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伊藤レポート3.0と価値協創ガイダンス2.0

8月31日、経済産業省は伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)と価値協創ガイダンス2.0を公表しました。

2014年公表の伊藤レポートでは、日本企業がイノベーション創出力を持ちながらも持続的低収益に陥っているという課題認識を踏まえ、資本効率性の向上(資本コストを上回るROEの達成)を企業に要請しました。

2017年公表の伊藤レポート2.0では、中長期的な企業価値向上のためには、人的資本や知的資本などの無形資産への投資やESGへの対応が重要であり、それらの取組についてストーリーとして投資家に分かり易く説明することが必要であるとの観点から価値共創ガイダンスが策定されました。

両レポートの策定経緯や背景、持続的な成長と中長期の企業価値向上に向けた日本企業の課題などについては下記などもご参照願います。
日本公認会計士協会のアニュアルレポート2022での伊藤邦雄 一
橋大学CFO教育研究センター長と手塚正彦 日本公認会計士協会 会長の特別対談

今回の伊藤レポート3.0では、同2.0を大胆に進化させ、中長期的な企業価値向上に向けたサステナビリティ経営の重要性について以下のように明言しています。

・サステナビリティへの対応は、企業が対処すべきリスクであることを超えて、持続的な価値創造に向けた経営戦略の根幹をなす要素である。

・企業が持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)を向上させていくためには、サステナビリティを経営に織り込むことがもはや不可欠であるといっても過言ではない。

・今こそ、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を実践するときである。これこそが、これからの「稼ぎ方」の本流となっていく。

本レポートでは「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの同期化及びそのために必要な経営や事業の変革」のことをサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)と呼んでいますが、これは本コラムでのサステナビリティ経営と同義です。

サステナビリティ経営(の実践)とは、サステナビリティの観点から従来の経営をトランスフォームすることです。

「伊藤レポート3.0」では、SX実現に向けた経営の方向性として「投資家等との長期目線の対話に基づく自社固有の価値創造ストーリーの構築」が重要とし、そのための具体的な取組として以下の3点を提示しています。

① 社会のサステナビリティを踏まえた「目指す姿」の明確化

② 目指す姿に基づく長期価値創造を実現するための「戦略」の構築

③ 長期価値創造を実効的に推進するための「KPI・ガバナンス」と「実質的な対話」を通じた更なる磨き上げ

価値協創ガイダンス2.0は、伊藤レポート3.0で提示されたSXの要諦を踏まえ、SXの実現に向けた経営の強化及び効果的な情報開示や実質的な対話・エンゲージメントのためのフレームワーク(=サステナビリティ経営のフレームワーク)として改訂されました。

本コラムでは、下記のようなフレームワークに基づいた長期視点での循環型経営をサステナビリティ経営と呼んでいます。

  • 自社の価値観(パーパス、存在意義等)に基づき、

  • 外部環境・メガトレンド分析等を通して設定した長期ビジョン(目指す姿)の実現に向けて、

  • 人的資本や知的資本など様々な資本をインプット(経営資源)として活用し、

  • 事業活動(ビジネスモデルの構築と戦略の展開等)を通してアウトプット(製品・サービス等)に変換し、

  • 事業活動とアウトプットによってアウトカム(社会価値と経済価値)を創造。

  • そして、創造された価値を更なる再投資に振り向けることで持続的な企業価値向上を目指す。

このようなサステナビリティ経営の取組は、経営のリーダーシップの下、経営企画や事業部門は勿論、サステナビリティ、広報・IR、人事、財務、研究開発といった部門間の緊密な連携、適切なKPIに基づくPDCA管理、取締役会による実効的なガバナンス及び投資家をはじめとするステークホルダーとの実質的な対話・エンゲージメント等により、更なる質の高度化を実現することが可能です。

このような企業の価値創造プロセス(実践段階では試行錯誤があり得る)を、投資家を始めとするステークホルダーに、一貫したロジカルな流れとして分かり易く説明するものが価値創造ストーリーです。

日本企業は、価値協創ガイダンス2.0等を参考にしながら、自社固有の強み・独自性を活かしたサステナビリティ経営(マテリアリティを起点とする価値創造ストーリーの構築・発信及び投資家をはじめとするステークホルダーとの実質的な対話・エンゲージメントを含む)に積極的に取り組むことが期待されます。

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