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おっさんの湯渡り3(芦原温泉編)

1 ぶらり鈍行旅


ゆったりと鈍行に揺られ、一路北へ。
本日は特急なしで日帰り弾丸ツアーである。
早朝だけあって乗客は少ない…なんてことはない。京阪神のベッドタウン滋賀にあって、反対方向にある米原長浜方面であっても通学通勤は隆盛である。

しかも、JRまで整備されているは良いものの、駅から主要施設までのアクセスはそこまで良く無いため、人の少ない早い時間帯に出発しよう、というアイデアが万人に発生し、結果として数少ないローカル線やバスに殺到するという悲惨な事態が起こってしまう。だもんで、この辺りの米原方面の利用者は、基本的に早くからもそこそこ人が乗っている。そうして、彦根を超えたあたりから初めて「ああ、田舎路線だなぁ」と言えるくらいに席が空き始める。

そうして列車に揺られ、敦賀と福井で乗り継ぎを経て、芦原温泉駅に到着である。
割と早めの9時に着いたとは言え、こうした駅の周辺はだいたいオシャレな店があって、そこでコーヒーが飲めると相場が決まってる。観光地は、だいたいそうした喫茶店なりがあったりするのだ。
ただ、心配なのがこのJR芦原温泉駅は、本来の温泉街からはそこそこ離れていることにある。つまり、本来の観光地ではないと言うこと…それでも地元の人が使う店くらいあるだろう。甘い考えなのかも知れないが、最悪自販機でコーヒーでも構わない。

本来は、あわら湯の町駅というのがえちぜん鉄道三国芦原線にあって、そちらが温泉街への主要アクセス駅になっている。
ただ、乗り換えや速さを考えた場合、芦原温泉駅で良いんじゃね?となった。どうもバス路線も伸びてるみたいだし。
と、ここで情報収集のために駅の観光案内所へ向かう。インターネットで何でも調べられる時代ではあるが、何事も現地で聞くのが一番いい。思わぬ収穫というのはそうして得られる。果たして、親切な受付のおばちゃんから「バスでそっち方面行くなら、一日乗り放題の券があるよ。往復で元取れるよ」と言われた。
これはお得なモノを得た。しかも、各種施設の割引券まで付いている。目的地の人には全員話しかけた方がいいというのは古いRPGのお決まりと言って良い攻略法だが、まさか現代日本の現実でも成立するとは。しかも割とお得な奴。
さて、そんな券と地図を手に入れて、改めて計画を練り直すことにする。何せ数千円が浮く事になるのだ、これはバスが来るまで出来る限り詰めた方が良い。
幸いな事に、朝からやってるカフェがバス停近くにあったので、そこでアイスコーヒーを飲みつつ旅程整理をした。
なに、バスは1時間に一本だから、来るまで相当余裕がある。そんなんだから落ち着いて計画の練り直しが出来るのだ。

そうして、現地で改めてスケジュールを練り直し、バス停に向かったのである。

2 呪の場所、だけではない魅力

さて、今回の観光ルートは、東尋坊へ行き、そこで柱状節理を堪能してから、温泉にぬくぬく浸かって、そうしてのんびり帰ろうという算段だ。日帰り弾丸旅行である。
芦原温泉は東尋坊と近いのだ。見ない手は無い。

古くは坊さんが野盗に襲われ殺されたことで名付けられ、現代は身投げの場、はたまた火曜サスペンス劇場のラストシーンと言われてしまう不名誉な東尋坊だが、地学マニアにとってはそれ以上に「柱状節理」の名所として有名なのだ。
柱状節理の有名な所と言えば、以前に訪れた城崎温泉近くにある玄武洞もそう(玄武岩の名付けにもなっている)だが、間近で見られるダイナミックな柱状節理と言えば東尋坊が随一だろう。

柱が折り重なったような構造である

切り立った崖からこうやって眺めるだけでも、よく分かる。これらの構造は、溶岩が冷え固まる過程で対流が起こり、冷え固まる過程で対流毎に分離して、こうした柱のような構造になるわけだ。
こうした場所は火山活動が活発な所であった、というのがよくわかる。
さて、ここからは海に出て柱状節理を見てみよう。ここ東尋坊では実に豊かなパターンを見ることが出来るのだ。

波のような形状
逆さまの柱
巨大な柱
堆積層と侵食がよくわかる

海から見ると、東尋坊にはコレだけ様々な顔があるわけだ。東尋坊でこうしたモノを観察したい場合、遊覧船は超オススメである。

波が穏やかな日ならば、ここまで近い

船頭さん次第だが、こうやって崖に寄ってくれたりもする。真下から崖を望めるわけだ。

30分間、愉快なアナウンスと共にぷかぷか揺られる遊覧船、割引なしで大人1800円、子供900円である。
是非ともここにきたら体験していただきたい。面白おかしく、しかし分かりやすい解説までついてくる。
「あちら、頻繁に芸能人が打ち上がる岩場として有名でございまして…」
と、一般人からしたらもう擦られすぎて動じない「火曜サスペンス劇場」のくだりを、そんな斬新な切り口で入れ込む喋り上手な方がいらっしゃるので、是非楽しんで貰いたい。

3 優雅な海岸線

さて、こうした東尋坊の観光だが、弁の悪い僻地にあっても、多くの若い子が、カフェに集っている光景が見られた。

岩場、と来たか

砂場ならぬ岩場。スターでも無いよ。
入らなかったけど、割と興味津々だった。朝早いというのに客も多い。

平日朝なのに結構人がいる

土産街には平日朝だと言うのに、結構な人手が集まっている。
遊覧船から降りたら、ハーレーのイベントもやっており、バイカーの人たちもわらわらと。
やはり観光地、侮れない。
滋賀作根性で早く来てもこれだ。

写真をバシャバシャと撮りまくり、SDカードを無駄に消費しながら、ついに昼である。
バスに再度揺られ、今度はあわら湯の街駅前へ。こちらが芦原温泉の観光宿泊の中心地だ。
駅前から少し歩き、洋食屋へ。そこでオムライスを注文した。

シンプル、だから美味い

しっかり卵に包まれた王道タイプ。スタンダードだから良い。余計なモノは要らないと語りかけてくる。
味も美味い。具沢山のチキンライスの食感が楽しい。当たりである。
この店、ネットの評判を見ても、結構良い。こういうところの店だと変なバイアスがかからないからか、評判そのままと言うか、真っ当と言うべきか。
気配りも効いていて、居心地がいい。つい長居したくなる店だった。

さて、最後はお楽しみの温泉である。
流石に宿の湯に行く甲斐性はないが、幸い芦原温泉にはスーパー銭湯がある。実は東尋坊の方にも露天風呂があったのだが、時間的に合わず断念した。またいつか行きたいが、今日のところはここで満足しようじゃないか。

ここへ来たら何を欲しているか、何を探しているかが一目で分かる、良デザイン。
俺たちの温泉はこれからだ!

湯船は非常に広い。深さと温度でおおまかに4区画に分かれている。
先ずは身体を洗い清め、いそいそと湯船へ。ぬるめでゆっくり温まる。
意外と歩いていたので、否が応でも足腰に効く。堪えられずに声が漏れる。たまらん。

街の人が大半だろうか。オフシーズンな上に真昼間だ。東尋坊に張り付く人はいても、わざわざここに来る人は少ないのかも知れない。
サウナで汗をかき、水風呂に浸かっていると、地元の人と思しきお爺さんに「ニイちゃん、東京?」と話しかけられた。
滋賀からッスねー、と応じて談笑していたら、やはりここはオフシーズンは地元の人が多いそうな。割引券が無いと確かに割高だしなぁ。
ここの水風呂ぬるくない?と漏らしているほど、ハードな温度差が好きな爺様だった。長生きしてほしい。

そんなこんなで露天風呂とチェアーを行き来していたら、すっかり夕方になってしまった。バスの時間も近い。
泊まりじゃないと、ここまで切羽詰まるか。やはりしっかり泊まるのが吉か。
芝政や加賀も近いし、そちらでも良かったかも知れん。とはいえ、東尋坊行きたかったからなぁ…などと心の中で愚痴りつつ、帰りのバスに乗る。

すっかりほぐれて、ウトウトしながら帰途につく。危うく寝かけて、乗り継ぎ忘れて悲惨な事になるのだけは避けられた。
電車の日帰り温泉は危険である。皆様はくれぐれも、泊まるようオススメしておく。

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