見出し画像

1970年代初頭に、タイのバンコクを拠点に、連続殺人を行い、「毒蛇」との異名をとった実在の人物、チャールズ・ソブラジ(Charles Sobhraj)に関するドラマ。BBC『The Serpent(ザ・サーペント)』全8話あらすじ(ネタバレあります)


パリのテレビ局。チャールズ・ソブラジへの初インタビューが収録されている。

画像1

(1997年、チャールズ・ソブラジは釈放後、初のインタビューを受ける。)

インタビュアー「あなたは危険な人物なのですか?本当はこれらの殺人を犯したのですか?」

チャールズ「裁判所は"ノー"という判決を下しました。私は、疑惑・申し立てにも対応しましたし、裁判にもかけられました。そこで、裁判所が結論を出したんです」

インタビュアー「それは質問の答えになってませんよね」

チャールズ「これが私の答えです」

インタビュアー「中には"うまく逃げやがった"と言うひともいるでしょう」

チャールズ「それは"タイムス・マガジン"が言っていることですよね。恐らくそれは真実でしょう。でも、どちらにしても、私を再び裁判にかけることは出来ないのです。世界中のどこででも」。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

BBCドラマ『 The Serpent(ザ・サーペント)』はこのようにして始まった。

『The Serpent』(serpentは、毒蛇の意味)は、1970年代初頭に、タイのバンコクを拠点とし、連続殺人を行った実在の人物、チャールズ・ソブラジ(Charles Sobhraj)に関するドラマ。ソブラジは、バックパッカーで中国・インド・東南アジアを訪れた欧米の若者たち("ヒッピー・トレイル")をターゲットに、彼らに薬を盛った後、パスポートや現金を奪い、最後には殺害するということを繰り返した、残忍極まりない連続殺人犯である。

こちらの記事は、BBCで放映された『 The Serpent』を、内容にできるだけ忠実に沿って書いたものである。ドラマ自体が、時の変遷を過去と現在を交互に行き来しながら織り交ぜて作ってあるので、特に前半は、読んでいて時間の感覚が掴みにくいかもしれないが、〈現在〉を軸に過去の記述はそこから〈〇か月前〉と記載し、最後には内容が意味を成すように努めた。内容に関してだが、BBCは、『作品自体が、事実に基づいたイベントのドラマ化であるため、犠牲者やその家族の心情を考慮し、一部の登場人物の名前は変えてあり、また作中のセリフや設定などは想像上のものである』ことを既に述べている。

【以下ネタバレあります。全8話分ですので長いです。また、この記事は殺害や遺体に関する記述を含みます】

本名:チャールズ・ソブラジ(偽名:アラン・ゴルティエ、アラン・シャンティエ、ダニエル、すべて同一人物です)

本名:マリー・アンドレ・レクラーク(偽名:モニーク)


『The Serpent(ザ・サーペント)』オフィシャル・トレイラー

〈以下主要登場人物とキャスト〉

画像130

画像131

画像132

画像133

画像134

画像135

画像136

画像137





=============================================

画像9

〈1975年11月〉タイ、バンコクにあるコンドミニアム"Kanit House"では、パーティが催されている。大音量の音楽が流れる中、若者たちが集い、アルコールを片手に楽しそうに談笑している。

画像127

そんな中、コンドミニアムのアパートの一室で一人の男性がもがき苦しんでいる。このアパートの住人、アラン・ゴルティエ (Tahar Rahim)は恋人モニーク(Jenna Coleman)に薬を調合するように言い、ミルク入りの混ぜ薬を飲ませる。しばらくして男は息絶える。

画像2

男のバッグをあさるアラン。現金とトルコ国籍のパスポートを見つけると、アランは男の写真をはがし、パスポートの写真を自分のものに替えた。

画像7

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同年、アランとモニークは、宝石ディーラーとしてのビジネス旅行で香港を訪れていた。アランは、とある宝石店でオランダ人のバックパッカー、ヴィムを見つけ話しかける。ヴィムはガールフレンドのレナに贈る指輪を探していた。

画像31

アランは、ヴィムの見ていた指輪の値段を示し、自分から買えば、高品質の宝石を安くで譲ることができるとオファーし、名刺を渡す。

画像32


画像8

その夜、アランとモニークはヴィムとレナに再会し、美しいサファイヤを見せる。

画像33

ヴィムとレナは指輪を購入する。仲良くなった4人は時間を共にし、アランとモニークは、ヴィムとレナをバンコクの自宅へ招待する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈2か月後、現在〉バンコクのオランダ大使館。館員、ハーマン・ケニッペンバーグ (Billy Howle)は、旅行中の自国のカップル二人が「タイのバンコクに行く」という便りを最後に、行方が分からなくなっているという連絡を受ける。オランダの家族は、彼らの写真をバンコクの大使館へ既に郵送しているので、それを頼りに無事かどうかを確認してほしい、と言う。

画像12

オランダの家族は、この2か月間カップルから何の知らせもない、と言う。


ハーマンは急いで、大使に相談するが「あの長髪の奴ら」とヒッピー達を蔑み、「捜索は大使館の仕事ではない、警察に依頼しろ」と、取り扱おうとしない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈遡って2か月前〉オランダ人カップル、ヴィムとレナは、香港で出会ったアランとモニークの招待を受け、バンコクへ来ていた。入国管理で、滞在先に"サンタ・クルーズ・ホテル"の名前を記入するレナに、ヴィムはアランのところに泊まるんだよ、と言うが、レナはそこまでお世話になるわけにはいかない、と言う。しかし、空港ロビーに出ると、迎えの男アジェイが二人を待っていた。まずはホテルに向かう、というヴィムとレナに、あのホテルは最悪だ、設備は悪いし、泥棒もしょっちゅう、と言い、半ば無理やりアランのアパート、Kanit Houseへ連れていく。

画像34

「君たちを連れて帰らなかったら、僕がアランに怒られるからね」とアジェイは二人に言う。


画像35

ヴィムとレナは、、Kanit Houseでアランとモニークに再会する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈現在〉ハーマンは、タイ警察に捜査を依頼しようとするも、警察は「休暇中」とのことで後に再度連絡するように言われる。そこで、ベルギー大使のポール・シーモンス(Tim McInnerny)に相談する。ポールは、それは大使館の仕事ではないし、なによりも面倒くさいことに足を突っ込んで、自分のキャリアを棒にふるうな、と忠告する。しかし、本当にこのカップルを見つけたいのであれば、まず、彼らが本当にタイに入国しているかを確認しろ、とアドバイスする。

画像3

ポール「もし、彼らがタイに入国しているのであれば、入国カードには滞在先も記入されているはずだ。また、国からの郵便物が中央郵便局の私書箱へ届くはずなので、それが回収されているかをチェックしろ」。

ポールのアドバイスに従い、ハーマンは、空港へ向かい、入国カードを確認する。二人は確かにタイに入国している。しかし、郵便局に問い合わせると、そこには6通の手紙が届いていたが、未回収のままだった。ハーマンは入国カードに書かれていた"サンタ・クルーズ・ホテル"を、ドイツ人の妻アンゲラと訪ねる。いわゆるヒッピー旅行者の御用達ホステルだ。


画像83

しかし、オランダ人カップル、ヴィムとレナの宿泊記録はなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈時は遡って4か月前〉アランは、サンタ・クルーズ・ホテルのプールサイドに座り、一人の女性がチェックインするのを見ている。

この女性は、アメリカから訪れたテレザ・ノウルトンで、翌日早朝にはネパールへ向かう予定だ。テレザはこのホテルで仲良くなったシリアとバーへ繰り出す。そこへアジェイが現れ、パーティをやっているところがあるからそこへ行こう、と二人を誘う。シリアは断るが、テレザはこう言う。「明日ネパールへ向かうのは、そこで仏尼になる為なの。尼になったらもうパーティに行くことは出来ない。これは私にとって最後の夜になるの」。そして、シリアを置いて、テレザはアジェイと姿を消す。

画像127

テレザはアランとモニークのパーティに到着する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

画像4

〈現在〉ベルギー大使のポールはハーマンにオーストラリア大使のレイバーを紹介する。ハーマンがオランダ人の若いカップルを探しているという話をレイバーにすると「奴らはただの仕事嫌いの渡り鳥だ」とバカにする。そしてある話を始める。「オーストラリア人カップルがタイ警察の遺体安置所に収容されている、という情報を受けたんだ。死体は南へ58キロくだったアユタヤで発見された。彼らは殺害されたあと、火を着けられていて、顔認証は不可能だった。警察は、この旅行者はオーストラリア人のジョンソンとロザーナ・ワトソンだと断定したんだ。しかし、その後何が分かったと思う?この居なくなったはずの二人はなんと別の島で悠々と旅行を楽しんでいたのさ」。レイバーは続ける。「あのクソったれヒッピーが!余計な手を煩わせやがって。いいか、奴らを探すなんて時間の無駄だ!」。困惑したハーマンはレイバーに尋ねる「だったらその2つの死体は一体誰なんだ?」。レイバーは言う、「知ったこっちゃない。もう俺の問題じゃないね」。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈時は遡って2か月前〉Kanit Houseでは、アランが、香港で出会ったオランダ人のヴィムにビジネスの話を持ち掛けている。「今、君が見た宝石2つは、アムステルダムに持って帰れば、15.000ギルダーの値が付く。僕から宝石を買って、オランダに持ち帰るんだ。2倍の値段で売れるから」と言う。

画像11

インドネシア人とのハーフのヴィムにアランは言う。「僕たちのような、肌の色が違う人間は成功するのが難しい。僕は君を助けたいんだ。」

画像84

一方モニークも、アランから宝石を買うよう、レナを説得する。

しかし、ヴィムもレナもビジネスには興味を示さなかった。

そしてその夜、ヴィムとレナはディナーの席で激しく嘔吐する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈4か月前〉パーティの行われているKanit Houseのアラン宅で、テレザはここで働いているフランス人のドミニクと出会い、2人は仲良くなる。しかし、アランはドミニクに仕事を命令し、テレザに話しかける。アランはテレザが所持しているトラベラーズ・チェックに素早く目を走らせ、宝石の売買ビジネスをほのめかす。しかしテレザは断り、明日には尼になるため、ネパールへ行くのだという。アランは言う「それだったら君を最後の夜のお祝いにナイトクラブへ連れて行ってあげるよ」。

画像5

アランとアジェイはテレザを車に乗せてストリップクラブへ連れていく。しかし、テレザはそこでアランより薬物の入った飲み物を与えられ、自分で立つことすらできなくなる。

アランとアジェイは、もがき苦しむテレザを再び車に乗せ、ビーチへと向かう。どこに彼女を放置する?と訊くアジェイにアランは海を指さす。「彼女はすべてを見過ぎた」。

戸惑うアジェイにアランは話だす。

「昔、パキスタンのペシャワールでタクシーを盗んだことがあった。テヘランに行くためにね。運転手が抵抗したから薬を与えたんだ。そしてトランクにぶちこんだ。しばらく走っているうちに、目を覚ましたらしく、呻きだしてトランクの中から叩くんだよ。だから、橋の上に来た時にトランクを確認してみたんだ。運転手は窒息死していた。それで川に死体を捨てたんだ。正直自分で罪の意識を感じるかと思ったんだけど、なかった。それどころか自由に感じたんだ。審判からの解放さ」。

画像6

翌日、ネパールの修道院にテレザの姿はなかった。そして、バンコクの海では、漁師の網に一人の女性の水死体がかかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈1976年(現在)〉ハーマンは、オーストラリア大使のレイバーから聞いた、2つの焼死体に関しての情報を得るためタイ警察へ赴き、そこで渡された写真ーーー真っ黒に焼かれた死体、焼けただれた被害者の持ち物などーーー一枚一枚確認する。するとそこには「Made in Holland」のタグのついた遺留品の写真があった。ハーマンは確信する。オーストラリア人だと思われていたこの焼死体はあの行方不明のオランダ人カップルだ。

画像13


〈1976年3月1日(現在)〉ハーマンは遺体安置所へ向かう。解剖の結果、肺から煙が検出されたことにより、2人はまだ息のあるうちに火を放たれたという事が分かった。

ハーマンはこれを殺人事件として取り扱うべく、オランダの家族から届けられた二人の写真や手紙など、すべての資料を警察に持ち込む。しかし、タイ警察は言う。「外交官ならご存じだとは思いますが、この国はコミュニストの反乱軍により支配されています。国境はすべての人に開かれ、民主主義が大変弱くなっています。警察には予算がありません。もしあなたがご自分で捜査を進めたいというのであれば、私共は一向に構いません」。

画像87

でも、私は警察ではありません、というハーマンに警察署長は「お悔やみ申し上げます。」と言うだけだった。

ハーマンは自宅にて、オランダ人カップルが家族に宛てた手紙を妻アンゲラに見せる。オランダの家族から捜索用に送られてきたものだ。そこには、現在香港にいること、ここでフランス人宝石ディーラーとその妻に会ったこと、その宝石ディーラーからレナへの指輪を安くで譲ってもらったこと、そして、バンコクの自宅へ招待されたので、翌日にはタイへ行くことなどが書かれていた。駐留大使パーティから戻ったばかりのアンゲラは「フランス人宝石ディーラー?」と訊く。

画像88

「今日の新聞記事は見た?パーティではこの話題で持ちきりだったのよ、フランス人宝石ディーラーのことで」。

画像14

バンコク新聞を確認すると、"アラン・シャンティエ氏が、ベルギー大使館員ミシェル・アンドレ・ジュリオンを名誉棄損で訴える"という記事がある。しかも、このアラン・シャンティエという男はバンコクを拠点としたフランス人宝石ディーラーであるという。ハーマンはアンゲラに言う。「バンコクを拠点としたフランス人宝石ディーラーなんてそんなにたくさんいるはずはないだろう?」

ハーマンはポールに会いに行く。ポールはベルギー大使として、新聞の件に関わっているはずだ。ポールにこのアラン・シャンティエが、オランダ人カップルの手紙にあったフランス人宝石ディーラーと同一人物である可能性が高いことを話す。ポールは、ハーマンを例の新聞記事のベルギー人、ミシェル・アンドレ・ジュリオンに会わせる。ポールは、この大使館員へのばかばかしい告訴を取り下げさせるため、アラン・シャンティエの汚点を探しているところだという。そこで、分かったことがあった。2か月前の12月、とあるフランス人女性が、フランス人宝石ディーラーに関して欧米の全ての大使館に告発していたという。内容は、薬物使用・窃盗・そして殺人。しかし、この告発に対して、大使館側は何の調査もせず、今まで完全に放置されていたというのだ。

ハーマンは大急ぎですべての大使館に、このフランス人女性についての確認をとる。彼女の身が危ないかもしれない。すると、在バンコク英国大使館より連絡があり、大使自身この女性に会ったという。ハーマンは英国大使館に向かう。大使が言うことには、女性はとても憤った様子で、フランス人宝石ディーラーによるドラッグ・窃盗・殺人について話し出したと。「でもあなたは信じなかった」ハーマンは確認する。英国大使は言う。「私たちが信じようと信じまいと、この件に関しては私たちの管轄外だ。たから警察に行くべきだ、と言ったんだよ。そうしたら、警察に届けることは出来ない。このフランス人宝石ディーラーは警察とも通じていると」。そして、そのフランス人女性がこれを置いていった、といい、一冊のノートブックをハーマンに差し出した。

画像15

それはオランダ人ヴィムの日記帳だった。

画像16

中からは恋人レナと一緒に映った写真ーーーオランダの家族から大使館へ送られてきた捜索用の写真とおなじものーーーも出てきた。


画像17

ページをめくると、"A・ゴルティエ、宝石ディーラー(筆者注:"シャンティエ"ではない。つまり先のベルギー人との事件と区別を図るため、偽名を用いている)"と書かれた名刺も挟まれていた。

そして、その告発したフランス人女性は自分の滞在している住所を英国大使館に残していた。


〈時は遡って3か月前〉モニークが買い物を終え、Kanit Houseの自宅アパートメントへ戻ると、タイ人の美しい女性がいた。どうやってここに入ったの?と動揺するモニークに、「あなたがアランの秘書のモニークね。私の名前はスーダ。アランのビジネスのお手伝いをしているの」と言う。彼女はバンコクの宝石店で働いており、アランは彼女から宝石を調達していた。

画像36

まるで恋人のようにふるまうスーダの存在に動揺を隠しきれないモニーク。

「彼女にはなんの感情もない。宝石ビジネスの為には実用的なんだ。そして、彼女の父親は軍人大佐で、僕らを守ってくれる」。アランは続ける。「君はもうマリー・アンドレではない。モニークなんだ。つまらない嫉妬や疑念は捨てるんだ」。

〈時は遡って1973年11月〉フランス人の青年ドミニクはオーストラリアで仕事経験を積むためパリ空港を飛びたつ。そして2年後の1975年、彼はまだフランスには戻らず、バンコクのカフェにいる。アランはドミニクに近づき、フランスでの自分の経験を語る。全寮制の学校に入れられたこと。そこでいじめにあったことなどだ。

画像78

そして、急に体調の悪くなったドミニクを車に乗せて家に連れて帰る。回復するためと偽り、薬を与え、看護を申し出るアラン。そして体調の回復を待ち、ドミニクに小部屋と家事を手伝う仕事を与える。

パーティが盛んに行われる"Kanit House"で忙しく家事を手伝うドミニク。12月のある日、アジェイがテレザというアメリカ人女性を連れて帰ってきた。

画像121


ドミニクはすぐにテレザと仲良くなるが、彼女は「明日はネパールに行くから早く起きなきゃいけないの」と、自分の目覚まし時計を掛ける。しかし、アランとアジェイはテレザをナイトクラブへ誘い、出て行ってしまう。


画像89

目覚まし時計を置いたまま、テレザは戻ってこなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

治療薬を与えられながらも頻繁に嘔吐を繰り返すドミニク。体調が戻らず。いつの間にか体重が激減していた。嘔吐が止まらないドミニクは、ある日、アランとモニークがいつも彼に与えている薬を自分で作るが、ペットの猿がそれを奪って飲んでしまう。数時間後、猿の奇声で目を覚ましたドミニク。起き上がり近寄ってみると、猿は既に死んでいた。

画像70


自分への投薬への懐疑、そして人々がここに訪れては消えていくことに疑問を抱いたドミニクはアランに、母国フランスに帰りたいのでパスポートを返してほしいという。しかし、渡された自分のパスポートを見て凍り付く。

画像18


自分のパスポートの写真がアランになっていたのだ。アランは言う。「君が病気だった間に観光ビザも切れている。このままじゃ出国できないどころか、刑務所行きだね。大丈夫。僕はここの警察にも通じているから、そのうちなんとかしてあげるよ。」ドミニクはなすすべもなく、パスポートを再びアランに渡す。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈現在〉ハーマンは、大使館に告発したフランス人女性に会うために、ベルギー大使のポールと、残された住所"Kanit House"を訪れる。そうここは、アランとモニークそしてアランの右腕アジェイが住むコンドミニアムだ。アパートの一室には、ナディーンとレミというフランス人カップルがいた。ハーマンとポールは事情を訊くため、ナディーンとレミを自宅へ連れ帰る。

ハーマンの自宅にて、ナディーンとレミに、殺害されたオランダ人カップル、ヴィムとレナの写真を見せ、彼らに心当たりがないかと訊く。

画像90

二人はオランダ人カップルのことは記憶にない、と言うが、ナディーンは、レナの写真に写っている携帯ラジオに気付く。「このラジオ、アランが私にプレゼントしてくれたものだわ」。そしてナディーンは告白する。「アランにクライアントを紹介していたの。宝石ビジネスの。寂しかったのよ。レミはいつも仕事でいないし、私は孤独。アランはそんな孤独で途方に暮れた、哀れな外国人に取り入るプロなのよ」。レミは言う。「...そのオランダ人2人だけではないんだ」。ハーマン、ポール、アンゲラは固まる。「一体何人なんだ?」

ナディーンとレミによると、アラン・ゴルティエはサイゴンで生まれたが、フランスの学校へ通っていたという。フランス語を母国語のように話すが、完全に白人ではない。彼が着ているシャツには「C.S」のイニシャルがある。つまり、アラン・ゴルティエと言うのは本名ではないのかもしれない。モニークはカナダ・ケベック人。アジェイはインド人で、インドでアランと出会った。

「で、奴らは今どこにいるんだ?」とポール。ナディーンが答える「分からない。クリスマスから彼らを見ていないの」。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈3か月前〉"Kanit House"でのパーティの最中、トルコ人の男性がいきなり嘔吐する。アランとモニークは自宅で看病するが、夜にアランとアジェイがその男性を連れ出す。ドミニクはモニークに訊く「どこに連れて行くの?」モニーク「病院よ。様態が悪すぎる」。そして数日後、ドミニクはアランとアジェイが女性を連れ出すところを目撃する。「誰?彼女どこが悪いの?」とドミニクはモニークに訊く。「トルコ人の恋人よ。二人ともジャンキーだわ」。ドミニクはモニークに訊き返す。「何でここに来た人はみんな病気になるの?」

そしてある夜、アランはドミニクに言う。「君はもう大人なんだから、家族にはそろそろさよならを言わないとね。もう家に帰ることはできないよ。僕は君に十分にいい生活をさせてあげているのに、ここを去りたいなんて理解できないな。そして何よりも君はすべてを知りすぎている」。

アランの部屋の新聞には、ドミニクが見たトルコ人男性の恋人ステファニーが遺体で発見されたという記事が載っていた。

同じ夜、アランとアジェイは、薬で身体の自由が利かなくなった、オランダ人カップルのヴィムとレナを車に乗せて出て行った。

画像19

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈現在〉ハーマンとアンゲラは、ナディーンとレミを自宅に匿まわせることにし、引き続き話を聞く。何が君に急にアランを告発しようと思わせたんだ?と訊くハーマンに、レミは「何が、ではなく、誰が、だったんだ」。と答える。ナディーンは言う「友人のドミニクなの」。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈3か月前〉その年のクリスマス、アランとモニークは留守をドミニクに預け、エイジェイと香港へ休暇に出かける。アランはクリスマスプレゼントだといい、ナディーンに携帯ラジオをくれる。

その夜、ナディーンとレミはドミニクを夕食に誘う。しかし、ドミニクは二人を無視し、怯えた様子だ。心配した二人は食料を持ってドミニクを訪ねるとドミニクは、ナディーンとレミにすべてを打ち明ける。殺害されたヨーロッパ人達の新聞記事を見せ、彼らがここに滞在していたことを告げる。

画像123


画像27

「この遺体は、オランダ人カップルなんだ。ここに住んでた。急に病気になったから、アランとモニークは薬を与えて看病していた」。

画像26

「そしてこのフランス人の女性。トルコ人の恋人を探してここにやってきたんだ。アランとアジェイが車でどこかへ連れて行くのを見たんだ」。

「アランは彼らに薬を与え、パスポートや現金を盗んで殺してるんだ。次は僕かもしれない」。泣きじゃくるドミニク。

警察に行こう。とレミは言うが、ドミニクは、アランは警察とも通じているのでそれも出来ない、と言う。「僕は、金もパスポートもビザもないんだ!」うろたえるドミニクにナディーンは、自分たちがなんとかすると約束する。

画像25

まずはレミがフランス行きの航空券を手に入れると、パスポートの写真を元のドミニクのものに戻す。

画像20

ビザはトルコ人の恋人で彼を追って殺害されたステファニーがフランス人だったため、彼女のパスポートから有効なビザをドミニクのパスポートに移した。

画像21


そして、ナディーンとレミは、アランが香港に行っている間に、ドミニクを空港へと送り出したのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈現在〉「それで、ドミニクを送り出した後、私はすべての大使館へ行ったの。危険な人物がいるって報告した。でも誰も信じてくれなかった」とナディーンは言う。「でも一番最悪なのは、ドミニクからまだ何の連絡もないことなの。無事にフランスへ着いたら手紙を書いて、と約束したんだけど。もちろんアパート宛ではなく、郵便局の私書箱に。アランに見つかるといけないから」。

「だったら、ドミニクが実際にタイを出国しているか確認する必要があるな」。ハーマンはアンゲラとタイ空港へ行く。

画像22

タイ空港出国管理にて、12月25日付けで、確かにドミニク名義の出国カードがあった。しかし、ドミニク本人かどうかはわからない。

念のため、殺害されたオランダ人カップルの名前で出国がなされていないかを確認する。12月18日付、ウィムとレナのパスポートでの出国カードがあった。彼らは2日前の16日に殺害されているというのにだ。ハーマンは確信する。「彼らは警察の目を誤魔化すために、殺害した被害者のパスポートを使用しているんだ。彼らがまだ生きていると見せかけるために」。

画像23

アランとモニークは殺害したオランダ人カップル、ヴィムとレナのパスポートで香港へと出国していた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方、ナディーンは郵便局を訪れている。なんと、ドミニクからの手紙が届いていた。感謝の言葉と無事に帰国した旨を知らせる手紙と共に、レミが立て替えた航空券代が同封されていた。ほっと胸をなでおろしたナディーンだが、「ナディーン」と言う声に振り向くと、そこには香港から戻っていたアランとモニークがいた。

画像28

「今香港から戻ったんだけど、ドミニクがいないんだ。最近彼を見た?心配しているんだけど何か知らないか?」とアランはナディーンに訊く。

そしてそのまま、家におくるとナディーンをKanit Houseまで連れ帰る。

なかなか戻らないナディーンを心配して、ハーマンとアンゲラ、レミは大急ぎで、郵便局へ行く。郵便局員はナディーンがアジア系の男二人と出て行ったところを目撃している。彼らはバンコクに戻ってきている。

レミはKanit Houseへ行く。ナディーンは無事なのか?

勢いよくアラン宅のドアを開けたレミだが、ナディーンはアラン達3人と談笑していた。何事もなかったようにふるまうナディーン。二人は自室アパートメントへ戻るとハーマンに電話をする。三人が戻ってきた今となっては、そこにいることは危険だから、今すぐ出るように、というハーマンとアンゲラにナディーンは言う。「それは出来ない。殺された人たちのために私が何かできるはずよ」。ナディーンは自分がアランにクライアントを紹介していたことに責任の一端を感じていた。

画像89

ナディーンはアランのアタッシュケース内に、パスポート数冊と大量の現金が入っているのを見た。そして、彼らには新しい所持品が増えている。新たな被害者のものに違いない。


画像101

「証拠を掴むわ。何が必要?アラン、モニーク、エイジェイの写真?被害者の持ち物の写真?できるわ」。明日の夜までと期限を決めて、ナディーンの証拠集めが始まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈遡って3か月前〉クリスマス休暇で香港を訪れると言っていたアランとモニーク、アジェイだが、ネパール、カトマンドゥ行の飛行機に乗っている。ヴィムとレナのパスポートを使って。

しかし、アランは博打ですべての金を失い、滞在しているホテルのスイート代を払えずにいた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈現在〉ナディーンがKanit Houseで証拠集めをしている間、ハーマンは昨年9月から今年1月までの新聞をくまなく調べ、未解決殺人死体遺棄事件の情報を集めている。そして、ヨーロッパ人女性殺害の記事、水死体で見つかった女性の記事。ネパールで焼死体で見つかったカップルの記事を見つける。

        ----------------

画像90

危険を冒しながらも、3人の写真を撮り続け、留守を見計らって、アランとモニークのアパートを物色するナディーン。被害者の持ち物と思われる物品の写真を撮り、アパートの間取りと金庫の位置を確認する。そして、証拠写真を撮り終えたナディーンとレミは、再びハーマンとアンジェラの自宅へ向かう。

画像94

焼きあがった写真を前に、ハーマンとアンジェラ、ナディーンとレミは事実確認を行う。

画像91

オランダ語で書かれた避妊ピルはレナのものだろう。

画像93

殺されたトルコ人のネックレスが金庫の中にあった。


画像95

モニークの写真も撮れた。

画像99

アランとアジェイの写真。

画像92

ナディーンはアランのアパートの間取り図を描き、被害者の所有物が保管してある部屋にしるしをつける。

画像96

ハーマンは集めた新聞記事をナディーンとレミに見せ、面識があるかを確認する。「これはアメリカ人よ。ドミニクが言っていた」「そしてこれはステファニーと言うフランス人。ドミニクの観光ビザは彼女のものを使ったの」。

画像98

そして、たまたま煙草に火を着けるため、ナディーンより借りたマッチを見てハーマンは言う。「ナディーン、このマッチどこで手に入れた?」。「ゴルティエのアパートだと思う」。マッチはネパールのホテルのものだった。

画像97

ハーマンは、ネパールの旅行者殺人事件の記事を見せる。「奴らが行ったのは香港じゃない。ネパールに行っていたんだ」。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈3か月前〉ネパール、カトマンドゥ。モニークは、街中でアメリカ人とカナダ人のカップル、コニー・ジョーとローレントに会う。モニークと親しくなったコニー・ジョーは、自分にはお金がないけど、ローレントはルビーを持っており、それを売って、2人で旅を続けるのだと言う。モニークは自分の夫は宝石ディーラーのなので、買い取ることができるかもしれないと二人をホテルに招待する。

画像102

「いい金になる、って言われたんだ」とローレンスはアランにルビーを差し出す。ゆっくりとルビーを精査するアラン。そして二人に告げる。「残念ながら君たちが期待しているほどの金額は出せない。これはほとんどがガラス製だ。騙されるのも無理はないよ。奴らの手口は巧妙はだからね」。

画像103

泣きくずれるコニー・ジョーにモニークは言う「希望を壊してごめんなさい。今日はディナーをごちそうさせて」。そしてアランはこう付け加える「お詫びに、明日天気がよければ、山に連れていってあげるよ」。

翌日、アランとアジェイは、約束通り、ローレントとコニー・ジョーを山へ連れていく。橋のところで車を止め、2人に水筒を渡す。

画像29

記念写真を撮りながらその飲み物を飲んだ二人は川岸に倒れる。アランとアジェイは、2人を鉈で切り殺し、ルビーを含む貴重品を奪ったあと、ガソリンを巻いて火を放った。

アランとモニークは、コニー・ジョーとローレントから奪ったルビーを現金化し、滞納していたホテル代を払う。そこへネパール警察がやってきて、発見された二つの焼死体について聴取したいと連行される。

画像104

アランとモニークは、ヴィムとレナとしてパスポートを明示、自己紹介をし、この被害者とは何の面識もないと証言する。

画像30

事情聴取を受けたアランとモニークだが、ネパール警察のタパ警部は二人に何かを感じていた。

そして、3人はカトマンドゥを離れ、インド、香港で同様に観光客に薬物を与えては、パスポートと貴重品を奪うという事を繰り返し、1976年3月9日にバンコクへ戻る。

画像124

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈現在〉ハーマンは在バンコクの西欧諸国の大使館すべてに連絡を取り、パスポートや貴重品の窃盗や暴行、原因不明の病気にかかった旅行者からの通報を集める。そしてオーストラリア大使レイバーより、病気で2週間を病院で過ごした同国のカップルの話を聞く。そのカップルがビーチで知り合った人物は、フランス語を話すアジア人男とフランス、カナダ人の女性でまさにアランとモニークの描写に酷似しており、女性は白い犬を連れていた。

証拠は十分に揃ったと確信したハーマンは、それらを正式に報告書として作成し、タイ警察に持ち込む。警察は今日の午後にアラン、モニークそしてエイジェイの逮捕状を取り身柄を拘束すると約束する。そして、タイ警察は"Kanit House"へ。警官たちが敷地内に入ってくるのを見たアランは、彼らが部屋にくる前に、すべての宝石・貴重品を身に着けるようにモニークとアジェイに言う。そして警察が部屋に突入すると、その場で取り押さえられる。

画像110

画像125

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈逮捕2日前〉カトマンドゥ、インド、香港で投薬と窃盗を繰り返した3人だが、自宅に戻ると、ドミニクとドミニクのパスポートが消えていた。ドミニクが一人でやったとは思えないアランは、手伝ったのはナディーンだと気付いていた。アランはいつ警察が来ても、うまく逃れられるように、貴重品をアタッシュケースに入れて、タイ人の恋人、スーダに渡していた。この場でアランはスーダにプロポーズし、婚約指輪をプレゼントする。

画像106

画像105

スーダに贈った指輪は、アランが殺害したオランダ人カップルに売ったもの。つまりレナの指にはめられていたものだ。

何も知らないスーダは婚約パーティを企画する。

しかしーーー逮捕後、拘留中のアランは婚約パーティには現れない。泣きわめくスーダ。アランが逮捕されたのはなにかの間違いだと主張し、父親に何とかしてくれ、と頼む。

画像107

「何とかしてくれだと?私はただの交通取り締まり所長だ!そんな権限はない!」。アランはスーダの父親と親しくなり、周りに警察高官と通じていると見せかけていたのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

遂に、3人をタイ警察が拘束した。ハーマンとアンジェラ、ナディーンとレミ、そしてポールは家で祝杯を挙げる。そこへ、タイ警察から電話が。拘束した男は、アラン・ゴルティエではない、というのだ。急いで警察へ向かうハーマンとポール。「確かに警察が向かったのは、アラン・ゴルティエのアパートではあるが、逮捕した男はアラン・ゴルティエではない」と警察は言う。ハーマンは、ナディーンの撮った写真を見せて、同じ男だと証明しようとする。しかし、男は、自分の名前はデビッド・ゴアだと言い、身分証明の米国パスポートを所持していた。

画像108


逮捕された"デビッド・ゴア"は、ゴルティエとは友人で、彼の不在中、アパートを使わせてもらっただけで、他の二人も友人だと証言していると。誤認逮捕では、身柄を拘束できないというタイ警察。ハーマンは食い下がる、この男はデビッド・ゴアではなく、アラン・ゴルティエだ。こうして身分を偽装しては、盗みを繰り返し、人を殺している。なんなら、アパートから押収した金庫を開けてみるべきだ。証拠品が出てくるはずだ、と。しかしタイ警察は金庫を開けるのは、持ち主本人(アラン・ゴルティエ)の面前でなければいけない、と主張。釈放の準備は出来ている、と。ハーマンは、なんとか翌日の正午まで3人を拘留することを警察に約束させる。

その男がアラン・ゴルティエであることを証明するのは難しいかもしれないが、少なくともデビッド・ゴアでないことは証明できるはずだ。ハーマンがアメリカ大使館に連絡をすると、レッドランド米大使は、テレザ・ノウルトンと言うアメリカ人女性の捜索依頼がでているという。水死体で上がったあの女性に違いない。翌朝、レッドランド米大使は、ハーマンとタイ警察に赴きアラン・ゴルティエ/デビッド・ゴアに面会を申し入れる。彼が本物のデビッド・ゴアかどうかを確認するためだ。

レッドランド米大使を前に、アランは、デビッド・ゴアになりすまして、「ゴルティエはとてもいい人ですよ。優しくでチャーミングだ」と言う。レッドランドはデビッド・ゴアのパスポートを確認しながら笑う。

画像109

「アイオワ出身か。でも君のアクセントは中西部出身に聞こえないな」。アランは答える。「プエルトリコの祖父母の元で幼少期を過ごしたもので」。そしてレッドランドは、アメリカ人女性テレザ・ノウルトンの写真を見せる。「彼女を知らないかな?カリフォルニアの祖母から捜索依頼がきているんだ。故郷を離れて遠くで過ごすアメリカ人同士、もしかしたら会ったことはないかな」。残念ながらありません、とアランは応える。

次にレッドランド米大使はモニークにも面会し、同様にテレザ・ノウルトンの写真を見せる。

画像111

「彼女のお祖母さんが大変心配しているんですよ。もう5か月も連絡がないと。仏尼になる為に来たのですが、どの修道院にも到着していない」。モニークは彼女には会ったことがない、と証言したが、ひどく動揺するモニークを見て、レッドランドは、何かあると確信する。このままでは正午に彼らは釈放されてしまう。レッドランドはできる限りのことはする、とハーマンに約束する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数時間後、ハーマンはレッドランドより1本の電話を受ける。「アジア中の在米大使館に連絡をとったら出てきたよ。デビッド・ゴアという男が。香港で薬を与えられ、貴重品を盗まれたらしい。幸運なことに彼は生きていて、加害者の特徴をすべて警察に打ち明けている」。ハーマン達は、この拘留中の男がデビッド・ゴアではない、という事を証明してみせたのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とにかく、アランの身分偽造がはっきりした今、タイ警察は3人を釈放することはできない。ほっと胸をなでおろすハーマン。これでナディーンとレミはKanit Houseの自宅アパートに戻ることができる。しかしその夜---ハーマンの元に一本の電話が。なんと3人が逃走したというのだ。アランは警察の一人に脱獄を手伝わせるべく、自らの金品(逮捕時にその場で着けていた宝石や時計)を賄賂として渡していたのだ。

画像112


彼らはどこへ行ったのか、そしてどこへ向かうのか。警察はアラン宅から押収した金庫を開けることにする。しかし、...なんと金庫の中は空っぽだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

脱獄後、アジェイは、モニークの日記をはじめ、残された所有物を集めるため、アランのアパートに戻る。そこで、アジェイはアランの結婚証明書を見つける。

1969年、フランス、パリにてアランはジュリエットというフランス人女性と結婚していたのだ。

画像75

画像73

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方、アランは脱獄後、まずスーダの元に向かう。誤認逮捕だったので釈放されたとスーダと父親に説明し、スーダに贈った婚約指輪を見る。

画像113

アランは、「石を支える爪が少し曲がってるね。修理しよう」と指輪をスーダの指から抜き取る。そして預けていたアタッシュケースと共に静かにスーダの家を去り、外に待たせたタクシー乗り込む。タクシーの中ではモニークが待っていた。アランはモニークに指輪をはめる。これから逃避行が始まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

3人の脱獄により、またもや心を振り乱されるハーマン。神経質になり、妻のアンジェラに小さなことで当たる。

モニークがカナダ、ケベック人であることから、手がかりを見つけるため、カナダ大使館にも協力を依頼するが、面倒に巻き込まれたくない大使は、ハーマンは高熱病に侵されていると嫌味をいう。西欧諸国の大使たちは皆、自分の在留期間を穏やかに過ごすことだけを考えているようだ。怒りが止まらないハーマンに上司であるオランダ大使は休暇を取り、頭を冷やすように命令する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3人はタイを脱出して、パキスタンのカラチにいた。アランは、パリのクライアントと宝石の売買の交渉をしている。モニークに決まったらパキスタンを出て、パリで夫婦として家族を作り、新しい生活を始めることを約束する。一方アジェイは、モニークが自分のことを邪魔で煩わしく思っていることに気付き、アランが以前に結婚していたことを知っていることを武器にしてアランに取り入ろうとする。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

モニークは、アジェイがアパートからモニークの日記を持ってくるのを忘れたことに憤り、アジェイに「アランにまとわりついて、汚い仕事をするだけの使い走り」と罵る。しかしアジェイは「俺もお前も同じ穴のムジナだよ。何でアランがお前をそばに置いていると思う?お前はあくまでもジュリエットの代わりだなんだよ」とアランが以前結婚していたことをモニークに暴露する。そしてアランには、「モニークは信用できないので、捨ててパリへ行くべきだ」と忠告する。

画像114

日に日に仲が険悪になっていくモニークとアジェイ。二人はどちらも自分の一生をアランに捧げた、と主張する。どちらかを選ばなくてはならないアラン。そんな時、パリのクライアントから、一度会いたいと連絡が入る。アランがフランスへ連れて行くのはモニークなのか、それともアジェイなのか?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈時は遡って1971年〉チャールズ(アラン)と妻ジュリエットはフランスで結婚した後、インドのボンベイ移り住み、二人にはマドゥという女の子が生まれていた。

画像74

ビジネスと言っては、滅多に家に帰らないチャールズ。ラジオのニュースが、大量の宝石がボンベイのアショカ・ホテルより盗まれた、と伝えている。そこへチャールズから一本の電話が。「ジュリエット、宝石強奪のニュースは見たか?僕がやったんだ」。しかしその場でチャールズは、警察の追跡を免れず御用となる。

画像76


インドで投獄されたチャールズ。脱獄の機会を窺っている。チャールズはある日、自分の下腹部に指を突っ込み自ら腸を痛め、緊急手術を受ける。そして手術後、見張りが手薄になったところを、看守に薬を盛り脱獄する。

チャールズは自宅に戻り、ジュリエットに家族全員でインドから逃亡することを告げるが、娘のマドゥがいない。ジュリエットはマドゥをフランスの自分の両親の元へ送り返していた。逃走するチャールズとジュリエット。二人は車でインドを脱出した2週間後アフガニスタンにいた。しかし、砂丘の真ん中で車が故障、そこへ追跡してきた警察に追い付かれ、そのまま連行された。

画像77

アフガニスタン、カブールの刑務所。ジュリエットは無実が証明され釈放される。そしてチャールズに離婚を申し出る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈現在〉無理やり休暇を言い渡されたハーマンの元にナディーンより連絡が入る。アランが住んでいたアパートに新しい住人を入れるため、清掃が始まるという。まだまだ証拠品が眠っているかもしれないこの場所を片付けさせるわけにはいかない。ハーマンは休暇を切り上げ、アンゲラとバンコクへ舞い戻る。

ハーマンとアンゲラ、ナディーンとレミ、そしてポールの5人は、大家より鍵を受け取り、アランのアパートに入る。アランとモニークの写真、焼死体で発見されたオランダ人カップル、ウィムとレナの写真、バックパッカーたちの所持品などが次々に見つかる。そして、ポールが壊れた戸棚の中から見つけたものは、鎮静剤、血管作用薬などを含む大量の薬の山だった。

画像71

「薬局にでさえこんな大量の薬はない!」と言うポール。そして結合止痢薬と書かれた入れ物に入っていたのは、それとは逆に、胃痛や吐き気をもよおす薬だった。そしてその大量の薬の奥には、数冊のパスポートが隠してあった。「いったい何人なんだ!」。

アンゲラはモニークの日記を見つける。「読んでて気づいたんだけど、アランという名前は一度も出てこないわ。でも"Char(チャー)"という名前はすべてのページに書かれている」。"Char"とは"Charles(チャールズ)"のことなのか?彼の名前はアランではないのか?だったら、"ゴルティエ"というのも嘘なのか?

アラン宅から持ち帰ってきたものを丹念に調べるハーマン達。

画像70

アランの本の間からは、自分の両親の写真、フランス人と再婚した母と養父、兄弟たちの写真も出てきた。サイゴンで生まれ育ったアランは幼少の頃、母の再婚と共にフランスへ移住していた。また、モニークの日記から、アランには"スーダ"というタイ人の恋人がいたこと、"モニーク"は偽名で本名はマリー・アンドレ・レクラークであることが判明した。そして、そこにはアランが自分の母親に会わせてくれると約束した、と書いてある。母親はパリに住んでいるはずだ。彼らが向かうのはパリなのか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カラチ出発の日、アランはアジェイを車に乗せ、モニークは置いていく、と告げる。アランは自分を選んでくれたのだとアジェイは嬉しさを隠せない。しかしアランは人気のないところまで車を走らせアジェイに言う。「お前はただの使い走りだ。パリにはお前の居場所はない」。

画像136


アランは、モニークの元へ戻る。そして、元妻ジュリエットについて語り始める。「ジュリエットと僕は結婚していた。遠い昔にね。でも彼女は僕を裏切り、そのせいで僕はアフガニスタンで投獄されたんだ。子供も彼女に奪われた。でも、刑務所を出た後、彼女は死んだ、と聞かされた。悲しくもなかった。ジュリエットについて何も話さなかったのは、現実に引き戻されるのが嫌だったんだ。自分に起こった最悪の出来事だったから。でも、過去はすべて置いていく。モニーク、今は君だけだ」。


画像72

アランはパリの母親へ、会いに行くと連絡を入れる。そして、娘マデュの居場所を調べておくように言う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方ハーマンは、モニークの実名が、マリー・アンドレ・レクラークであることと、彼女が毎週実家の母親に電話をかけていることから、カナダ大使館の協力を得て、まずは彼女のケベックの実家を突き止める。そして母親の証言から、パリのアランの母親の住所が判明する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈1976年5月1日〉ナディーンとレミは、在バンコク、フランス大使館を訪れている。

画像115


フランス人女性、ステファニー・ペリーの殺害事件新聞記事と彼女のパスポートをフランス大使ベランジャーに見せ、彼女を殺したのは、フランス国籍の男アラン・ゴルティエであり、彼はパリの母親の元を訪ねるのでそこで逮捕するべきだ、とパリの母親の住所を渡す。しかしベランジャーは、被害者のパスポートが部屋から見つかったからといって容疑者とは断定できない、という。「でもドミニクが見たって言っているの。ステファニー・ペリーがゴルティエと一緒に部屋を出ていくのを」ナディーンは説明しようとする。「ではそのドミニクさんとやらは今どこに?」とベランジャー。「フランスですよね。それはあなた達が彼のパスポートにこの被害者ステファニー・ペリーのビザを張り付けて偽造し出国を手伝ったから。という事は、彼もあなた達も犯罪者だ。悪いがあなた達の告発は正気を逸脱している。私は信じませんね」。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

パリへ到着したチャールズとマリーはアランの母親を訪ねる。

画像69

二人はこれから、フランスで結婚して家庭を築くことを母親に報告する。マリーはチャールズと母親の会話から、義理の父親が妹を養子縁組したにも関わらず、アランはされなかったことを知る。母親は言う。「チャールズは愛されにくいのよ」。そしてこう続ける。「あなたが何をして、息子が何を言おうとも、彼と普通の生活ができるとは思わないほうがいいわね。私は彼の父親に対して同じ間違いを犯したのだから」。

チャールズは母親に会いに行ったのは間違いだったと憤る。そしてマリーに自分がフランスでどれだけ不幸だったか、辛い思いをしたか、何度も逃げては捕まえられを繰り返しても、逃げることをあきらめなかった、もう、一生母親に会うことはない、と言う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アランとモニークの行先、母親の住所が判明したにも関わらず、追跡がまったく進まないことにいら立ちを隠せないハーマン。できることはすべてやったし、これはあなたの責任ではない、とたしなめる妻のアンゲラに、強くあたってしまう。


画像117

そんな時、バンコク・ポストにアランの犯した殺人、オランダ人カップル殺害の記事を見つける。しかし、殺されたカップルの名前は違っており、容疑者の名前も国籍も真実とは異なる。しかも容疑者はシンガポールにてすでに逮捕されているという。でたらめな記事に憤るハーマン。こんなクズのような新聞でも読む人がいる。そして、人々は真実を知る必要がある。ハーマンは、バンコク・ポストのグレアム・スタントンに早急に面会し、自分の知っているすべてを新聞記事で公開することにに同意する。「あなたの全てのキャリアを危険にさらすことになりかねませんよ」と念を押すスタントンにハーマンは言う。「ゴルティエが捕まらなければ、人が死ぬ。奴を野放しにしておく危険のほかにどんなリスクがあるというのです?」真実が広がれば、なんらかの情報を得ることができるかもしれない。ハーマンは希望を捨てない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

画像118

ハーマンが情報を提供したことで、真実が新聞で公開されたその日、この記事に関心を強く持ったのはインタポール(国際刑事警察機構)のタイ支局だった。

画像119


インタポールのスティマイ警部補はすぐにバンコク・ポストのグレアム・スタントンに連絡をとり、情報がオランダ大使館の職員ハーマン・キニッケンバーグにより持ち込まれたことを知る。彼はハーマンを自宅に訪ね、ハーマンの所持する数々の殺人事件に関する情報と証拠品をすべて確認する。

画像68

「あなたがたの仕事は驚愕に値する」スティマイ警部補は言う。そして、ステファニー・ペリーのパスポートを見て、彼女の家族がフランス政府に捜索を依頼したが、聞き入れられなかった。彼女は、この殺されたトルコ人の男性の恋人で彼を探しに行くと言って消息を絶った。自分が遺体を確認したが死因は不明だ、と続けた。「彼女は一人娘をパリに残して殺されたのです」。

アンゲラは、ステファニー・ペリーの件については、既にフランス人のナディーンとレミがフランス大使館に掛け合ったものの、聞き入れてもらえなかったとスティマイ警部補に伝える。

アンゲラは、再度インタポールのスティマイ警部補に話をするようにナディーンを説得する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

マリーは一人でチャールズの母親を再び訪ねる。母親は半分血のつながったチャールズの弟ガイの写真を見せる。

画像128


「同一人物みたいに似てるでしょ?実際同一人物を装っていたわ。ガイは今ギリシャの刑務所にいるの。チャールズがガイを凶悪強盗事件に誘ったの。警察に捕まって、自分が逃げるために弟を自分に仕立てて身分を取り換えたのよ。弟に拷問を与えて。チャールズは自分の家族にもそんなことをする子なのよ」。だったらどうしてあなたは今でもチャールズに会うの?と訊くマリーに母親は言う。「それは私が今までで一番愛した人の息子だからよ。教えてあげるわ。こんな男を愛してしまうなんて、呪い以外の何物でもないのよ」。「でもジュリエットはひどいことをしたわ。チャールズから子供を奪って、彼女は死んで...」動揺するマリー。

画像129

チャールズの母親は言う。「あなたは愚か者だわ。まだ気づかないの?チャールズはの言う事はなにもかも嘘なのよ。いいわ、元妻のジュリエットのことを教えてあげるわ」。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


画像81

チャールズはジュリエットの自宅を訪ねる。突然の訪問に驚きを隠せないジュリエット。チャールズは「愛しているのは君だけだ。マリーはあくまでも君の代わりだ。君とマドゥと3人でやり直したい」とジュリエットに告げる。しかし、ジュリエットは逃げられるうちにパリを出るようにチャールズに警告する。というのも、今やチャールズとマリーの写真はバンコクポストに限らず、逃亡中の犯罪者として、フランスの雑誌の表紙を飾っていたからだ。

画像82


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方バンコクでは、スティマイ警部補の調査のもと、ハーマン、アンジェラ、ナディーン、レミそしてポールの5人が自らが集めた物証と、各大使館に寄せられた家族からの捜索願、新聞記事などをすべて照合し、アランへの殺人容疑に関する証拠を固めていく。そしてついにスティマイ警部補は、各国のインタポールへ連絡し、全世界でチャールズとマリーの指名手配をとる。

画像116

世界中のインタポールへ二人の指名手配が伝達される。


画像67

〈パリ〉チャールズの母親を訪れ、ジュリエットが死んだというのが嘘だと知らされたマリー。ひどく動揺した彼女は、帰りに公園の売店で、逃亡中の殺人犯として、自分の写真が表紙となっている雑誌を見る。ホテルに戻ると、チャールズはパリを出るので荷造りをしろ、と言う。しかしマリーは訴える。「殺人はあなたとアジェイがやったことだわ。なのに私は犯罪者扱い。ジュリエットのことも嘘だったのね。私はもうあなたとはどこへも行かない」。しかしチャールズは言う。「だったらここにいろ。捕まってもケベックには帰れないぞ。連れていかれるのはバンコクだ。そしてそこで待っているのは死刑だ」。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

インタポール警察がアランの母親の自宅ドアをノックする。チャールズとマリーが表紙の雑誌を持っている。「この男性、アラン・ゴルティエをご存じですか?」アランの母は応える。「私の息子です。そしてこの女性は息子の恋人。でも彼の名前はアラン・ゴルティエではありません。ソブラジです。チャールズ・ソブラジです。」

画像120

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

チャールズとマリーはパリを脱出する。ミュンヘン、イスタンブール、テヘラン、ヘラート、カブール、ラホールを通過し、インドのボンベイへと辿り着く。

画像80

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

タイ、インタポールのスティマイ警部補はハーマンに、これは国際犯罪であるため、すべての捜査はすでに一大使館員であるハーマンの手を離れていることを告げ、ハーマン達が集めた証拠品をすべてインタポールが回収することを告げる。これは僕が集めた証拠品です、とハーマンは拒絶するが、これは命令です、とスティマイ警部補は言う。

画像66

翌日の朝に回収される前に、ハーマン達5人は大急ぎですべての書類のコピーをとる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ナディーンとレミはフランスへ帰国することになった。アンゲラは、ハーマンに自分たちには休暇が必要だ、週末はバンコクを離れてビーチへ行こうと提案する。しかし、ハーマンは「警察が僕を必要とするかもしれない。チャールズ・ソブラジはまだ捕まっていない。僕らがビーチでカクテルを楽しんでいる間に、奴は殺人を繰り返す。僕はここにいなければならない」と主張する。

そして次の日、アンゲラはハーマンを置いてドイツの両親の元へ帰っていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

チャールズとマリーは、到着したボンベイにて、ダニエルとモニークと再び偽名を使い、インドを訪れていた西洋の若者たちに近づく。最初は親切な友人のふりをして時間を過ごし、仲良くなる。そして依然と同様に薬を盛り、殺害したあとパスポートとトラベラーズチェックを奪い、逃避行に必要な貴重品、金品を集めていく。

しかし、ここで親しくなった一人の男性ジョンが、仲間の一人の急な死亡から、二人を怪しく思い始める。そして、モニークがトラベラーズチェックを現金化し、故郷ケベックの母親に電話をしている間に、モニークのハンドバッグを奪って逃走する。

ジョンはインドのゴアにてインド警察のトゥリ警部と電話で話している。犯罪を報告するためだ。「男が死んだんです」。

画像65

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

画像64

〈ボンベイ〉チャールズはドイツから到着した修学旅行の団体に目をつけ、引率者である一人の男性教師とその妻が学生全員のパスポートを所持しているのを目撃する。チャールズは彼らに近づき、まずは教師夫妻と仲良くなる。そして、教師の妻に薬を与え、病気にする。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈ゴア〉トゥリ警部は話を直接聞くためにジョンを訪ねる。「そのダニエルという男には盲腸の傷跡がありましたか?数年前にアショカホテルで宝石強盗がありましてね。犯人を捕まえたのですが、盲腸を偽って手術を受けた後、消えたのです。ところで女性の方は、フランス語圏カナダ人なのですよね?」

画像63

ジョンはトゥリ警部に訊く。「なんでそんなに彼らのことを知っているのですか?」「実はこの二人は国際的に指名手配されている殺人犯なのです」。

彼らが実は凶悪犯だったと知ったジョンは、震え上がる。そして、警察が自分の身を守って、故郷へ帰してくれることと引き換えに、ダニエル(チャールズ)とモニークの住居を教える、と申し出る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈ボンベイ〉チャールズは、タージマハールを観光する修学旅行者たちのツアーガイドを買って出る。妻が病気になってしまった教師はチャールズに食中毒回避の秘訣を訊く。「それならいい薬がありますよ。あなた達にも分けてあげましょう」。

画像58

夕食の席で、教師と生徒たちに薬を服用させるチャールズ。しかし、教師の妻の様態が段々と悪くなっていくと同時に、生徒たちが次々と嘔吐しだす。「救急車を呼べ!」と誰かが叫び、すべてが大混乱となっているところを、チャールズは教師のバッグを持ち出し、逃走を図ろうとする。しかし、ホテルの出口で駆け込んできたインド警察に捕まる。

画像59

画像60

トゥリ警部はチャールズのシャツを捲し上げ盲腸の傷跡を確認して言う。「私を覚えているかな、ミスター・ソブラジ」。

一方、マリーも自宅を警察に包囲され、警察に連行される。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ハーマンのところにチャールズとマリー逮捕の連絡がくる。大使館にて、ハーマンは、既に主要ミーティングを外されている。覚悟していたことだ。しかしハーマンは後悔していなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈逮捕から1年後〉チャールズはインドの刑務所にいる。インド国内で彼が犯した違法薬剤使用、窃盗、そして1971年のアショカ・ホテルでの宝石強盗と脱獄による罪で服役中だ。タイ、インタポールのスティマイ警部補は、チャールズと独房で面会している。

画像57

「君はインドで2件殺人も犯している」。しかしチャールズは言う「証拠がない」。スティマイ警部補は続ける。「我々はいつまでも気長に待ちますよ。あなたのインドでの服役が終了すればすぐにでもタイに連れて帰る」。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈バンコク〉スティマイ警部補はハーマンに会う。「奴はしばらくはインドの刑務所にいることになるだろう。でも、インドでの懲役が終わればすぐに、タイにて正式に告訴する」とスティマイ警部補は言う。そして、マリーの面会口述報告書をハーマンに渡す。そこには、マリーがチャールズと会い、夫婦を演じていたこと、カオペクテイト(止瀉薬)と称してそこに鎮静剤とニトラゼパムを水で溶かし混ぜたものを若者たちに与えていたことなどが書かれていた。


画像127

画像126

画像79


〈時は流れて7年後〉インドの刑務所にて、マリーはチャールズの独房を訪ねる。チャールズにさよならを言うためだ。「インド警察は私を国に帰すことに同意したの。そこで死を迎えるために」。マリーは卵巣がんを患っていた。死期が迫るマリーを、お前は裏切り者だと罵り、自分は絶対にここから出て自由になる、と言うチャールズ。マリーは応える。「ええ、確かにあなたは確かに自由になるわ。あなたの虚栄心は何よりもパワフルだもの」。

画像56

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1997年7月21日、チャールズ・ソブラジはパリのテレビ局にいる。

「the Serpent(毒蛇)」という異名を与えられたこの悪名高き犯罪者は、インドでの服役期間が終わる1か月前にまたもや脱獄、22日間の逃走の後、自ら出頭、再びインドの刑務所で追加10年の懲役を受けた。インドでの最初の服役を終えた後、彼はタイへ移送されそこで殺人での有罪判決を受けるはずだったが、この追加10年の間に、タイでの殺人容疑は既に時効となってしまった。つまり、タイ警察はもはや彼を逮捕できない。チャールズは計算ずくで脱獄・逃走をし、確定していたタイでの死刑判決を免れたのだ。1997年2月、チャールズ・ソブラジは新しいフランス・パスポートを与えられ、フランスに戻り、自由の身になった。


インタビュアー「あなたは危険な人物なのですか?これらの殺人を犯したの?」

チャールズ「裁判所は"ノー"という判決を下しました。疑惑・申し立てにも対応しましたし、裁判にもかけられました。そこで、裁判所が結論を出したんです」

インタビュアー「それは質問の答えになってませんよね」

チャールズ「これが私の答えです」

インタビュアー「中には"うまく逃げやがった"と言うひともいるでしょう」

チャールズ「それは"タイムス・マガジン"が言っていることですよね。恐らくそれは真実でしょう。でも、どちらにしても、私を再び裁判にかけることは出来ないのです。世界中のどこででも」。


画像55

ハーマン・キニッケンバーグは、ギリシャで大使館勤務をしていた。チャールズ・ソブラジのインタビューを観ているが、悔しさで怒りが止まらない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


画像54

インタビュー終了後、傍らでその様子を見守っていたのは元妻のジュリエットだった。二人は抱き合ってカメラ撮影に応じる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〈時は流れて2003年〉チャールズはネパールのカトマンドゥへ降り立つ。

画像51

空港にて、待ち合わせていた地元の新聞記者カメラマンに、自分の写真を撮らせ、翌日「カップル殺し容疑で指名手配中だったチャールズ・ソブラジがカトマンドゥに帰還」という記事が新聞の見出しを飾る。

画像52

この記事を見た、警官はチャールズの滞在するホテルを突き止め、彼を拘束する。

この警官は、1975年のネパールでのカップル殺しで、チャールズとマリーを尋問したタパ警部だった。

画像53

タパ警部は、「ずいぶん昔の事件だ。しかし私はこの事件をまるで今朝の出来事のように思い出す。あなたとあなたの友人に事情聴取をしたのを今でもはっきり覚えている」とチャールズに言う。しかし、チャールズは1975年にこの国にはいなかった、それどころか、過去にネパールを訪れたことはない、と言い切る。そして、その容疑者とやらの名前は?とタパ警部に訊く。「彼らが使用したパスポートでは、ブロームとデッカーという名字だった(筆者注:チャールズとマリー、当時、アランとモニークと言う偽名を用いていたが、2人はその前に殺害したオランダ人カップル、ウィムとレナのパスポートを使用してネパールに入国していた)」。チャールズは笑う。「私の名前はチャールズ・ソブラジです。証拠がなければ逮捕は出来ないでしょう」。

この頃、ハーマンは妻だったアンゲラとは別れ、ニュージーランドへ住んでいた。そこへ、ニューヨークに住むアンゲラから連絡が入り、チャールズ・ソブラジがカトマンドゥで再び逮捕されたことを知る。ハーマンは、ネパール警察へ電話を入れ、その男に関する情報を提供することができるかもしれない、絶対に釈放してはいけない、と懇願する。タパ警部は言う、「実は私も彼のことを知っています。以前に会っているのです。しかし、残念なことに逮捕につながる証拠がなにもないのです」。ハーマンはバンコクで、インタポールに手渡す前に、コピーをとっておいた証拠資料に目を通す。そして、スティマイ警部補より受け取っていた、マリーの証言記録を見つける。そこには「1975年、カトマンドゥには3時ごろに到着し、Royal Annapurma Grand Hotelに滞在したわ。ホテルの記録にはオランダ人の名前、ブロームとデッカーと書いてあるはずよ。カトマンドゥでカナダ人とアメリカ人のカップルに会ったの。12月22日、アランとアジェイはカップルをドライブに誘い、山へ行ったの。(その二人は戻って来たのか?)いいえ」と書いてある。

画像61

画像62

ハーマンはこの証言記録を大急ぎでネパール警察のタパ警部の元へファックスする。そして、チャールズ・ソブラジはネパールにて逮捕、投獄されることとなる。

(ドラマ終了)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

以下、ドラマのエンディングにて。

2003年に、チャールズ・ソブラジがネパールへ再び舞い戻った理由は未だ不明、彼のみが知るところとなる。

画像50

2004年、ソブラジは、ネパール裁判所により、1975年12月のコニー・ジョー・ブロンジック(ネパールの山で殺害されたカップルのアメリカ人女性)殺害で有罪判決を受け、終身刑を言い渡される。ソブラジは、2度上告をしているがいずれも棄却されている。

2010年、国連人権委員会は、ソブラジが公平な裁判を受けていないとの見解をしめす。

2014年、ネパール裁判所は、ソブラジをローレント・カリーエ(カップルのカナダ人男性の方)殺害でも有罪とし、懲役20年を言い渡す。ソブラジはこれに対しては上告を行わなかった。

2020年12月現在、チャールズ・ソブラジはネパール刑務所で服役中である。

1976年にタイ警察が逮捕状を発行するも、ソブラジはタイに戻ることは一度もなく、以来犯罪は犯していない。つまり、有罪判決を受けていない以上、彼はタイにおいては無罪であるとみなされている。


画像49

マリー・アンドレ・レクラークは、カナダ・ケベックの自宅で1984年にガンで死亡。


画像48

1976年後半に、一度ドイツでの目撃情報があって以来、アジェイ・チャウドハリーの行方は分からないままだ。


画像45

ナディーンとレミは、一度フランスに戻った後、再びタイで生活していたが、現在は離婚している。


画像46

ナディーンは現在、タイ南部でビーチリゾートを経営。

画像47

一方レミは北部で果樹園を経営している。


画像44

ポール・シーモンスは、1979年にベルギー外務省を定年退職した後、2004年に死亡した。


画像43

ドミニク・レネルーは、母国フランスで結婚し、現在は成人した子供達がいる。今でも熱心な旅行者である。


画像42

スティマイ警部補は、1991年にインタポールを退職した後、タイとフランスで余生を過ごしている。


画像41

ハーマンとアンゲラは1977年にタイを離れたが、1989年に離婚。現在は二人とも再婚している。


画像40

以後、アンゲラは国連で働き、国連事務次長にまで昇進した後、2015年に退職。


画像39

ハーマンはその後も、オランダ大使館員として、世界中に移り住む。現在は退職しているが、今でもチャールズ・ソブラジ事件の証拠資料を保管し、必要があればいつでも開放できるように常に情報を最新化している。


大きな夢を抱いて、旅に出て、二度と国へ帰ることができなかった、若く勇敢な旅人たちへ。

画像38

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

以上、ドラマ全8話を追った。

次の記事で、筆者が感じたこと、事件に関して調べてみたこと、またドラマ制作の裏側などをまとめてみたので、お時間のある方は、引き続きお付き合いください。












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?