3月13日開催『公開セカンドオピニオン』について

3月13日にオンライン開催した『公開セカンドオピニオン~がん治療と食事』に関して
違う場所で、やり取りが行われているのを読み、セミナーの主催者の一人として説明する必要を感じたので書きます。


抗がん剤の副作用による味覚障害、口内炎、さらに胃がん、食道がんではがんの症状でも食べることに困難が生じます。
栄養を採ることの大切さを、病に向き合い治療を受ける際、通常以上に感じているのに、食べられず痩せていくことに、私が接している多くの患者さんは大きな不安を抱いています。
事実、夫は食べることが闘いになってしまいました。
『悪液質』という言葉への恐れから、しょっちゅう体重を測定して一喜一憂し、精神を病みそうな状況でした。

私はと言えば、何を作っても夫が食べられない。病院で栄養指導を何回か受けましたが、理論をうかがうばかりで、トロミをつけても、柑橘系を使っても、どうにもならないことに、自分の能力が夫を苦しめていると思いました。

それは、夫の死後も続き、3年間、キッチンに立てなかった、美味しいと思うことにすら罪悪感を抱くことに繋がっていきます

栄養の大切さを知らなかったわけではなく、悪液質のことも知っていたから、追い詰められていたのです。


Twitterでの発信で、管理栄養士の方が、コンビニで購入できるものや、具体的な工夫を発信しているのに接しました。さらに、訪問管理栄養士という方がいることを知り、もし、あの時にこのことを知っていたら、日々は違っていただろうと思ったことが、今回、管理栄養士さんに講師を依頼した理由です。

セミナーの冒頭で、医療者から「体重減少と生存期間中央値」「悪液質」「サルコペニア」「フレイル」の講義がありました。栄養士さんの講義は事前に知っていたのですが、医療者が講義をすることを、私はその時まで知りませんでした。
もちろん、大切な理論です。内容が良くなかったと言っているのではなく、言葉の選び方が不安を強めてしまうのではないかと懸念を抱きました。
このセミナーに事前質問を寄せてくださった方の多くは、難治性がんなどの治療に苦慮し、日常に悩みを感じている人であると認知していたので、あの時の私たちのように追い詰められているのではと思っていたからです。
それは配信中にも率直にお伝えしており、観ていただいた方には、私の表情や発言から伝わっていたのではと思います。


その後、ある患者会の方が、公開セカンドオピニオン配信最中に、講義や質疑応答へ不安を募らせた方からの電話が複数あったという投稿をされたのが、最初に書いた「別の場所」です。
そこについた配信を観ていない方からのコメントや、医療者からの長文の説明を読み、これは対立になってしまうのではないかと心配になり、この投稿をしています。
このままでは論点がズレていってしまうのではと思いました。

自分が、もともと持っていた『体によい』というイメージや、世にある食事療法の本から、私は夫に玄米を食べさせてしまいました。
腸の動きは大事だと知り、繊維質を思いうかべ、根菜、海藻をどんどん出し、消化がいいものというイメージからうどんも作りました。
通過障害を起こしていた夫は、うどんを喉につまらせ、玄米や繊維質は、胃に負担をかけてしまった自分の愚かさが、本当に悲しいのです。
なぜか「コンビニで売っているものは体に悪い」というイメージを強め、なんでも手作り、無農薬みたいな思考になりました。それが、ニンジンジュースにも繋がっていきました
病院から出していただく栄養補助のものは、お世辞にもおいしいと言えず、夫は涙を流して飲み込んでいました。
管理栄養士さんとつながると、フルーチェとまぜてみると口に合わない栄養補助も食べられるとか、
カロリーが大事だから、チョコレートやアイスクリームも口に入るなら取り入れ、飲むゼリーを選ぶなら、どこを見て選ぶのかなど、目から鱗が落ちる話を知ることができました。
その力をあの時の私たちのように、生活全体ががんとの闘いになってしまいそうな人に届けたいと願って行ったのが3月13日のセミナーでした。


公開セカンドオピニオンは、毎回、質問のどこをポイントだと思うのかが、医療者と患者側でずれているのだということが明らかになり、そこを寄せていくことで、誤解が解消され、知りたいことに繋がっていく内容であったと思っています。やってきてよかったと思っています。
最近、(これは、いいとか悪いとかではなく)毎週行われている相談飲み会や、合コンが、多くの人から公開セカンドオピニオンの一連のものであるという認知になっていることを知り、それは、趣意とは違うものであるので、3月13日の回を区切りとしようと開催前に話し合いをしていました。
今回の一件が、公開セカンドオピニオンをラストにした理由ではありません。
それぞれが、より良い情報をと願って活動していることは大切なことであり、一緒に出来ることは力を合わせ、ちょっと違うなと思ったら、一緒にしなければいいのだと考えています。
「○○さんがすることだから」全部いいということではないと思っているので、違う意見の時には
それを率直に伝えていくことも大切で、それは相手を信頼しているからできるとも思っています。

私は、情報に溺れた後悔を背負っています
夫の治療の難しさに接した時、私は冷静にはなれませんでした。世界でたった一人になっても、この人を救いたいと切に思いました
そして、検索した先の耳障りのいい言葉にすがり、心のどこかにわいてくる疑問を必死で抑え、助ける、治すといってくれる情報を信じたいと偏っていきました。
『動物実験で効果』『有名大学名誉教授の推薦』『海外では認められている』『先端医療』という言葉に抱く自分の解釈をつなぎ合わせて、内容を受け止めてしまいました。
わかる単語だけをつなげて英文を理解したようなものであり、臨床試験、国民皆保険、標準治療、先進医療などの意味を理解した時に、自分がしていた勘違いに気づいた…それが、今の活動に繋がっています。


世の中には、科学的根拠が乏しい情報があちらこちらにあります。
数年前より、科学的根拠に基づいた医療者の発信が増えてきたとも感じています。
でも、どんなに信頼できる情報が増えても、見極めるポイントを理解していなかったら、自分の感情に沿った発信を信じたい気持ちが判断を偏らせてしまうことに変わりはないと思っています。

私は、冷静になれない患者家族に、状況からより良い選択肢を示せるのが医療者、専門家の力だと思っています。
「最良」と思うことが最適ではないという経験を繰り返したことから、治療法の具体的な選択ではなく、自分たちが何を願っているのか、何を望んでいるのかを医療者に伝えていくことで、専門的な力により、より良い選択に繋がっていくとも考えています。
必要なのは、医療者と患者家族の対話なのだと思います。


今後も大切だと思うことを、自分の立ち位置から取り組んでいき、未熟だったこと、見えなかったことで間違いに気づいたら改め、進んでいきたいと思っています。
今回で公開セカンドオピニオンを区切りとするのは、それぞれの方向性を尊重してのことです。
至らない点があったことを、ここにお詫びいたします。

全国胃がんキャラバン、多くの人にがん情報を届けるグリーンルーペアクションに挑戦しています。藁をもすがるからこそ、根拠のある情報が必要なのだと思い、頑張っています。