組に出演したときのものです。司会者の方はもちろんスウェーデンの方なので、ちょっとたどたどしい感じでメンバーの名前と言ってグループを呼び込みます。あとは彼らの独壇場。全7曲。『アンソロジー1』の1枚目の最後に5曲入ったあの演奏の完全版です(どうせならあと2曲入れておけば海賊盤が要らなくなったのに…)。ジャケットに貼ってある丸いシールには「from master tapes」、裏の曲目には冒頭の7曲について「directly off master tapes」と書かれています。本当かどうかはともかく、そう言われても納得の高音質。このレコードが出回っていた80年代には、この音源が公式にリリースされるという噂もあったそう。実際にこの番組を担当していた録音スタッフは、あまりにも音が大きすぎて音が歪んでしまったことを気にしていて、メンバーにその旨を謝ったところ、逆に好みの音だったので喜ばれた、というエピソードもあります。

 70年代には『SWEDEN 1963』というタイトルの海賊盤(オレンジや赤の二色刷りのジャケット)で知られていた音源でしたがこれは音がとても悪く、この『Johnny and The Moondogs』が出てから劇的に音質が良くなりました。今でもこのスウェーデンでの音源を収録した海賊盤は多数リリースされていますが、このレコード以降のタイトルでしたら基本的に音は良いので、ぜひ一度探して聴いてみてください。

 そういえば、その他の曲目について一切触れておりませんが、あとは同時期のBBCでのスタジオ・ライヴ音源で、こちらももちろんけっこう良い音で収録されています。でも、スウェーデンでの演奏があまりにも素晴らしいのでどうしても霞んでしまうんですよね。だからのちにTSP(The Swingin' Pig Records)が『STARS OF '63』というタイトルでさらに音質がアップしたスウェーデン音源の7曲だけを収録した海賊盤をリリースしたんですが、それについては「収録時間が短い!」という批判があったそうで(1988年頃。CDでもリリースされたので、確かにその批判もまっとうではありますが…)、買う側は勝手なものです。個人的にはミニアルバムみたいでそれもまた良しじゃない?と思っています。


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