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「イギリス史上最大の冤罪事件」と呼ばれる郵便局スキャンダルをドラマ化したITV『Mr Bates vs The Post Office』。20年を経て、今もなお論議されるこの事件を理解すべく、実際何が起こったのかをドラマで顧みる。


2003年4月4日、北ウェールズのLLANDUDND。サブポストマスターのアラン・ベイツが郵便窓口で接客中、ポストオフィスの調査員たちが荒々しく入ってくる。「この郵便局はクローズだ」と客に告げる調査員に、「違う。明日だ。あなたたちは1日早い。明日出直すんだな」と業務を続ける。閉店後、アランは駆け付けた警察に説明している。「私を泥棒扱いしないで頂きたいですね。彼らは、この支店から金が消えたから私が返さなければならないと主張している。だったら証明してください、と言ったんです。明細を見せろ、と。しかし彼らはそれは出来ないと言う。だからこの郵便局をクローズして私を黙らせようとしているのです。私が知っていることを誰にも知られたくないから。それは、新しく導入されたこの素敵なコンピューターに欠陥があると言う事実なのです」。ポストオフィスの調査員は「”ホライゾン”の欠陥はどこにも報告されていません」と主張。「信じられませんね」とアランは言い、調査員たちは去る。アランは妻のスザンヌに言う。「我々だけではないはずだ」。ーーーーアランとスザンヌは郵便局を失い、家を失い、財産を失った。アランは何かが起こっているはずだと、ポストオフィス、国会議員、新聞社、雑誌社に手紙を書く。

ハンプシャーのsouthwarnborogh で、ベーカリー・カフェを営むジョー・ハミルトン。カフェ内に彼女の運営する郵便局がある。彼女は夜の収支合わせで約£2000がシステム上で消えていることに気づき、ホライゾンのヘルプラインに電話をする。「テクノロジーには弱くて」と言いながら、オペレーターの指示通りにコンピューターを操作すると、損失は2倍の£4000に跳ね上がった。「あなたが言うとおりにやっただけなのに。このお金はどこへ行ったの?」と狼狽えるジョーに、ヘルプラインの女性は「その損失はあなたが補償するべきです。その責任はあなたにあります」とだけ言う。ジョーの足元には起動中のホライゾンがある。

デスクの下のホライゾン。

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2024年の元旦から英ITVで放送されたドラマ『Mr Bates vs The Post Office』はこのようにして始まった。20年にもわたる、サブポストマスターとポストオフィスとの闘いを描いた事実に基づいた事件のドラマ化だが、放送開始とともに、絶大な反響を受け、この事件が再度注目されることになった。現在では責任のさらなる追及と被害者への賠償金の支払い、有罪となったサブポストマスターらの上訴の迅速化など、新たな問題の早期解決が必須となっている。毎日のように報道されるこのスキャンダルに関する展開を少しでも理解すべく、このドラマを忠実に文章化してみた。ちなみに言っておくと、毎エピソードの始まりには「これは、本当のストーリーである。いくつかの名前と登場人物は変えられている。いくつかのシーンは想像したものである」と述べられている。このブログは、あくまでもドラマ内で述べられていることをできるだけ忠実に文章化したもので、私自身が取材したわけでも、想像で書いたわけでもないことを先に明記しておく。

まず最初に、イギリスの郵便局システムを少し説明しておきたい。サブポストマスターとは、民間受託郵便局長のことであり、英国では民間の個人経営のショップやカフェなどの事業主が自身のビジネスのプレミスの一角で郵便作業を請け負うのが一般的だ。もちろんそこには窓口があり、訓練されたビジネスオーナーが業務を代行する。サービスは普通の郵便局とほぼ同じで、郵便物の取り扱いや切手の販売から、年金の支給まで幅広くローカルのニーズにこたえる。この郵政業務を委託された民間受託郵便局長がサブポストマスターなのである。


正義を訴えるサブポストマスターたち。

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窃盗・詐欺・虚偽の疑いで仕事も家も名声も失ったアランは妻スザンヌとウェールズのスノードン近くの小さな家へ引っ越す。

一方ジョーの方は損失が£9000にまで上がっていた。「一体どんな間違いを犯したんだ?金はどこに行ったんだ?」と訊く夫に「分からない。いつかコンピューターが間違いでした、って言ってくるのを待っているのだけど、それもない。もう預金もないし、クレジットカードもリミットに達してしまった。家を担保に入れないといけない。最初のポストオフィスとの契約では損失は自身の責任、となっているの。失ったお金を見つけないと」。

2004年春、東ヨークシャーのBridlington East。サブポストマスターのリー・カースルトンがホライズン・ヘルプラインのオペレーターと電話で話している。「損失についての問い合わせなんだけど。訳の分からない数字が並んでいるんだ。私のアカウントがハックされたとしか考えられない」と訴えるリーに、オペレーターは、「このような問い合わせはいまのところほかにありませんし、ハックされるということはまずありません。支店のアカウントは完全に守られています」と言う。

業務を終えたあと、コンピューター画面を前に再びホライズンのヘルプラインと電話で話すジョー。再び損失が出たからだ。オペレーターは指示を出しながら「このようなことが起こっているのは、あなたのところだけです。今夜中にバランスを支払わなければ、明日郵便局を開けることはできません」とジョーに告げる。郵便局を開けなければ困る人がいる。ジョーは、震えながら、コンピュータが示す£2000の不足分を£2に書き換えてバランスを0にし、報告書に署名する。コンピューターには”虚偽の報告をした場合は刑事責任を問われることがあります”と書かれている。

画面上に現れた損失についてヘルプラインに電話するジョー。


リーのところに調査員が訪れる。£26,000が消えている。リーはこの損失分を払い戻しするまでは、アカウントにアクセスできず、郵便局を再開することはできないと告げられる。返済できなければ訴追するとも。コンピューターのバグに違いない、リーは同じような誤作動が他のサブポストマスターのところでも起こっているはずだと、名簿を引っ張り出し、片っ端から電話をかける。

ジョーのところに調査員が訪れ、損失が£36,644,89であると告げる。ジョーは、ヘルプラインの言われた通りに操作したら、目の前で金額が2倍に跳ね上がったことを説明しようとするが、調査員は最初の契約のとおり、損失は自身の責任であるため、どのように支払いをするかを考えるようジョーに言う。ジョーは郵便局の仕事を失い、ポストオフィス捜査員による取り調べが始まる。彼女を逮捕しに来るのは警察だと思い込んでいたが、ジョーの弁護を担当した友人は言う。「ポストオフィスは警察の手を借りることなく、独自の捜査により被疑者を逮捕、訴追し、裁判にまで持っていけるの」。

TVのニュースで、サブポストマスターのノエル・トーマスが有罪を認め、9か月間の禁固刑を言い渡されたことを伝えている。ニュースリーダーは「59歳のトーマス被告は最低でも£48,000を着服したとされている」と続ける。

リーは裁判所からの召喚状を受け取る。リーは妻リサに「大丈夫だ。ホライゾンに問題があったと正直に話すだけだ。イギリスの司法制度を信じよう。すべては解決するはずだ。真実を述べるだけだよ。心配するな」と言う。

ジョーは裁判所から司法取引の手紙を受け取る。ポスト・オフィスは、虚偽会計の罪を認めることに同意すれば、窃盗に関する告訴を取り下げると言う。司法取引を行えば、刑務所にはいかなくて済むかもしれない。しかし、この司法取引には2つの条件があった。1つはすべての借金£36,000を返済すること、そして2つ目は、今後一切ホライゾンのシステムを非難しないこと。ジョーは言う。「収支が合わないことを知っていながら、虚偽会計を報告してしまったことに関しては有罪を認めるけど、私は1ペニーたりとも盗んではいない。これらのお金がどこに行ったのかもさえも分からない」。

リーは、他にも同じ問題を抱えているポストマスター達がいるはずだと連絡を取り続ける。誰も話したがらないが、とあるポストマスターがリーに言う。「みんな話すのが怖いのです。でもあなたを助けることができるかもしれない人を一人だけ知っています」。リーは、与えられた番号に連絡を取るが電話の主ブラウン氏は、スコットランドのFalkirk Callendar Squareでも全く同じことが起こっており、イギリス各地でも同じことが起こっていることをリーに伝える。「そうなんだ、奴らはこんなことが起こるのはあなたのところだけです、と言い続ける!」と興奮するリーだが、ブラウン氏は、「あまり喜ばないでください。私はこれ以上記録に残ることはしたくないのです。このビジネスにかなりの投資をしました。ポストオフィスを敵に回すことなどできません。でもこの問題に関するグループ・メールリストがありますので、それを転送します。何かの助けになるかもしれません」と言って電話を切る。

2006年12月6日、リーの裁判の日。弁護人を雇う資金もないため、彼は一人で出廷する。「いわゆる損失なんてものは存在していません。システムが勝手に作り出したものです」と主張するリー。しかし富士通マニュファクチュアに雇用されたシステム・スペシャリストは「ホライゾンがこのような損失を生み出したという証拠はどこにも見当たりません。あなたは、スコットランドのFalkirk Callendar Squareで同じことが起こっていると言いたいのでしょうが、あれはエラーがあっただけで、あなたのところには何も問題が見つかっていません」と覆す。最終的に裁判所はリーの主張するコンピューター・バグはなかったとし、損失£25,858,95と裁判費用で合計£321,000の支払いを命じた。

2008年2月4日、ジョーの裁判の日。コミュニティーの住人たちがジョーをサポートするために傍聴に訪れている。証言台に立つ人々はみな口を揃えて、ジョーがコミュニティーにとって重要かつ信用ある人物であったことを証言する。ジョーは、禁固刑を逃れ、12か月間のコミュニティー・サービスを言い渡される。

アランとスザンヌはジョーのニュースを新聞で読む。「恐らく彼女は罪を認めることによってより軽い刑に服することを選んだのよ」とスザンヌは言う。そこへ雑誌コンピューター・ウィークリーの記者レベッカからアランに連絡が入る。ジョーの判決を見て、コンピューターシステム・ホライズンについてアランと話がしたいとのことだった。「5年も前に連絡をいただいていたのに返事をしていなくてごめんなさい」と記者は言う。アランは「私がこのサブポストマスターの仕事を請け負うことになった時、法的アドバイスをもらったんだ。もしポストオフィスを訴えるようなことになって、私が裁判に勝ったとしても、ポストオフィスは何度も上告し直す。私の資金が底をつくまで、ってね」。しかし、アランは未だ告訴されていない。「レベッカ、他に何人のサブポストマスターが同じ目にあっている?」とアランは訊く。「今のところ、6人が記録されています。さらにあなたが協力してくれるのなら...」とレベッカ。この後、このアランのインタビューがコンピューター・ウィークリーに掲載される。記事には”この問題は多くの人々に影響を与えているようだ。7人目のサブポストマスター、アラン・ベイツ氏は、損失が生じた場合、彼に責任が生じるため、週会計報告書に署名することを拒否。さらに彼は公的調査を要求している。ポストオフィスの広報担当者によると、’ホライゾンは郵便局ネットワーク全体で稼動する非常に堅牢なシステムで、毎日何百万件もの取引を記録しており、この技術に欠陥があることを示す証拠は何もない。私たちは、サブポストマスターから提起されたいかなる問題についても、常に調査しており、個々の支店がごくまれに故障を経験する可能性があることを受け入れている’”と書いてある。そしてその記事には、有罪を認めて禁固9か月の刑を受けた、サブポストマスターのノエル・トーマスと、有罪判決で収監は避けられたが司法取引をし、12か月のコミュニティーサービスを課されたジョーの写真が掲載されている。

経営するカフェでコンピューター・ウィークリー誌の記事を読むジョーの元へ一人の男性が訪ねてくる。ノエル・トーマスだ。ノエルは「最初にあなたの記事を読んだとき、信じられない思いでいっぱいでした」と言う。「郵便配達の仕事を始めたのは、17歳の時でした。自転車で手紙を配達しました。あれから42年間、この仕事を続けてきました...。”禁固9か月”と言われたことしか覚えていません。その後”連れていけ”と。ジョー、私は60歳の誕生日を刑務所で過ごしたのです。なんてことだ...」とすすり泣くノエル。ジョーはコンピューター・ウィークリー誌に載ったアランの写真を見て言う。「私たちはこの人物を信じるべき?彼は、週会計報告書に署名することを拒否し続け、損害も一切支払わないと言っています」。「ヒーローだ」とノエル。

ノエルは有罪を認めてしまい、9か月間服役した。


ジョーは初めてアランに連絡を取る。絶対に自分の責任ではないと主張するアランに「コンピューターを非難することは考えなかった」というジョー。しかしアランは逆にジョーに質問する。「なぜ有罪を認めたんだ?」。ジョーは「もちろん有罪と認めたくはなかったけど、刑務所に入りたくなかったから。それに、どうやって自分が無罪なのかを証明する方法も分からなかったから」と答える。しかしアランは言う。「無罪を証明する必要はないんだよ。有罪が証明されるまでは無罪なのだから」。

アランとスザンヌは壁に貼られたイギリスの地図を見ている。コンピューター・ウィークリー誌からの7人とアランの立ち上げたウェブサイトへアクセスしてきた2人の名前と地名が書かれている。「他にもいるはずだ。ミーティングを呼びかけようと思う。何人来るかは分からないけど」。アランは地図のど真ん中を指さす。「"Fenny Compton" 。ここにしよう。誰も来ないかもしれないけどやってみる価値はある」。ミーティングの日、Fenny Comptonのビレッジ・ホール。アランとスザンヌは最初に到着したジョーと初対面の挨拶をする。すると続々と車が入ってくる。ノエル・トーマスにリーとリサの姿もある。アランは集まった被害者たちに言う。「ここにいる誰もが、ポストオフィスに、”こんなことが起こっているのはあなたのところだけだ”と何度も何度も言われました。それは間違いであり、事実嘘でした。ここにいる誰もがもう一人きりではありません。これから先絶対に」。

ミーティングで他の被害者たちの話を聞くアランとスザンヌ。

2009年11月8日:西ミッドランド地方、Walsall。サムは夫のジャズに「でも、有罪を認めたら、お店を返してくれるって言ったの」と説明する。「でもそれは犯罪者になるってことなんだよ。絶対に有罪なんて認めるんじゃなかったんだ」。二人はアランのミーティングに遅れて到着し、サムは自分に起こったことを説明し始める。「新しいホライゾンのピンパッドが導入されるまでは、何の問題もなかったのです。彼らはホライゾンに非があることを認めません。私が一方で年金を払うためレジを操作し、もう一方で自分に支払いが行くようにシステムを利用していると言うのです」。アランは「そして彼らは、”このような問題が起こっているのはあなただけです”、と言ったんですよね」と確認する。「私はそれを信じてしまったのです。本当に馬鹿だった」とジョー。サムも「私も信じてしまいました。そして、彼らは£5,000を横領したことを認めれば、店を明日には返してくれると言ったのです」と続ける。「君は有罪を認めるべきではなかった」という夫のジャズ。「あなただけではないのよ。私も有罪を認めたの」とジョーとノエルが言う。サムは「私には子供がいます。刑務所なんていけません」と言う。ジャズはサムに「今から司法取引を変更する。無罪を主張するんだ」と言うが、リーは「裁判に持ち込むなら気を付けないと」と注意喚起する。アランは皆に、「ここにいる我々は皆、ビジネスも貯金も失った。問題はこれからどうするか、です」と訊く。

サムは有罪を認めてしまったが、夫のジャズは無罪を再び主張するべきだと言う。


ジョーは、自分の選挙区の国会議員ジェームス・アーバズノットに連絡を取る。ジェームスは、この選挙区でさらに2件同じことが起こっていることをジョーに伝える。彼はさらに「国会で他の議員たちに似たようなことが起こっていないか訊いてみると同時に、ポストオフィス・マネジメントに伺いを立てましょう。これは良いキャンペーンになると思います」と続ける。

サムは法廷で有罪を認めたことを破棄し、無罪を主張する。

『サブポストマスター連合に正義を』の2回目のミーティングが行われる。アランは全国サブポストマスター連合会執行元役員マイケル・ルドキンをゲスト・スピーカーとして迎える。マイケルは被害者たちを前に、自分に起こったことを話し始める。「ポストオフィスがコンピューターを作るわけではありませんよね。ソフトウェアを作成するわけでも、ネットワークを繋ぐわけでもない。富士通なのです。2年前、2008年8月19日、私はロンドン、ブラックネルにある富士通のヘッドオフィスを訪ねました。みなさんもご存じのように、当時抱えていた外国為替株コントロールに関する問題を解決するためです。私は富士通担当者のリチャードに会い、サブポストマスターの多くが損失を被っていることを伝えました。私はそこでみなさんにも共有できるちょっとしたトレーニングのようなものを期待していたのです。リチャードは私をコントロールルームに案内し、デスクのひとつに座り、ホライズン・ターミナルを前に、マニュアルでストック・コントロールを調整する方法をやって見せました。私は、驚いてこれはライブなのですか?と訊きました。すると彼は、そうです、時計を見てください、と答えました。あなたは今、何人かのサブポストマスターのホライゾンに侵入している?でも彼らはこのことを知らない?と私が訊くと、彼は、そうです、と言い、私の目の前で、サブポストマスターの数字を書き換え始めたのです」。騒然とするサブポストマスター達。「私はこれまでサブポストマスター達に誰も彼らのアカウントにはアクセスできない、と何年も言い続けてきました、とリチャードに伝えると、それでしたら数値を元に戻しておいたほうが良いですね。そうじゃないとバランスが合わなくなる、と彼は言いました。皆さん、これが何を意味しているか分かりますよね。彼らはこっそりと侵入してきて、数値を変え、立ち去ることができるのです。なんの痕跡も残さず」。ざわつくポストマスター達。「でもヘルプラインはそんなことは不可能だ、支店のアカウントは完全に守られていると言っんだ」とリー。「嘘なのです」とマイケル。「でも、もし彼らが私たちのアカウントに侵入して、数字を変えたとしても、ちょっと金額が大きすぎだと思う。100%責任を負わなければならないのは私たちでしょう?」とジョー。マイケルはこう続ける。「私が富士通を訪れた翌日、朝起きると、コンピューターが£44,000の損失を示していました。私が連合会で留守にしている間、妻が窓口を担当していたのですが、偶然だと思いますか?」「復讐...」とジョーが答える。「私がサブポストマスターであるとはいえ、かわいそうに私の妻は今や犯罪者となってしまったのです」。息をのむサブポストマスター達。マイケルは悔しそうにミーティングを立ち去る。リーは言う。「処罰されたんだ。おかしいと気付いたから。私にも同じことをした。奴らは私が立ち向かわないといけないことを知っていた。だが同時に私には勝つ見込みがないことも分かっていた。奴らは私に、この部屋にいるみんなに学習させようとしたんだ。我々が立ち向かおうとしている相手が何なのかを思い知らせるために」。皆が現実を突きつけられる。

マイケルは富士通のヘッドオフィスで自分が見たものを話す。
富士通スタッフのリチャードがマイケルの目の前で、サブポストマスターの数字を変える。


裁判所。サムは有罪から無罪を主張したが、起訴内容は19件から38件になり、損失は£11,000と知らないうちに2倍に跳ね上がっていた。夫のジャズは、サムに一体どうなっているのかと訊くが、サムは虚ろ気に、覚えていないと答え、ちぐはぐなことを言い出す。それを見ていた弁護士はジャズに、サムは医療サポートが必要だと提案する。裁判が長引けば心身の負担が大きすぎるため持たない。

ジョーは、国会議員ジェームス・アーバズノットの取り計らいで地元のTVインタビューに答えている。ポストオフィスは再度調査をするべきだとジョー。ジェームスも「ポストオフィスは被害者を裁判にかけるなど、非情な手段をとっている」と非難する。それを観ていたアランは、インタビューは上手くいったが一体何人の人たちが耳を貸すだろうか、と現実的だ。だが、一人これを聞き入っている人物がいた。ポストオフィスの最高経営責任者(CEO)、ポーラ・ヴェネルズだ。ポーラはその後のミーティングで幹部たちにこう告げる。「ホライゾン・システムの運営に関して明確な主張をしている元サブポストマスター達がいます。しかし、そのうちの2つのケースでは、過去に虚偽の会計処理を行ったとして有罪を認めています。私は国会議員に対し、ポストオフィスはいかなる主張も受け入れておらず、民事訴訟が提起された場合には断固としてその立場を擁護することを明確にすると返事を書きました」。

ジャズが帰宅すると、サムがナイフで腹を刺している。到着した救急隊員に手当を受けながら、「やることはすべてやった」と泣きわめくサム。病院でサムは強度の鬱状態であると診断され、鎮静剤を投与されている。ジャズはジョーに電話でサムの様態を報告している。「最悪なのは、もしあの時彼女の言うように有罪を認めていたら、刑務所に入らないといけなかったとしても、もう今の時点では出所していた、と思ってしまうことなんだ」。

国会議員ジェームス・アーバズノットは、同じような事例が発生している他の選挙区の議員たちとともに、ポストオフィスのCEO、ポーラ・ヴェネルズを訪ねている。ポーラは、ポストオフィス、ネットワーク・サービス担当のアンジェラ・ヴァン・デン・ボガードと共に、ホライゾン・システムには全く欠陥はない、と断言。そして、「我々は、独立した調査を実施するための資金を提供する用意がある」と告げる。

ポストオフィスから独自に依頼された調査会社セカンド・サイトのボブ・ラザフォードはアンジェラに面会、各選挙区から名乗りを挙げた元サブポストマスター達12人の資料を受け取る。ボブはさらに富士通社への訪問を要求する。

アランは法廷会計士のケイ・リネルとともに、ジェームス・アーバズノット議員のオフィスを訪ね、調査会社セカンド・サイトのボブ・ラザフォードを紹介される。ジェームスは、ボブはポストオフィスから雇われ、報酬を受けてはいるものの、独自調査に関しては、議員側、つまり間接的にサブポストマスター協会たちにも協力をするということをアランに説明する。

ボブはまず話を聞くためにジョーを訪ねる。「最初にこのホライズン・システムの暗証番号制度が導入された時、きちんと作動したことがなかったのです。たまに富士通のエンジニアが来ていろいろといじってたけど、何をしているのか見当もつきませんでした」と説明するジョー。そしてジョーは尋ねる。「ボブ、凄く馬鹿な質問と思うかもしれないけど、訊きたいことがあるの。私が損失したとされる£36,000。あれは一体どこへ行ったの?私のところへは来ていない。だったら誰が持ってるの?」。ボブはいぶかし気に答える。「分かりません。でも私が突き止めてみせます」。

次にボブはマイケル・ルドキンに話を聞きに行く。全国サブポストマスター連合会元執行役員で、富士通を訪れた翌朝に損失を生み出し、妻が犯罪者となってしまった元サブポストマスターだ。マイケルは「私が連合役員で留守にしていることが多かったので、妻が代わりに郵便業務を務めていました。ホライズンに関するシステムエラーで損失を生んだとき、私は妻を責めました。私のキャリアを潰した、ビジネスを破壊した、離婚する、とまで。奴らは、私の妻に罰を与えました。1ペニーだって盗んでいないというのに。なぜなら私が富士通の内部を、見てはいけないものを見てしまったからです」とボブに言う。

ボブはリーから話を聞く。「当初私はコンピューターのバグだと思ったのです。だから裁判でそれを説明しようとしたのだけど上手くできなくて。まるで巨大な暗い穴の中に落ちていくようだった。奴らが嘘をついているのは分かっていたし、自分が真実を述べているのも分かっていた。これは英国の正義だ。重要なのは真実を述べることだとだけだ、と...」。話を聞きながらボブが涙ぐんでいる。リーが「悲しい思いをさせるつもりはなかったんだ、ただ真実を話そうと...」と謝ると、ボブは言う。「あなたたちの話を聞くにつれ、どうすればこのように精神を保ち続けることができるのか...」。

セカンド・サイト調査員のボブはリーの話を聞きながら涙ぐむ。


ボブはポストオフィスへ戻る。非常に憤りながら。「リー・カースルトン!君たちが裁判まで持ち込んだ男だ、覚えているだろう?彼には一文もないことを分かっていたのに。君たちは彼を侮辱し、破産に追い込んだ!訳が分からない!君たちは非常に馬鹿なことをしたし、他のサブポストマスター達に恐怖を与えるために彼の顔に泥を塗ったんだ!一体君たちは何を考えているんだ!」

サムは被告席に立っている。弁護人は、損害が発生した後、ピンパッドは修理のために回収・再プログラムされた、つまり故障があったと主張。すでに3年が経過しており、判事はサムに無罪を告げた。

ジェームス・アーバズノット議員は、ポストオフィスのCEO、ポーラ・ヴェネルズとアランを前に調査が前進していることを報告する。ポーラは全面的に協力することを約束するが、アランはポーラに疑問を呈する。「なぜ調査対象は12件のみなのです?」。ジェームスは、選挙区内で12件の名前が挙がり、彼らに誤審が下っていたから、と説明しようとするが、アランは続ける。「被害者はもっといますよ。あなたには知らされていないかもしれないが、起訴こそされなかったものの、家を失い車で寝泊まりしている者、そのせいで健康を害した者...。当然彼らの話も聞きたいですよね。ここに彼らの資料があります。お見せしましょうか?」

セカンド・サイトの調査員ボブが、マイケルに電話を掛けながら、富士通のオフィスから出てくる。「マイケル、あなたが富士通のヘッドオフィスを訪ねたのは、8月19日で間違いないですか?」とボブ。マイケルは「はい、2008年のその日です。忘れることなんてできませんよ。あの日以来人生が変わってしまったのだから」と答える。「マイケル、訪問客リストの中にあなたの名前が無いのです。ポストオフィスはあなたの富士通への訪問自体を否定しています。あなたの訪問を証明するものはありますか?」と訊くボブに「4年も前のことですよ。ボブ」とマイケルは悔しそうに言う。

2012年12月27日、ジェームス・アーバズノット議員のオフィスで、セカンド・サイトの調査員ボブ・ラザフォードがアランと法廷会計士のケイ・リネルに調査報告をする。アランはボブが報告書内にたった3件のシステムエラーしか記載していないことに憤る。「47件を調査対象にしているのに!マイケル・ラドキンはどこにあるのです?彼はポストオフィスの嘘を証明できるはずだ」と言うアランに、ボブは「できないのです」と答える。ケイは「重要なのは個別に調査するのではなく、全面的なシステムの欠陥でしょう?あなたはそれを記載していない」と詰めよるが、「それに関する確固たる証拠が見つかっていないのです。システム的にと言うからには、ネットワーク全体がその影響を受けている必要がありますが、そうではないのです」とボブは答える。「だったら、ポストオフィスがちゃんとした調査もせずに、その権限を利用して人々を起訴まで追い込み、たった3か月の通知ですべてを終了させ、全財産を奪った事実はどうなんです?これはシステムの欠陥とは呼べないのですか?」と声を荒げるアランにジェームスは言う。「最初に同意したように、報告書は明確な証拠に基づいて作られるべきです」。アランはイライラを隠せない。

ボブはマイケルからの電話を受け取る。マイケルは富士通から来た訪問確認のEメールを見つけたのだ。

ボブは、マイケルの富士通オフィス訪問を明確にすべく、ポストオフィス、ネットワーク・サービス担当のアンジェラ・ヴァン・デン・ボガードと面会している。アンジェラは「確かに2008年8月当時、富士通ヘッドオフィスの地下にホライゾンのテスト環境がありました。もう一度言います。”テスト”環境です。マイケル・ラドキン氏が見たのは恐らくそれでしょう。しかしテスト環境では実際にライブのホライズンシステムには接続されていません。つまり、ラドキン氏が見たという画面上の取引は不可能なのです」とボブに報告する。

ボブはアランにこれまでのマイケル・ラドキンに関しての証拠を報告する。「富士通からの訪問の確認Eメールは、ポストオフィスの7人の重役の名前がカーボンコピーされています。しかし、彼らは未だにリモートアクセスは不可能だと主張しているのです。これに関しては、大変残念なのですが、あなた方が正しくて、ポストオフィスの主張が虚偽であると証明することは不可能です。しかし、私がポストオフィスで発見した資料のいくつかには目を疑うようなものもありました」。それは何なのですか?と訊くアランに「これに関しては、最初に話しておくべき人物が他にいます」とボブは答える。

ボブはジョーを訪れる。「あなたの捜査を担当したライアン・フレミング氏ですが、あなたは彼の報告書を見たことがありますか?2006年6月17日、彼はあなたのホライズン収支履歴を確認したが、窃盗の証拠は見つからなかったと報告しています」とボブ。ジョーは「その代わりに虚偽の会計報告で、私は有罪を認めました」と答える。しかしボブはこう続ける。「そうでしたね。でも証拠なしに彼があなたを逮捕する権限はないのです。つまり、あなたに有罪の司法取引を行わせる権利などないのです。ジョー、証拠がないということは、そもそもあなたを裁判にかけることなど出来ないのです」。ジョーは泣き崩れる。「何もかも失い、この10年間つねに胸の痛みを患って、眠ることも出来ず、人生を壊されて...それはすべて嘘の上に成り立っていたと?一体どんな人間がこんなことができるというの?」。ボブはジョーにかける言葉が見つからない。

ポストオフィスのCEO、ポーラ・ヴェネルズが、国会に提出された調査会社セカンド・サイトの報告書に関してのニュースを聞き入っている。「報告書には、ホライゾン・コンピューターシステムとポストオフィスの重役たち、そして信用できないハードウェアへの批判が含まれるとされていますが、ポストオフィスの広報担当は、ホライゾン・システムは全体的にしかるべき操作で稼働している、という調査結果が出ている、と話しています」。状況を懸念したポーラは受話器を取り、アランに連絡する。「アラン、これから私たちはどこへ行こうとしているのでしょう?」。アランは疑心暗鬼ながらも「実は私も同じことを考えていました」と答える。「一緒に進む道を考えませんか」と言うポーラに、「あなたが自分自身でちゃんとした形で進めたいというのなら。さあ、私に出来ることは何ですか?」とアランは返答する。

2013年5月2日、チェシャ― のEllesmere Port。サブポストマスターのマーティン・グリフィスは、集荷担当のポストマンに預かった荷物を渡し、一日の業務を終えようとしている。そこへ強盗が押し入ってきた。マーティンの手をハンマーで叩きつけ、窓口のドアをこじ開けると金庫からすべてのチェックやファンドを盗んでいった。後日、マーティンは捜査官の取り調べを受け、彼の郵便局の被った損失は£54,354,96であると告げられる。「警察は5分で到着した。ほとんどは回収できたはずだが」と尋ねるマーティンに、捜査官は「これは責任能力に関する取り調べです。小包用のハッチも金庫も開いたままになっていました。サブポストマスターの契約では、あなたは妥当な警戒措置でもって、現金と窓口の安全対策をするべきとなっています。そのため契約上、今回の損失はあなたの責任の所在するところとなります」と告げる。マーティンは郵便局の仕事を失う。実はこの時点ですでにホライゾンの損失を被っており、そこに今回の強盗被害が重なったからだ。妻のスーザンは助けを求めるため、アランに連絡をとる。ポストオフィスからの通告を読み上げて、「すべての損失に関してマーティンを非難し、ホライゾンに欠陥があったことは一言も述べていないのです」と訴えるスーザン。「損失はいくらになるんです?」とアラン。「すべて合わせて£61,000です。私たちの預金はすべて差し押さえられました。両親の預金も。アラン、もう渡せるものは何も残っていません」。

サブポストマスター協会のミーティングの日。開催するごとに参加者が増えている。リーは、すべてを失っただけでなく、子供たちへの影響を話している。リーとリサの子供たちは学校を変えざるをえなくなった。長女のミリーはちょうどティーンになりかけたころで、物が食べれなくなり、拒食症と診断された。ミーティングで元サブポストマスターのパムは「私の場合コンピューターが問題なのではなかったと思うの。なぜかと言うとしょっちゅうパワーカットが起こっていたから。1日に36回も。取引の途中にパワーカットが起こるとプツッ!ってね。あれじゃあ間違いも起こるはずよね。ちょうどホライゾンが導入される前に夫が亡くなって、私が業務を受け継いだの。でも彼らは新しい電線をきちんと繋いでなかった。これって、単純なことに関して、彼らがいかに役立たずかを示しているんじゃない? だから彼らがすべてを閉じてしまったときに私言ったの。もし私がその金を盗んだというのなら、今すぐ警察を呼べって。あれから全く眠れたことはないし、起きているときもずっと恐怖を感じてる」とすすり泣く。アランは妻のスザンヌに耳打ちする。「もし私が何らかの理由でもうあきらめる、と言ったら、パムのような人を私に思い出させてくれ」。

アランはミーティングで、ポストオフィスのCEO、ポーラ・ヴェネルズと話し合ったたことをメンバーに伝える。「新しい調査・調停スキームにより、ここにいるすべての人が相応の補償を申請できるようになりました」。ノエルやジョーなど、すでに有罪判決を受けた者や起訴された者もその権利を有するという。お金だけでなく、失った名声や、謝罪なども得られるかもしれない。ケイとアランが個々の具体的な事例の弁護を手助けする。しかし、リーは「でもアラン、本当に彼らを信用していいのか?」と疑心暗鬼だ。「彼らはすでにそのための資金を投資しています。やってみる価値はあるでしょう」とアランは答える。多数決をとり、メンバーはこのスキームを利用することに合意する。

ジーナが電話でアランと話している。「マーティンは、ずっと長い間、スタッフを疑っていたのです。誰かがレジからお金を盗んでいると。そしてそれが誰のせいでもないと分かると、彼は自分の責任だと思うようになりました。ホライゾンに関する欠陥が分かる前です」。アランはマーティンに電話を代わる様にジーナに言う。鬱を患っているマーティンは、しぶしぶ電話に出る。アランは、調停スキームのことをマーティンに説明し、いくらかお金が戻ってくるかもしれないので、申請するように促すが、マーティンは、これ以上話は出来ない、と受話器をジーナに渡す。アランは、申請書を送るから、提出するようにとジーナに言う。

マーティンは話すのを拒む。

セカンド・サイトの捜査官、ボブ・ラザフォードはアランに訴える。「こんなナンセンスな契約には絶対にサインしない。ポストオフィスは私に留まることを望んでいるが、こんな無意味なことはない。両手を後ろ手に縛られ、目隠しをされては捜査などできません」と憤る。ポストオフィスは、ボブが法的そして検察のファイルへアクセスすることを拒否したのだ。プロとしてこの仕事を遂行するのは不可能だ、というボブに、アランは「君の助けなしは出来ない。調停スキームが始まるんだ。一人で行くわけにはいかないんだ」と言う。しかしボブは「奴らを信じるなんて、あなたは馬鹿だ。奴らは嘘つきのクソ野郎集団です。あなたのそして私の時間を無駄にするだけです」と言う。しかしアランは「もし今やめてしまったら、どのクソ野郎がウソをついているか見つけることができない。奴らの知っていること。そしてそれをいつ知ったのか。しかもこの物語の結末がどうなるかも分からないままになってしまうよ」と言う。ボブは「私たちは二人とも頭がおかしくなってしまっていますね」と笑う。

マーティンは捜査官の取り調べで訴える。「小包が大量に入った袋がどれだけ大きいか知ってますか?ハッチなんかには入りませんよ。しかも、武器を持った強盗に”金庫を開けろ”と脅されたら、どちらにしても開けなければならない」。2013年9月23日、朝の支度をしている妻スーザンには姿を見せないまま、マーチンは早朝に車で家を出る。交通量の少ない道路脇に車を泊め、後方から路線バスが来るのを確認すると、運転席から降り立ち、走ってくるバスの前へ進み出た。警察がスーザンの元を訪れる。

マーティンは早朝に家を出た後、帰らぬ人となった。

アランはスーザンからの電話を受けている。妻のスザンヌに報告する「マーティンの意識が回復することはないそうだ。ジーナは延命装置を終了することに同意すると。とうとう死者が出てしまった」。

マーティンの訃報を聞いたリーとリサ。リサは「あなたも同じことを思っていたの?絶対にそんなことはしないで」と言い、二人ですすり泣く。

ポストオフィス、ネットワーク・サービス担当のアンジェラ・ヴァン・デン・ボガードが未亡人となったジーナを訪ねている。ジーナはマーティンが状況を訴えても何も変わらなかったこと、そしてそれが彼に深刻なストレスを生み出していたことを涙ながらに話す。アンジェラはジーナに「我々はあなたにとって最善の方法をとります。信じてください」と約束する。

アンジェラは、アラン、ケイ、ボブとのミーティングで、サブポストマスター達の調停スキームにおいて、亡くなったマーティン・グリフィスの件を優先して対処していくことを述べる。アランは「遺族に連絡を取るときは、必ず私を通すこと」と念を押す。アンジェラは、はい、同意します、と答える。ボブが調停スキームの開始を告げる。

パムが調停スキームで証言している。「私が以前、あなた方のシステムのARQデータを見せるようにお願いしたのを覚えていますか?私の支店のデータとの照合をするためです。私はすべての記録を保存していますので。しかしあなたは、私にはARQデータの判読は不可能だ、なぜなら私は馬鹿だからとかなんとか言って。さて、こちらの資料を見てください。ここに2時間に渡るお金の移動の記録があります。しかし、これは私によってなされたものではありません。なぜなら私はこの時間、接客をしていたからです」。ポストオフィスの面接官は言う。「ホライゾンには遠隔で支店を操作する機能はありません。スタブスさん、この調停ミーティングでは、我々は法的、道徳的に何かしないといけないという義務はありません。我々は、契約の大前提ーー損失を生んだら、それを弁償するーーということに関して、ここでお話しているのです」。

当初の予定された内容とは全く違ったミーティングに憤ったパムは泣きながらアランに報告の電話をかける。スザンヌは、アランに「調査スキームの開始が決まったとき、あなた少しでもあの人達を信用しようとしていたでしょ」と訊く。「恐らくそうだと思う。たとえ彼らが聞いた話がどれだけ悲惨だったとしても、たとえ私たちがどんなに努力しても、それでも彼らは理解しようとしない。事実彼らは自分たちが正しいと信じ込んでいる」とアランは言う。

アランは、実際の調停スキーム・ミーティングがどのようなものであったかをジェームス・アーバズノット議員に報告している。ジェームスは、「アラン、言っていることは分かります。しかし、この苦情状の最後に”あなたたちは真実の追及に全く関心がない”と書かれていますが?」とアランに確認する。「今まで彼らが行った調査に関する率直な感想です」とアラン。ジェームスは「もちろん大臣にこのことを報告することはできますが、その前に、ポーラに懸念を表明するほうが有益なのでは?」と提案する。「マーティン・グリフィスは死んだんです。ジェームス、この調停ミーティングはジョークもいいところです」と言うアランに、とにかくポーラと話し合いをしようとジェームスは言う。

アランとジェームスは、ポストオフィスのCEO、ポーラ・ヴェネルズ、ネットワーク・サービス担当のアンジェラ・ヴァン・デン・ボガードに面会をする。「この件に関しては、22名のスタッフがフルタイムで1年以上も調査をしています」と言うアンジェラに、ジェームスは、「しかし、一件も決着していませんし、人々は納得できないままミーティングから立ち去っています。しかも私たちはまだ誤審の申し立てをしているのですよ」と言う。ポーラは「刑事訴追に対する異議申し立ての正しいルートに関する我々の弁護士のアドバイスは刑事事件審査委員会を通して上訴する...」と答えようとするが、アランが遮る。「ちょっと待ってください。ポーラ、あなたは私に約束しましたよね」。ジェームスも「あなたは私に、私が冤罪であると信じており、この件のすべてが始まった人物である、私の選挙区の住人ジョー・ハミルトンにも調停を受ける資格がある、と個人的に約束しましたよね」と憤るが、ポーラは、「いかなる調停スキームも、刑事有罪判決を覆す力を持っていない、というのが弁護士のアドバイスです」と続ける。ジェームスは「ポーラ、あなたは間違っています。あなたは私との約束を破りました。そしてサブポストマスター達との約束も破りました。それは、議会との約束を破ったことになります」と宣告する。

ジェームスは国会で答弁している。「ポストオフィスは様々な面におきまして、国会議員への約束を破りました。もちろん、サブポストマスターというビジネスに、突如として犯罪者たちが侵入してきたと言うかもしれません。しかし、私はこれらの人々の数多くに面会してきましたが、個人的には信じません。率直に言いますと、私はもうポストオフィスを信用しておりませんし、これ以上交渉するつもりもありません。調停スキームに税金を投入し、それを妨害しようとしているのです」。ラジオでこれを聞いていたアランは、スザンヌに「ジェームスは、特別委員会から何らかの興味を得ることができるかもしれないと言った」と伝える。

ジェームス・アーバズノット議員は国会で答弁をする。

2015年2月3日、国会特別委員会。アラン、ケイ、ジェームス、ジョーが傍聴席にいる。答弁側に座ったのは、ポーラ、アンジェラ、そしてポストオフィスに雇われたセカンド・サイト社の調査員ボブだ。ボブは「私はこの12か月間、関係書類へのアクセスの要求に大半の時間を費やしましたが、拒否され続けました。その一つは富士通社との関連性に関するものです。最初にリクエストしたのは、2年も前になりますが、未だにこれらの書類が提出されておりません」と始める。同委員会のメンバーで、進行役を務めるナディーム・ザハウィ議員は、ポストオフィス側になぜ書類の提出がなされないのかを訊く。アンジェラは「セカンド・サイト社のリクエストにより、1年分のEメールを提出しました」と答えるが、「残念ながら、この提出されたEメールですが、リクエストした年のものではなかったのです」とボブは言う。さらに、「一番重要なのは、ポストオフィスが所持している法的・訴追ファイルへの全面的アクセスです」。ザハウィ議員は、「ポーラ、なぜこれらのファイルを公開しないのですか?何か問題でも?」と訊き、しとろもどろになるポーラに「私の質問に答えてください。彼らにこれらのファイル渡すことができますか?」と返答を求める。「リクエストされたこと自体を覚えていません」とアンジェラ。しかしザハウィ議員は、「どうやら内部はめちゃくちゃなようですね。ボブはあなたの組織は彼の独立した仕事を妨害している、と言っているのです。この見解は正しいですか?それとも間違っていますか?情報を公開しますか?イエスですか?ノーですか?」と詰め寄る。「情報公開の要請を受けたのは今日が初めてです...」とポーラ。「あなたは私の質問に答えていない、イエスですか?ノーですか?」とザハウィ議員。ポーラは、「ポストオフィスを代表してその質問にお答えする準備をしておりません」と答える。ザハウィ議員は、「分かりました。答えはノーですね。あなたは情報を公開しない」と断言する。ポーラは「違います。私はイエスともノーとも言っておりません。今の時点ではお答えできないと言っているだけです」と言い訳するが、ザハウィ議員は、「驚きましたね。政治的にも社会的にも繊細なこの問題のことを、あなたは何も知っていないようですね」とさらに糾弾。ポーラは「もちろん何が起こっているか知っています。ただ私はこの組織の代表として、これはポストオフィスの評判に関わる問題であると懸念しているのです」と答える。TVでこの答弁を観ていたスザンヌが「評判なんかじゃない!人々の生活、人生でしょう!?」と叫ぶ。ポーラは完全に打ち負かされた。

ナディーム・ザハウィ議員(なんと本人が本人役でカメオ出演!)はCEOポーラ・ヴェネルズを激しく糾弾する。
CEOポーラ・ヴェネルズは、委員会の審問で完全に打ち負かされる。


アラン達は当面の勝利を喜び合うが、ボブが苦い顔をしてやってくる。「ジーナ・グリフィスが調停スキームを辞退した」。そんなはずはない、と困惑するアラン達。ボブは、「もしかすると、奴らは私たちの知らないうちに彼女に会いに行ったのかもしれない」と言う。

委員会での聴聞後、ボブはアラン達にジーナが調停スキームから降りたことを伝える。


アランは亡くなったマーティンの妻、ジーナに会いに行く。「人生が変わるような金額ではないのです。でも家を売らずに済みました」とジーナは言う。アランは「その見返りとして、あなたは調停スキームから降りなければならなかったのですね。想像するに、その上あなたは、マーティンの件に関しては一切どこにも話さないという契約書にサインした...」と確認する。ジーナは頷く。「実はこうしてあなたと話すのも許されていないのです。彼らは私に連絡をしてきて、今日中に返事をするようにと言ってきました。アンジェラがここへ来たとき...」「アンジェラはあなたに会いにきたのですか?」と驚くアラン。「彼女はとても良い人でしたよ。ほかの人たちのことは知らないけど、結局は、人ってそんなに悪くない、という考えにしがみつくしかないでしょう?」。

2015年3月9日、アランはアンジェラから連絡を受ける。「良いニュースがあります。もうボブに報告書を書いてもらう必要はありませんし、あなたにロンドンまでお越し頂く必要もありません。ミーティングの必要もありません。新しい方法で進めていきます」と言う。アランは「調停スキームを閉鎖するのですね?」と確認するが、「いいえ違います。閉鎖するのではなく、単純化するのです。社内でそれを取り組むことにしました。すべてのケースを個々に取り扱います」とアンジェラは言う。アランはゆっくりと、「つまり閉鎖ということですね」と返答する。アンジェラは、「これまで18か月行ってきて、スピードアップすることが、皆にとってベストだからです。そう思いませんか?」とアランに訊く。アランは「あなたがそう思うなら」としか言えないでいる。

アンジェラは、調停スキームを単純化し、さらに社内で取り扱うことをアランに告げる。


ボブからアランへ電話「あなたに一言言っておきたくて。私はこれ以上あなたと話をすることを許されません」。ボブはポストオフィスから解雇されたのだ。「そもそも彼らには私とあなたをこの件から外すこと自体が許されていないはずなんですけどね」というボブに、「そもそも彼らには人々の人生や生活を台無しにして財産を奪う権利だってないはずですよ」と答えるアラン。ボブは「彼らは、今まで私たちに渡してきたすべての証拠資料を破棄するか、返却するように言ってきています。すべての捜査に関する資料をです。これまで3年間の仕事がすべて煙となって消えていくのです。アラン、本当に申し訳ない」。ボブはアランに別れを告げる。

2階で妻のスザンヌが泣いている。ガンが発覚したのだ。

手術を終えた病室でアランはスザンヌに告げる。「考えていたのだけど、もし12月までに弁護士が見つからなかったら、もう終わりにしようかと思っているんだ。12年だよ。コンクリートの壁に頭を打ち付け続けるにしては十分だろう?」しかし、スザンヌは病床から「もし今諦めたらその12年は私にとっても無駄だったことになるでしょう?」と言う。

アランやジョーを含む、元サブポストマスター達のところへ、ポストオフィスからの報告書が届く。ジョーはそれを見てアランに電話をかける。「私たちのことを馬鹿にしてるの?146ページのすべてが黒線で塗りつぶされている!」。報告書はほぼ全ページが黒く塗られている。アランは「何が削除されているのか知っているか?」とジョーに訊く。「黒で隠されているから分からないですよ!でも確実に、私の捜査官ーー私が窃盗を犯したという証拠はなかったと認めたーーの残したメモ、誤審だったと証明したメモがここにないのは分かります!」。アランは「馬鹿げている」とつぶやく。

2015年4月20日、ジェームス・アーバズノット議員とジョーはラジオ番組に出演している。「サブポストマスター達は自分たちの権利として、情報公開を要求していますが、ポストオフィスはこれを拒んでいます。これは不可解としか言いようがありません」とジェームス。ラジオのプレゼンターは「ポストオフィスは、”2001年以降に導入したホライゾン・システムを使用するサブポストマスターが全国に約50万人いるにも関わらず、調停スキームに参加したのは、この10年でたった150人。不正義が蔓延しているという考えは、単に真実ではない”、と言っています」と話すが、ジェームスは「それには同意できません。実際コミュニティーの柱として働いていた人々が名声を失いました。中には収監された者もいますし...少なくとも私が知る限りでは、一人は命を絶ちました」と返す。そしてジョーは「私は何も悪いことはしていません。1ペニーだって盗んでいません」と断言し、最悪なのはすべての損失はサブポストマスターが補償するという契約を交わされているという事実だと説明する。プレゼンターは「ポストオフィス側にもインタビューを試みましたが、返答はありませんでした」と締めくくる。

この放送を聞いている人物がいた。弁護士のジェームス・ハートリーだ。ジェームスはアランに連絡をとり、何か手助けができるかもしれないと告げる。二人は面会する。アランはジェームスに言う。「私は今までの弁護士たちにこう言ってきました。”私たちは、英国政府が所有している敵と戦っているんだ”と。奴らは強大で、納税者からの金を際限なく使うことができます。それに対して、我々は一文無しとなった一市民です」。ジェームスは笑って答える。「私は契約法が専門ですが、この契約書、114ページがまるでゴミです。しかも期限がきれています。ありえないのは郵便局内ではギャンブル禁止と書いてありながら、宝くじの販売は許されている...」。しかしどんな形であれ、我々はこの契約書にサインしてしまったのです、と言うアランに「双方にとって適正に理解されていない契約書というものには、必ずしも法的拘束力は発生しません。資金さえ集まれば、法廷で争うことができます。リスクを考慮した上で、資金を投資してくれる人たちがいますが、こちら側にも人数が必要です」とジェームスは伝える。それだったら調停スキームには130人の志願者がいた、と答えるアランに、ジェームスは「少なくとも500人は必要なのです」と言う。アランは「分かりました。できます」と答える。

アランに、富士通のテクニカル・サポートで働いていたという男から電話が入る。2008年8月に富士通オフィスでマイケルを案内したリチャードだ。「私があなたと話していることを誰にも知られたくないのですが、奴らは嘘をついています。彼らは支店のアカウントにはリモートアクセスは不可能だと言っていますが、富士通のオフィスの中には、ホライゾンの数字を訂正する部署があり、昼夜を問わず大勢の人が働いています。もちろん誰もそんなことは認めないでしょうけど。コーディング・エラーやバグ、データの変造、毎日火消しに追われています...」。

元サブポストマスター協会のミーティング、第1回目の集会から8年が経過している。そして今回集まったのは、555人。今回は弁護士のジェームス・ハートリーも参加している。ジェームスはメンバーたちに裁判について説明する。「まずは資金ですが、ハイリスクの専門の投資家達がいます。もし我々が裁判に勝てば、補償金から彼らに配当が返金されます。もし負ければ、彼らは金を失うことになりますが、これが投資なのです」。アランは続ける。「買っても負けてもコストは莫大です。もしかしたら我々には1ペニーだっで入らないかもしれない。そして明確にしておきたいのは、この訴訟はここにいる全員が対象ではありません。ジョー、ノエル、すまないがこの裁判で有罪を覆すことはできません。さらに、破産をなかったことにすることもできませんし、差し押さえられた家を取り戻すこともできません。これで健康を回復することもないでしょう。法に裏切られた今、一つだけ言いたいことがあります。私たちをひとつにしたものは何か、我々が今まで闘ってきたのは何のためなのか...。補償、正義、それもあります。でも最も大事なのは”真実”です。真実なしにはこれはなしえないのです。法に従ってポストオフィスにファイルを開かせ、彼らが知っているすべてのことを我々が知ることになるのです。それは、真実なのです」。多数決で訴訟を起こすことを決議する。

アランと弁護士のジェームス・ハートリーは、今回の訴訟で訴追側弁護人となるパトリックのオフィスでどのような戦略をとるのかを話し合う。パトリックは、ポストオフィス側はすべてのファイルを開示する義務があると強調した上で、一つ際立った事実があると言う。「それはホライゾンの不具合についてヘルプラインに電話したすべての人が”あなたのところだけです”と言われたことです」。ジェームスは、このセリフに関してヘルプラインのマニュアルを確認する必要があると要求したが、ポストオフィスは”マニュアルなどない”と返答した、と言う。パトリックは、「しかし、どのような企業のヘルプラインにも電話応対の定型マニュアルは存在します。彼らは確実に嘘をついています」と続ける。それでは、すべての情報の開示を要求する、という前提はどうなるのか、と訊くアランに、「何を要求しても、ポストオフィスはその記録は存在しない、もしくは今回の件とは関係性がないと言うか、もしくは、書類が提出されても、原型を留めないくらいに編集されているか、削除されています」とジェームスは答える。

裁判は5件の訴追に関して個別に行われることになったが、ジョーには前科があるため裁判で証言することはできない。

アランと弁護士のジェームス、訴追側弁護人となるパトリックは、裁判に関するリサーチをするが、パトリックは、ポストオフィスのCEO、ポーラ・ヴェネルズが3年前に送ったEメールのコピーを入手している。「ポーラはこう書いています。”システムに遠隔操作でアクセスすることは可能なのか、不可能なのか。我々は可能だと言う報告を受けている。本当の答えは?”。続けてポーラは”私は’いいえ、それは確実に不可能です。なぜなら理由はXXXだから’と言わなければならない。だから事実を知る必要がある”と管理職たちに書いています。つまり、遠隔操作が可能であることを証明できれば、すべての有罪判決は揺らぎます」。アランは法廷でポーラがこれに関してどのような証言をするのかを楽しみにしている、と言うが、ポストオフィス側が提出した証人リストにポーラの名前はなかった。そしてさらに悪いことには、証人リストにある、ネットワーク・サービス担当のアンジェラ・ヴァン・デン・ボガードは、証言記録に”サブポストマスターは、単独で彼らの支店アカウントの責任を負う。本人の同意なしに口座に入る取引は存在しない”と記述している。アランは「それは嘘だ」と憤る。「私はそれを証明できる人物を知っています」。

弁護士のジェームス・ハートリーは、アランに連絡をしてきた富士通の内部告発者リチャードと面会している。「サブポストマスターのコンピューター・スクリーンを目の前に映し出すことができるのです。それを見ていると、今はその人が忙しいとか、今は切手を売っているところだ、とかが分かります。私たちはサブポストマスター達のIDを使って侵入し、問題の原因を突き止め、修正し、立ち去ります。彼らには全く気付かれずに」。ジェームスは「まるでサブポストマスターが自分で数字を変えたように見せるのですか?リチャード、もし問題の原因が見つからなかったり、訂正できなかったりしたらどうなるのです?」と訊く。リチャードは「分かりません。それはサブポストマスターの責任?になるのでしょうか。アランにも言いましたが、私は裁判に行くつもりはありませんし、首を突っ込みたくありません」と拒否する。事実リチャードには裁判で証言するための正式に提出する書類や証拠がなかった。

2018年11月7日、裁判初日、アランは最初の証人として証言台に立つ。ポストオフィス側の弁護人は、支店内で起きたすべての損失は大小関わらず、サブポストマスターの責任である、という契約にサインしたことを筆頭に、これらの損失が、アランもしくは他のスタッフのエラーによって起こされたことを認めさせようとするが、アランはすべてに「NO」と断言する。続いてパムが証言台に立つ。夫の死後、1999年8月3日にサブポストマスターの仕事を受け継いだことを述べる。被告弁護人は、19年以上の前のことなのであなたの記憶は曖昧でしょうが、と質疑を始めるが、パムはそんなことはありません、とはっきり言う。会計監査上に示された£18,000以上の損失に伴う業務の停止に関しては、「愕然としました。そして憤りを感じました。なぜならこの6か月間、この損失の原因究明に力を貸してくれるようにポストオフィスには再三要請しました。電話や手紙の攻撃が凄かったからです」と証言。しかし被告弁護人は「普通の人だったら、そんなに手紙や電話が来ればまず、契約書を読み直すでしょう。自分にどんな権利があるのかを確認するために」と反論する。パムは言う。「できませんよ。私は自分の郵便局に入ることを許されなかったのです。彼らが私の会計監査を閉じたその日に私から鍵を取り上げ、立ち入り禁止にしたのですから」。

法廷で堂々と証言するパム。

休廷中、弁護士のジェームスはサブポストマスターの一人モハメッド・サビアに彼が証言台に立つことを伝えている。「555人のサブポストマスターがいるのになぜ私なのですか?」と尋ねるモハメッドに、ジェームスは、この裁判では、相手が証人リストからお互いの証人を3人ずつ指名することになっていると説明する。「恐らく彼らがあなたを選んだのは、あなたに会計士の資格があるので、あなたを不誠実かつ間抜けにみせようとしているからです」。

証言台に立つモハメッドは、「当初は、このビジネスを買って、運営し、生活を良くし、コミュニティーに貢献することを考えていました。それが主な野心です。ですので、明確かつ正直に言いますと、どんな契約書にも恐れずにサインしました。それは彼らが私に与えてくれるすべてのことは良いことであると信じていたからです。それに関しては前向きな考えを持っていました」と証言する。しかし被告弁護人は、「しかし、£4,878の損失は深刻なものですよね?そう思いませんか?」と詰め寄る。「いえ、思いません。私は何が問題なのかを彼らに説明しました。私が提出したすべての書類を読んでいますか?私はポストオフィスのヘルプラインに電話をかけ、”私に電話で説明するか、もしくは私のオフィスへ来てこの問題を解決してくれませんか?”とお願いしました。しかし彼らは言ったのです。”あなたを信じていません。業務を停止します”と。私は自分がポストオフィスのために働いて、すべてを失うとは思っていませんでした!」。モハメッドは憤る。

ネットワーク・サービス担当のアンジェラ・ヴァン・デン・ボガードが証言台に立ち、パトリックが証人喚問をする。「この書類を見てください。著作者の一人はあなたとなっています。”ホライゾン・ヘルプは10年以上前に導入されて以来、ホライゾン展開の一環として約束された、サブポストマスターとそのアシスタントが切実に必要としている機能を提供できていない”。これは、この状況における正直かつ率直な内部認識ですね。ユーザー・エクスペリエンスに不十分な点があったと」。アンジェラはしどろもどろになりながら言う。「なんと言えばよいでしょう...。”扱いにくい”、これが適切な表現です」。「”扱いにくい”。それならなぜあなたはこのことを証人陳述に記載しなかったのですか?」とパトリックが訊くと、長い沈黙の後、アンジェラは「分かりません。恐らく私の証人陳述は長くなりすぎて...」と言うが、判事は「証人陳述の長さに規制があったということを言いたいのですか?」と尋ねる。「とにかく長くなりすぎたのです。そう感じたのは私だけかもしれませんが...」。アンジェラは言葉に詰まる。パトリックは喚問を続ける。「2015年1月30日、ポストオフィスのCEO、ヴェネルズ氏は、Eメールで、”システムに遠隔操作でアクセスすることは可能なのか、不可能なのか。私は’いいえ、それは確実に不可能です’と言わなければならない”と書いています。2015年の時点で、ポストオフィスがホライゾンのデータにリモートアクセスできないと言うのは誤ってますよね?」。アンジェラは、「ポストオフィスには不可能です」と答えるが、パトリックは、「富士通を通してなら可能ですか?」と尋ねる。アンジェラは深く深呼吸した後、長い間を置いて答える。「富士通を通してなら...可能です」。法廷内がざわつく。パトリックは重ねて「私には、あなががポストオフィスにダメージを与えることはすべて受け入れを躊躇しているように感じるのですが。ポストオフィス・ブランドを守らないといけないというプレッシャーは感じていますか?」と訊く。アンジェラは、「今この瞬間は感じていません」と答えるが、判事は「”ポストオフィス・ブランド”とは、厳密に言うと、どういう意味なのですか?」と訊く。アンジェラは「それは...、我々がどのように業務を遂行するか、どのように振舞うか、どのように人々と交流していくか...それを随時確認していくことを意味しています」。

2018年12月31日、ポストオフィスのCEO、ポーラ・ヴェネルズ氏は新年叙勲者リストに名を連ね、CBE(Commander of the Order of the British Empire、大英帝国勲章司令官を受け取ることになった。

弁護士のジェームスとアランは、富士通の内部告発者リチャードと面会している。ジェームスはリチャードに、ポストオフィスが裁判でリモートアクセスが可能であることを認めたが、彼らはサブポストマスターの理解と許可なしにはあり得ないと主張していることを伝える。「それは嘘だ」とリチャードは言う。「でももう15年も前のことだし、詳細は覚えていません。悪いが助けることはできません」。アランは「そんなに難しいことでなないのだよ、リチャード。ただ判事に真実を述べるだけでいいんだ。それが私たちにとって大いに助けになるし、君はその後も普通の生活が送れる」とリチャードを説得する。

リチャードは証言台に立つ。震えながらも、リモートアクセスに関しては、富士通が収支の数値を変更することができること、しかもそれをサブポストマスターに判別されることなく行えることを証言する。「支店レベルのホライゾン・システムへのリモートアクセスは広範囲に及んでいました。サブポストマスターが作業している間でも、気づかれることなくデータを変更したり、取引情報を変更したりすることができました」と断言する。

リチャードの証言後、アランとジョー、そしてセカンド・サイト社の調査員だったボブはパブで飲んでいる。ジョーは「ボブ、もう何年も前の話だけど、私が初めてあなたに会った時、私はあなたに一つ質問したわよね」と訊く。ボブは頷きながら、「”ボブ、あのお金はどこに行ったの?”」と答える。「彼らが私から取り上げた£36,000」とジョー。ボブは、「まだ確実に証明することはできないけど、でも証明してみせるが、私が思うに、君が支払ったお金は、一時(いっとき)何らかの口座に保留された後、2,3年後に、君のお金、みんなのお金は、彼らの利潤として口座に現れた」と説明する。「盗んでもいない、実際にありえなかった、実に私の損失を埋めるために彼らが私から盗んだ私の£36,000は、ポストオフィスの利益となっているの?彼らは無能なの?それとも悪魔?」とジョーは怒りに震えながら言う。

判決の日。判事は「ポストオフィスはそのウェブサイトにて、”英国で最も信頼されているブランド”と自称しています。とはいえ、このような主張をする人たちにしてみれば、これはまったくの希望的観測に過ぎないでしょう。ポストオフィスの証人たちは、ポストオフィスが間違いを犯しているかもしれないという可能性を考慮することを、単純に許さないという印象を私に与えました。そうすることによってもたらされる結果は、考えるに余りあるものだからです。ベイツ氏は、私には、正直に証拠を提出する人間に見えましたが、ポストオフィスにとって彼は、理不尽で頑固であり、彼らをかなりいらだたせる存在であることを証明したと言えるでしょう」と述べる。判事の見解はかなり明白に見えたが、アランを含め、訴追、弁護側双方が再び法廷に呼ばれる。判事は目の前の文書を読み上げる。「つい5分前に受け取ったばかりですが、これは、この訴訟手続きの管理裁判官である私の退席を求める申請書です。被告弁護人、もう少し詳しく説明してもらえますか?」。ポストオフィスは判事が彼らに対して偏見を抱いているとし、この裁判から降りることを申請したのだ。

弁護人のジェームスとアラン。

アランは弁護士ジェームスとパトリックのオフィスにいる。ポストオフィス側が裁判官をクビにした時点で、彼らがどれだけ焦っているかを示しているし、裁判はこちらに勝ちが傾いている。しかし、新しい判事を迎えて、さらに裁判の再開を待つには時間がかかりすぎる。アランは「ポストオフィスは出来るだけ時間をかけて、こちらの金が底をつくのを狙っているのだろう」と言うが、ジェームスは深刻に答える。「アラン、実はもう資金が底をついているのです」。裁判に持ち込むことが決定してから最初の公判までも1年以上がかかった。もうこれ以上遅らせることは資金的に無理だと言う。「ここで終わらせることは出来ない」と言うアラン。しかしジェームスは、これで終わりと言うわけではないが、そろそろ和解へ交渉をはじめるべきだ、と言う。「交渉ならこれまで何度もしてきましたよ。そして人々は死んでいった。世間には私たちの存在を聞いたこともなければ、自殺し、壊された人生を知らない人だって大勢いる。未だに恐怖で出て来れない被害者もいるでしょう。私はここですべてをあきらめて、ポストオフィスに再び人の生活を壊すようなビジネス・ライセンスを与えるために、20年も闘ってきたわけではないのです。我々は勝たなくてはいけないのです」とアランは憤る。しかしパトリックは言う。「アラン、我々は勝ったのです。裁判に勝つとはこういうことなのです。あなたには負けているように見えるかもしれませんが、本当にそうではないのです。どんな訴訟でもこのように終わるのです。止め時を知り、交渉を始めるのです」。

ラジオではポストオフィス側が£58ミリオンの賠償金を支払うことで和解したことを伝えている。一方、弁護士のジェームスとパトリックが、訴訟に加わった元サブポストマスター達を前に結果を報告する。パトリックは、裁判に勝ったこと、自分のキャリアを通じてもこのような圧勝は見たことがないことを告げ、元サブポストマスター達は喜びを分かち合うが、続けて裁判にかかったコストそして投資家への配当は避けることができないと伝える。ジェームスは躊躇しながら賠償金の残りを報告する。「すべてを差し引くと£12ミリオンになります」。ざわつくサブポストマスター達。「12ミリオンを555人で分けるということですか?それって£20,000ずつってこと?」とリーが言う。「そんなの私たちが失ったものの微塵にも届かない」。パトリックは「おっしゃっていることは理解できます。だが、今回の勝訴・和解はこれから様々な意味でドアを開けるのです。有罪判決を受けた者はこの判決でもって、上訴することができます」と言うが、サブポストマスター達は納得しない。アランは「今回の裁判は、これまで出て来れなかったサブポストマスター達が恐怖を感じずに表に出て来れることを証明したのです。最初に何度も話し合いをしましたよね。1ペニーだって取れないかもしれない。でもやってみる価値はあると多数決をとりましたよね」となだめるが、ジェームスとパトリックには支払われるんだろ?と喧々諤々となる。ジョーが立ち上がって言う「私は傍聴席にて、私たちが大きな勝利を挙げていくのを毎日のように見てきました。それもすべてここにいるパトリック、ジェームス、そしてアランのおかげなのです」。サブポストマスター達は不服そうに部屋を出ていく。アランはジョーに言う。「今回の判決を利用するんだ、ジョー。上訴して、無罪を勝ち取るんだ。誤審がどんなものであったか、見せてやりなさい」。

アランはまだあきらめてはいなかった。彼は、ジェームス・アーバズノット議員のオフィスにいる。セカンド・サイト社のボブも同席している。アランは「政府はポストオフィスにとって唯一無二のオーナーです。つまり、結局のところ、英国政府はこの大失敗の責任を引き受け、我々にふさわしい補償金を支払わなければならないのです。裁判で我々が正しいことは証明しました。次はこの555人の生活を元に戻すことにフォーカスする必要があるのです」と言う。ジェームスは「アラン、2013年の夏、ポストオフィスは内密に、独立した法的アドバイスを依頼していました。この弁護士の報告書は、ポストオフィスが嘘をつき、国会を侮辱していたことを疑う余地なく立証しています」と言う。ボブが続ける。「また、我々が調査を行おうとしている間中、ポストオフィスの幹部たちは文書をシュレッダーにかけており、決定的な証拠なく有罪になっていることを知っており、それを公表していなかったことも証明されています」。

2021年4月23日、誤審により有罪判決を受けた、ジョーやノエルを含む47人の無罪が確定する。しかし残念ながらそのうち3人はすでに他界していた。

有罪を覆し、無罪放免の宣告を受けるジョーとノエル。

マスコミからインタビューを受けるジョーやノエル。他のポストマスター達が抱き合って喜ぶのをTVで観ながら、アランはコンピューターに向かい、請求書を作成する。宛名は郵政大臣。「555人の原告にかかった訴訟費用、合計£46,843,853 プラス利子が8%...」とタイプするアラン。「政府に私たちの訴訟費用を請求するなんて、一体何考えているんだか」とあきれるスザンヌにアランは言う。「彼らが支払うべきだよ。ポストオフィスのオーナーなんだから。一人株主だ」。

判決後に喜びあうサブポストマスター達。
ボブと抱き合って喜ぶジョー。


エピローグ

自分の郵便局を失って20年、アラン・ベイツはいまでも他の被害者たちの賠償金獲得のため闘い続けている。ポストオフィスはホライゾンによってなされた経済的損失で3500人のサブポストマスター達を非難した。700人が有罪判決を受け、236人が収監された。4人のサブポストマスターが自ら命を絶った。現在に至るまで、上告により、93件の誤審が覆されている。現在は、2009年にアランが要請した公聴会が行われている。しかし、裁判に原告側で参加した555人のサブポストマスターうち、18人は正義や賠償金を見ることなく亡くなった。ポストオフィスの幹部たちは未だ誰一人として訴追されていない。

(ドラマ終わり)

このように全4話のドラマは終了する。

ここではドラマの内容だけにフォーカスしたが、実は俳優陣もかなり豪華だ。まずはアラン・ベイツを演じた我が(?)トビー・ジョーンズ。こちらのメディアに「凡人を演じさせれば天才」のような誉め言葉があるが言い得て妙だ、と納得してしまったが、いや、BBCドラマ『シャーロック』でのヴィラン役もえらい怖かったぞ。セリフのテンポや声のトーン、間の取り方や表情まで、天才と言うのは同意してもしきれないほど、素晴らしい役者さんだ。そして、ジョー役のモニカ・ドーラン。最近はシリアスな役も多いが、BBCシットコム『W1A』のようなコメディーにも登場していた。最後に、ボブ役のイアン・ハート。『ハリーポッター』が有名かもしれないが、チャンネル4のTV映画『HELP』など、厳しい選択を迫られる人情味の熱い役を淡々とこなす。

下の記事で、本人とそれを演じた役者を見ることができる。


そして、この事件だが、まだ完全解決のめどがついておらず、このドラマが作られた後も、放送された後も、事態は変わっている。

こちらは2022年3月にBBCが報じた記事。

ドラマ放送後、急展開したことを伝える記事。


今年1月14日に解説が更新されている。


今後も展開を見守って行きたい。

(終わり)













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