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【日記】カフェ・家族写真

書いていたのだけれど、短すぎるがために下書きに埋没されていた日記の供養・2本立て。


カフェ

数年前、オープン要員として、朝の6時半から9時半まで、大手のカフェで働いていたことがある。フランス語の授業の前に週に3回、朝30分で開店準備をして、お店を開けて、通勤ラッシュを乗り切って、退勤してフランス語の授業に向かっていた。フランス語の授業の後にお店に戻ることもあったし、暇な時間はお店に一人の時もあった。銀行にお使いに行くことも多々あった。店長さんも社員さんも良い方で、苦に思うことなく働いていた気がする。朝4時起きは辛かったけど。

忘れられないお客さんがいた。これは、別にオチとして素敵なエピソードがあるわけでも、心が温まるお話でもない。ただ、私が覚えているだけである。

そのバイト先は、近くの大きな駅に電車がつくたびに、スーツを着た人がドッと押し寄せるお店だった。毎朝、必ず来るお客さんも複数いた。その中に、背が高くて、角張ったメガネをかけた、背の高い、ザ・サラリーマンというような人がいた。

父に似ているな、と思っていた。

その人は、毎朝アイスのカフェラテ(牛乳に対してワンショットのエスプレッソを入れたもので、アイスカフェオレやアイスコーヒーより少し高い)を頼む人だった。少なくとも私が出勤している日はそうだった。5日しかないウィークデイのうち3日も出勤していると、毎朝来るお客さんの顔と注文は覚える。
「アイスカフェラテで」
「230円になります」
「はい」
そう言って、コイントレーにピッタリ230円を置く。イギリスに来てからみんなデジタル決済だけど、日本はまだ物理的な貨幣制度が罷り通っていた。他のお客さんと違って、「(毎朝来るんだから)覚えていて当たり前だろ」という感じや、「(若い女の店員だから)受け答えも適当でいいか」というような感じが無かった。
たまにフロート(上にソフトクリームが載っている飲み物)を頼むことがあって、お盆にスプーンと一緒に乗せたそれを渡した時に「ありがとね」と言っていたのを覚えている。2年前に辞めたバイトなのに。

なぜかわからないけれど、なんとなく、スーツを着た父がカフェで何かを買うことがあったら、きっとこの人みたいな買い方をするのだろうな、と思っていた。私は父が職場でどんな人だったのかを知らないし(一回職場に連れて行ってもらったことがあって、その時は「お父さんは尊敬されているんだろうな」と思ったことと、父がなんだか嬉しそうだったことと、駅に向かう帰り道が楽しかったのは覚えているけれど)、ましてや、スーツに身を包んだ父のカフェの振る舞いなんて知る由もない。カフェに行く人だったのかも知らない。うちのカフェは喫煙ルームがある場所だったから、そういうところには行っていたかもしれない。とにかく、なんとなく、そういう注文の仕方をする人なんじゃないかな、と思っていた、それだけだ。

採用された時から、3ヶ月でやめると約束していたバイトは、ピッタリ3ヶ月でやめた。アイスラテのおじさまは今日もアイスラテを飲んでいるのだろうか。


家族写真

一つ、習慣にしていることがある。「記念写真を撮っている家族」がいたら、絶対にシャッターを切る申し出をすることだ。

東京スカイツリーの根本で、ベビーカーに乗った赤ちゃんとお母さんとお父さん。
ブリストルの街で、大聖堂の前の夫婦。
ロンドン・タワーブリッジの前で、橋を背景に夫婦と子供一人。
コベント・ガーデンの大きなクリスマスツリーの前で、夫婦と女の子2人。
大英博物館の前で、円柱を背景に夫婦と子供2人。

ロンドンは旅行客の多い街だ。疫病のお陰で去年は訪問者も少なかったけれど、今は路上にお土産物屋が戻ってきたり、大英博物館の閉館時間にはゾロゾロと人が出てきたりするようになった。ロンドンブリッジの方まで行けばそこにも観光客がいるし、大英博物館やらKings Crossの駅やら、旅行客が好きな場所も多い(し、普通のロンドンの街でも写真を撮るひとは撮る)。

そんな時に、たいていの家族は、お父さん側がシャッターを切る。お母さんと子供たちと、背景にイギリスらしいものが入る。一緒にいた友人に言われて気がついたが、そんなところにも暗黙のジェンターロールが隠されている。お父さんは写真を撮る係、お母さんは子供たちと一緒に微笑む係。でも、それだと当然お父さんが写真に入れなくて、そういう不完全な家族写真が残るのが私はどうしても気になるから、頼まれたらもちろんのこと(一眼レフを持っていると頼まれることも多い)、別にこちらに何も意識を向けられていなくても、スタスタ近づいていって、「みなさんの写真撮りましょうか?」 とかなんとか言って、 カメラを借りて、全員が揃った写真を撮る。私だったら絶対に見知らぬ外国人がそんなことを言ってきても携帯やらカメラやらを渡さないと思うが(スラれるから)、今まで断られたことはなく、私はそれらをスったこともなく、そこそこの数の家族写真を収めてきた。ただの自己満足だ。大阪のおばちゃん精神とも言う。自己満足だけど、声を掛けると「ああ助かるよ!」みたいに返してくれる人がほとんどで、お互いハッピーならいいかな、と思う。そういうのって大事だから。

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