見出し画像

緊急事態宣言 24日目

ついにオンラインでのリアルタイム配信講義の初日である。通勤がないとはいえ、まともな服を選び、メイクをし、髪を巻いたら多少欲が出て、もう一ヶ月も出番のなかったアクセサリーを身につける。しかし、家にいるというに着飾るのはやや違和感がある。

講義は10時40分からだが、この開始時間までどうにも落ち着かない。キャンパスでの講義の場合、いったん大学へ行ってしまえばあとは講師室で必要な準備をしてあまった時間はコーヒーを飲みながら本を読んでいると、チャイムが鳴って時間を告げるまではちょっと解放される。しかし家だと、チャイムという管理者はいないので、じぶんで時間に気を配らないとならない。これはちょっと神経を使う。わたしはたとえばオンラインの英会話をするときも、5分前にパソコンに向かったものの「あと5分ある!」と思ってメールの整理をはじめてしまい、結果として英会話に遅刻しそうになったりするようなところがある。では早めにzoomの教室にログインしていればいいかというとそういうわけでもなく、講義開始7分前くらいにアクセスせよと言われているので塩梅が難しい。来週から、10時すぎくらいから講義開始までのそわそわタイム用のタスクを割り振っておく必要があるだろう。

肝心の講義は、とにかく学生さんのほうがzoomをよく使いこなしていてたいへん助かった。新学期開始が前日であったため、リアクションペーパーを見るとこの講義がはじめてのオンライン講義だった、という方も何人かいたのだが、それにもかかわらず「見えません」「聞こえません」もなく、また妨害になってしまうようなアクションをする方もおらずとてもやりやすかったし、わたしが聞いたことにも反応ボタンやチャットボックスを用いて柔軟に答えてくださった。講義は現代美術論ということで、今回は導入として現代アートは何でもありの無法地帯ではなく、そこに固有の歴史や論理というのを学ぶと楽しくなる、というのをフェリックス・ゴンザレス=トレスを事例に話した。美術館に行かれなくなっているいま、この講義の持つ意味合いも変わっていると思う。少しでも学生がアートに触れる機会を提供できるように、具体例から展開するような講義を今まで以上に意識して組み立てたい。

リアクションペーパーもみなさんスムーズにオンラインで提出してくださり、130人を超える受講生(例年の3倍くらいいる)の数から考えるとここまできちんとしていただけるのはなおさら本当にありがたい。現代アートに関心がわいてきた、という方も多くうれしくなった。また講師の自己紹介でした、環境美学とそれに付随して地域芸術祭のことがメインの研究だけれど、アイドルやいけばななどもともと趣味であったこともいまでは研究の対象になっている、という話を面白く聞いてくださった方もいたようでうれしかった。さらになるほど、と思ったのは、すべての講義がオンラインになったことで実技系の科目をとるのが不安だったので、座学であるこの科目を履修しましたという声で、受講生の激増はたんに新3年生以下から入学定員が増えたというだけではないのかもしれないと感じた(わたしの講義は3年生以上のみ履修できる)。

おひるごはんは近所のラーメン屋さんで、テイクアウトのまぜそばを購入。しかしここもテイクアウト新規参入店で(わたしの町はテイクアウトを最近始めた店で溢れかえっていて、人はどうしたって生きていかなければならないし、生きていこうとするのだと思う)、かなりの時間待ったので結果食べて帰っても同じでは…という気もしなくはなかった。とはいえ家に帰って食べたまぜそばはおいしい。というか、フィンランドから帰国したらラーメンを食べに行く!!!と思っていたのに、こんなことになりカップラーメンとかインスタントラーメンしか食べていなかったので、鶏のだしの味を感じただけで至極感動した。ちなみにフィンランドにラーメン屋がないわけではない。ヘルシンキ大学のすぐ近くにも、Momotokoというお店があり、連日かなり賑わっていた。毎日前を通っていて、一度は食べてから帰ろうと思っていたのに、コロナ緊急帰国でおじゃんになった。Momotokoはやりたいと思ったことはすぐにやらなければならない、と思うときの象徴的存在になった。

午後は哲学オンラインセミナーで成瀬尚志さんのレポートについてのお話を伺っていた。レポートの問いをどのように設定するのかということが、果ては大学論までつながっていく面白い話題であることにわくわくした。わたしは美学や現代美術を複数の大学で教えているが、文学部の哲学科や芸術学科のように実作をしない人に対しての場合と、美術や舞踊や体育などなんらかの実作をしている人に対しての場合とで、もっと積極的にレポート課題の設定をいじってみてもいいのかなという気がしてきた。わたしの講義でなにを身につけることが望ましいのかを、その人の大学での学び全体のなかに位置づけて考えてみると自ずとやっていただきたい課題は変わってきそう。

夕方、またいもうとが建てている家まで散歩に出かけた。道中、チューハイ片手にひとり飲んだくれる者、カメラ片手に風景を撮影する者、結構な年齢に達しているがシャボン玉を吹きながら歩く一家のような集団、作業中の市の職員と言い争う者などがいて、みなそれぞれに暇と向き合っているのだなと思った。

帰宅後、お腹がすかないのでまずシャワーを浴びたあと、魚屋で買った焼くだけで済むようにセッティングされたホイル焼きを食べた。白ワインも開けた。アイレンというぶどうで、スペインでは結構なシェアを持っているらしい。りんごのような爽やかさでおいしい。

そのあといろいろと作業したり、頼まれたことをしているうちに夜が更けてしまい、また眠るのが遅くなったが、翌日を有意義なものにするため慌てて寝た。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?