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まむおの小説シリーズ

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私が書いた小説をまとめました。
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#人間関係

ボタン

「あっ…」 スーツからゆっくり落ちていく。ほつれそうと思っていた矢先だった。地面に落ちた茶色のボタンは、もの寂しそうな表情をしていた。僕は、まじまじとヤツを眺めることを止めなかった。 「こんなところに…」 立ち止まる人影を感じた。誰だかすぐに分かった。しゃがんで拾い上げると、ヤツの雰囲気が変化し始めた。華奢な親指と人差指に摘まれた格好で、申し訳なさそうにしている。拾ってくれた人と目が合った。 「これ…」 「取れてしまったんだ」 「付けてあげる。ほら、上着を脱いで」

曇りのち…

本当に人との出会いは気まぐれだ。天気のように晴れの日もあれば、にわか雨の時もある。今日は蒼い空が広がっている。こんな晴天は数日なかったこと。僕は、アスファルトを噛み締めながら歩みを進めた。 僕が出会った女性は、遠慮がちで控えめな性格の持ち主だった。セミロングの少し茶色掛かった髪を束ねて、目の前に座っている。視線を合わせるのが恥ずかしいのか、目を逸らす、そんな女性。決して僕の好みではないけれど、気になる存在感を醸し出していたのは事実だ。 どうして一緒にいるのかも分からない。

あの頃のふたり…【短編小説】

「遅刻だ!!」 僕は自転車に股がり、河川敷のサイクリングロードを猛スピードで走っている。 自主練として、近所のランニングを欠かさない僕は、早起きするのは得意だが、時としてやらかしてしまうこともある。 今日はそんな朝だった。 前日の練習がハードで、起きられなかったのだ。仕方ないと思ってるが、そうは言ってもちょっと厳しい。 河川敷の上流に向かって5キロ行ったところに僕の通う高校がある。体育系の部活が強い高校。 僕は陸上部に所属していて、長距離が専門だ。トラックを走った

「ひとってな…」

4月、お互い部署を異動した。 彼と一緒に取り組んでいた店舗から離れ、私は新天地の環境の変化に戸惑っていた。 そんな状態だと、彼と出会った半年間は、かけがえのないもののように感じている。 彼に合ったのは昨年、暑い夏が終わりかけた9月初旬。 猛威を振るう感染症の影響で、私の職場環境も様変わりした。 急遽、私が勤めていた店舗閉鎖の決定。一緒に取り組んできた仲間との別れ。ここまで私が仲間と築いてきたものが、一瞬で崩れ去った。 モチベーションも上がらず、私は、何をやっている