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MVプロモーションの先駆者、ヒューマンリーグの全く違ったアプローチで極めたMVを2本お届け(オススメMV #38)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の35回目です。(連載のマガジンはこちら)

今回は特定アーティストの特集です。
そのアーティストは「ヒューマン・リーグ」。

では、そのヒューマン・リーグがブレイクするきっかけとなったMV史に残るMVを紹介しましょう。
ヒューマンリーグの「Don't You Want Me」です。

映画のようなMVです。
しかし、映画ではなくしっかりMVとして認識できるのがいいですね。
凝った映像に比べて楽曲がシンプルなので、映像に集中できつつ楽曲の印象付けもしっかりできるのが素晴らしいところです。

MVを活用した楽曲のプロモーションは今やあたりまえですが、MVのプロモーション効果を最初に実証したのがこの「Don't You Want Me」といわれています。
「Don't You Want Me」はヒューマンリーグの3rdアルバム「Dare!」からのシングルカットですが、全英・全米の両方で1位になりました。
しかし、全英1位は1981年で全米1位は翌1982年7月とブランクがあります。
このタイムラグは何か?
実はそのタイミングでMTVで放映され、それを機に全米でビックヒットとなり、なんと3週間も1位をキープしたのです。
その後、デュラン・デュランなどMVを前面に押し出したプロモーションでヒットを量産するアーティストがチャートを席捲していきます。

いいMVだったので結果的にヒットしたのではなく、最初からMVによるプロモーション効果を狙ってMVを制作しそしてその目論見通りビックヒットとなった...という点がこのMVの画期的なところです。
ヒューマン・リーグが所属するレコード会社ヴァージン(Virgin)が映画監督のスティーブ・バロン(Steve Barron)にオファーし、出来上がったのがこの歴史的MVです。

スティーブ・バロンは、この「Don't You Want Me」のMVで評価を得、続々と良質のMVを世に送り出します。
a-haの「Take On Me」もそのひとつで、ヴァージンがスティーブ・バロンに「Don't You Want Me」のMV制作をオファーしなければ、歴史的名作MV「Take On Me」も存在しなかったかもしれません。

その背景を把握したうえでこの「Don't You Want Me」のMVを見ると、また違った見方ができます。
映画のように見えたのは、まさしく映画監督が映画の手法を取り入れてこのMVを制作したからにほかありません。
しかし映画あるいは映像作品としてではなく、何の疑いもなくMVであると認識できるところがこのMVのスゴイ点です。

映像展開の構成も素晴らしいのですが、このMVについて語るとキリがないので、次のMVに移りましょう。

3rdアルバム「Dare!」は全英1位・全米3位に入ったものの続く4thアルバム「Hysteria」は全英こそ3位に入りましたが、市場規模の大きい全米で62位と惨敗してしまいます。
そこで、レコード会社ヴァージンはてこ入れを図ります。
当時頭角を現しつつあったジャム&ルイス(Jam & Lewis)にプロデュースを依頼し、5thアルバム「Crash」をリリースします。
そして狙い通りアルバム「Crash」は、全英7位、全米24位と返り咲きます。

その「Crash」からのシングルカットが、2つめのMVです。
ヒューマン・リーグの「Human」です。

不思議なMVですよね。
インパクトのない映像に押しの弱い楽曲の組み合わせですが、不思議と映像も楽曲も印象に残るのはこのMVが素晴らしい証です。
それを証明するかのように何度も繰り返し観てしまいます。

ヴァージンはアルバム制作だけでなく、MV制作でもてこ入れを図ります。
この「Human」は、当時ワム!やペット・ショップ・ボーイズのMVで評価を受けていた映像作家のアンディ・モラハン(Andy Morahan)にMV制作を依頼します。
そしてそのアプローチは奏功し、「Human」は全米1位となります。

ヒューマン・リーグで全米1位になった楽曲は「Don't You Want Me」と「Human」の2曲のみで、その両方ともがMVによるプロモーションの結果というのは、まさしくMVで勝ち取ったスターの座です。

そういえばヒューマン・リーグの紹介をしていなかったですね。
ヒューマン・リーグ(The Human League)は1979年にデビューしたイギリスのバンドですが、最初のメンバー4人のうち音楽経験のある2人がすぐに脱退し、残された音楽経験がない2人が取った行動がスゴイ!
何がすごいかと言うと、ボーカル兼キーボードのフィリップ・オーキー(Philip Oakey)がクラブで踊っていた女の子2人(しかも未成年!)に声をかけ、メンバーにしてツアーに連れて行ってしまいます。
しかも、フィリップ・オーキーは元々病院勤めで音楽経験がなく、その時には指一本でしかキーボードを弾けない状況だったとか...
そのため、プロのミュージシャンを雇ってようやくバンドの体裁を整えた...という状況の中で、全米ヒットとなった「Don't You Want Me」が生まれたというのは、ウソのようなホントの話です。

と、ここまで話を聞いた上で、再度「Don't You Want Me」のMVを観てみてください。
ボーカルの女性が「そこらへんのカラオケのうまい女子よりヘタだ...」という事実に気が付くでしょう。(当たり前ですよね...)
でもいいんです、それでも。
楽曲もビジュアルもヒューマン・リーグだからこそ、「Don't You Want Me」のMVが成立しているのです。

さて、今回の2つのMVはいかがでしたでしょうか?
MVでスターの座を勝ち取ったヒューマン・リーグ(しかも、メンバーが逆の意味でスゴイ!)の秀逸MVをお届けしました。

才能が無いから、経験が無いから...と引け目に感じたり、行動を抑える必要はありません。
音楽経験が無い病院勤めの男性とクラブで踊っていた女の子で全米1位に、しかも2回もなったアーティストがいるんですから。

ではまた次回に。

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