見出し画像

小学校はやめたと言っていた男の子


長男が今春から小学生になる。
「小学生」というワードを聞くとわたしが思い出さずにはいられない、今でも心の中心に居座っているエピソードを。


小学校をやめて自転車で一人日本一周旅をしていたケンジくんのはなし。

当時、わたしは中学生でした。いつもの友達といつもの道を下校中、小さな公園に誰かがテントが張ろうとしています。
宮崎とはいえど、季節は冬。ちょうど寒い日でした。
よくみると、テントを張っていたのは私よりも小さい、ひとりの男の子でした。男の子の横にはたくさんの荷物を積んだ自転車が停めてあるのが見えます。

好奇心旺盛なわたしは即行で話しかけました。
「なんしちょっと?」「どこから来たと?」「今日ここ泊まるつもりやと?」「めっちゃ寒くない?」
質問攻め。

素朴で屈託ない笑顔が素敵な男の子は、兵庫県姫路市から自分ひとりで自転車旅をしていることを教えてくれました。
そういう人に出会ったことなかった私は「えーー!?」と驚き、しばらく何かを話したのか話さなかったのか、
本当は家に連れて帰りたかったけど、連れて帰らなかった。
親に怒られると思って、それで連れて帰ることができなかった。
でも、家に帰ってからも気になって気になって、「こんな寒いのに外で寝るのかなぁ」「今頃お腹すいていないだろうか」そんなことばかりが頭をよぎります。

家に帰って、2つ上の姉に、今出会った男の子のことを話しました。
姉は「よし、迎えにいこう!」と言うとお母さんを時間をかけて説得し、私を連れてあの公園に一緒に行ってくれました。

公園のテントの中には男の子がいて、「今日うちに泊まっていいって!」と言うと「えっいいの?」と遠慮がちに、でもとても嬉しそうに笑います。

私たちはイオン(当時ジャスコ)へ買い物へ行き一緒にお菓子を選んだり、家に帰ってそれぞれお風呂に入り、話したりしました。
その男の子の名前は、ケンジくん。

ケンジくんはスヌーピーの本を常に持っています。
「ピーナッツがすきなんだよ」
ピーナッツなんて豆の類しか思い浮かびません。
「それスヌーピーやろ?なんでピーナッツやと?」
「スヌーピーはピーナッツっていうマンガの中のキャラクターなんだよ」
「スヌーピーのマンガ?ピーナッツ?いみわからん!」
「マミはおもしろいなぁ」

名言集みたいなのとかマンガの中に、たくさんの書き込みがあったのを思い出します。
わたしは大人になってやっと、ピーナッツの言葉たちの良さがわかるようになったけど、ケンジくんは小学生の年齢でもう分かっていたなんて。

「何年生やと?」
「小学校はやめた」
「小学校ってやめれると?」
「うん、やめれるよ」
「えー知らんかった」

わたしの親はこんな会話を聞いてなんて思っていたんだか分かりません。

このことを思い出すと、いつも何でだか涙が滲んできます。
自由に生きているようで、色んなものに縛られていたり、「こうあるべき」みたいな固定概念に囚われていたりする、その心の奥底が震えるのかな、と思っています。

文頭にも書きましたが、長男が今春から小学生になります。

「小学校はやめた」
「小学校ってやめれると?」
「うん、やめれるよ」
「えー知らんかった」

こんな会話の中から、ケンジくんに色んなことがあってたくさん考えた末、旅に出ることにしたんだと、今の私には分かります。ケンジくんの親がどんな気持ちかも、今ならある程度は。

ケンジくんは「これから南下し鹿児島に向かう。手紙を書くね」と言って宮崎を出ました。桜島を見にいくと言っていました。

その後、手紙をくれました。手紙にはケンジくんのお母さんからのお手紙も入っていて、お世話になりましたという感謝と共に「この旅でケンジは強くなって帰ってきました」という内容が書かれてありました。

「小学校」「スヌーピー」「ピーナッツ」「自転車旅」などのワードをきくといつもケンジくんのことを思い出します。
元気にしているかなぁ。
今頃、どこで何をしているんだろう。
桜島は見れたかな。
わたしのこと、覚えているかな?

その1回しか会ったことがないけれど、わたしはケンジくんのことが本当に大好きで、いつかもう一度会いたいなぁ、と密かな夢を抱いています。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?