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はなしの止まり木#5「宇宙食堂ザ. スペース」

曇天の金曜の朝、おはようございます!
豆と小鳥、はなしの止まり木#5「宇宙食堂 ザ.スペース」
をお届けさせてください。
いつものように作はナミン & 朗読とイラストはバクです。

youtubeポッドキャストはこちらになります。

 お腹が空きすぎて機嫌が悪くなりそうだった。
今日も汗水流し、頭を酷使、よく働いた。
気がつけば薄い月が都会の明るい空でツンと光ってる。

ここはひとつ、ラーメンと餃子を食べても
罰は当たらんやろうと、
ひとりで帰り道にある中華の食堂「ザ.スペース」の暖簾をくぐった。
ひとりもんはカウンターが気を遣わなくていい。
ビールを頼み、おしぼりで手を拭く。
ついでに首も拭く。
首が拭けるようになったあたりに、
そろそろ40に手が届く私の年輪を感じて、
しみじみする。
店内にはおいしそーな中華の香りが充満している。いい感じ。
ここは勤労庶民のパラダイスだ。

隣に30代前半に見受けられるスーツ姿の男性が座った。
彼もながーい1日を終え、
ご褒美ラーメンタイムなのかもしれない。
彼も私のようにおしぼりで首をふいた。
同志よ、お疲れ様!とココロの中でつぶやいた。

すると「おおきにな。キミもお疲れ様」と隣りの男性が
そのルックスより若い声で話しかけてきた。

げっ、ココロを読まれてる。
「えっ、なんで私の考えてることわかったんですか?」と恐る恐る尋ねてみた。

すると「だって僕、宇宙人やしテレパシーでコミュニケーションしてるからなぁ」とあっけらかんとお冷をぐぃーと飲みながら彼は答えた。

口の中の ラーメンをふきそうになりながら、
「またまたまたーっ、たまたま当たっただけですよね?」と早口言葉的に返答すると

「自分は西暦で言うところの1986年5月17日生まれ、2歳年下の弟がおって、中規模な設計事務所で一級建築士を目指しながら働いてるけど、
中々、試験に合格できてない。
3年前に彼の浮気が原因で別れてからは誰ともつきあってない。
どや、当たってるやろ」

いやーん、当たってるやん。
一見、どこにでもいそーなサラリーマン風やのに
ホンマに宇宙人なんやろか。 
それにしてもなんで「僕、宇宙人やし」ってカジュアルにカミングアウトしてくるんやろ。

「ちなみにな、今、キャンペーン中で、2泊3日で宇宙への旅ご招待してるんやけど、自分、来てみる?」と宇宙人がきさくに誘ってきた。
新手のナンパか?これは。

「2泊3日って淡路島行くみたいな気楽さでうれしいねんけど、仕事忙しいし、残念やけど参加できひんわ。行ってみたいのはヤマヤマやけど」と返すと、

「しゃーないな。しなちく3本全部、僕にくれたら、自分が宇宙におる間、時間凍結しとくし、仕事休まんでも大丈夫にしたるわ」と巧みに交渉してきた。宇宙人の好物がしなちくだなんて知らんかった。
生きていると楽しいことはこんな風にじわじわと起こる。


「えっ、でもこれって時々、テレビでやってる宇宙人に誘拐されて訳のわからん星に連れていかれて人体実験されて、記憶消されるってやつやないの?誘拐やと倫理的にアウトやから最近、アプローチ方法変えた?」と人間界の常「上手い話には裏がある」的に探りを入れてみた。

すると少し心外な様子で「あーぁ、人間はこれやから難儀するわ。
僕ら、進化した生命体やから悪意や邪心とかはもう存在してへんねん。
人間界の疲れを癒してもらうのが目的の慈愛に溢れた招待旅行やのになぁ。僕は星のリーダーになる実習で今回、地球に舞い降りてきてて5人の疲れた人間を宇宙に招待するんがミッションやねん。それにしても疲れてる人間、多いよな。疲れない生き方もあるのに疲れる選択してる人が多いな。
地球って名前やめて『実はMなんです星』にしたらええのに」

私は高速で考えた。宇宙に行くべきか否か。
今までずっと保守的に失敗をしない選択をして生きてきた。
頭で考えて生きてきた。それでさて幸せだったのか?
今、幸せなのか?

「宇宙に行ってみたい?」私はわたしに聞いてみた。
コドモのわたしが「うん!」とジャンプして即答した。
そーやんな、行ったことないし行ってみたいよな。
幸い失うものもそんなにないし、時間凍結してくれはるらしいし。

「宇宙人さん、私、行ってみたいです」と最後の餃子にお箸をつける前に、よく見ると端正な彼の横顔を見てそうつぶやいた。

「そーかそーか、やっぱり真心ちゅうもんは星が違っても伝わるもんやな。
よしよし、ほな、善は急げや、僕がラーメン食べ終わったら早速行こか」と彼は両手をパンパンパンと景気よく叩いた。

「追加でしなちく大盛とビール大瓶お願いします!」
私は大きな声でお店の大将にオーダーした。
人生初めての大冒険、楽しませていただきます。



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