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死因報告書

北のほうの海には厳しさの中に 母の持つ寂しさがある

うれしいと かなしいと さびしいと いらないは おなじ

あのひ 増水した川に飛び込んだ 十七歳の少女は 

時が止まったまま そこで浮遊している 

甘い時間はない きっとそんなの ありふれた出来事で

死をもって 物語の作成など 面白くないね 

てなこと 君は言うんだろうな わらいながら

だったらいっそ 生きてみればいい 死ぬ勢いで

はっきりした死因の提示は ある者の救いになって

一方で ある者の死因となる ああ めんどくさいね

柔らかい 笑顔の君は あまりに切なく儚い存在で

一体全体 どうして消えちゃったのか解らなくて

そんな 壊れそうに もろそうな君が 

ひとりぽっち あの世に旅立って行ったんだって考えたら

ちゃんと怖がらずに行けたかなあ なんて思っちまう

それが悲しすぎて 暖めてあげたいけど

肝心のあんたは もういない 

一緒に死んだって あっちで一緒になれる保証なんてない

だから生きるだけ生きて あっちにはまだずっと後に行く

だけどももしも そんな願い事が無駄になる日が来るのなら

それはちょっと悲しいけれど 運命だったって あきらめる

別の十七歳の少女は 何を思って自分を火にくべたのか

一体全体 うら若き乙女が 何を考えながら 自分を燃やそうと思ったのか

突発的自殺衝動の子供たちは 連鎖される世界をまたいで

ある意味不滅の音楽で 私たちの魂を繋ぎ止めている

しにたいと いきたいと ころしてと もやすぞは おなじ

寂しい母の子守歌 私はいつも橋の下で拾ってきた子だったけど

そんな子を拾ってくれる 優しいあんたに あいしてるを言える

でも 何度も想像して恐かった また橋の下に棄てられること

いらなくなったおもちゃなんてない 私はまだ使えるよ

ママ わたしはまだ 死んでないよ

蚯蚓腫れの無数についた母の白い大腿部 あれは何だった?

夜中暗闇に響くミキサーの音 追い込まれるように 

母は玉ねぎジュースで痩せようとしてた

自殺の話が好きだった 母はいつもそうしてゆっくりと 確実に

無垢な私を自殺の虜にさせて 完全犯罪を決めようとしている

みんな死ぬはなしが好きだ そのくせ大切な人が死んだら

死について語らなくなる 

一方的な死は 破壊力と自己責任の有様を 

健常者に見せつけて 自殺志願者たちは

今日もどこかで 私を見てビームとか出して 死ぬ演技

本当に死にたい奴は だまっていく 突然と偶然を装って

本当に馬鹿だな ねこがこんなにかわいいのに

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