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短編小説「占い師・蛇増子屋珠子の迷推理」

「なるほど、いわゆる密室殺人ですね」

ベッドの上に放置された首なし死体と豪華な調度品が置かれた部屋を交互に見回しながら、私は人差し指をピンと立てる。
鍵のかかった上にチェーンロックも外れていなかったドア、さらにチェーンには、少し離れた位置にある大型のキャリーバッグに結ばれた防犯ブザーのピンまで、張り詰めた形でワイヤーが括られていた。
ホテルの地上18階、窓はかろうじて成人女性が頭を出せるか否かの幅しか開かない。エアコンと天井はぴっちりとくっついて開けられた形跡はない。壁も血痕が飛び散っている以外は特に穴が開けられたような箇所もない。天井や床にも不自然な痕跡などはない。バスタブには水が張られているが、溢れた様子もないのでここから侵入した形跡はない。
つまり私たちがマスターキーで鍵を解除し、チェーンロックを外し、ワイヤーが引っ張られてキャリーバッグが倒れて、防犯ブザーが鳴るまで、この部屋は紛れもない密室だったのだ。
そして事件は密室で起きたのである。


話は1時間ほど前に遡る。


私は千里眼の持ち主と詐称して占い師を生業にしているのだけど、先ほど今年の初めに占いをした男が殺されたと連絡がきた。
限りなくブラックに近いグレーな貸金業者、債務者が破産してでも追い込み尻の毛まで毟り取ることで有名な銭金キャッシングの会長、銭金五三男65歳故人、ゼニカネゴミオ65歳故人。
実に素晴らしい名前だ、きっと反吐が出そうなほど最悪な人間だったに違いない。
私はこめかみを指で何度か叩きながら、半年ほど前の記憶を探ってみる。

ひどく太った上に人相の悪い、どう贔屓目に見ても堅気であるわけがない顔の老人だ。あと異常に口が臭い。甘ったるい出来損ないのガムシロップみたいな臭いがしていた。
確か女難の相が出ているから女性関係に気をつける、そこさえ気をつければ30年は余裕で生きる、そんな感じのことを伝えたはず。もちろん何の根拠もないけど。死んでるし。

その銭金五三男が殺された。ホテルの中庭を挟んで反対側の部屋から、側近の張さんが惨殺された彼の遺体を発見したらしい。
それも首のない惨殺死体。
そして何故か警察に通報せず、銭金五三男と関わりのあった人間に連絡を取り、どういうわけか私も呼び出されたわけだ。

ホテルのロビーに20名ほどの男女年齢雑多に集められた集団、もうひとつ10名ほどの見た目の優れた女性たちの集団、集団に声をかける大柄な男と更に大きい野性味を感じさせる男、そして私の目の前に立っている目の隈が主張激しめの痩せた男。
「お忙しい中すみません。私は銭金会長の側近の張です。あっちの二人が同じく側近の服部と五里。ええと……占いの……」
側近。側近ってどういう立場なんだ、普通は部長とか専務とかそういう肩書じゃないのか、なんだよ側近って。
そんなことを考えながら、私は袖口から名刺入れを取り出し、素早く張さんの指の間に名刺を挟む。理由は特にない、強いていうならば、ちょっとしたカマシである。なに企んでるか知らねーけど、こっちもただの占い師じゃないぞ、そんな感じの。
「へび……ますこ……や……?」
「ダマシヤです。だましやたまこ」

別に誰が聞いてるわけでもないけど申し遅れた、私の名前は蛇増子屋珠子。28歳独身。巷では千里眼のラトルスネイクと呼ばれている。
まさかと思うけど本名です。

「ははっ、かなり攻めた芸名ですね」
「ちなみに本名です。それで張さん、私にも疑いがかかっている、そう思ってもよろしいです?」
「いいえ、先生には犯人を見つけて欲しいのです」
張さんの瞳の奥で鈍い光が瞬いた。私は少しだけ気配というものに敏い、占いの時もそこに最大限に注意を払ってる。目の前の相手が自分を利用しているのか、騙そうとしているのか、濡れ衣を着せようとしているのか、そういう気配に鈍いと占い師などやってはいけない。
よくある意地悪な質問に自分が今から何をするか占ってください、というものがあるが、いきなり殴りかかられても、瞬時に対応できる程度には気配が読めなければならないのだ。もちろん熟練の占い師になれば、相手の求める言葉を察したりも出来る。勘違いしないで欲しいけど、私が出来るとは言ってない。
摺り足の要領で音を立てずに張さんから1歩半距離を取り、笑顔は崩さず、長めの袖で半分ほど隠れている指を静かに折り曲げる。
「でも私は探偵じゃないですよ」
「先生は千里眼の持ち主、だそうじゃないですか。その占いの力で犯人を見つけて欲しいのです」
「なるほど」
中々に無茶を言う。千里眼を何だと思ってるんだ、ただの嘘八百だぞ。
「彼らにはまだ会長のことは伝えていません。外部に漏れては困りますし、証拠隠滅の可能性もありますから」
張さんの気配が少し強まる。なんていうか悪意を含んだ気配、人によっては邪気と呼んだりするのかもしれない。とにかく嫌な感じの気配だ。
「断ってもいいですよね」
「もちろん先生の自由です。が、個人的には私どもに協力するほうが損が少ないと思いますよ」
断ったらどうなるかわかってるんだろうな、そんなところか。めんどくさいなあ、これだから金持ちと権力者は嫌いなんだ。なんでも自分たちの思い通りになると思ってるから。
「いいでしょう。ですが、ある程度情報がないと見えるものも見えなくなりますので、取り急ぎ、あそこにいる彼らがどういう人たちか教えていただいても?」

「もちろん。服部のところにいる連中は本社勤務の社員です。上は専務、下は平社員まで。会長へ怨みを抱く可能性は少ないですが、仕事が仕事ですので、もしかしたら友人知人の怨みや正義感があるかもしれません」
「正義感ね」
悪の対義語が正義とは限らないけど、正義という言葉は便利だ。あやふやな動機はよく正義や義憤に置き換えられるし、困ったら正義を掲げておけば周りが勝手に大義名分にしてくれる。

「五里のところにいるのは会長のお気に入りたちです。いわゆる愛人ですね。個人的には彼女たちが怪しいと思っています」
「痴情の縺れは典型的なよくある動機ですからね」
しかし、これだけの情報では犯人など見つかるわけないし、適当に犯人はお前だ、なんてやられても相手も迷惑だろう。

「現場を見せていただいても?」
事件は現場で起きている。
見ないわけにはいかないのだよ。


ホテル地上18階、エレベーターの前と内部、2か所の階段、廊下にも何か所か監視カメラが設置されている。
「ちなみに会長が部屋に入った後、護衛以外、この階への出入りはありませんでした。監視カメラの映像も確認済みです」
「カメラが壊れている可能性は?」
「ない。会長は用心深いお方だ」
側近の野性味あふれる大男、五里さんが後ろから口をはさんでくる。体格からして、おそらく立場的にボディーガードなのだろう。
もしくは、債務者相手の嫌がらせ要員か。
「こちらが会長の泊まられていた部屋でござる。会長は用心深いお方、部屋に入った後は必ず鍵をかけ、部屋の前と階段、エレベーター前に護衛を置いているでござる」
もう一人の側近、服部さんが説明をつけ加える。ちなみに銭金五三男から、お前は忍者っぽい名前だから語尾にござるをつけろ、と命令されて、すっかりそれが身についてしまったそうだ。実に理不尽な出来事でござるね。
「部屋の前には拙者がいたでござる」
「ということは、服部さんが現在最も容疑者に近いわけですね。カメラの映像が偽装されていたらですけど」
わざと少々挑発的なことを言ってみる。しかし服部さんからは不自然な反応がない、動揺した様子もないし、かといって平静でもない。ちょっとムカつく、そんな感じの反応だ。
「服部には無理だと思いますよ。会長は本当に用心深いですから」

ホテルから借りたマスターキーでドアの鍵を開けると、わずかに開いた隙間からチェーンロックが見える。さらにチェーンには部屋の奥に置かれた何かへ向かってワイヤーが伸び、ちょっとしたコツを使ってチェーンを外した瞬間に防犯ブザーが大きな音を立てて鳴り始める。
「なるほど、これを仕掛けて正面から出るのは至難の業ですね」
用心深い男だ。こんな用心深さを持ってるなら、もっと他人に感謝されるような仕事をすればよかったのに。

部屋に足を踏み入れると、まず襲ってきたのが悪臭だ。臭い。エアコンの温度はかなり下げられて肌寒いくらいだけど、死体特有の臭さが鼻を突く。そして首のない異様な死体と飛び散った血痕。
まったく厄介なことに巻き込まれたなあ、私は本能的にそう思った。


「なるほど、いわゆる密室殺人ですね」


時間軸は現在に戻る。
側近3人立ち会いの下、部屋の隅々まで調べても怪しい場所はなかった。ならば密室殺人といえるだろう。
「しかし先生、実際にそんなことが可能なんですか?」
「手段によりますけど、例えばですけど、そこにある窓、少しだけ開いてるでしょう」
3人をベッド付近に立たせたまま窓に近づいて、頭一つほどが通れそうな窓の隙間を指さし、指先をそのままベッド方向に向けて、ヘアピンを指先で飛ばす。ヘアピンは私と3人の中間くらいの位置で落ちて、指をくるくると回して、結んでおいた糸を引っ張りヘアピンごと巻き取る。ちなみに部屋を調べてる時に手遊びしながら用意しておいた。
「今飛ばしたのはヘアピンですけど、例えば鉈のような形状の刃物。これを反対側の建物から飛ばして、窓の隙間を通し、首を切り飛ばしてテグスか何かで巻き取って運んでしまう。切れ味と勢い次第では出来るかもしれませんよ」
さすがに中庭越し建物幅10メートル強の距離で、この狭い隙間を狙うのはまず不可能だけど。でも発想次第では可能にする方法も無いことは無い。

「いやいや先生、漫画じゃないんですから」
「考え方次第ですよ。さっきのは無理としても、例えば銭金会長が窓辺に近づいた時に、さっき言ったような仕掛けを上から垂らして、窓を少し叩く。なんだろうと顔を窓の外に出した瞬間、刃物を上に引き上げて首をズバッ! 慌てて下がろうとした会長は、数歩下がってそのまま慣性で首のない状態でベッドへ。落ちてきた首は下で回収。反対側の建物に協力者がいれば、タイミングもそう難しくないかもですね」
身ぶり手ぶりを交えてベッドを指さし、にやっと笑ってみせる。
「ということは、このホテルへの出入りの多い愛人たちが怪しいか」
「奴らか! 会長の金をさんざん搾り取っておいて!」
「全員集めて問い詰めるでござるか?」
側近3人が話し込んでいる。

しかし私は、実のところ彼女たちが犯人とは欠片も思っていない。
だって犯人が愛人であれば、こんなまどろっこしいことをせずに、それこそベッドの上で犯行に及べばいいのでは?
今夜は頑張って、とかなんとか囁いてバイアグラを過剰に摂取させるとか、舐めると見せかけて金玉を潰すとか、他にやりようはいくらでもある。
事故死に見せかけることだって出来る。
それに、
「どうやら残念ながら違いますね」
窓をトントンと叩いて3人の注意をこちらに、さらに窓の表面に向ける。
「見てください。窓に傷ひとつ付いてない。もし首を落すほどの大ぶりの刃物で叩いたら、傷がつくと思うんですよね」
「確かに言われてみれば」
窓の傍に集まった3人と位置を入れ替えるように、そっと窓から遠ざかる。
歩いてみてわかったことだけど、慣性でベッドまで行くのは無理だ。さすが高級ホテル、距離があり過ぎる。

「かといって密室殺人が不可能というわけではありません。その窓の隙間、ギリギリ頭が入るでしょう。猫は頭が入る隙間であれば通り抜けることができる、なんて言われていますが、ものすごく柔軟な人間であれば、不可能ではないでしょう。例えば中国雑技団とか」
張さんの目がやや細まる。

「壁にしがみついて、凹凸を利用して上ったり下りたり出来れば、通り抜けを補助することも出来ますよね。漫画のイメージですけど、例えば忍者であるとか」
服部さんの目に不快感のような細かい反射が起こる。

「他にも、最近のホテルやマンションって意外と壁が薄いんですよ。経費削減なんですかね? 前もって壁に穴を空けておいて隣の部屋から侵入、犯行後にあらかじめ用意しておいた木枠のようなものと壁紙を使って、隣の部屋に逃げながらはめ込めば壁の細工も隠ぺい可能、単独での犯行も不可能ではないですよね」
五里さんの顔にわかりやすい青筋が浮かんでいる。

さすがに雑推理すぎて怒らせたか、それとも……


「先生、冗談みたいな推理はこのくらいにして、そろそろお得意の千里眼とやらで犯人を見つけていただけませんか?」
張さんが少量の不快感を含ませた口調で提案してくる。
やっぱりか。側近3人は端から犯人を見つける気などなく、適当な誰かをでっちあげるために占い師の力を利用しようとしているのだ。真面目に犯人を捜したいなら最初から警察を呼べばいい。限りなく反社会的な会社でも警察は捜査してくれるだろう。
しかし彼らはそれを選ばず、自分で言うのもなんだけど占い師なんて胡散臭い輩を現場に招き入れた。そして犯人に仕立て上げられる適当な誰か、それは十中八九、
「占い師の先生、悪く思うなよ」
五里さんが手の骨をパキパキと鳴らしながら、胸倉を掴んで来ようとする。後ずさりしながら両手を胸の位置まで上げて身構え、横目でドアに視線を向けると、集められていた社員が何人か、導線を塞ぐように立っている。まるで逃走防止用の壁だ。
おそらく愛人たちはホテルの出入り口か、この階から逃げられないように階段とエレベーターでも塞いでいるのだろう。
「なるほど。私に雑推理させてたのは、社員さんたちを呼ぶ時間を作るため。私を呼びつけたのは犯人に仕立て上げるため。そして真犯人は、お前たち3人だ! 私には全部お見通しだ!」
右手人差し指をピンと伸ばして五里さんに向ける。そして左手は腰の後ろに回していた鞄に伸ばし、中に入っている占い師を占い師たらしめる道具を掴む。

占い師を占い師たらしめる道具、すなわち水晶玉である。
占い師が水晶玉を使うのは、実のところ占いのためではない。
直径11センチ、重量2キロの球体、これを紐付きの袋に入れた状態で遠心力を加えて振り回せば、それは立派な、人間を撲殺しうる凶器と化すのだ。
その素材がもし水晶ではなく、より強さと重さを持った金属であれば、人間の頭を砕いた後もなお、次の破壊をもたらす悪魔の武器と化す。
水晶玉に宿るのは運命ではない、重量と速度と遠心力だ。

鉄球は殴りかかってきた五里さんの伸びきった右手、その先端にある指を斜め下から砕き、
「五里さん、いわゆる力自慢の素人でしょ。パンチが大ぶりだし、出所がバレバレだから、それは私には当たらないよ」
跳ね上がった重量を引き戻す力で右の鎖骨を、いとも容易く砕き折った。
そのまま回転の勢いを利用して、椅子で殴りかかろうとした服部さんの脇腹を穿ち、逃げようとした張さんの腰を破壊した。

重量とリーチで相手を牽制しながら、局所破壊を繰り返す。これが占い師の基本的戦闘術、水晶玉術である。
「さあ、死にたい奴からかかってこい!」
私は右手で鉄球をコンパクトに回転させながら、ドアに向かって近づいていった。


幼い頃からの師であり、半分は育ての親でもある伝説の占い師、二枚舌錨鏑(にまいじたびょうてき)先生が最初に教えてくれたのは、
「占い師になりたければ体を鍛えよ! 技を磨け!」
という武術家のような事実だった。
占い師は時に人を助け感謝されるが、時に人に絶望を与えて怨みを買ってしまう。言葉によって相手に与えたものが善であれ悪であれ、応報として与えたものの大きさがダイレクトに返ってくる。故に占い師は水晶玉で武装し、体の動きを隠すような大きめの服をまとい、そこに練り上げられた技と、必要であれば更に強力な武器を隠すのだ。
私は物心ついた頃から占い師の必須科目ともいえる水晶玉術と柔術を仕込まれ、さらなる強さを求めて空手、拳法、合気道、柔道、総合格闘技、都内のあらゆる道場に通った。早朝は水晶玉術と柔術、放課後は道場、空いた時間があれば指逆立ちに走り込み、筋力鍛錬、岩や鉄を叩いての部位鍛錬。そういう生活を小学生の頃から週5日、休むことなく続けた結果、私は女子高生にして地下占い格闘技場で優勝し、女子大生にして水晶玉術の免許皆伝に至った。
素質がなかったのか肝心の占いはさっぱりだったけど、命術も卜術も相術も相手の求める答えも未だによくわからないけど、私は素手で建築資材を破壊できるようになった。
ちなみに二枚舌先生はまだまだ現役で、国際的にものすごくヤバい相手に怨まれて、現在は追っ手を片付けながらブラジルの密林でキャンプを満喫しているらしい。この前、でっかいワニとのツーショット写真が届いたので、きっとまだ大丈夫だろう。


そんなことを回想している間にも、私の周りにはそこそこに怪我をした社員連中が転がっていた。
よく格闘技の試合で鼻骨や拳の骨が折れても戦う、なんて場面をたまに見かけるが、脳内物質が分泌される程の興奮状態に陥る前に怪我をさせれば、それ以上戦おうなんて思わない。
正確には戦う気力ごと折ってしまえばよいのだ。
先手必勝で相手の鼻に頭突きを当てるのが有効な理由は、まさにその辺りにある。スイッチが入る前にスイッチごと壊す。

「さて、張さん、服部さん、五里さん、もう諦めてくれますよね?」
私が笑顔で床に転がる3人に近づいていくと、突然壁の一部が押し出され、そこから黒ずくめの忍者とチャイナドレスの細身の女とゴリラが1頭、さも当たり前かのように現れたのである。
「お待ちくだされ!」
「それ以上、彼ラに酷いことしないデ!」
「ウホッ! ウホウホッ!」
え? もしかして私の推理当たってたの? ゴリラはよくわからないけど。

例えばこうだ。忍者が壁を上って窓まで移動する、窓の隙間をチャイナドレスの細い女性が無理矢理入る、もしくは窓枠を外して入り、銭金会長が呆気に取られている隙に壁から突然ゴリラが現れる。その後、ゴリラが銭金会長の首を引きちぎって、隣の部屋に戻る。あとは壁紙を貼って、忍者とチャイナは窓から脱出。これで密室殺人は完成する。
「なるほど、真犯人はお前たちだ!」
「その通りです! 犯人は私たちだ!」
忍者が言うには、まず忍者が壁を上って窓まで移動する、窓の隙間をチャイナが中国雑技団で培った柔らかさを活かして無理矢理侵入に成功、銭金会長が呆気に取られている隙に壁から突然ゴリラが現れ、視線が外れた隙に忍者がチェーンソーで殺害。
銭金会長の首は外にいた社員が回収して、ゴリラを隣の部屋に隠し、こちら側から仕掛けを元の位置に戻し、忍者とチャイナは窓から脱出した。
これで密室殺人は完成したのである。

すごいな、こんな荒唐無稽な殺人事件あっていいの?
「私たちは白状しました! あなたの店に運んでいる銭金会長の首も戻します! なので3人を許してください!」
こいつら、しれっと私を犯人に仕立て上げ、証拠まで捏造しようとしてたのか。首がなかったのは、そういうことか。
本来許されることではないけど、相手は限りなく反社会的な企業、幸い私は怪我もしてないので、この辺りで手打ちにするのが正解かもしれない。
それに最大の問題として今目の前にゴリラがいる。
ゴリラの握力は500kg、咬合力は400kg、体重は200kg、時速50キロで走り、パンチ力は推定2トン。
もしゴリラが襲い掛かってきたら、まず私程度では太刀打ちすらできない。故に答えはひとつしかないのだ。
「オッケー、許す許す。争いはよくないよね」
忍者たちに満面の春先の太陽のような笑顔で答えた。

「感謝します!」
「ウホッ! ウホッ!」
忍者たちもゴリラも喜んでいる。喜びのあまり200kgの巨体が元気に飛び跳ねている。喜んでるゴリラ、超怖い。今すぐ帰らせてほしい。
「実は会長は、ある日を境に女遊びをやめ、男色に走り出したのです。それだけでは収まらず、動物を抱きたいと言い出し、我が社のマスコットキャラクターでもあるロベルト、こちらのゴリラなんですが、ロベルトに手を出そうとしたのです。私たちは我慢できませんでした。借金をする連中はどれだけ追い込んでも仕事という理由で納得しました。ですが、ゴリラを抱きたいと言われても、それはもう個人的な欲じゃないですか。ロベルトは私たちにとって家族も同然、そこで社員全員で話し合いを繰り返して、銭金会長を殺害することに決めたのです」
張さんが訊いてもいないのに、今回の経緯を語り出した。
そんなことはどうでもいい。ゴリラ怖いから帰らせてほしい。
「ウホッ! ウホォーッ!」
ゴリラがココナッツを皮ごと食べている。うわあ、超こわい。


新しい朝がきた、昨日と同じ朝、爽やかな朝。


私の名前は蛇増子屋珠子、千里眼のラトルスネイクと呼ばれる占い師の端くれだ。
今日も朝から秘密の修行場所までのランニングを終え、山奥で鉄球を1時間ほど振り回し、クールダウンしながら朝ごはんを食べる。
唯一昨日と違うのは、朝食にバナナも食べるようになったこと。
占いの館のマスコットキャラクターとして、ゴリラと忍者と雑技団の女が加わったこと。
「君たち、お願いだから帰って」
「いいえ。忍の掟で恩は命に代えても返せとありますので」
「わたし、たまセンセー気に入ったネ。ずっとついていくネ」
「ウホッ!」
よし、今夜にでも逃げよう。
私はそう思いながら、ゆっくりと味噌汁を啜ったのだった。

(終わり。気が向いたらまた書く)

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というわけで、また短編書きましたです。
ミステリー好きにぶっ飛ばされそうな内容ですけど、トリックが全然思いつかないので、昔からミステリー作るの苦手です。馬鹿(私)が考えてるから馬鹿(登場人物)しか出てこないんですよね。
あ、読むのは好きです!
今回登場させたトリックが腕力で無理やり実践しちゃう系なのですが、でも昔読んだミステリー小説で「切り落とした首が飛んで、他の人の首を落された胴体にくっついて、奇跡的な確率で接続されて、短い時間動くことができて、部屋に逃げ込んで鍵をかけて密室になった」っていうのがあったので、じゃあ腕力で全部やってしまってもいいじゃんとか思ったです。
あと水晶玉を使う理由を自分なりに考えてみたです。

我が家にもくっそ重たい球体があるので、いざとなったら布で包もうと思いましたです。

あと写真はフリー素材のおしゃれな水晶玉です。おっしゃれー。