「宇宙船六畳間号」に寄せて

たまには好きなアーティストについて書こうと思い、ちょうど新しい試みが行われたので、LAMP IN TERRENという4人組ロックバンドの「宇宙船六畳間号」について。ぜひ世に出たばかりのこの曲を聴いて、読んでほしい。


まずはこのバンドとの出会いから。私は約2年ほど前からBURNOUT SYNDROMESという大阪出身のスリーピースバンドにハマっていた。そのバンドと親交のあるココロオークションというバンドが主催する「ココロフェス」が7月末に大阪の服部緑地野外音楽堂で行われることが決まり、BURNOUT SYNDROMESも出演するということから、友人を誘ってチケットを取り(なんと学生は500円だった)見に行ったのである。会場に入り、お目当てが出る一つ前にはステージ前に行っておきたいと思い、BURNOUT SYNDROMESが出る前に演奏することになっていたLAMP IN TERRENに出会った。

ボーカルの松本くんの服が黒かったこと、ランデヴーとDreamsという曲が良かったこと、ステージの楽器の下に絨毯が敷いてあったこと、ギターの大屋くんのシャツの柄が目立ってなんか怖い人なのかなと思ったこと、本当は活動休止中であること、出番が終わった後ラフなシャツとデニムに着替えた松本くんが他のバンドの演奏を脇から見ていたことをよく覚えている。そこから公式のブログやらインタビューやら楽曲やら過去のラジオを調べまくり、怒涛の勢いでハマった。しんどい時、留学中、帰って来てからもずっと聴いていた。心のよりどころ、直視しなければいけない現実から逃げるための場所にしていた。暗闇と光の中とを行ったり来たりするような楽曲たちは、まさしく私の希望の光だった。

場所や時間の都合のせいでたくさんライブを見られたわけではないのだが、その隙間を埋めるように、得られる情報を片っ端から集めた。幸いSoundCloudで昔のラジオが聴けたり、LITVというメンバー4人が発信する番組がLINE LIVEで行われたり、松本くんがInstagramやツイキャスなどで配信をよくやってくれるおかげで、ライブに行くことが叶わなくても好きな気持ちを保ち続けることができた。

前置きはこのくらいにして、まだ生まれたばかりの「宇宙船六畳間号」のデモを聴いての感想を綴っていく。

「宇宙船」や「六畳間(ろくじょうかん)」という言葉が持つ響きから、またこの情勢によってさまざまな孤独感を感じていたのもあり、この曲から寂しい印象を受けた。この寂しさは、恐らくデビューしたてで現在と比較すると相対的に曲に対しての自信がなかったと考えられる2014年のEP「PORTAL HEART」や2015年のアルバム「silver lining」や「LIFE PROBE」の持つ雰囲気に似ていると感じた。もちろんデモ音源であるということもあるだろうが、MASH FIGHTという音楽グランプリで優勝という評価を得ることとなったデビュー作「緑閃光(silver liningに収録)」のような、音数の少なさもその印象を生み出しているのだろう。音数の少なさと噛み合うボーカルの純粋な歌声が良く評価されているように思うし、実際に聴いていてとても心地良いし、最近は音数をより意識した曲作りが行われていると感じる。

バンドの創設者であり一度はバンドを離れたギターの大屋くんが「LIFE PROBE」以降正式に加入し、音数だけでなく作品の雰囲気が変わったように感じたことも「LIFE PROBE」以前の作品に「宇宙船六畳間号」が近いように思う理由の一つである。特に「PORTAL HEART」や「LIFE PROBE」は一人一人の心の中にある世界や、その世界を飛び出て新たな世界に旅立つことをコンセプトにしていると思うので、この二つの作品は、一人一人隔たった世界を離れた場所から眺め想う今回の曲に似通っているのかもしれないと考えた。

誰もがみんな自分の部屋の船長であると語った、ボーカル松本くんの気持ちが存分に表れた曲である。「光る窓」がスマートフォンやパソコンなどの「相手と交信するためのデジタル機器」なのだという解説を聞いた時は、言い得て妙だと思い心が躍った。この現状に対して何を言うのも陳腐だと半ば諦めていたのだが、どんな状況においても離れている人のことを想像したり気持ちを重ねたりできること、ただ毎日ひたすら独り暮らす私が好きなアーティストのことを考えるように、送り手もまた受け手を想うのだということがわかったのは、今回の出来事における大きな収穫だったと思う。相手のことを想う気持ちが表れているという点においては、2018年のシングル「Water Lily」や同年のアルバム「The Naked Blues」収録の「おまじない」や「月のこどもたち」にも似ているのかもしれない。そういう意味では、以前の楽曲と最近の楽曲の持つ要素が綺麗に組み合わさっているといえよう。

この曲がこれからどのように変化していくかはわからないが、デモ音源でこれだけ好きになれたのだから変わってほしくないと思う気持ちもある一方で、配信の中で演奏してもらった、テンポアップした「宇宙船六畳間号」もまたとても魅力的に響いたのも事実である。どうなったとしても、きっと私はこの曲のことが好きだと思う。曲名の「六畳間」が「ろくじょうま」ではなく「ろくじょうかん」なのはなぜかという質問に対し、「ろくじょうかんの方が可愛いから」という理由にも私は全面的に同意している。音読みの多い中に訓読みが混ざることで柔らかい印象を生み出すこともあるが、この曲においては心地よい冷たさや互いを想う心の可愛らしさがよく表れた「ろくじょうかん」がより良いのではないだろうか。「ん」ってつくとなんかかわいいし。

突然舞い込んだ手紙のように、微かに遠くで光るこの曲を聴いていると、嬉しいような涙が出るような気持ちになる。切ないと言う程苦しくはないが、温かいと言うにしては心が大きく動かされる。ちなみに今概要欄の文章に気づいて胸が急に苦しくなった。自分に対して抑圧的な傾向があるので、早く友達や家族に会いたいだとかライブに行きたいと言うのもおこがましいような気がしてしまっていたが、同じ思いを抱えた人が少なくとも一人はいるのだと思い心が和らいだ。

初めて自分の好きなアーティストや楽曲について書いた。所詮はしがない一オタクの勝手な解釈で、曖昧な記憶と推測で書いている部分もあり、適切ではないところも多々あるだろう。それでも、今日の気持ちを書き残したいと強く思った。それだけこの曲が今の自分に大きく響いた。LAMP IN TERREN、「この世の微かな光」という名を持つこのバンドが、さらに多くの人に愛され、暗闇の中の星のようにいつまでも輝き続けることを心から願ってやまない。

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