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ラテンアメリカと東ヨーロッパ

「すいません、教室間違えたみたいで」
セミナーのー少人数授業のー教室の後ろに座っていた男子が立ち上がった。「東ヨーロッパの現代社会と政治」という地域研究の授業での話である。

「なんの授業のはずだったの?」
と教授が聞いた。普段は少人数授業というのはPhDをやっている途中の先生が担当するのだけれど、その週だけは臨時で教授がティーチングに入っていた。教授は多忙なのに珍しい。

「ラテンアメリカの政治です。廊下の反対側の教室だったみたいで」
ラテンアメリカ、と言ったタイミングで、教授が引き止めの姿勢に入った。

「ラテンアメリカなの?ちょっと待って、君にはここにいてほしいな」
教授の必死の引き止めにも関わらず彼は廊下の向こう側に旅立ったのだけれど、どうして彼は引き止められねばなかったのだろうか?

その答えは、次の週のトピック「民主主義の安定化」にあった。東ヨーロッパの国々は、共産主義の台頭から1989年に至るまで共産党による間接的な(衛生国家としての)統治を経験し、その間に社会の変革を経験したという点において、共通の歴史を持っている。その国や地方によってその統治の形は違うし、スターリン期を超えたのちだと益々それは変わってくるのだけれど、それでも1989年にほぼ0の状態から西洋的民主主義を立ち上げたという点は共通点がある。

1990年の当時、西ヨーロッパの人々は、その姿をラテンアメリカの民主主義構築と重ね合わせていた。植民地支配という歴史を経験したラテンアメリカの国々は民主化への移行を図ったものの、その多くが権威主義などに落ち込んだわけで、それと同じ道を辿るのではないか?と思っていたわけである。
実際にはその悲観的な予測は大きく否定されてきたわけだけれど(だからと言って今日の民主主義が安定しているとは言えないのかもしれないが)、その比較というのは未だに論じられている部分である。

Bunce, V. (1995). Comparing East and South. Journal of Democracy 6(3), 87-100. doi:10.1353/jod.1995.0045.
これとか

だけど、地域研究と比較政治をやります、という学部でありながら、「2つ以上の地域について」研究できる環境というのはなかなかない。つまり、実際に比較政治的な視点から卒業論文を書きます、というときにはケースとする国をいくつか選ぶわけだけれど、地域を超えてケースを比較したければ、必然的に各々の国の傾向と特徴を捉えていないといけない。それって大学の枠組みの中だと意外と難しいのだ。

だから教授は必死にラテンアメリカの学徒を教室内に引き留めていたわけである。大学の中での留学みたいなのがあればいいのにな、と思う。

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