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おっさんの湯渡り2(糸魚川温泉編)

1 フォッサマグナを見に行こう

湯に浸かるという行為が至福に感じられる民族で良かったなぁ、としみじみ思う。
ところがどっこい、最近は事情も変わって来ていて、外国人もフツーに温泉施設を堪能している。
実際、前回の「湯渡り」で記事にした城崎温泉でもそうだった。宿の主人が「ウチは英語できひんから、外国人さんは泊めへんねん」と言うくらいには、そうした辺境の温泉にだって外国人は来ている。
なんなら、あの旅行中だって何人も見た。いわゆる閑散期だったにも関わらず、だ。

城崎は海産物も多い。兵庫だけあって牛もあるから、交通アクセスが限定されている事を除けば、中心街に温泉を集中させている都合上、観光にはもってこいなのだ。
つまり、閑散期と言えど観光客はそれなりにいる。

対して僕は基本的に、人出を嫌う。
人のいない温泉にゆっくり浸かりたい、というのが希望なのだ。
そりゃ有馬や草津みたいな名湯だって行きたいが、やはり人出がネックなのだ。城崎でもやや不満に思うくらいには。
じゃあどうするか?
「人のいない時期に、交通の弁の悪いところで堪能すれば良いじゃない」
心のマリーアントワネットに従う事にした。

と、言うわけで今回は糸魚川温泉だ。
僕のホームタウンは関西だが、今回の糸魚川は新潟である。
エラく遠いところに行くね?と言われそうだが、実はそうでもない。京都から3時間程度で着くのだ。
サンダーバードで金沢まで出たら、そこから北陸新幹線に乗り換えるだけで、あっと言う間に着いてしまう。色々盲点だろうが、実は関西と東北は近かった。

さて、糸魚川ってなんかあんの?
温泉って言うからには、温泉があるんだろうけど?
と、言う方に説明しよう。
今回に限っては、温泉はおまけとも言える。糸魚川には、僕が好きな観光地が存在するのだ。

フォッサマグナ(大地溝帯)である。

フォッサマグナミュージアム、と言うと「桃鉄で見たことあるアレか!」となる人もいるのではないだろうか。
糸魚川静岡構造線、と聞くとこれまたピンとくる人もいるかもしれない。
日本は地震や火山が多いが、コレにはプレートという地球の構造上の特性から来ている。ざっくり言うと、流動するマグマの上に、地球上の表面を覆う硬いプレートが乗っている。このプレートがぶつかり合う箇所が、日本周辺にはやたらと多いのだ。
そうすると、ぶつかるところで地面の隆起や沈み込みが起こったり、マグマが地表に出るところが出来たり、ぶつかった反動で揺れたりもする。コイツが、火山活動や地震という現象に結びつくわけだ。
で、このフォッサマグナというのは、日本の国土で観察できるプレートの境目、と言うわけだ。(超ざっくりなので、ちゃんと勉強したい方は専門書や地学教科書を調べてくれ)

要は、日本の地理地学的に重要な場所なのだ。
高校や、下手すると中学時点で勉強している人もいるだろう。え、いない?そんな試験の点数にもならん科目真面目にやらない?うるせー、俺は真面目にやって全国模試で科目別で地学全国2位取ったことあんだよ。点数にすりゃ勝ちやねん。
なお、大学受験では生物の方が点数高かったです(台無し)。

2 早朝弾丸列車編

閑話休題。
今回の旅行は、平日ど真ん中から行く計画だった。
つまり、まず人出の時点で勝ち確だ。
そして、まだ夏休み前である。
いたとしても、大した人数ではない。

大勝利が約束され…ているわけではないのが、辛いところだ。
閑散期というのは、つまり観光地にとっての休息期。そもそも観光客を多く受け入れられる体制ではない。
つまり、人出に関わらず予約は必須だし、なんなら繁忙期より宿の確保が厳しいこともある。

いきなり現場に赴いて泊まれるほど、今の観光地に余裕はない。
実際、今回は糸魚川市内で小さな民宿を幾つか見たが、ほとんど「売物件」の文字が掲げられているという悲しい現状がある。
コロナの爪痕と言って良いだろうか。
「がんばろう糸魚川」の文字が駅に掲げられていた。近年でも土砂被害が大きかった。そうした泣きっ面に蜂という状況なのだ。

さて、そんな場所に向かうのが、早朝のサンダーバード始発だ。
早朝といっても6時台だから、メチャクチャ早いわけではない。実際通勤ラッシュが始まるか始まらないか、という頃合いなので、駅には人がしっかり行き交っていた。
そして、事前に予約していた車両番号の場所で電車を待つ。
サンダーバードは京都駅0番線ホームから出る。ゼロバンセン、と声に出すと不思議とワクワクする。サンダーバードの指定席は前よりのため、普段人が居ない、山陰線のある30番台ホームと逆に向かう事になるのもワクワクポイントが高い。
コンビニは開いているが、駅弁売り場は開いていないと言う、絶妙な時間帯のため、朝飯確保のために一旦京都駅のホームを出る。
中央口のセブンイレブンは、普段からよく使う。店内が狭い割に、観光客向けにレジが3つ以上並ぶような店だ。
通勤ラッシュ手前でもしっかり人は多い。なるほど、通勤時間帯に見て「品数すくねぇな」と思ってたが、開店したてだと山盛りだ。
それだけの人数を、ここから一時間で捌くわけだ。凄いな。

で、簡単なメシと飲み物を確保し、サンダーバードの乗り込み口に向かう。
程なくして電車がやってくる。
サンダーバードは人生二度目だが、特急旅は本当に楽しみだ。

琵琶湖周りの西側、湖西線を通り、敦賀に出る。そこから福井を経由して金沢へ。このどれもが在来線沿いと言うのがまた楽しい。
滋賀の湖西線はもちろん、敦賀周りから北は電車の本数が激減する。単線運用の区間もあるため、いくら本数の少ない路線といえど、こうした特急が特急たらしめる速さを誇るのも、練られたダイヤの為せる業というわけだ。

飯を食って揺られつつ、敦賀あたりでボンヤリ景色を眺めていたら、寝落ちてしまっていた。
実にらしくないのだが、遠足前に寝付けない症候群にかかってしまい、あまり寝られていなかった。
40も超えたオッサンがこれなんだから、子供が患うのも無理からぬ話。

金沢で北陸新幹線に乗り換え。なんか、ホームドアからホーム端までの距離が長く取られていて、絶対に電車に近づかせないって気概を感じる。
京都とか、ホームは広いけど電車とホームドアの距離に全然余裕ないもん。利用者数が違うからだろうか?

しかし、新幹線は本当に速い。
金沢から糸魚川までがあっという間過ぎる。切符に書いてある時刻で、すぐに着くことは分かっていたが、一時間とかからない。
あと、新幹線車内が異様に広い。シート間?シートピッチ?とでも言うのだろうか。随分余裕がある。
周りに誰も座っていないので、行儀悪くシート全倒しなんて余裕で出来たり。
あまりに暇で、席に付属していた観光誌を読んでみる。折よく糸魚川特集が組まれているじゃないか。
しかし、書かれている内容に眉を顰める。
「河原で拾える石」…?
いやいや、河川で拾っちゃダメでしょうに、と心の中でツッコミを入れる。
糸魚川の河川は天然記念物だ。ガッツリ色んなモノに抵触する。
そもそも、石の観察ならまだしも、ヒスイが取れる所でそんな事やったらトラブルを招くのでは…?
などと疑問に思っていたら、もう糸魚川に着いてしまった。
何かモヤモヤする。良いのかJR。糸魚川の観光案内では海岸で拾えって書いていたはずだが。

3 虫と獣の近い道

糸魚川に着き、先ずはローカル線「大糸線」の切符を買う。
空手でフォッサマグナのジオパークへ行くには、これが最適のルートになる。フォッサマグナミュージアムと、フォッサマグナのジオパークは別物なので、この辺りは注意しておいた方がいい。
車でもあればいいが、レンタカーを借りる気は無いし、そもそも足と電車で楽しむと決めている。
大糸線のホームへ降りると、もはや「編成」という語を当てて良いのか疑問になる一両編成の車両が待っていた。
しかもワンマン!架線も無い。これはディーゼルか。確かにエンジン音が煩い。

一両編成同士すれ違いの光景

まさにローカルといった風情の電車だが、それでも僕以外に利用者が結構いる。
地元の人だろうか?病院とか買い物なんだろうか。僕みたいな余所者みたいな人はほぼいない。

人よりも虫が優先される駅

根知駅到着。
一日の平均利用者が一桁という駅だ。当然改札などなく、車内で車掌さんに切符を渡して降りる。
駅舎内には蜘蛛の巣が大量で、アブだかハチだかがブンブン音を立てていた。
これ、駅舎にとどまってたら何かされそうだな、と思わせるくらいに警戒されている。さっさと通り抜け、ジオパークへ向かう。

途中は民家なんかもあるんだけど、ことごとく雪国だなぁと思わせる作りが見受けられる。
まず道路の真ん中に温水の吹出し口があるし、消火栓は縦に長いし、信号は縦向きだし…

これは目立つ

ちょっと歩くだけで楽しい。気候が変わればこうも細部が異なるか。
そして、人里を離れて国道を少し行く。橋を渡れば、すぐに案内が出ていた。

だいだんそう

ここいらは車やバイクで来るのがスタンダードで、この北側に駐車場が設備されている。
僕みたいな酔狂でもない限り、そっちの方がオススメだ。
ここから丘を500mほど行けと指示があるので、従って歩いていくと、かのフォッサマグナが見えてくるわけだ。

圧巻である

プレートの境界とされる線が、これほどまでにハッキリ見えるのか…と思わされる。
ブラタモリでタモリさんが立っていたのもここだ。

色の違いが見て取れる

斜面から溢れてくる水や、打ち込まれまくっているパイプを見るに、やはりこの辺りの水捌けは良過ぎるのだろう。
観光地としてこうやって見られるのは、かなり手間だと思う。
間近で見られるという経験が出来るのも、そうした苦労や工夫ならではだ。

上下赤のマーカー間で線が見える

自分の目で見て学べるという経験はやはり良い。穴が開くほど見てやろうじゃないかと見まくった。
ここからさらに歩いて行ったら、枕状溶岩も見られる。

かつて水の底にあったもの

枕状溶岩とは、玄武岩質の溶岩が、海底などで噴き出して、急速に冷却されて出来るものだ。
そういう知識があると、色々想像も膨らんで一層面白い。

岩を見て何が楽しいねん、と言われたら「興味があるから」としか言えない。
そうした場所における様々な現象が、この土地の生活の基礎を作る。例えば、あちこちでメタンガスが噴出していたり、日本でも有数の石油が産出する土地になったり、トンネルを掘ったら「埋め戻される」くらいに山が膨張したり…こうした珍しい土地柄が、幾つかこの構造に起因するであろうことは想像に難く無い。

そうした地学的興味を満喫しながらも、また別の心配事が過ぎる。

何某かの足跡

ちょくちょく見かけるんだよなぁ…
野生動物に詳しいわけではない。だが、猪は生活環境の身近にいるので「これは猪じゃないな…」とは分かる。
猪の場合、小便とかの汚物が据えたような獣臭がするので、足跡が無くともソレとわかるくらいだ。
で、これはどうなの?と言われると、蹄の形が違うので猪ではない。当然獣臭もなかった。
兎か…?と思いつつ、前足に当たる部分が崩れていてイマイチ言い切れない。
ナゾである。わかった方がいれば教えてほしい。

たっぷり歩いて元の駐車場まで戻る。さてどうするか。
ここからフォッサマグナミュージアムまで徒歩というのはかなりキツイ。何より時間が足りない。じっくり見たいから、アクセスの良い方法を取らねば…と思うが、なんと根知駅の時刻表がローカル線特有のウン時間に一本というレベルの運行状況のため、「待つか歩くか」が時間的どんぐりの背比べになるぐらいの話だ。
あと、ジオパークをじっくり見すぎたため、電車が数分前に行ってしまっていたというのもある。

タイムイズマネー、となればここで投資すべきと考えねばなるまい。
糸魚川にだってタクシーはある。観光用のタクシー貸切みたいなコトだってやっているのだ。ならば、ここで使うのも一興だろう。
…なにより、人の話をじっくり聴く機会にもなるのだから。

4 現代翡翠、四方山話

実際にタクシーを呼んでみたら、30分ほどで来た。そこからフォッサマグナミュージアムまで、というのは事前に電話で伝えていたため、スムーズに向かう。

運転手は案の定地元のおっちゃん。これ幸いと、聞き込み開始。するともう、おっちゃん大喜びで色々と語ってくれた。
主題は、小見出しの通りである。

新幹線内のパンフで見た通り、糸魚川周辺の河川における翡翠は天然記念物であり、採取出来ない。
では、糸魚川の翡翠はどのようにして取れ、市場に出回るのか。
それは、海岸で取るのだ。
川にある石は、上流にあたる山側では大きくゴロゴロしたモノが多く、下流側では細かく砂状になり、大きくてもいわゆる「石ころ」程度の大きさにしかならない。これは多くの人が学校で習うことだと思う。
ここの糸魚川では、翡翠の原石がある谷から約10kmを流れて海にたどり着くのだが、この間、砕けた翡翠は川の流れに削られ、石ころのようにして海に投げ出される。
それが波に揺られ、浜に打ち上げられ…そして、浜辺で翡翠を探し回る人が拾い上げるわけだ。

親不知の海岸。翡翠探しの人がチラホラ。

翡翠探しは糸魚川の一大観光産業になっており、「ヒスイ探しツアー」なるものがあったり、またこれから向かうフォッサマグナミュージアムでは、定期的に拾った石が翡翠かどうかを鑑定もしてくれるサービスをしているそうな(要予約)。

翡翠って鑑定してもらわなきゃわかんないの?という方もいるだろう。
石マニアなら知っているだろうが、実は「ヒスイ輝石」はそもそも緑色ではない。
基本的に白色であり、そこに混ざるモノで、色合いは微妙に変化する。

糸魚川駅舎近くにある土産屋の青色翡翠原石

こうなってくると「白色の石って、結構あるじゃん…?」となってくる。
河原で遊んでいた経験がある方なら、こうした滑らかな光沢のある石を、そうした折に見た覚えがあるという方がいるかもしれない。

そう、そもそも河川に転がる石には、パッと聞き「え、そんなモノが落っこちてんの?」となるようなモノがある。
代表的なのが、石英。これの透明なモノを、我々は水晶と呼ぶ。
大雑把に言って、火山が多い日本国において、砂の中には石英がかなりの割合で混ざっている。wikiなんかを眺めてもわかるが、「地殻を作る一般的な鉱物」なんて言われていたりするのだ。
これの大きい塊があったりすると、テンションが上がる。
石英があるなら、そこにはメノウなんかも可能性がある。石英の主成分の配列が変われば、オパールになるから、当然それも。
火山があって石英があるところには、金もある。流石に量も少なく見つけにくいが。
火山と言えば、火山岩っていうのを地学で習った方もいるだろう。その成分の中に「かんらん石」があったと思う。石英を無色鉱物、かんらん石を有色鉱物、と覚えた人もいるのでは?
このかんらん石、綺麗なモノは「ペリドット」という宝石になる。
緑色の透明なソレ、例えは悪いが、舐めかけの龍角散のど飴みたいな色合いなのだが、そういう例えを聞かなければかなり綺麗な石だ。
所が変われば、実はガーネットが取れる川なんてのもあったりする。「川で宝石が?」と思うだろうが、これは石マニアには有名な話。

フォッサマグナミュージアムにて

こうした貴重な石がある、ということで河原石拾いをしようとする人もいるだろうが、基本的に数が少なくて見つけにくかったり、貴重なモノは大抵保護されていたりで、昨今流行りの「濡れ手に粟」みたいなお金儲けには絶望的に向いていない。
マニアの観察程度にとどめるのが吉である。

突如長々と何故こんな話を?というのは、この辺りにまつわる四方山話をしたからである。
実は、良質な翡翠がまとまって取れるのは、日本ではここ糸魚川が唯一と言っていい。だのに、近年まで「日本では翡翠は産出しない」と言われていた歴史がある。
フォッサマグナがあり、有名な文化遺跡もあって…となれば、当然学術者が出入りする。
フォッサマグナの名付け親である「ナウマン博士」はもちろん、その後にも様々な研究者が入り、調査・研究がされた。
その過程で、当然「学者がヒスイ輝石を発見」する流れがあってよかったはずなのに?
そんな疑問が浮かぶはずだ。

ここでタクシーのおっちゃんと話した事は、非常にダーティーな話なので、僕の胸だけにとどめるのだが、「不自然な発見」はちゃんと疑わしい目で見られるよね、ということ。
特に、ここ糸魚川は歴史も相まって、盗掘に対するイメージは最低である。

糸魚川のヒスイ、はwiki項目にもある

なぜ糸魚川のヒスイは注目されるのか、というのは、僕のしょうもない温泉話で組み入れるようなモンではなく、ちゃんと専門書を調べた方がいい。
無料で読める話であるなら、Wikipediaにも項目があり、ある程度の文献に当たって書かれている「再発見」の話が一番いいだろう。

日本の考古学・地学という分野は、近年物凄く評判を下げた。
その要因は2000年に端を発した捏造発覚事件だ。存命中の方なので明言はしない。当然調べれば出てくるが、調べるなら調べるで、単なる個人のゴシップではないという前提で調べてもらいたいのだが、とある人物にばかり焦点が当たりがちなこの事件、学術にいる人からすればそうではない。
捏造を、わかっていながら見過ごしてきた日本という国の歴史研究が、そもそも疑われ、信頼を失ったという、想像以上に悪影響があった事件なのだ。

こうした不審な話ってのは、つもり積もっていく。
僕は研究家でもない、専門家でもない、単なる趣味人だが、そうした分野の話を、どこまでマトモに聞いてもらえるだろうか?という疑念は常に抱いている。
捏造をやっていた奴らの話を、信用してもらえるか?
糸魚川に関する研究は、まさに近年代から始まった一大事業だ。
翡翠は、今や「国の石」扱いされている。
こうした中、研究という領域を超えて、名誉や金を目当てに、派手に一発当ててやろう…そんな事を考える輩もいるだろう。
実際、盗掘被害は今も発生している。翡翠原石を盗掘被害から保護するために運搬するという事態にも陥っている。

金に目が眩むと、やってはいけない事に手を出す奴はいくらでもいる。
そうした実害にも見舞われているのだ、というのは知っておいてほしい。
そんな話で、タクシーのおっちゃんと盛り上がっていたのである。

5 湯に酔う夜

タクシーのおっちゃんとひとしきり盛り上がり、フォッサマグナミュージアムでじっくりねっとりと石を観察し(ここを語るともうやばい長さになるので割愛)糸魚川の駅前で遅い昼飯をかっこみ、ぐったりとする。
昼には遅過ぎる14時半。既に開いてる店は無く絶望しかけた所に、通りかかった居酒屋のおっちゃんから「飯探してんの?いいよ!」と声をかけられたのだ。ホントに助かった。

メチャクチャ美味かった

乾き切った体に生ビールを叩き込み、定食の上がりを待つ。間髪入れず、大将が膳を運んでくる。「糸魚川の〇〇の刺身だよ」と説明を受けたのは確かだが、あまりの美味さとエビ汁に我を忘れてガッツいた結果、失礼ながら何の刺身か忘却の彼方に行ってしまった。
(令和6年3月24日追記:先日某所で刺身を食った時に鮮烈に思い出した。ホウボウでした。おそらくmaybe間違いなく)
このときの空腹をさっ引いても美味すぎた飯だったのだ。ヤンチャな大将の店の美味い刺身定食、オススメしておくので勘弁願いたい。

色々歩いてみるもんだね

腹が満ちて疲れをズッシリと感じつつ、茶を啜る。
とはいえ、今から歩いて行けば、ちょうどホテルのチェックイン時間だ…と、尻に根が生えかけたのを回避し、しかし後ろ髪を引かれつつ、のそのそと店を出る。
地元のスーパーに寄り、夕飯の買い物をする。夕飯には刺身とビールでも…と企んでいたが、既に美味い刺身とビールはここで得てしまった。ならば、ここからはジャンクな癒しの時間である。
インスタントのカレーラーメンと、羊羹。疲れが凄すぎて、もう多分宿に入って風呂に浸かったら寝てしまう…そんな確信があった。
だとすると、このくらいでいい。買い物を済ませて、カスみたいなガッツを振り絞り、宿に歩いて向かう。
そうして、宿に着いた。

道の風景

一人で泊まるにはクッソ広い部屋に通される。四人が並んで寝てもまだ余裕があるような部屋だ。
閑散期とは大したもので、こういう部屋が一人旅にもあてがわれる。それも安いビジネスホテル並みの価格で。
もうちょい取っても良いのにな?とは思うのだが、しかしこれもまた閑散期の為せるわざで、ホテル内にひと気が全く無いのだ。
そうなると、昨今の節電ブームで館内の灯りは最小限となる。
やや暗い、人っ気のない館内を想像してみてほしい。
ちょっとしたホラー味すらある。
自分からすれば、温泉に入れれば大した問題じゃないので気にもしないが、ネットの宿評判なんかでは、これを理由に点数を下げている人がいた。
うーん、理不尽。

さて、ホテルの風呂は、屋内の大浴場と、露天風呂である。
設備としては簡素ながら、しっかりと「糸魚川の温泉」を主張していた。
というのも、糸魚川の温泉は「匂いが凄い」のだ。
石油臭とも例えられるソレは、味もややしょっぱみがあり、明らかに普通ではない。
まさに「フォッサマグナの賜物」である。
詳しい効能などは知らんが、こういう風呂は大歓迎。しかも客が全くいない。ほぼ貸切だ。
自分が大浴場に行ったとき、高齢のおじいちゃんが更衣室から出て行ってしまい、マジで貸切状態になった。

身体を洗い、まず内風呂に。
染みる。沁みる。日焼けも大してないし、傷心でもないのに、しみて涙が込み上げる。
ああ〜、と声を絞り出して湯を堪能する。
やばい、気持ち良すぎる。
内湯でコレなら、外はどうだ?
体が温まったところで、露天風呂へ。外気で火照った体が冷えていく。まだだ、まだ温まる。急いで露天風呂に身を沈める。

格別だ。
開放感とリラックスが相まって、マジで寝そうになる。
悲惨な事になる前に、と縁に肩を預けようとして、ギョッとした。
痛い。
露天風呂の岩に、びっしりと茶色の棘が生えていた。
これは、温泉の成分が湯の淵で乾いて固まったのだろう。真横に生えた鍾乳石のようにトゲトゲと首を刺したのは、コイツだった。
寝そうな所を目が覚めて、おさまりのいい縁を探して円周を旅する。痛くない所を見つけた所で頭を預け、全身を伸ばした。

極楽である。

コイツは良い湯だ。匂いこそ最初は鼻につくが、慣れれば気にならん。
油分が浮いていそうな匂いに比べ、湯にそんなものは全く浮いていない。
明らかに「効きそうな湯」だ。そりゃ温泉地として有名にもなるわな。

たっぷりと味わった所で、ホテルのフロントで受けた説明を思い出す。
隣接する温泉施設も、追加料金をお支払いでお楽しみいただけますので、ご利用の際は申し付け下さい…
これは、ついでに行くべきでは?

そして、外気で身を冷まし、浴衣を纏ってホテルのフロントへ。手続きを済ませて温泉施設へ向かった。
まさに先に言った「あかりの消えた廊下」を行く、ホラー嫌いにはトラウマもんの通路を進むのだ。
じゃあ怖くない人にはどうということは無い、なんてことは無く、パッと見には従業員通路みたいなバックヤードじみたところを通るため「本当にココでいいの?」という不安を抱えて進むことになる。
自分の場合、通路の最中に地元の女性のダンスサークルっぽい集団に出くわしたため「あ、大丈夫だわ」と確信できたので問題無かったが、そうでなかったら不安なままだっただろう。あらかじめドコソコを通って行って、と説明を受けていてもこれだ。

そんな通路を通って、「ヒスイの湯」に辿り着く。フロントを通じて連絡が入っているらしく、待っていたスタッフに料金を払い、更衣室の案内を受ける。
さて、中は如何に。

広い。流石に温泉施設専門だけある。ジェットバスも水風呂もサウナも寝湯もある。外気浴用のスペースまで。
コイツは堪能できそうだ、と改めて身体を洗って内湯に浸かる。
利用者はかなり多い。もう夕刻を過ぎたのに「芋を洗う」までいかずとも、去った客がいるかと思えば、新たな客が来るわと、街の閑散さと打って変わった盛況ぶりだ。

が、しばらくして気づいた。
外湯が見当たらない。
そんなバカな、とあちこち見て周り、外気浴スペースに行ってようやくわかった。
外気浴スペースのすぐそこが外湯だった。当方、目が悪いため(両目0.01以下)、何も見えていない。椅子には大勢腰掛けているのに、誰も湯に入っていなかったため、気づかなかったのだ。
サウナを使う気がゼロだったので、完全に見逃していたわけだ。

しからば、当方が入りましょうかね、と身を沈める。
深い。座ると首元まで湯面が来る。肩まで浸かるのに、背筋を伸ばさねばならぬ。というか、そうしないと顔が浸かってしまう深さだ。そこで、水中で坐禅を組むみたいにして浸かる。

しかし、湯を独り占め出来るのは良いのだが、誰もちっとも外湯に入って来ない。
みんな外気浴の椅子に腰掛けて寝ている。
え、この湯って入る用じゃないの?と一瞬考えたが、そんなワケない。階段と手すりまで備えて「入って下さい」と順路が整ってるのに、入っちゃダメというわけじゃなかろ。そんな看板が掛かってるようなこともないし。
不思議に思っていると、ようやくその理由がわかった。
内湯から扉を開けて、小太りのご年輩がペタペタと外湯にやってきた。そして、湯船の手すりに手をかける。お、お仲間がキタキタ、と思っていると、腰まで浸かったところで「あち、あち」と言って止まってしまった。
え?と思う間もなく、ご年輩、さっさと上がって行ってしまう。

ああ、なるほど。つまり、この湯は熱すぎるらしい。

確かに内湯はここよりかなり湯温が低かった。だもんで、そっちに人は集まって、景色の良い外には外気浴で出たとて、湯には熱すぎて浸からない、と。
てぇことは何か、ぬるい湯が勘弁ならん奴、みたいな目で俺は見られてるのか?そんなことは微塵も思ってないし、江戸の血はこれっぽちも入ってない関西滋賀作の田舎者なのだが。
しかしなんだろう、外気浴の人はほぼサウナ利用者なんだろうが、サウナは平気で入って湯には入らんって、どうなん。
しかもこんな貴重な湯にさ。

ま、自分は独り占め出来るんで、全然構いませんがね!
そうして、二時間ばっかり堪能して、すっかり出来上がってヒスイの湯を後にしたのだったり

6 親不知にて

夜が明け、バイキング形式の朝食を食い、チェックアウト。
バイキングとかビュッフェとか、言葉が違うだけで何か受けるイメージが違う。ホテルだとビュッフェの方が良いのか?
でも、残念ながらホテルのそうした朝食の場合、大体が出来合いの製品の温めた奴しかないので、大抵パンやご飯、スープや味噌汁なんかが美味しいかどうかがキモになる。
まぁ、可もなく不可もなく。スクランブルエッグとソーセージ、ヨーグルトと味噌汁、ご飯をかっ込む。
ここからは親不知へ向かう。

やっぱり無人

鉄道を使ったとて、そこから件の海岸までは結構歩く。
歩くと言っても舗装された道を行くだけだから、暑さ以外に辛いものはない。その昔は「親知らず、子知らず」と言われたほどの難所だったと言うから、現代とはやはり恵まれている。

無人駅ではあるが、まさかの奇跡的に自分の他にも降りた人がいた。女性だったため、あんまりにも近いとアレなんで、被写体を探して写真を撮りつつ、距離を開けて向かう。

翡翠の拾える海岸

河原がダメなら、海岸で拾えば良いじゃない。
そんな感じで人が海岸をうろつき回るのがここだ。
駐車場もあって、レストランもあって、そして海岸で遊べる。

キミしか見えない

僕は岩しか見ていないので、海岸の翡翠には興味がない。
拾うにしても、何か色々なローカルルールがあるらしく、鑑定をしてもらうにも予約がいるという話(フォッサマグナミュージアムで週末に行われている)で、色々とハードルが高そうだ。
拾った所でコレクションにしかならないし、もう翡翠なら持ってるので、マジで不要なのだ。
一枚目の写真で分かるように、海岸には翡翠探しの人がチラホラある。多分、先に一緒に降りた人もそうなのだろう。

翡翠より岩なの?と言われたら、まぁ色々と心外ではある。
僕は基本、そういうのに萌えるタイプなのだ。

こういうのがいい(東尋坊)

行く先で大体岩を撮ってるのだから、まぁ癖なんですよ。
やはり岩は良い。

レストランで軽く食べた後、また歩いて駅まで戻る。
駅で電車を待つ間、海岸側にイソヒヨらしいのがうろついてたので、カメラを構えてバシバシ撮ってたら、知らぬ間に待ち客がいて恥ずかしい思いをしてしまった。

高速の脚の所で数羽見かけた

しかし、やはりオリンパスの望遠はいい。今はOMシステムか。
フルサイズ換算800mmを、手持ちでガッツリ喰らいつける性能は、やはりフィールドを動き回りながら写真を撮るのに向く。
今回は本格的に鳥を撮りに来たわけじゃないが、見かけたら気軽に撮れるのが良い。
400が重いなら、廉価な300(35mm換算で約600mm!)までのズームレンズもあるし、気軽に望遠が使えるのは、マイクロフォーサーズの強みだと思う。
楽に、でも本格的に写真を撮りたいという人の強い味方だ。

そんな撮影を終えて、糸魚川から立ち去るべしとお土産を物色。

古い電車の展示もある

閑散期に来たので、街中がそれほど賑やかではなかったが、時期が良ければ色々やっていただろうなぁ、とそこだけは惜しいかもしれない。
とはいえ、酒もうまいのが新潟だ。仲間と来てワイワイ飲むにも良いだろう。
他とは違う温泉も魅力である。温泉マニアなら、一度は行ってみてほしい。

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