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パノララ

とても幼い頃、自分は自分じゃない人間になれると思っていた。今でもたまに思うけど、自分はこの体という入れ物に入ってるだけで、また違う人の入れ物に乗り込めるんじゃないかと。でもわかっているのだ。悲しい事に自分にはそんな不思議な力はない。昔にTVでやっていた『ひみつのアッコちゃん』。コンパクトの力で変身ができるのだ。憧れに憧れまくっておねだりして買ってもらった玩具のコンパクト。手にした瞬間、子供ながらに世界が煌めきで揺れた事を覚えている。でも変身の為のおまじないを唱えた後、自分は自分のままな事に絶望の涙を流した。その時の気持ちは今でも忘れられない。すごく悲しかったのだ。もしも自分に不思議な力が備わるとしたら、自分ではない誰かになれる能力を手に入れたい。

そんな風に思うのは、苦手とする両親の存在があるからなのは自分でもなんとなく感じている。大嫌いではない。でも大好きでもない。はたから見ると仲の良い家族にみえるのかもしれないし、親からしてもそうだと思う。こんな事知られると二人が悲しむのはわかってるけど、私が勝手に苦手としているのだ。育ててもらって高すぎると言っても過言ではない学費まで身を粉にして働いて出してもらって、とても感謝している。感謝を通り超して罪悪感さえも感じている。それが未だに苦しくて私はもがいているのだ。小さい頃からの積み重ねが私を辛くしている。だからこそ私は両親を幸せにしないといけないと義務感に雁字搦めにされている。そんな事を思わない、純粋に家族好きやねん!って思えるような人間になりたい。天涯孤独で身寄りがいない、家族の事なんて考えなくてもいい人間になりたい。そんな都合のいい事ばっかり考えている。とてもネガティブな思考からくる、自分ではない誰かになりたい。なのだ。

そんな風に感じている事を友達にも旦那さんにも話した事はない。話せないという方が表現的には正解なのだけど。それが余計私を苦しめていた。

パノララ

パノララとは柴崎友香の小説なのだけど、自分ではどうにもならない変な力をもつ兄弟姉妹。好きすぎて何度も何度も読んだ。この本の主人公が家族に対して感じてる気持ちがとてもわかる。わかりすぎてこの小説と友達になったような感覚を得た。家族の形は様々で、血が繋がってるとか繋がってないとかも関係なく、個々として別の人格やし考え方は違うに決まってる。期待されてもそんなんは知らんし、自由に生きたい。縛られず自由に。この本を読んだ後の私、めっちゃ前向き。初めて誰かにこの暗澹たる思いを吐き出せたような安堵感。気分良くてお酒も美味しくなっちゃうようなそんな感じ。

作者に感謝する程、私とこの小説の出会いは大きい。無限にある本の中から、この作品を手にとった事が私の不思議な力なのかもしれない。ありがとう私の能力。

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