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新美南吉「嘘」との出会い

新美南吉を知っていますか?私は知りませんでした。有名なのは、新美が書いた「ごん狐」。改めて「ごん狐」を読みましたが、最後が悲劇的、まったく晴れない物語でした。

新美が10年後に記したのが、この「嘘」です。7月2日の日経夕刊の文学周遊で編集委員の毛糖秀樹氏が紹介しています。

なぜ、目を止め、この文学周遊を読み進めたか、、、多分”名古屋”というキーワードと忘れてはいけない「嘘」というただならぬ文字。あと、強いていえば、この物語、友人の一人が「新舞子に飛行機が来ている」と皆を誘ったという飛行機好きの私には、決して見逃せない箇所を紙面上で見つけたからだと今になって推測しています。

区の図書館サイトで、新美の「嘘」が載っている2冊を借りて、通勤の地下鉄内で読んでみました。銀座線・外苑前から新橋を丁度往復する時間で読めてしまうショートストーリーです。

「ごん狐」の暗い世界が頭にありましたが、この「嘘」は、何気ない小学校の日常を前半で描きつつ、ラストまで飽きさせない展開、そして最後は「信頼」という人間関係で何モノにも代えがたい締めくくりとなっていました。

なぜ、学校or文部省は、「ごん狐」を定番で掲載し、使い続けるのか理解に苦しみます。なぜこの時代に、「嘘」を授業で取り上げないのか!と叫ぶ程ではないにせよ、強く思いました。

ということで、また「嘘」の内容に戻りますが、主人公は、久助君と、転向してきた太郎左衛門の2人を軸に展開してゆきます。作品の冒頭に伊豆の韮山に反射炉を備えた江川太郎左衛門の”びっくりした人のように目玉の大きい、丁髷姿の江川太郎左衛門”の描写があります。家族でつい、この前に反射炉を見てきて、江川氏の肖像画も見て記憶に残っていたので、思わず読みながら「プっ」と吹いてしまいました。肖像画はこちらです↓。

脱線が過ぎても何なので、物語に戻ります。
友人達で見に行こうと計画した飛行機「愛国号」をちょっと紹介します。これは、簡単にいうと、一般人がお金を集めて、軍に飛行機(多くが軍用機)を寄付、その飛行機に”愛国”と付いていれば、陸軍、”報国”だったら海軍という訳です。詳細はこのサイトに詳しいです。

これは愛国だから寄付された陸軍機

「ごん狐」の悶々とした空気感、印象をお持ちの、、また同一作者の10年後の変身作「嘘」を読んでみたい方は是非、「嘘」をご一読ください。
新美が最後に「人間はその根本のところではみんなよく分かりあうのだ」と描写した意味が理解できると思います。

最後になりますが、「嘘」は著者が生前に編んだ唯一の童話集「おぢいさんのランプ」(有光社、1942(昭和17)年10月10日)に収録されていました。
既に日中戦争は始まっていましたので、文中に”愛国号”が出てくるのも頷けます。が、しかし戦中とは思えない明るい匂いや風がこの作品には描かれています。そんな新美の記念館は愛知県半田市岩滑にあるそうです。


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