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カラスのきょうだい、カー・キー・クー

カラスのカーとキーとクーは、なかよし三きょうだい。

今日も三羽で大きな空を飛び回っています

いちばん上のお兄さん、カーは考えることが大好き。いつもむずかしい顔をして、考え込んでいます。

その下のお姉さん、キーはきれいなものに目がありません。今日もピカピカしたきれいなものはないかと、目をきらきらさせています。

いちばん末っ子のクーはたいへんな食いしん坊。おいしいものが大好きです。

三羽が飛び回っていると、おいしそうなハンバーグやステーキやらの食べのこしが、ゴミ置き場にあるのを見つけました。

「あ、あそこにおいしそうなものがあるよ!」

さっそくクーが声を上げました。

「だめだよ、クー。ネットがはられているじゃないか」

 カーがお兄さんらしく注意しました。

 食べのこしには黄色いネットがはられていたのです。

「兄ちゃん、いいじゃないか。ネットなんてボクのこのくちばしでつっついちゃえば」

 クーは言うことをききません。ぴゅーっと地上へ向かってしまいました。

「ほんとに、食いしん坊なんだから」

 キーもあきれ顔。クーはもうネットをつつきはじめています。

「まったく、しょうがないやつだな」

 カーが下へおりようとしたそのとき、目をつり上げたおじさんが、走ってゴミ置き場までやってきました。

「こらー。カラスめ。どっかに行けー! しっしっ」

 クーはびっくりして、体が固まって、さらに悪いことに、くちばしがネットにからまってしまいました。

 おじさんは、クーを傘でばんばんたたきました。

 クーはたたかれて、いたくてくるしくて「くおん、くおん」と鳴きました。

 カーとキーもびっくりして、クーとおじさんのはるか上のほうの空で、「かあ、かあ」と鳴きました。

 と、そこへきれいな髪飾りをした、八さいくらいの女の子がやってきました。

「たたかないで!」

「なんだ、もんくがあるのか」

「たたいたら、いけないんだよ」

「あのね、おじょうちゃん、人間のゴミをあさるカラスが悪いんだよ」

「どんなに悪くても、たたくのは悪いんだよ」

 女の子も負けていません。 

と、そこへ

「りな、どうしたの」

 女の人のやさしい声がしました。

「あ、ママ!」

「まぁまぁ、うちの子がどうかしました?」

「い、いや、なんでもないんですけどね。へへへ」

おじさんはきまり悪そうに、立ち去りました。

(助かった……!)

 クーはほっとしたのと同時に、やっとネットからくちばしが取れました。

 クーは、女の子にお礼を言いたかったけど、「くうん、くうん」としか声になりません。

 カーとキーが飛んできて、同じように「くうん、くうん」と鳴きました。

「私、あのカラスさんを助けたんだよ」

 女の子はそう言うと、ママの手をとって、去って行きました。

 女の子とお母さんの後ろすがたを見ながら、カーとキーはクーによりそいました。

「クー、よかったわね」

 キーがうれしそうに言うと、

「うん、とってもこわかったよ」

 クーは涙目になりました。

「でも、おまえだって悪いんだぞ」

 カーがお兄さんらしく、さとしました。

「ねぇ、兄ちゃん。なんで人間はまだ食べられそうなものを捨てるの? それをぼくたちが食べたらどうして悪いの?」

 カーは考えこんでしまいました。

 まったくクーの言うとおりです。生きるためには、食べ物がいちばん大事なのに、どうして人間はその大事な食べ物を捨てたりするんだろう。それをぼくたちが食べたら、どうしてあんなに怒られなければならないんだろう。

「よくわからないけど、人間はぼくたちのことを汚いと思っていて、その汚いぼくたちが、ゴミを散らかすのが嫌なのさ」

「ふーん。人間ってへんな生き物だね」

 クーがふしぎそうに言いました。

「でも、あの女の子はいい子だったわよ」

 キーは目をきらきらさせました。

「うん! ぼくを助けてくれたもの」

 クーの声もはずみます。

「人間にもいろいろいるんだなぁ」

 カーもうれしそう。

「あの子の髪飾り、見た? 七色に光ってとってもきれいだったわ」

 キーが目をうっとりさせました。キーったら、クーがたいへんなときに、そんなところを見ていたのです。

「ねえちゃん、あの子の髪飾りは取っちゃいけないんだよ」

「わかってるわよ。あんたとちがうのよ。なんでもバクバク食べる食いしん坊め!」

「なんだよ。ねえちゃんだって、ぴかぴかしたものに目がないくせに!」

 キーとクーのけんかが始まりそうだったので、カーがあわてて言いました。

「そら、そろそろかえるぞ! クー、ネットを元にもどして!」

 きょうだいは、できるかぎりちゃんと、ゴミ置き場をきれいにして、飛びたちました。

 空には、まっかなゆうやけが広がっていました。

(きょうも、いろいろあったなあ) 

 カーはそろそろ、家のあかりがつきはじめたまちなみを見下ろしながら、飛んでいきました。


 次の日、なかよしカラスの三きょうだいは、今日も空を飛び回っています。

「今日もいい天気だね」

 クーがうれしそうに言うと、

「気持ちがいいわね」

 キーも目を細めました。

 カーも羽を広げて、下を見下ろすと、こどもの泣く声が聞こえます。カーは目をこらしました。

 泣いていたのは、昨日のあの女の子ではありませんか。

「あの子が泣いている! 行ってみよう」

 カーはキーとクーに呼びかけて、三羽は女の子が泣いている近くの木のそばへ、そぉっとおりました。

 女の子は何かをさがしているようです。下を向いて、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしています。

「どうしたのかなぁ」

 クーがとっても心配して、カーに言いました。

「うーん。何かをさがしているようだけど、何をさがしているのかな」

 カーも考えています。

「あっ! 髪飾り、髪飾りがないわ」

 さすが、キーです。目ざとく女の子のあたまに髪飾りがないのに、気がつきました。

「本当だ。髪飾りをなくして泣いているんだ。よし、みんなで髪飾りをさがしてあげよう!」

 カーが大きな声で鳴くと、三羽はまた空へと飛び立ちました。

 

 ♪

 大きなお空を飛びまわる

 ぼくたち、カラスの探偵団(たんていだん)

 きれいなものが大好きで

 おいしいものが大好きで

 頭のよさでは負けないぞ


 大きなお空を飛びまわる

 ぼくたち、カラスは嫌われ者

 きれいなものを集めたり

 おいしいものを見つけたり

 ぼくたちらしく生きている


 ぼくたちらしく生きている


 

 三羽は目を大きく見開いて空を飛び回りました。

「きらきらしてて、七色で、はしっこにピンクのリボンがついていたわよ」

 キーが、ことこまかに教えます。

「あ、あれかな」

 クーがピカッと光ったものを見つけました。

 三羽は急いで下におりました。ゴミ箱の横にあったそれは、アルミホイルの固まりでした。

「もうっ、ぜんぜんちがうじゃないの!」

「ごめんごめん。ぼく、ねえちゃんみたいに目が良くないからさ」

 クーはしゅんとしています。

 カーがちょっと考えて言いました。

「空からさがすのは、たいへんかもしれない。なるべく低空飛行で、あの子が行きそうなところをさがしてみよう」

 三羽はばらばらになって、低空飛行でさがすことにしました。

 カーは昨日のゴミ置き場から女の子がお母さんと帰っていった道。キーはちょっと高いところから、女の子が泣いていた場所。クーは女の子の近くをさがすために、女の子をさがすことにしました。

 カーは昨日のゴミ置き場からの道を、とっとっとっとと、歩いてさがしましたが、何も見つかりません。

 キーはちょっと高い空から、下を見下ろしましたが、ガラスやらビーズばかりを見つけてしまいます。

 クーは女の子を見つけました。まだ半べその女の子。クーはなんとか髪飾りを見つけたいと思いました。

「泣かないで」

クーは女の子にそっと呼びかけました。女の子を元気づけてあげたかったのです。けれど、クーの気持ちは女の子には伝わりません。かあかあという音が響くだけです。

「ぼくたちが、見つけてあげる。だから、泣かないで」

 クーはそれでも、女の子にしゃべりつづけました。かあかあとクーの声が響きます。

 そのとき、女の子がはっとしたように、クーのほうをふりかえりました。

「カラスさん……?」

 クーの思いが伝わったのでしょうか。

「うん、もう泣かない!」

 女の子はにこっと笑いました。

「ありがとう、カラスさん」

女の子は何かを思い出したように、かけて行きました。

 クーは女の子の笑顔にぽーっとなっていましたが、あわてて女の子のあとをついていきました。

 女の子の足取りはさっきとは大ちがいで、元気いっぱいです。

(何か思い出したのかな)

 クーも髪飾りが、見つかるような気がして、うれしくなりました。

 クーが女の子のうしろを飛んでいくと、前の方からカーとキーが飛んでくるのが見えました。

(兄ちゃんと姉ちゃん!)

 キーはくちばしいっぱいに、ぴかぴか光るものを入れています。カーのうしろには女の子のお母さんが見えます。

「ママ!」

「りな!」

 女の子はお母さんに抱きつきました。

「心配したのよ。りながしゅんとして、飛び出して行ったから」

「ごめんなさい、ママ。ママからもらった髪飾りが、どこかに行っちゃったから、さがしに行っていたの」

「あら、あの髪飾りなら…」

 二人のまわりには、カラスのなかよし三きょうだいカーとキーとクーがいます。

 木々がざわざわっとして、ここちよい風がひゅうっと通りぬけていきました。

 二人は、同時に言いました。

「カラスのぬいぐるみ!」

 二人は大きな声で、笑いあいました。

「りなったら、昨日カラスを助けたんだよって言って、髪飾りをうちのカラスちゃんにつけてあげたじゃない」

「そうなの、ママ。でも、りな忘れてて、今日の朝、いつもの棚にないから、びっくりしちゃったの」

 二人はまだ笑っています。カーとキーとクーも、おかしくなりました。

「なんだ、そんなことかあ」

「だから、ボクのことを見て、思い出したんだね」

「あたしは、こんなにいっぱい、さがしたのに」

 キーはくちばしから、きれいなガラスやらビーズやらを落としました。

「好きなものをいっぱい見つけられて、良かったじゃん」

 カーがキーをなだめると、

「もしかして、それが目的だったりして」

 クーが憎まれ口をたたきました。

「もうっ、クーったら!」三羽はばさばさと、くちばしでつばさをつつきあいました。

「元気なカラスさんねえ」

「うん、とってもいいカラスさん」

 りなとお母さんはほほえみました。

「きっとこのカラスさんたちは、きょうだいだよ」

 りなが言ったので、クーはうれしくなって、かあっと鳴きました。

「ほら、そうだって言ってる」

 りながまた笑いました。

 二人と三羽は「さようなら」「かあかあ」と言いながらお別れしました。

 まだまだ明るい東のお空には、白くてまあるいお月様が顔を出しています。

「今日もいい日だったなあ」

 カーがつぶやくと、キーとクーもうなづきました。

 三羽はお月様に、あいさつするように、かあっかあっと大きく鳴いて、おうちに帰りました

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