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災害研究者が新型コロナウィルス感染症について考えてみた(1)はじめに

「2020年、世界各国で新型感染症による死者が多発し社会が大きく混乱する。」

もし、令和は良い時代であって欲しいと素朴に願っていた頃にこの警鐘を聞いていたとしたらーー。それでも、いざ現実を目の当たりにすれば、いかに人間の想像力が乏しいものなのか思い知らされることになっただろう。

2020年の始まりと共にその名が知られるようになった新型コロナウィルスは、瞬く間に世界各国で存在感を発揮するようになった。ジョンズ・ホプキンス大学のThe Center for Systems Science and Engineering (CSSE) によれば、2020年1月23日には世界で800人に過ぎなかった感染者数は、その後急速に増加し、4月12日午前3時現在で1,733,792人、その死者数は106,469人にも上る。21世紀で最悪の自然災害の一つである2004年のスマトラ島沖地震による死者数が227,898人であることを考えれば、すでに同ウィルスによる死者数は大災害並であると言って良い。日本の感染者数と死者数はそれぞれ6,005人、99人と他国に比して低い水準にとどまっているものの、今後の予断を許さない。

日常生活も様変わりした。学校の卒業式や入学式、新学期の開始時期が変更となり、筆者の職場でも唐突にオンライン講義の準備が指示されることとなった。自治体の長からは口々に外出自粛が呼びかけられ、街で見かける人の姿はまばらになった。お気に入りの映画館やジムは営業自粛となり、行きつけの飲食店からは客足が遠のいた。日々を家で過ごすこと、マスクを付けて出かけること、今日の新たな感染者数が何人であるかを確認することが、新しい習慣になった。

こうした事態がいつまで続くのか、新型コロナウィルスがわれわれの生活にどのような影響を与えるのか、どれほど深刻な事態に直面しなければならないのか。時々刻々と変化していく世界を前に、現実を十分に理解することができていないような漠然とした不安を持つ人は、私を含めて、少なくないのではないか。

確かに、政府や自治体は毎日のように市民と対話の機会を持ち、今後の政策対応に関する発表を行っている。国内外の情勢や最新の状況は、数多くのメディアが日夜報道している。公衆衛生の専門家も含めて、今後の事態に関する予測や政策提言は引きも切らない。それでも、ひょっとして、今でも冒頭に書いた警鐘が意味する本当のところを、われわれは十分に理解できていないのではないかーー。

先が見えないとき、人の特質はその行動に出るのだと思う。

事態の推移を正確に予測し、求められる対策を的確に提案できるような知見を持ち合わせているわけではない。医療現場や行政の対策チームで働く数多くの優れた専門家や実務家が、毎朝、起きる度に感じるような不安や安堵を、日々、経験しているわけでもない。それでも、一人の災害研究者として、この時代を生きる一人の人間として、今起きていることに対して思考することを試みてみたい。


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