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ゆる言語学ラジオ視聴感想 #1

ゆる言語学ラジオを愛聴している。
言語学、と言う割に色々な学術範囲に飛んでいく自称・うんちくおじさん二名のコンテンツだが、どうしてどうして、言語学分野のアカデミックな所からも注目を浴び、さらには監修まで受けるようになったという、モノホンの知的好奇心が身を結んだコンテンツと言える。

なーんてかたっ苦しい紹介抜きに、YouTubeで自己啓発をやっている人や、上質な教養系のコンテンツを探している人にはオススメだ。
マジで面白いから、一度聞いて感触を確かめて欲しい。

で、今回は自分も興味深い分野の話をしていたので、珍しく感想にしてみた。
ついでに、ゆる言語学ラジオの感想文をちょいちょい上げてみようかな、と思ったわけだ。

今回の視聴回はこちら。

食レポシリーズの第三回。

味覚表現のために、どういう言葉を使って表現しているだろう?
と、過去2回に渡って語り、ついに三回目となった今回である。

一回目では、味を伝えるのはそもそも難しい、と前置いており、「うまい」としか言えない問題を提示。では、味を正確に伝えるには?という疑問から、主にソムリエのワインの味の表現に注目。独特なソムリエの言葉選びが、実は体系づけられた味指標に基づくものであることや、その中で特に「猫のおしっこ」という表現が、意外にもプラス表現として使われることなどを交えており、非常にフックが強い回だった。

二回目では、文学やグルメ漫画の味表現、その中でも金字塔である「美味しんぼ」に注目。「まったり」という関西弁であったものが一般化した経緯、文豪の味の表現、他にもラーメン雑誌の表現に見る面白さなど、身近なのに切り口を作ってみると意外な驚きがあると分かる秀逸な回だ。

それを受けての三回目。今回は特にオノマトペに着目しているが、当然それ以外の話題にも及ぶ。

1「塩辛い」という表現について

辛い、という表現について、塩辛いのが先なのか、唐辛子系のスパイスの刺激を指すのか、という話が出た。

これについて自分が知っているのは、本来の「辛い」は唐辛子や山椒などの、舌を刺すような刺激を指す味だと言うことだ。
塩辛い、という表現については「鹹味(かんみ)」という表現になる。ラジオにあっては「甘味」という同音異義語で忌み嫌われ、それも正反対の意味となる最悪のパターンである。
ただ、中華系のグルメに詳しい人だと聞いたことはあるだろうと思う。鹹と辣では全く違う味であるが、おそらくは「舌を刺す」という点や音の類似で、日本では徐々に「辛」に統合されたんではなかろうか。知らんけど。

2 味覚以外の表現とオノマトペ

味を表現するために、視覚表現や触覚表現を我々は多用しているよ、という話である。
とりわけその中でも、「パリパリ」といった色々な感覚を取り込んだオノマトペを取り込むと、食レポ表現が豊かになるよ、ということだ。
中でも、マイナス表現である「ニチャニチャ」が意外な漫画から出てきたのは面白い。

そして、このオノマトペ表現が研究されている本を紹介していたのだが、まさかの海外学者による日本語研究によるものだった。
ポリー・ザトラウスキー著『五感で楽しむ食の日本語』
という本だが、クックパッドのレシピ名のオノマトペ統計を取るなど、なるほどな!と思わせる研究で、これは読んでみたいと思った。

3 味の表現に正面から取り組むには?

食レポにおいて、味を直接表現せずにオノマトペを使っていても、それって結局逃げではないか?
と堀元さんは疑問を呈する。
それもそのはず、前回までで「味に直接言及した食レポじゃない。これは逃げでは?」との同様の疑問に対し、この三回目で応えてみせます!と水野さんが大見栄を切ったからである。

とはいえ、味覚はそもそも嗅覚や食感(触覚)、聴覚が複雑に織り込まれた刺激であり、だからこそ、表現が五感に及ぶのだ、と次回に繋げる水野さん。

ちなみに、味そのものは舌の上にある感覚器官によって起こる電気信号だ…という根源的な話に切り込んだ漫画があるのはご存知だろうか。
「私立味狩り学園」という古めの漫画に、それは登場した。


とある料理勝負のエピソードで、主人公とライバルに課題が与えられる。
「検分役が食べたことのない味を探せ!」
と言うもの。単純に言うと、今まで色んなものを食べてきた料理審査員に対し、彼らが食べたことない味を出せ!という無茶苦茶な課題である。
それについて、ややネタバレではあるが、ライバルキャラが出した答えが「電気による刺激」であった。
そりゃもう、食ったことないというか、まず食う気が起こらない味だ。アルミホイルを噛んだ経験を「味」と言うなら、これは成立しないんじゃない?
…と一笑するところだが、実は近年「味のデジタル化」について研究がすすんでおり、塩味の再現や甘味の再現など、ダイエット食や医療分野で注目されているとのこと。

なお、「私立味狩り学園」は1987年開始の漫画。画像の11巻が最終巻のため、90年代まではやっていなかったと思われる。
自分が言っている研究は2019年とかその辺りだ。
物だけ見ると恐ろしく先取りした内容である。他のエピソードではあるものの、アボカド寿司など、当時としては目新しい食材・調理法に触れていたのも新鮮だった。
まぁ、少年漫画らしくバトルをするのでトンデモ表現が出てくるのはご愛嬌。

4 気になったこと

YouTubeのコメント欄にも書いたが、ホロライブENのがうる・ぐらが来日しており、同じくホロライブENの一伊那尓栖(にのまえ・いなにす)と食事をした際のエピソードを、雑談で語られていた。
それが「マクドナルドのスパイシーマックナゲット」に対する疑問だ。
どっちが語っていたかは最早可愛さに溺れて覚えていないのだが「スパイシー?」と首を傾げていたのだ。多分、ぐらが食べて「スパイシー?」となっていて、多少日本に慣れてるイナが「これが日本のスパイシーなんだよ」と言った的なエピソードだったと思う。
ここで気づくべきだったが、ぐらが食べて「スパイシー?」となったのは、辛さが足りない、という意味ではないということだ。
ぐらはCoCo壱で0辛を勧められる程度の辛さ耐性だ、というのをすっかり忘れていた。

つまり、日本語表現のスパイシーは英語表現のspicyとは別だということだ。

で、コメント欄にも書いたように色々調べてみたら、やはりスパイシーというのは唐辛子に近いもので、hotな感覚を覚えるものを指すようだ。
スパイシーマックナゲットは、黒胡椒が大量に使われている。つまりpepperyだということ。
pepper自体にはコショウとピーマンの二種の意味があるが、スパイスにかぎって言えばコショウが先に立つ。それに、唐辛子はchiliだ。
英英辞典が大学以来久しぶりに役に立った。凄いぞオックスフォード。

それに付随して、英語での「味」を示す語の話。
これ、一般的に使われている「フレーバー」という表現なんだが、これは日本人的にはどうしても「香り」のイメージが強い。日本人的に味は「テイスト」だろうと言いたくなるが、実際多くの商品にはflavorが使われている。tasteも無くはないが、よく見るのはflavorだ。
で、実際flavorを引いてみると、意外にも「香り」の方は載っていなかった。どういうこっちゃ!?
風味、はあるものの、これはtasteとも被る。日本人が「香り」と何と無く認識しているのが、実は味なのか?

実際に香りを意味するのはsmellだ。「スメルスライク…」と言ったら「ティーンエイジスピリッツ!」のスメルだ。バンド人あるある。

脱線ついでに、ちょっと齧ったソムリエ知識、またはコーヒー知識でいえば、フレーバーやテイストは、サーブされてから香りを楽しみ、口の中に入れ、咀嚼などを経て味わいが変化し、そして嚥下した後の余韻に渡るまで、職人は細分化して分析している。これらの味の指標に、突拍子もない表現が見られるのは、先に紹介した第一回のソムリエ表現で出た通り。そこには腐葉土や錆、およそ味わうことがないであろう表現も見られる。ディーゼルオイルとか飲まねーよ、と突っ込まれるのは確かなんだけど、しかし、味を細分化していけば、類似する成分はやはりそこに現れているのだ。

まぁ、色々経験しとけば、表現の幅は広がるんよ。受け手の土壌は無視した話ではあるけどさ。

そんな感想でございました。

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