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食と里の守り方|棚田オーナー体験@稲渕棚田

一緒にお料理(やまと薬膳)を習う友人が、奈良県明日香村の田んぼを1年間借りる「棚田オーナー」になった。

料理を学ぶうちに安全な食べ物とは何かを考えるようになり、「一から作物を作ってみよう」と、ご主人と棚田オーナーに挑戦することにしたそう。

去年から家庭菜園を始め、無農薬で食べ物を育てることの難しさに直面していた私。この日、私も田植えに参加させてもらった。

棚田オーナーって?

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棚田オーナーとは、田んぼの担い手がつかず荒廃農地になってしまった田んぼを区画に分け、個人に貸し出している制度。

棚田オーナー制度は全国各地にあり、私が訪れた明日香村では月に一度オーナーが集い、インストラクターの指導の下本格的に田づくりをしていた。

5月は苗代づくり、6月は田植え、夏の草刈りを経て10月に稲刈り、11月の収穫祭までプロの農家の方に見守ってもらえるので、畑の経験がなくても安心だ。

一年契約なので手軽に田んぼを体験することができるのが魅力だが、私たちの隣の区画の人は「今年で15年目だ」と言っていた。かなり前からある制度で、楽しんで続けられる人もいるようだ。

コロナ禍で一気に注目度が上がり、今年度は100区画が早々に売り切れ。田んぼの近くに停まった車の中には足立ナンバー、つくばナンバーと遠方からのナンバーが並び、田んぼのために遠征している人もいるのが見受けられた。

田植えをしながらカエルを捕まえて遊んでいる子どもや、アウトドア用のテントを張って家族レジャーとして楽しんでいる人も。土に触れることの少ない今どきの子どもには大きな学びの場になっていることだろう。

田植え|土に触れる

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あなたが最後に土に触れたのはいつだろうか?

最近アメリカでは素足や素手を大地につけるアーシング(Earthing)が流行しており、日本にもその波が来ている。

大地に身体をつけることで体内に溜まった電磁波を外に逃がし、体内のバランスを整える効果があるという。マインドにもよい影響があるそうだ。

青空の下での田植えを通して、粘土質の土、飛鳥川から流れこむ美しい水、1カ月かけて成長した稲を手にして、自分が「アーシング」していることが感じられた。

腰を曲げて泥に手を突っ込むのは楽じゃないはずなのに、なんだか少しずつ心が洗われている気がするのだ。友人も同じことを口にしたので、土を触ることが人の心を癒すことを私は確信した。

村人総出でひとつひとつ田植えをしていた頃はそんな気持ちではなかっただろう。

米作りは伝統文化

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田植えのあとには、農協の方が「さなぶり餅」を用意してくださった。

奈良では昔から田植えのあとにさなぶり餅を食べる習慣があり、全粒粉が入った餅にきなこをかけていただく一種の郷土料理である。

「さなぶり」は「さのぼり」がなまった名前で、農作の神様である「サ」様が人々の田植えを見届けて空に昇って帰られるのを見送る、という意味があるそうだ。

水田に映る青い空を見ていると、昔の人が空に神様を思い描いていたのがわかるようだった。自然豊かな明日香の地にはアニミズムの考え方がよく似合う。

私も、今日植えた稲が無事に育つことに自然と祈りを捧げられた。

農地が自然に還るリスク

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誰も継がなくなった田んぼを貸し出す棚田オーナー制度は画期的だが、100区画を貸し出してもまだ荒廃農地が広がっていた。

農地を譲渡するのが法的に難しいそうだ。基本的に農地を持つには専業農家でなければならず、かといって農業だけで生計を立てるのも難しい。農機具だってタダではない。農地の譲渡も、農家を始めるのも、どちらもハードルが高いのが現実だ。

手入れをしない田んぼはあっという間に自然に還り、野草が生い茂り野生動物の隠れ家となる。

明日香村では里山までイノシシが下りてくることがここ数年で増えたらしい。かつて明瞭だった野生と人との境界線が、荒廃農地が増えることでどんどん人間側に進んできている。

日本の食料自給率は約30%。人が人のために作った作物を、野生動物に分けてやれないし、イノシシも簡単なエサ場ばかり探していては長生きできないだろう。

棚田オーナーを体験し、荒廃する畑を見て、

私たちが、たった一年ずつでも、田畑を守ることが、生態系を守ることにも繋がっていくことを知った。

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