マガジンのカバー画像

酒と肴の記録

99
シリーズ「酒と肴」をまとめたものです。日々の暮らしの中で拵えたおつまみと合わせたお酒を紹介しています。信州食材と豆料理への愛が適度に詰まっています。
運営しているクリエイター

記事一覧

僕の姐さん(あんバタ)|酒と肴その九十九

私の心に住むマリー・アントワネット、気付けば長い付き合いになりました。出会いは、小学生の僕ちゃんの頃に見たベルばらの再放送ですから、もはや家族みたいなもんです。 ええ、ナンノコッチャですよね。 心のアントワネット様(専業主婦・永遠の37歳)は、日々の暮らしの中で生まれた別人格みたいなもんでして、悩める時や四季折々のタイミングに現れ、普段の私には無いご意見をくれる存在です。摂り過ぎたアルコールが魅せる幻って説もありますが、現実と同じくらい、ロマネスクも大事だと思いませんか?

たぶん酔っただけ(キーマカレー)|酒と肴 その九十八

季節の変わり目、気温の高い日が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。 こちらはどうにも調子が上がらず、心身ともに今ひとつ。暑さを理由にビールや酎ハイなどをやり過ぎて、早くも夏バテ状態です。 お誂え向きに春の土用に入りましたから、ここはひとつ鰻でも食べて精をつけたいところ。 だけど、年度の切り替わりはお誘いも多く物入りでして、真冬並みの懐具合に震える今日この頃でございます。季節感とお金はどこに消えてしまったのでしょうか? 酔いに任せてはしご酒をキメれば、当然出

実はなくとも豆のある暮らし(お汁粉)|酒と肴 その九十七

由無し事にかまけていたら、買い置きのじゃが芋から芽が生えていました。野菜籠に訪れた春、そう言えば明け方に、まどろみの中でうぐいすの声を耳にした気がします。ベランダから見えるご近所の梅もそろそろ七分咲き、桜の開花も間もなくでしょうか。 まじまじと見れば、四方八方に伸びる突起が恐ろしげ。それでも、海の生き物にも似た色と形は、ホヤやナマコの珍なる味を思い出させ、ぴくりと食指が動きます。案外、ひと口くらいならイケるかも知れませんが、冒険心よりもお腹が大事ですから、厚めに剥いて味噌汁

邪智暴虐の王(ほうれん草のバター炒め他)|酒と肴 その九十六

毎年繰り返す年度末の忙しさ。 いずれ抜け出せるタイムリープだと願っていましたが、現実は単なるタイムフロー。まったく自然な時の流れです。 日付をまたいでの帰宅もしばしば。一日の大半を職場で過ごしている訳です。現住所は据え置きでも、いっそ本籍は会社の所在地にというくだらぬ思い付きに、心の迷子っぷりが窺えます。 はい、疲れていますね。そりゃ判断力が落ちているのも納得です。 そんなこんなで呑めない明け暮れですから、酒にありつけた時には大変なことになります。 私の中に棲む、かの邪智

水鳥の生態(ナポリタン)|酒と肴 その九十五

不確実性の高まる現代。 日頃、当たり前に食べているスパゲッティだって、突然食べられなくなるかもしれません。世界情勢により小麦の輸入がストップすることもあるでしょうし、体質が変わることも想定されます。和食原理主義が台頭し、外国食禁止令が公布されることだって無きにしもあらず。 そこでもし、最後の一皿になるとしたら、何スパゲッティを食べたいのか考えてみました。 色々と思い浮かべてみるも、最終候補はナポリタンかカレースパゲッティグラタン(インディア ざ スパイス)、ソフト麺で食

酒を呑まねば浮かれまい(ナシゴレン、タンドリーチキン)|酒と肴 その九十四

年度末が近づいて、エブリデイハードワーク。 疲れた体に鞭を打ち、閉店間際のスーパーに駆け込むも、お目当ての品が完売で悲しくなります。 平日に買い置いた特売品で、週末につまみを拵えガツンと呑む。 そんなルーティーンが崩れたストレスか、首筋と額に吹出物が現れました。踏んだり蹴ったりに加えて、後ろ脚で砂を掛けられた気分。残念ながら脚フェチではございませんので、ご褒美感はゼロでございます。 やっとこさ迎えた週末も、キチンと素面でサタデー・リモートワーク・フィーバー。いや、いい

鬼と一緒に(チーズ豆せんべい)|酒と肴 その九十三

ホップ、ステップからのダイバーシティ&インクルージョン。加えてのビロンギングが定着するのは、ウォンビーロングでしょうか。 奈良に都があったのも遥か昔、時代は令和です。追儺と称して鬼と人間を分断するなんて、今はもう流行りません。 人をまとめるために鬼の設定は便利なんでしょうけれど、大概は心に棲む鬼が問題でして、疑心暗鬼とは言い得て妙です。 さて、気安く「鬼は外」なんて言いますが、彼らにも築き上げてきた文化、暮らしがあります。 それなのに、問答無用で追い払われたらどうなるで

働き蜂の夢(焼鮭、はりはり漬け)|酒と肴 その九十二

「鮭は薔薇より美しい」 ノートに書かれたメモ。 個人の意見ですし、諸説ございます。ただ言いたかっただけの気もします。 そもそも比べることに意味は無く、よく焼けた鮭の切り身を見て、とても美しいと感じたのです。薔薇の魅力を否定する気はなく、そこかしこに美があることを、忘れぬよう記しておきたかったのでしょう。 プロフェッショナルの料理が美術館の作品だとしたら、家庭料理には自然が生み出す「瞬間の美」があると思います。 計算され尽くし描かれた花の構図と、風に吹かれて見せる花の表情

我は求め、訴えたり(雑煮、野沢菜牛肉炒め)|酒と肴 その九十一

終わらずに、持ち帰った仕事と向き合う三連休。 ああでもないこうでもないと片づけながら、ふと思ったのです。 この二十数年、労働の対価として賃金を受け取ってきました。 稼ぐ端から酒に換え、アルコールで英気を養い、起きたらまたぞろ働く日々。会社勤めをしている限り、きっとあと二十年近くは同じことを繰り返すのでしょう。 別に不満がある訳ではありません。夜毎、酔いに身を置けるのは有り難いことです。 ただ、当たり前に慣れてしまうのは少し物足りなく、繰り返しの日常は驚く程あっという間。残

豆料理愛好家(ミネストローネ)|酒と肴 その九十

食べるのはもちろん作るのも好きなので、『天然生活』や『クロワッサン』の料理特集は必ず目を通します。 記事に登場する料理家の皆さんに憧れて、「豆料理研究家」と呼ばれる自分を想像するのは、大概濃いめのソーダ割で酩酊している時です。 素面で暮らすには、ちょいとささくれだったこの憂き世。アルコール中心主義者の自覚はありますが、アディクションはおこがましくて謳えません。同じ感覚で料理家や研究家なんて恐れ多く、名乗るのであれば愛好家あたりが丁度良いと思われます。身の程を知るのは大事なこ

師走の助走(よだれ鶏、フォー)|酒と肴 その八十九

手帳に今年の目標を書いたばかりのはずが、いつしかもう12月。時は自分の知らないところで流れているのか、置いてけぼり感が半端ありません。 嘆いたところで時間が戻る事もなく、戻ったとしても、どうせ酔っ払うことでしょう。再びの猛暑も勘弁なので、これはこれで良しとします。 去年の今頃は何をしていたのか。ふと気になって、アルバムを見返しました。 並んでいたのはお酒とおつまみ、甘味の写真ばかり。一昨年も、その前も似たりよったりでしたので、これから先も同じだと嬉しいです。 毎年たくさ

キミにきめた!(秋刀魚)|酒と肴 その八十八

「秋来ぬと 目にも明らか 抜けた毛の 数の多さに 驚かれぬる」 はい、秋です。 九月下旬も暑い日が続き、エンドレスサマーヌードと思ったのも束の間、排水口にたまる抜け毛の量に、季節の移ろいを感じます。 気候は変動しますが、太古の昔から身体に刻まれた、生き物としての周期は確実です。永遠ではなくひと時の別れ。冬毛として生え変わり、再び会えることを固く信じております。 それなりに賑わっていた分、彼らが居なくなったあとの風景は寂しいもの。 だけどもういい大人ですから、過ぎた日々に縋

やらかしマッスル(こしあん)|酒と肴 その八十七

現実って辛いじゃないですか。 日々、スマホの向こう側では目を見張ることが起こりがち。ですからなるべく薄目で見たり、目を逸らすように心掛けています。何のことはありません、ドライアイ対策です。うぶな季節はとうに過ぎました。 長いこと人間をやっていると、辛い現実には甘いご褒美が必要だと気付きます。セルフプロデュースのアメとムチ、つまりは自己愛です。 誰しも心にナルキッソスがいなければ、世間の荒波はしみることでしょう。 だけど悲しいかな、世の中には弱り目につけ込む悪い奴がいるん

真夏の夜の夢(夏野菜の重ね焼き)|酒と肴 その八十六

「……大人になんか絶対なりたくないっ」 子どもの頃の私が今の姿を見たら、きっとそう言うことでしょう。 それは「将来の夢」に書いた警察官になれなかったからでも、短い夏休みを二日酔いで潰しているからでもありません。大嫌いだった野菜をおかずに、白飯をかっこんでいるからです。 ナスの味噌炒め ピーマンの天ぷら 冷やしトマト 少年時代、あこがれにさまよう私を苦しめた、想い出のあとさきです。 もちろん、贅沢を言っている自覚はあります。だけど子ども心に夏野菜は枝豆ときゅうり、とうもろ