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緊急事態宣言 17日目

寝坊する。またあつ森チャレンジは振り出しに。10時くらいから机に向かって、来週の明治学院の講義に向けての資料を作り始める。来週はアートプロジェクトについて説明する予定。あと、どうもそもそも芸術批評というものの存在意義がわからない、という人が多かったので、それについての解説も自分なりに書いた。要は、芸術は好き勝手に作りそして楽しめばいいというが、そうしたごく個人的な楽しみはそもそも「芸術」という文化の存在に支えられており、その文化を成立させているのは芸術家とそれを評価する批評家などを中心とする人々なのだ、という話。これは文章にするとすごく単純なのだけれど、この2年間非常勤講師として勤務するなかで幾度となくリアクションペーパーに書かれた「人の感性はそれぞれなので芸術は好きに見ていればいいと思います」という意見に抗いながら自分なりに考えてきたことの骨子である。

あと、結構「感性は人それぞれ」ということを信じている人がすごく多くて、でもなぜそう信じられるのかがわたしには不可解だったりする。むしろわたしは、自分の感性(ここではあえて日常的な会話のなかでの使用法にしたがってこの言葉を使っている)の凡庸さにつねに落ち込んで生きてきたような気がする。いいなと思うものが、そんなに大きく人とずれることはない。ある集団のなかではだれも良さを理解していなかった物語も、別の集団にいけばみんながいいね!と言う。わりとそんなことの繰り返しで、自分だけがいいと思うものなんてめったにないし、わたしがいいと思えるものはたいていの人がいいと思えるものなのだ。

また制作者の立場で考えても、わたしが美しい、ぜひとも作りたいと頭に描けるいけばな作品が、自分の流派の基準から大きく逸れることはあまりない。型破りな作品を思いついて、最初は賛否両論出るのだけれどしかし時を経るごとにほかの人がそれに続きたいと思うような「型」となる作品を制作できる人の感性ほどに、わたしの感性は突き抜けていない。

と、いうようなことを考えながらオンライン英会話を挟みつつ講義準備の作業をしていた。オンライン英会話では、リモート観光のニュース記事を読んで話した。フェロー諸島というところで、ツアーガイドの頭にカメラをつけて歩かせ、それを配信することでツアーを成立させているコンテンツがあるらしい。実は、今度出すわたしの本にも観光に関する箇所があるのだが、これをヴァージョンアップして英語論文として投稿する計画を持っていた。本当は、もうほとんどできていてあと英語にするだけ、という気持ちだったのだが、コロナの件で移動や観光の持つ意味も変容しているように思うので、もう数ヶ月は考えてから論文にしたいと考えている。その計画にとってすこしヒントになる会話だった。

昼食として、マルちゃん製麺の中華そばに食べるラー油をたらしたものを急いでかきこみ、出身研究室のzoomゼミに参加させていただいた。先生の研究発表が明らかに自分の関心にとって大事な内容だったので。ちょうど同時刻に開催されるはずの現所属のゼミは、新学期開始が延期になりまだ始まらない。先生にはわたしが質問しそうなことをすでに読まれていて、もうちょっと論点を深められる質問ができればよかったなと深く反省した。もう少し時間があれば、質問内容に関わる論文を読み直しておいたのだが、まあそれは今度先生に直接お会いできるときの楽しみにしておこう。

よるごはんは回鍋肉を作った。料理嫌い、という話と一見矛盾するように思われるだろうが、わたしはすでに混ぜ合わされた調味料の入ったキット?のようなものを絶対に使わない。回鍋肉を作ると言ったら甜麺醤、豆板醤、片栗粉、酒、あと砂糖か、何かそういうものを混ぜて自分で合わせ調味料を作り、ニンニクとしょうがを香りを立てて炒める。そうでないと気が済まない。だいたいどんな料理でもそうやって作る。たぶん、このこだわりのせいで料理のハードルが上がって嫌いになっていると思う。しかし結局、そうやって作った回鍋肉はおいしい。ほかはお味噌汁と卵かけごはん。

食後、なんとなくだらだらしてしまった。フィンランドから帰ってきたときのことを回想していたが、コロナの影響でフィンランド政府が緊急事態です!と言い始めてからあれよあれよと状況が悪くなり、予定の変更を余儀なくされ、たった5日でわたしは訳もわからず帰路についた。帰りの飛行機に乗り込んだとき、まだやりたいことたくさんあったのにな、なんだかわけがわからない、と思いながら、死ぬときもこんな感じだろうと悟った。悟りのあと静かに寝てしまったところも含めて、ほとんど臨死体験だったのかもしれない。そういうことを思うと、だらだらしている暇はないよなあ、という気がしてくる。そこでお風呂に入り、『ソロモンの歌』を読み、お風呂から出てもそれを読み、寝た。

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