てれびのスキマ著「芸能界誕生」の感想

「あの日、日劇ウエスタンカーニバルに居た人たちによって日本の芸能界は作られた」というストーリーに沿って本書の取材とインタビューは進む。

それはひとつの歴史観によるものだし、違和感があるのは確かなのだが、事実漫才ブームによるパラダイムシフトが起きてテレビの主役がお笑いタレントに代わるまでは間違いなくテレビの主役は様々な出自を持つ「歌手」であり、そしてそのなかでも戦後デビュー世代の歌手をマネージメントして、テレビから流行歌を生み出しレコード会社に利益をもたらすシステムを確立したのは、日劇ウエスタンカーニバルを経験し、音楽的なバックボーンを持つ芸能事務所経営者だった点は疑いようのない事実なので違和感は横に置いておいて、興味深く読めた。

自分がテレビを見始めた頃の「歌番組自体や歌手の人たちの格上感」が
生まれた理由がわかったのも良かった。

個人的な話になるがかねがね「なぜ川柳川柳のジャズ息子に出てくる新しい音楽が「ジャズ」なのか?」が疑問だったのだけど、当時の新しい音楽がひとまとめに「ジャズ」と扱われていたという側面があったことや、柳家金語楼の息子さんの山下敬二郎氏の名前は知っててもそれほどの人気だったことは後から窺い知ることは出来ないので、本書で知れたのは良かった。

あとロカビリーという音楽ジャンルも自分には「プレスリーみたいなもの」という認識しかなく、当時のティーンエイジャーカルチャーを含めたムーブメントだったことは新しい知見だった。

それとミッキーカーチス氏がなぜ立川流Bコースにいたのか、昔から少し疑問だったけど筋金入りの落語好きでウエスタンカーニバルで一席披露してそれを当時の小ゑん(後の立川流家元・立川談志)が見ていた、という話は初めて知って興味深かった。

って途中から落語の話ばかりだな。

それにしても本書冒頭にある芸能事務所相関図の中心にいるナベプロと分裂・暖簾分け事務所の多さに圧倒された。
これ見るだけで本書がどんな筋立てでストーリーが進められていくかが一目でわかる。

扱ってる時代は日劇取り壊しまで、本書の趣旨的に音楽方面への取材がメインなので演芸畑の事務所の勃興や吉本興業の東京進出やらは完全にレンジ外なのでそこを期待しているとがっかり、ということもあるかもしれないが膨大な取材量と必要な根回し等々が素人目にも伺い知れる良書だと思う。

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