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ジャネールモネイのぶっ飛びセクシーMVもいいけれど、やっぱりフレンチチェックのオシャレなMVが懐かしい(オススメMV #148)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の148回目です。(連載のマガジンはこちら)

今回はジャネール・モネイの特集をお送りします。
前回はGAWDのキュートでセクシーなMVを紹介しましたが、「そういえばぶっ飛んだセクシーMVがあったな」と思い出し、同じアーティストがイケてるオシャレなMVも出しているので、その対比を楽しんでいただこう!と思い、今回の特集となった次第です。
しかし、特集を組むにあたりジャネール・モネイ自身や今回紹介する楽曲のことをあらためて調べてみたところ驚愕の事実が分かり、その踏み込んだ内容についても併せてお届けします。

まずは、そのイケてるオシャレなオススメMVをご覧ください。
ジャネール・モネイの「Q.U.E.E.N. feat. Erykah Badu」です。どうぞ!

YouTubeのサムネイルの画像だけでも、このMVの素晴らしさが分かるほど、映像美あふれる名作MVです。
もちろん楽曲もイイのですが、何より複数あるパターンそれぞれの映像構成が秀逸で、一度観たら忘れ得ないMVとなっています。

ジャネール・モネイ(Janelle Monáe)は、2003年から活動を開始しているUSのアーティストですが、活動内容は音楽だけにとどまらず多岐に渡っていおり、中でも俳優としての活動が私の中で印象深く、これについてはのちほど解説させていただきます。

この「Q.U.E.E.N.」は、2013年リリースの2ndアルバム「The Electric Lady」のリードシングルとして先行リリースされた楽曲で、MVは楽曲のリリース翌月に公開されています。
当時、ケーブルテレビの音楽チャンネルでこのMVと出会ったのですが、色を多用することで印象付けるのではなく、白と黒を基調にしつつデザインを工夫することで洗練さを損なわずにしっかり印象付けもおこなうという映像表現に驚いたことを思い出されます。

お気に入りのMVではあるものの丸々視聴することはほとんどありません。
というのも、なんと最初から52秒経過後に楽曲が始まるという「MVは楽曲のためにある」という私のMVの定義から大幅に外れたMVのため、冒頭50秒ほど飛ばして途中から見始めています。
また、最後の2分は楽曲も映像も変化がないため4分過ぎ(具体的には4分3秒、ジャネール・モネイが横を向いて「Ohh shake'til the break of dawn」と言う前)で止めてしまいます。
つまり、6分3秒のMVでありながらも、実際に視聴するのは3分11秒という約半分ぐらいという、普通であればオススメMVになりえない内容となっているのです。

しかし、この前後の無駄がありながらも、このMVが私の中ではお気に入りでありオススメのMVである理由は、その特筆すべき映像表現にあります。
それは、白と黒のチェック(大柄のチェックなのでフレンチチェックと言うようです)のワンピースを着た複数の女性が踊る映像で、一番インパクトがあるのは(上のYouTubeのサムネイルにもある)白と黒の横縞をバックに踊る場面ですが、白を背景に踊る場面や横縞ではなく白と黒の縦縞をバックに女性陣がたむろする場面など、変化をつけながら楽しませてくれる手腕には脱帽です。

と、ここまでMVの内容について書きましたが、今回連載を書くにあたりジャネール・モネイや紹介する楽曲およびMVについて調べたところ、私が全く想像しなかった深い意味があることを知ったのです。

まずは楽曲のタイトルである「Q.U.E.E.N.」ですが、てっきり女王という意味と思っていたところ、それに加えて5つの単語の頭文字をつなげたメッセージを持っていることが分かりました。
Queer:性的マイノリティの方々
Untouchables:貧困層の方々
Emigrants:移民の方々
Excommunicated:服役された方々
Negroid:すべての黒人の方々

そして、ジャネール・モネイについても調べたところ、今まで「???」と不思議に思っていた謎が解けることになったのです。

具体的な説明に入る前に、2つのオススメMVをご覧いただきます。
先ほどの「Q.U.E.E.N.」はオシャレなMVでしたが、続く2つのMVは際どいというか、ぶっ飛んだセクシーMVとなります。

では、最初のぶっ飛びセクシーMVはコチラ。
ジャネール・モネイの「Lipstick Lover」です。
※注意:性的に露骨な映像もありますので、視聴にはご注意を!

うーん、なかなか過激な映像で、正直戸惑うほどです。

際どい映像にモザイクを掛けたバージョンもあるのですが、多少モザイクを掛けたところで全体の表現には違いがないため、そのままご覧いただくほうが良いと判断し、オリジナルのほうのMVを紹介させてもらいました。

詳しい解説はあとに回すとして、続いてのぶっ飛びセクシーMVをご覧ください。
ジャネール・モネイの「Water Slide」です。
※注意:性的に若干過激な映像もありますので、視聴にはご注意を!

こちらのMVも、最初の「Lipstick Lover」に比べると全然マシですが、それでもなかなかに過激な映像であることには間違いありません。

さて、ここからMVの解説と、MVの背景にあるジャネール・モネイの想いについての考察を始めます。

この2つの楽曲は、昨年2023年にリリースされた最新の4thアルバム「The Age of Pleasure」に収録されていますが、「Lipstick Lover」は先行シングルカットされ同時にMVも公開されており、「Water Slide」はシングルカットはされていませんが、アルバムリリースの2ヶ月後にMVが公開されています。
最初にこの2つのMVを観たときの感想は、上にも書きましたが「うーん...」というか「絶句・・・」という感じで、初見のあとは視聴することが無く、今回の企画(新旧MVの比較)で久しぶりに観たというのが実際のトコロです。

しかし、楽曲は素晴らしく、この4thアルバムはジャネール・モネイの今までのアルバムの中で最もお気に入りで、リリース直後はSpotifyでヘビロテしていました。
特に、この2つの楽曲と2曲ある先行リリースのうち最初にシングルカットされた「Float」がメチャクチャお気に入りでした。(過去形ですが、今でももちろんお気に入りです)

「楽曲はメチャクチャいいのに、なぜこんな過激な映像のMVにしたんだろう。もったいない...」と思っていたのですが、今回ジャネール・モネイのことを調べて、なんとなーく理由が分かったような気がするのです。
ジャネール・モネイは、2013年のLGBTQへの支援の表明を皮切りに、自身が全性愛と呼ばれるパンセクシャルであり、更にはノンバイナリーであると公表しています。
そして、初期のEP「The Audition」から1st~3rdアルバムに至る壮大なコンセプト「Metropolis」の中にこそモネイの源流を見て取れます。
「Metropolis構想」はフリッツ・ラングの同名映画からインスピレーションを得ており、2719年のメトロポリスに住むモネイ(本人)から遺伝子操作で作られた「シンディ」というアンドロイドの物語になります。
この「シンディ」がマイノリティの象徴として描かれており、マイノリティの開放がすべてのテーマになっているように思えます。

そして、ここからが重要です。
上の2つのMVの楽曲が収録されている4thアルバム「The Age of Pleasure」は、モネイの過去のアルバムのベースとなる「Metropolis構想」から脱却し、主人公はアンドロイドの「シンディ」ではなく、モネイ自身が主人公と言うかモネイ自身の言葉で表現されているのです。
もちろん、今までのアルバムや楽曲も素晴らしく、MVとしては特に一番最初に紹介した「Q.U.E.E.N.」は(尺が少し長すぎるものの)名作とも呼べるMVとなっており、壮大な構想は得てして独りよがりでまとまりのない作品を生むことが多い中、「Metropolis構想」とそれに含まれるモネイがリスペクトしている様々な要素(フィリップ・K・ディックの「電気羊」など多数あり)がギリギリの線でまとまった世界観を構築していることは確実です。
しかし、その「Metropolis構想」が逆に足かせになり、現実感のない世界観になってしまうこともまた事実です。

そして、モネイはこの4thアルバムでその殻を打ち破り、シンディでななくモネイ自身として歌い、表現することに成功しています。
その結果が、パンセクシャルとしてすべての人を愛し、またすべての人はその性的嗜好のままに愛することを表現した映像となり、表現は過激ではあるもののモネイ自身をさらけ出し、モネイのメッセージを直接伝えた映像が、「Lipstick Lover」および「Water Slide」のMVとなるのです。

それを踏まえたうえで「Lipstick Lover」と「Water Slide」のMVを観ると、(もちろん表現は過激ではありますが)不思議と嫌悪感がなく、素直に映像と楽曲を受け入れることができ、その結果、「なんて楽曲と映像がマッチした、素晴らしいMVなんだ!」と感激したのが、つい最近のことです。
この企画が無ければ、「Lipstick Lover」と「Water Slide」のMVの本来の価値を認識することができなかったため、この連載をしていてよかったと切に思う次第です。

そろそろ締めに入ろうと思いますが、最後に1つ。
上のほうでモネイは俳優としての活動もしていると書きましたが、今まで複数の映画に出演しており、その中でも特筆すべきは2016年公開(日本では2017年公開)の「Hidden Figures」(邦題:ドリーム)です。
「Hidden Figures」はNASAに勤務する3人の黒人女性を描いた映画で、マーキュリー計画を進める過程で、黒人女性に対する差別と偏見を浮き彫りにし、最終的にそれを乗り越えて成功に導く物語なのですが、その映画にモネイが3人の黒人女性のひとりとして出演しているのです。(スゴイ!)

コロナ前の当時、年間100本前後の映画を鑑賞していたのですが、鑑賞したすべての映画に対してコメントを書いて評点もつけており、毎年勝手に「吉田アワード」と命名し1位から10位まで点数をつけて並べていました。(今は残念ながら年間20本~30本程度しか鑑賞していません...)
そして、2017年の栄えある1位が、この「Hidden Figures」なのです。(ちなみに、2位は「Manchester by the Sea」、3位は「Blade Runner 2049」となります)

そして最後に、4thアルバムで自身をさらけ出したモネイに敬意を表し、「Hidden Figures」の鑑賞後に記録した私のコメントを、少し恥ずかしいですが転記させていただきます。
SNSで自身の考えを投稿することは、恥ずかしいという面と、何かあったら叩かれるのではないかと言うリスクで、なかなか投稿できない人も多いと思いますが、実は私もそのひとりです。
しかし、今回勇気を出してさらけ出してみようと思います。

映画「ドリーム」の鑑賞コメント(記載は2017年10月15日)
余り期待していなかったが、最高だった。
リバイバル上映を除けば、確実の今年1番。差別問題と米ソの問題、夫婦間の問題、そして色々な角度で夢に向かって進む人々をうまく描いている。
ここまで色々な要素を盛り込みながら、バランスよく、かつテンポよく、かつ映像もきれいで、そして音楽も際立っていて、こんな映画、なかなかない。今まで、いい映画は何かを捨てて、何かに集中させることが、いい映画作りの秘訣と思っていたが、それは間違いと気づかされた。もちろん、「大作」と呼ばれるような映画は別格だが、そもそも「別格」という考えもおかしいわけで、この映画には色々気づかされた。
まず、差別問題。何事も目的達成が一番であり、そのためには人種や性別、年齢や趣味嗜好、もちろん宗教も関係ないというのを再認識した。
この映画を見て「オレは絶対に人種や性別、年齢や趣味嗜好、宗教やそれ以外の様々な要素で判断せず、『やるかどうか』で判断すると誓う!」と宣言する。
ちなみに、「やれるかどうか」ではない。結果はだれにも分からない。結果ではなく「やるかどうか」が重要。もちろん、人それぞれに持っている資質や、正直生まれ持っている能力も違う。育った環境で大きく変わるので、その個人が自己認識した段階で差がついていることも事実だ。しかし、それが全てではない。それ以降の本人がどう意識して何をやったか、が重要だ。
現実として上に立って指示する人間もいれば、指示される人間もいる。しかし、全ての人間がいなければ社会は成り立たない。人でいえば、脳だけあっても人ではない。腕も、足も、おなかも胸も背中も肩も首も、全てがあって人なんだ。どこが重要でどこが不要、ということはない。誤解しないでもらいたい。ハンデのある人もいる、腕が無かったり足が無かったり。それを言っているのではない。
要は、せっかく生まれて命をもらった限りは、何かしらの役割が合って、というか、何かしらの役割があると信じて自分で取り組むことが幸せじゃないのか...と思わせる映画だった。
本当にこの映画を見てよかった。そして、本当に宣言する。私は、人種や性別、年齢や趣味嗜好、宗教やそれ以外の様々な要素で判断せず、「やるかどうか」で判断すると誓う! そして、私と何かしら接点のある人には、「真剣に取り組むことの幸せ」を感じてもらうように、精一杯努力することを誓う!

さて、今回のジャネール・モネイの特集はいかがでしたでしょうか。
ぜひモネイ自身の考えを踏まえてMVをご覧いただければ、より一層楽しんでいただけると思います。
また、映画「Hidden Figures」(邦題:ドリーム)も超絶オススメの映画ですので、未見の方はぜひご覧ください。

ではまた次回に。

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