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小説「彼女は狼の腹を撫でる~第30話・少女と剣と武力~」

武器の歴史は太古まで遡る。
最初の人類が二足歩行を始めた頃から、人間が初めて木や石を攻撃のために握った時から、武器の歴史は始まったと語られている。原始的な木や石、骨を雑に削ったものから始まり、石斧やナイフの開発、弓矢や投石紐の発明、金属器の精製、鉄の錬成、火薬の出現、銃の誕生を経て、現代の重火器や兵器にまで至る。
その歴史のどこを切り取っても共通している事は、より強くより速くより多くより頑丈に、自分たちよりも強い者たちを屠るための、まるで土と石が重なり合って蓄積された地層のような努力の賜物だ。

それこそ初めの敵は肉食の獣だった。そこから人間同士の戦いに変貌するまでには長い長い年月を有したが、その相手が個人や内内の争いから部族になり、地域になり、国家になるまでにはそれほど時間は掛からなかった。
その本質は大陸が統一された百年余り前から変わっていない。

武器はあくまでも戦うためにある、そして敵に勝つためにあるのだ――

それがたとえ格上の相手であっても、武装した猛獣であってもだ。


私の目の前では、かつてひとりの騎士だった青年レイル・ド・ロウンが槍を手に握り、ただでさえ強力な剛腕に鉈のような分厚い鉄の爪を装着した大熊と対峙している。
私が下宿を借りて住んでいる自由都市ノルシュトロム、そこで出会った元聖堂騎士団の若い騎士で現在は自警団員、何度か一緒に強敵と戦ったこともある仲だ。その実力は疑いようもないし、人間の中では相当に腕の立つ部類にいると思う。身長も182センチと高身長だ。
しかし、彼の前にいる熊の上背は2メートルを優に超える。熊の体重は2メートル以上にもなると400キロをも上回るという。いくら彼が強くても、人間は所詮人間、猛獣とでは生物としての質が違いすぎる。
大人と子どもどころの違いではない。藁で作った家と石造りの砦ほどの絶望的な差だ。

けれども人間は熊の餌ではない。ただでさえ強力な生物が強大な武器を持ったとしても、人間も知恵と技術と武器を備えている。
それこそ先に当てて怯ませてしまえば、5倍以上の体重差があっても、生身と分厚い針のような毛ほどの違いがあろうと、そんなことは無関係に勝負がつく可能性もある。
武器を持った者同士、勝負は最後までわからないのだ。

槍の柄で鉄の爪を受けて、大きく槍を歪めながらレイルが地面を蹴飛ばされた石のように転がっていく。
勝負は最後までわからない、しかし概ね最初の一撃目で、もっというと対峙する者同士の力量差で決まっているものなのだ。

「駄目だ、全然勝負にならない! ウル、あれは持ってるか!?」
唐突にアレと言われても、私たちは熟年夫婦ではないのでアレでは伝わらない。そもそも夫婦でも恋人でもないし、友達かどうかも怪しい。

しかし推察することは出来る。
私とレイルが初めて出会った時に回収した獣人化薬【ゾアントロピー】のことに違いない。
精神を獣化させて、一時的に身体能力を大幅に高める合成薬。本来は自分の体内エネルギーを身体強化に回す際に、純粋に10の量を10そのままに強化に使える騎士と、外部の機械に流し込むことを得意とするがゆえに身体強化を苦手とし、10の量を1か2程度にしか使えない機械使いとの差を埋めるために開発された薬品。
当然、騎士が使えば身体強化は更に高まる。それこそ大熊とも渡り合える程に。

「レイル! 効果時間気をつけて!」
「わかってる! 30秒で十分だ!」
薬瓶の中の液体を飲み干したレイルが槍を振り回して鉄の爪を叩き折り、腕を弾かれてがら空きになった大熊の胴体と頭部に猛然と連打を叩き込む。
今や彼の手足は鉄の塊そのもの、80キロ近い重量を伝える鈍器であり強力な武器だ。
大熊の分厚い毛皮と脂肪と高密度の筋肉の下の、内臓を直に揺らす威力を持った凶器だ。
大雑把に振り回す腕に合わせた上下左右を多彩に撃ち分ける連打が、熊の眉間や顎や横腹を捉える。跳躍して下半身を思い切り振り回しての蹴りが側頭部を弾き、絶望的とも思われた膂力の差を覆した。

引っ繰り返った熊、静まり返った会場、吐き出される荒い息、流れ出る汗、猛攻の30秒との静寂の10秒。
武器と技術と知力と体術を掻き集めた一撃は、武器の歴史そのままに大番狂わせを起こしたのだ。

レイルがおそらく数箇所は骨折したであろう血の滲む拳を突き上げて、獣の咆哮のような喚声を上げる。観客席からも全周囲から紙吹雪や紙テープ、酒瓶、銀貨に花束など、ありったけの祝福が投げ込まれる。
私もわあわあと歓声を上げながら、足元に転がっていた適当な石を投げる。
もちろん嬉しいに決まっている。
なんせ彼の勝利に旅の資金から、ノルシュトロムに戻るための船賃を引いた残金、そのほとんどを賭けていたのだ。数日分の宿泊費で精一杯のわずかな泡のような金が、一月は余裕で遊んで暮らせる塊となって戻ってきたのだ。
これが嬉しくなかったら、一体なにが嬉しいというのか。


私の名前はウルフリード・ブランシェット。16歳、狩狼官。失踪した母と実家から持ち出された狩狼道具を探す旅をしている。
今は大陸中央の大岩壁地形の中に築かれた【城塞都市ロッシュシュタイン】で、今後1年間の都市政治の決定権を獲得する南北決闘大会に参加中。賭ける側と冷やかす側でだけど。



「いやー、一時はどうなるかと思いましたが、さすが元聖堂騎士団。素晴らしい勝負でした」
太ったというにも程がある贅肉の塊のような腕を動かしながら、ぶよんぶよんと音を立てているのはロッシュシュタインの北の領主パヴィス・エスカッシャンその人だ。
自称平和主義者で、何事も話し合いで解決するべきと主張するこの男は、例年決闘大会において対戦相手への脅迫や拉致監禁など数々の無効試合の手段を用い、不戦勝という形での平和主義を実現してきた。
今回の決闘では本来の対戦相手である騎士の食事に毒を盛らせるという非人道的な行為に出たものの、武力主義者である南の領主に策を読まれていて、代理の猛獣と化け物を用意されてしまった。
おかげで人間の元騎士対武装した熊という馬鹿げた決闘が繰り広げられたわけだ。

「おい、こいつ殴っていいか?」
「手を怪我してるから駄目だよ」
明確な苛立ちを顔に浮かべるレイルを制して、彼の腕に青色の魔法の秘薬を振りかける。
ここに至るまでの旅の道中で手に入れた錬金術師特製のポーションだ。巨人のように大きな生き物に跳ね飛ばされても、即座に回復してみせるという実演の通り、見る見るうちに手の骨折が回復していく。
「おおっ、治った! 元通りだ!」
とはいえ獣人化薬の影響で、彼の体力は空っぽだ。おそらく立っているのも精一杯のはず。
素晴らしい強化の代償は使用後の自分の体力をごっそり削るというもの、それと全身の隅々まで襲う筋肉痛。怪我は治っても今日は連闘は不可能だろう。

「騎士団長殿、次も頼みますよ。次も勝てば2勝確定、私が戦う必要がなくなるのですから」
決闘は代表者3名ずつによる1対1の3試合で、当然のことながら先に2勝してしまえば3戦目を戦う必要はない。これまでも卑劣な手段でふたつの不戦勝を勝ち取り、対戦を避け続けてきた北の領主としては、次戦も勝って欲しいと願うのは当然ではある。
毒盛るような奴がなにふざけたこと言ってるんだ、と思わなくもないけど。

「……無理だ」

聖堂騎士団の団長、通称『聖剣の騎士』『最強の狩狼官』メアリー・クィーン。背の高い凛とした女騎士で、柄だけでも普通の刀剣並みに長く、本来であれば数人がかりで振り回して牛馬ごと騎乗者を両断するような大きさの剣を、単身で自在に振り回せる人間離れした膂力の持ち主。
血統なのか種族なのか理由はわからないけど、いわゆるそういう存在だ。そういうというのは、猛獣と真正面から足を止めて殴り合えるとか、道具無しで大岩を持ち上げられるとか、姿形以外はまるで別の生き物のように人間とは性能が違うということだ。
彼女であれば先の武装した大熊とも、獣人化薬を使わずとも余裕で殴り合えただろう。
そんな彼女が無理だと断言する相手が、次の対戦相手スース・シルウァーティクス(仮)だ。

元々は聖堂騎士団序列3位の『猪突撃兵』の異名を冠する勇敢な男、名前はスース・シルウァーティクス(本物)が相手だったけど、彼は毒を盛られて今は病院の治療室で寝転がっている。そんな不幸な男の代理に選ばれたのがスース・シルウァーティクス(仮)なのだ。
猪頭に屈強な上半身、下半身は蛸の足を思わせる大量の触手。手強そうではあるけれど、武装した大熊と比べてそれほどの差があるとは思えない。むしろ熊の方が強いのではないか。
そもそも領主が余計なことをしなければ、そんな化け物と戦うことも無かったわけだけど。

「ねえ、毒を盛られたことは怒らないの?」
部下に毒を盛られたのだから、本来領主相手に怒るべきだと思うけど、メアリー・クィーンの返答は予想外の物だった。
「褒められたことではないが、毒を盛られる方が悪い。食事の違和感に気付かない奴の注意力不足が原因だ」
なるほど、一理ある。常に気を張っていれば毒も避けられたかもしれない、そんな張り詰めた暮らしは私だったら御免こうむるけど。

「そんなことより、私の相手がよりによって……よりによってだ! 私の勝利を阻むのは、美少女と美女と情熱的な女と淑やかな女と、残りだいたい全部の女だと相場が決まっているのに!」
ちなみに彼女はいわゆる女性愛者だ。私にも初対面で結婚を申し込んできた程で、彼女の女好きは病的な域にまで達している。泣かせた、もとい哭かせた女は数知れず、放っておけば大陸中の女に手を出しそうな感もある。
これが男だったらどうしようもない駄目人間だけど、それが美人の女でも駄目人間具合は解消しきれないようで、私の抱いた印象は化け物のように強い残念な美人の変態だ。

「で、なんで無理なんです? 団長なら余裕じゃないですか? 以前もっと巨大で凶暴そうな一つ目の怪物を、足払いからのしゃがませての膝蹴りで2発で仕留めましたよね」
レイルが呆れた顔をして問いかける、恐ろしい武勲と共に。
数々の人間に害を成す怪物を駆逐した武勇そのものが、彼女が最強の狩狼官と呼ばれる由縁だ。狼が絶滅危惧種で保護動物となった現在、狩狼官は代わりに悪党を捕まえることで報酬を得る。そこには悪魔や怪物を倒すことも含まれていて、腕さえあれば莫大な報奨金が手に入る。
その腕が普通はないし、大体みんな命の方が大事だから挑まないのだけど。

「レイル、お前はわかってないな。私は女騎士だぞ。女騎士はゴブリンと! オークと! トロールと! 触手が! 絶望的に相性が悪いんだ!」
なにを言い出すかと思えば、そんな非合法創作本みたいなことを……。
「ウルフリード、君ならわかるだろう!? もし君が女騎士で、オークと触手が合体した化け物と戦わされて、なんやかんやあって鎧も全て剥ぎ取られて、辱めを受ける寸前に『くっ……ころせ……』と言わなければならない屈辱! そんな屈辱、私には耐えられない……!」
メアリー・クィーンが両膝を着いて、わなわなと体を震わせながら慟哭する。
彼女は本気だ、本気で馬鹿なのだ。おそらく人間離れした強さを得る代わりに、著しく脳が残念なことになったのだろう。
彼女の膂力があれば、そのなんやかんやの間に相手を斬り伏せることも殴り倒すことも余裕だろうに。

「騎士団長殿。馬鹿なこと言ってないで、そろそろ時間ですので」
「嫌だ! 私は絶対に戦わん! いざとなったらこの都市の兵隊全員斬り伏せてでも断る!」
治安維持を担うために王都から派遣された騎士団の団長とは思えない台詞だ。
「ですが、そうなりますと南の用意したオークと触手が合体した化け物に加えて、大量の人間とも戦うことになりますよ」
「くそっ、どっちみちということか! この世に神はいないのか!」
メアリー・クィーンは再度慟哭したのであった。


「くっ……ころせ……!」


勝敗は彼女の不安そのままだった。なんやかんや、本当になんやかんやとしか言えない流れで、見る見るうちに剣を叩き落され、鎧を剥ぎ取られて、なんだかよくわからないまま追い詰められて、最終的にこの様だ。

「だから言っただろう! 女騎士はゴブリンと! オークと! トロールと! 触手が! 絶望的に相性が悪いって!」
見たところ明確なダメージは、試合終了後に飛んできて側頭部に直撃した空き瓶くらいで、控室で大声で言い訳を喚きながら脚を上下させて地団駄を踏んでいる。
「ウルフリード、こんな私を見て失望しないでくれまいか!」
「別にしないけど?」
失望するもなにも、特になんの感情も抱いていないのだ。ないものは失望しようがない。
「こんな無様な私に失望しないなんて、今日の夜にでも入籍しよう! 結婚式は教会でいいかい!? ふたりともドレスでもいいかい!? 私は25人兄妹で親族が無駄に多いけど、そこは別に構わないかい!?」
「いや、しないから」
「神は死んだぁっ!」
まったく活躍できなかった馬鹿みたいにでかいだけの剣を、壁に向けて放り投げている。剣はそのまま壁に飲み込まれるように突き刺さり、斬新な芸術家の作品みたいな形で静かに佇んでいる。

「あああ、困りました! 困りましたよ! 私は平和主義者なのです、決闘だなんて野蛮なこと出来るわけがない!」
静かに佇む剣の隣では、北の領主があたふたと大慌てな様子ででっぷりと太った全身の贅肉を動かしている。それは困るだろう、なんせこの自堕落に贅沢を上乗せして不健康を混ぜ込んだ体型だ。走るだけで自滅してしまうに違いない。

南の領主アーミング・カッツバルケルも、あっちはあっちで戦いに向いているとは思えない体型だ。同年代の少女たちと比べても小柄な私よりも更に小さい、目測140センチにも満たない身長で、更に全身が枯れ木のように細い。おまけに少し大声で喋っただけで息切れしてしまう程に病弱ときた。
南の小男にどれだけの武術の心得があるかわからないけど、北の肥満体が体重で強引に圧し潰してしまえば十分に勝機はある。
むしろ相手に強引に攻められても、これだけ体重差があれば膝でも狙われない限りは効かないだろう。

「仕方ありませんね……これは使いたくなかったのですが」
北の領主が左右一対の大型の盾を肩に装着する。
見覚えのある盾だ。母が実家から持ち出して、大陸各地にばら撒かれた狩狼道具のひとつ。


【城塞のハッセンプフルーク】
かつて王国の高級官僚であったハッセンプフルーク家の邸宅兼城塞を、外敵から守る防壁を改造した攻防一体のシールド。
左右1対の大型シールドで、内側のブースターを使った加速を乗せたシールドバッシュも繰り出せる。


「数年前に旅の商人から仕入れたものですが、備えあれば憂いなしとはまさにこのことですな」
盾から大幅にはみ出た肉をぶるんぶるんと揺らしながら、北の領主は決闘の場へと向かっていく。その両肩には鉄壁に等しい防御力を持った盾。
待ち受けるは小さく細い南の領主。全身にコートを纏い、その手には中型の剣が握られている。

「よく出てこれたな、卑怯者が! 血筋と家名だけで持ち上げられているだけの肉饅頭が!」
「あなたも血筋と家名だけで持ち上げてもらってるだけの雑魚の稚魚ではありませんか、アーミング殿。これまで不戦敗にしてあげたのは、公衆の面前で無様な醜態を晒さないで済ませてあげた私からの慈悲ですよ」
「その台詞、そっくりそのまま返してやる! すでに醜い動く肉塊である貴様を、無様な動かぬ肉塊に変えてやがはぁ!」
南の領主が息切れして、背中を曲げて上体を前傾させながら咳き込んだ瞬間、北の領主が肩の内側のブースターを利用して爆発的な加速で突っ込む。
肥満体を上乗せされた盾はそのまま体勢を崩したままの南の領主を、つんざくような轟音を鳴らしながら激しく突き飛ばし、小男をごろごろと何回転もさせて地面に転がす。

「ぐぅああああっ!」
悲鳴のような叫び声は、転がされた小男ではなく体当たりした肉達磨から発された。
贅肉の塊が噴き出す血流で作られた溜まりに沈み、盾からはみ出た余計な肉が抉り取られたように削られている。
これが武術による技であれば感心するところだけど、肉を削ぎ落したのは世間一般では卑怯と称される暗器によるものだ。
切り札を持っていたのは北だけではない。南もコートの袖口に必殺の武器を仕込んでいたのだ。


【ピスコール】
至近距離まで相手を引きつけてから、強力なパイルを発射する必殺の隠し武器。発射時に金属楽器のような甲高い音がすることから起床喇叭と命名された。


小男が己の勝利を宣言するかのように、ピスコールを仕込んだ右腕を掲げる。袖が垂れ下がって、手首に装着した筒を束ねたような真っ赤なパイル発射機構が剥き出しだ。
「どうだ、俺の勝ちだ! ざまあみろ、贅肉だらけのくされ外道め!」
鼻息荒く息巻いているものの、小男の体は微動だにしない。どうやら弾き飛ばされた際に、立ち上がれないほどの重篤な怪我を負ったらしい。
だけど、こうなると両者とも立ち上がれないわけで、一体どっちの勝ちになるのか。

北の領主が勝ちと認められれば現状維持、いわゆる平和主義。
南の領主が勝って政治を取り仕切るようになれば、武力主体の軍事都市への道を歩むことになる。
まあ、どっちもやっていることは同じようなものだけど。

「私の勝ちにしなさい! あんな暴力主義者に都市の命運を握らせたら、市民たちが戦いへの道を歩んでしまう! 絶対に許しませんよ! 彼らの血は一滴たりとも流させません!」
いや、あんたは市民を罠に掛けたり脅したりしてきたんだけどね。
「俺の勝ちにしろ! これまで平和だったのは、平和主義を掲げてきたからではない! 単なる偶然だ! 10年後も、いいや来年もそうとは限らない! その時に犠牲になるのは力無き市民たちなのだ!」
いや、あんたはあんたで市民を色々巻き添えにしそうな雰囲気があるけどね。
「最も大事なのは戦わないという表明です! 戦わないことこそが平和の秘訣なのです!」
「馬鹿を言うな! 貴様は強盗が来ても鍵を掛けないというのか!」
「今、強盗の話はしてないでしょう!」
「例え話だ、馬鹿が!」
「そもそも強盗が来ても勝てないでしょうが! 非力でチビなんだから!」
「そういう貴様は扉につっかえるだろうけどな! この贅肉の悪魔め!」

ぎゃあぎゃあわあわあとい醜い口喧嘩を繰り広げている。戦いの行く末を見守っていた観客たちも飽きてきたのか、ちらほらと帰り始めたり、堂々と鼻をほじったりしている。

私たちも帰ろうか、とレイルと互いに顔を見合わせて静かに頷き、さっさと狩狼道具の回収を済ませて宿へと戻ったのだった。


ちなみに決闘は1勝1敗1分け、決着は次回に持ち越しということで引き続き北側の自称平和主義の面々が都市政治を握ることとなった。要するに何も変わっていないということだけど、それは私とは関係のない話だ。
なぜなら私たちは、もうとっくにロッシュシュタインから離れて、ノルシュトロムへと向かう定期船の上なのだから――



今回の回収物
・城塞のハッセンプフルーク
高級官僚の邸宅兼城塞を外敵から守る防壁を改造した攻防一体のシールド。左右1対の大型シールドで、内側のブースターを使った加速を乗せたシールドバッシュも繰り出せる。ベースカラーは黄緑。
威力:D 射程:E 速度:B 防御:A 弾数:30 追加:―

・ピスコール
強力なパイルを至近距離で発射する必殺の隠し武器。赤色。
ピスコールは軍隊の起床喇叭の意味。
威力:A 射程:E 速度:A 防御:― 弾数:3 追加:貫通


(続く)


(U'ᄌ')U'ᄌ')U'ᄌ')

狩狼官の少女のお話、第30話です。
平和と武力のお話の後半です。その予定でしたが、蓋を開けたらくっころ回になっていました、不思議ですね。

世間では女騎士がくっころするのがひとつ、大きなジャンルとしてあるので、私も美人の女騎士をくっころさせてぇ……くっころさせてぇ……と常々思っていたのですけども、一体何がどうなったらこんな色気のないくっころになってしまうのか、世のくっころ好きさん達からくっころされないか不安で夜しか眠れません。
なんだったら今も眠いです。

レイルとのフラグも相変わらず立たないですし、全体的に色気のないウルとその仲間たちですが、次回もよろしくお願いします。