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小説「彼女は狼の腹を撫でる~第32話・少女と春休みと大痛飲行進曲~」

私と愛犬のシャロが暮らす自由都市ノルシュトロムは、冬の終わりに差し掛かるとあちこちの街路樹が黄色い花が咲かせることでも知られている。
植物の名前に疎いせいか何回聞いても覚えられないその花は、春の訪れと共に咲くことから住人たちからは『イエローハッピー』と呼ばれている。
町全体がペンキで塗られたように黄色く染まった頃には、町中を巻き込んだパレードが始まるらしい。
大陸5大都市のひとつに数えられる巨大市場であり、都市そのものが巨大な貿易港でもあるこの町で一旗揚げようと流れ着いた移民たちが持ち込んだものだけど、元々は静かに春を喜び新しい季節への祈りを捧げる儀式的なものだった。
それがいつの間にか、商業主義に染まったトントンチキでもいたのか、それとも移民である我らここにありと主張するためなのか、原型を留めない程に派手で騒々しい祭りみたいな形へと姿を変えたそうだ。

私が実家を出てノルシュトロムに移り住んで半年と数か月、下宿の窓から見える景色はすっかりと黄色に侵食され、ただでさえ用途に応じて色分けされた賑やかな街並みは、視界に入るだけで目も眩むような姿へと様変わりしている。
心なしか外から聞こえてくる音も一段も二段も大きくなっている気がするし、溜まりに溜まった課題の提出に悩まされている同居人の、13歳にして魔道士育成機関の次席の座に居座る天才美少女魔道士のファウスト・グレムナードは、春先の猫みたいに毛を逆立てるような気配を纏って時折外を睨んでいる。

「もうやだ! 書いても書いても全然終わらないんだもん!」
ファウストが半泣きになりながら絶叫している。
机の上には山のように積み重ねられた紙束に、旅の道中で集めに集めた大量の魔導書。その大量の情報を用途や種類や属性で分類して、基礎理論さえ学んでいれば誰でも理解できるように噛み砕いて、翻訳した教科書のようなものへと落とし込む。
彼女が天才だからこそ攻略できる課題であり、天才であるが故に課せられた宿命でもある。

「おまけに外はうるさいし! あと外がうるさいし!」
気持ちはわかる。私も出来れば昼間で寝ていたいのに、早朝から起こされてしまって、ついつい目を上下から押したように細めてしまう。
窓の外では先走って泥酔した酔っ払いが喚いている。実に春めいた光景だ。


私の名前はウルフリード・ブランシェット。16歳、狩狼官。
つい最近まで失踪した母と実家から持ち出された狩狼道具を回収していたけど、命じた実家のばあさんの顎を蹴り抜いたらへそを曲げられて、実家に帰れない状況と気まずさと引き換えに自由を手に入れた。

ちなみにさっきシャロ・ブランシェットのことを愛犬と語ったけど、どうやら狼だったようで日に日に野性味が増している。
あと最近気づいたけど、狼の成長は速い。生後3ヶ月にして、すっかり大人びた顔つきに成長した。もう1月2月ほど経ったら貫禄が出てくるだろう成長具合だ。
またこれが堪らないんだよね、頭や背中を撫でた時のモフモフ感が。

ファウストも疲れを癒すために頻繁にシャロを撫で回している。もはやモフモフなしではいられない体になってしまったのだ。
かくいう私もそうなんだけど。



「というわけで下宿の前も中もうるさいから逃げてきた」

数時間後、私は契約先のアングルヘリング自警団事務所で珈琲を飲んでいる。
ここは町の騒がしさとは裏腹にいつものように静かだ。その秘訣は所長が借金取り対策に設置した防音壁と吸収材の数々、所長こと借金だらけのおじさんフィッシャー・ヘリング曰く『普通の声量で怒鳴るだけの借金取りは無視しても問題ない。尋常じゃない声量で怒鳴ったり、壁を直接突き破ってくる借金取りが本当に危険なんだ』だそうだ。
だから嫌味のひとつやふたつは聞き流せるように、中にあまり音が入ってこない構造になっている。
普段は尋常じゃない声量の借金取りしか来ないから全然気づかなかったけど、確かに透明な幕を1枚被せたように外部の音が通らない。

ファウストも連れてきてあげたいけど、課題で精神に負荷がかかっている状態で借金取りに鉢合わせたら人体を粉々に吹き飛ばしかねない。
気の毒だけど、引き続き騒々しい下宿で頑張ってもらおう。

シャロも連れてきてあげたかったけど、事務所は動物の立ち入り禁止。
理由は簡単、所長が動物アレルギーでくしゃみを連発して居留守を使えないから。

「お嬢ちゃんお嬢ちゃん! 珈琲飲んでるとこ悪いけど、ぼくらも忙しくなるよ!」
借金だらけで仕事をしている姿を見せないおじさんが、珍しくバタバタと事務所内を右往左往し、警棒や腕章やロープなどの警備用の道具を引っ張り出している。
仕事のないアングルヘリング自警団事務所もこの時期ばかりは忙しい。なにせ町中を巻き込むような規模の祭りなのだ、都市の治安維持を司る騎士団の警察隊だけでは手が足りず、民間の警備会社から自警団事務所までありとあらゆる人手が、それこそ猫の手も借りたい程に求められる。
悪党を捕まえて報酬を得る狩狼官も例外ではない。

そうそう、私は鬼もとい実家のばあさんから解放されて自由を手に入れたけど、狩狼官の仕事は続けている。幼い頃から仕込まれて体に染みついてしまった技能は、愛着があるわけでもないのに捨てる気にならなかった。だから回収してきた狩狼道具も実家に渡さず、一部は身に着けて残りは下宿に保管している。
とはいったものの、比較的治安の良いノルシュトロムでは仕事などあってないようなもので、普段は短期就労に勤しんでいるわけだけど。
ちなみに就いてみたい仕事である喫茶店と映画館は、未だに働けた例がない。やっぱり世の中はおかしい。

「それで、私の持ち場は?」
「お嬢ちゃんはレイルと一緒に、地図の、えーと、地図はどこだ?」
おじさんが地図地図と連呼しながら、棚に乱雑に収められた紙束を引っ張り出しては戻している。
あんまり地図地図言うものだから、私の舌はすっかりチーズの舌になってしまったので、今夜はチーズとベーコンを挟んだパンを食べよう等と考えてしまう。
チーズケーキもありだな、チーズケーキもありだな!

「ここね、ここ! この角のところ!」
おじさんに指し示された場所は、大通りから1本裏に入った路地の直角に曲げられた地点だった。なるほど、ということはおそらく交通誘導や道案内の類だ。
おじさんも16歳のか弱い少女に荒事の警備を振らないよう配慮しているらしい。案外気が利くところがある、その気の利きをギャンブルにも活かせればいいのに。

「一番大変なところだけど、頑張ってね!」
「ふえ?」
……なんだって?


――――――


おおよそパレードというものは、楽器を抱えた楽団がゆっくりと練り歩き、紙吹雪が舞い、色とりどりの風船が飛ぶ――そういうものだと思っていたけど。

「うっ、うわあああああ!」
「次が来るぞ! 危ないから避難しろ!」
津波のように押し寄せる人並みを掻き分けて、ヘルメットを被ったレイル・ド・ロウンが逃げ遅れた中年男を担いで路地の奥へと放り投げる。
彼は元々騎士団に所属していて、26歳と働き盛りで体格も私より頭ひとつ以上大きい。寝技や投げ技も含めた格闘技の心得もある。痩せた中年男を持ち上げて投げるくらい簡単だ。
そのまま自分も塀の上へとよじ登り、直角に曲がる路地を進むとは思えない速度で突っ込んでくる巨大な、例えるならば豪華絢爛に飾り付けた直径3メートルを超えるドラム缶の怪物の直撃を避ける。

「なんか思ってたのと違う!」
「そういえばパレードは初めてだったな。これくらいは序の口だぞ」
衝突の勢いでぐわんぐわんと揺れる塀の上にしがみついている私の嘆きに、レイルがさらりと恐ろしい予言を乗せてくる。序の口ということは、暴走する大質量ドラム缶よりも危険があるということだ。
考案者は気が狂っているのか、死人が出るぞ。

「次はあぁぁぁぁぁ、スパイクニードル号とおぉぉぉぉ、シールドバッシュ号のおぉぉぉぉ、ぶつかり合いですうぅぅぅぅ」

パレードの司会の声が、拡声器で増幅されて反響しながら中空で木霊する。
なんで巨大なドラム缶同士がぶつかり合うのか意味はわからないけど、もしかしたら『人生は困難の連続である、時には誰かとぶつかり合うこともあるだろう。その時に負けない自分であれ』という意味が込められてるのかもしれない。
誰かとぶつかる前に、大質量にぶつかって命を落としかねないけど。

直角の路地を曲がる気が一切感じられない速度で、無数の円錐状の棘に覆われた巨大なドラム缶と、本来は土木工事で土を押し出すための整地用ブレードを装着した巨大ドラム缶が突っ込んでくる。
もちろんこんなものの衝突に巻き込まれたら、いよいよ死以外の結末が思い浮かべられない。奇跡的に助かったとしても骨折や内臓破裂は免れない。
整地用ブレードの正面にデッド・オア・アライブと描かれてるけど、生か死かではないのだ。死か瀕死かのどちらかだ。

「いけー! 潰せー! 我が人生にバッグギア無し!」
「いけー! 押せー! 我が人生は前進あるのみ!」
トゲトゲドラム缶とブレード付きドラム缶の後ろを全力疾走しながら、知性を完全に失ったとしか思えない上半身裸の男たちの集団が走っている。
なんていうか悩みとか無さそうで人生が楽しそうだなって羨ましさと、どう人生を間違ってもああはなりたくないなって恥ずかしさの両輪で動いてる。
どちらが欠けてもパレードには参加できないし、どちらが足りなくてもパレードを楽しめない。
私はどっちも足りないから全然楽しくないけども。

ゴカァンと金属同士が激突する音が響き、吹き飛んだ棘や鉄板が壁や民家を直撃する。
互いに弾けたドラム缶に吹き飛ばされながら、男たちがゴロゴロと地面を転がりながらゲラゲラと笑っている。
見物人たちも怪我をしながら笑い声を上げていて、なるほど狂っているのは考案者だけではない。
参加者も見物客もこの場にいる全てが狂っているのだ。

まともな正気を保った人間は、きっと今頃安全な場所で馬鹿を見るような目で眺めているか、迷惑そうに眉をひそめているかのどちらかに違いない。

だったら、今この場で飛んでくる破片を叩き落したり、転倒した怪我人を救助している私たちは?
少なくとも狂気ではないと思いたい。出来れば今すぐ避難して、喫茶店でのんびりコーヒーゼリーでも食べたい。
倒れる怪我人を引っ張りながら、心底そう思ったのだった。



「こんにちは、みなさん! 薄桃色の樹木の下には死体が埋まっているらしいけど、黄色い花を咲かせる樹の下には大ハッピー主義者が埋まっているのである!」
「それは大変だ! 今すぐハーレーシュタット塔に登らねば!」
「進めー! 集まれー! 我こそは神である! 神などいなーい!」
地面に転がったドラム缶の残骸を、蛙だの水牛だの達磨落としだのの仮装行列が踏みつぶしていく。その後をウオウオと喚きながら上半身が魚で尾びれが二股に別れた半魚人の大群が練り歩き、牛頭の獣人たちが担ぐ丸太を積み重ねた玉座の上では極彩色をした壺の中から形容しがたい色の水を振り撒いて、目の前を数メートルほど通過した瞬間に前方から転がってくる火薬の詰まったドラム缶に吹き飛ばされていく。

「さあ! 月に向かって凱旋だ!」
「自由を愛せ! 故郷を愛せ! 愛をカプチーノに一匙放り込めば、硝子の檻に引き籠った天使が喇叭を鳴らすのだ!」
「吾輩は転がるドラム缶である! ドラム缶の回転が毎秒360回転を超えた時、世界は地軸をずらして天上の世界へと昇華するのである! 昇華した世界は海がプリンで陸がスポンジケーキなのは、前時代からの常識なのである!」
「さあ、行こう! どこへ? どこへだって行けるさ、だって僕たちは足が26本あるのだから!」
塀の上にずらりと並んだ給仕服姿の男たちが、満面の笑みで半魚人の群れに斜め45度の角度を保って飛び込み、小さな鯨となって空へと泳いでいった辺りで、この意味不明さは質の悪い悪夢だなと判断した。

夢だとわかれば、あとは目を覚まして現実に帰還するだけだ。
悪夢なんて今までに何度も、それこそ幼い頃から嫌になるほど見ている。恐れることも戸惑うこともない、夢は所詮夢以外のなにものでもない。

夢の中で目を閉じて、不安定な世界の中で自分の核となる気配に手を伸ばし、そこに至るまでの意識の流れを道標として指先に力を込める。
犬の毛みたいなわしゃわしゃとした感触を掴み、夢と現実の狭間の中から私を引っ張り出す楔として、ぐるぐると回る意識をなんとか固定させる。


「――ウル! おい、ウル!」


悪夢から目を覚ますと、私は右腕を伸ばしてレイルの髪の毛を掴んでいた。頭は彼の太腿の上、首から下は背中と腰を抱えられて、酒と血と泥で汚れた地面にかろうじて寝そべらずに済んでいる。

「あれ? なんで?」
「軽い脳震盪を起こしてたんだ。メットのおかげで大したこと無さそうだ」
そういえば頭にほんの少し、ぶつけたような痛みが残ってる。そうか、飛んできた破片が当たったのか。
私はレイルの頭から手を放し、そのまま肩を借りて、上体を折り曲げた右腕に引き寄せる要領で持ち上げる。
一瞬、呆れ半分に心配の混じった顔が間近に迫ったので、反射的に肩を腕で押して立ち上がりながら距離を取る。
別に意識する必要もないのだけど、さすがに急に目の前に顔が現れると焦る。焦ると鼓動も速くなるし、太鼓みたいな音を立てるし、思わず耳まで赤くなってしまう。

「……ありがとう」
「名誉の負傷ってやつだな」
目を逸らして礼を言う私に、慰めも混じった軽口が飛んでくる。やめろやめろ、不名誉でしかないんだから。
それだけでもないけど、失神した気恥ずかしさを抱える私を、レイルがじーっと眺めている。やめろやめろ、私も年頃の乙女なんだから。

「ゲコゲーコ! ゲコゲーコ!」
私たちの目の前では、子どもくらいの大きさの蛙が酒瓶と盃を両手に飛び跳ねながら、珍妙なパレードを続けている。
ノルシュトロムに住んでいるのは人間だけではない。去年の夏は半魚人たちの反乱が起きたりもしたけど、この蛙人たちも水中での工事に従事する労働者だ。
世界は広いが大陸は狭い。いわゆる亜人種と分類される生き物たちも、大地を開拓されて人間の文化や生活が浸透してしまえば、郷に入っては郷に従え、人間と同じように貨幣経済というシステムを使わずにはいられない。
そしてノルシュトロムは自由都市であり、大陸有数の商都だ。彼らのような出稼ぎの移住者は幾らでも居る。
もちろん真っ当な普通の人間も、人外のへんてこな生き物も。

互いに言葉が通じない種族同士が盛り上がるには、目に見えてわかりやすい単純明快なものが必要となる。
それであのパレードか、そう考えたら腑に落ちる。どうしようもない馬鹿だとは思うけど。

「ゲコゲーコ!」
蛙の隊列からひとり、盃に酒を注いで私たちに向けてくる。強烈なにおいのする独特な酒で、瓶に貼られたラベルには『下戸』と書かれている。
「なに? くれるの?」
「ゲコゲコ!」
蛙が頭を上下に振る。頭を振る度に腕も小刻みに震えるものだから、盃の中身がバシャバシャと零れ、きつい鼻を突くような酒の匂いが辺り一面に充満する。

「やめろ、俺は酒が得意じゃないんだ」
レイルは下戸だ。以前ふたりで酒の席に招かれたことがあったけど、その時も軽めの酒を1杯飲んだだけで酔い潰れて、いびきを掻きながら深い眠りに囚われていた。
私は弱い方ではないと思うけど、日頃から常飲しているわけではない。たまの贅沢に蜂蜜酒を嗜むくらいだ。きつい酒は正直好みじゃないし、年齢的にもまだまだ早い。
「駄目だ、酔う……」
レイルの上体がぐらりと揺れて、地面に手を着いて尻から崩れる。そのまま地面に転がられても困るので、背後に回って肩を掴んで倒れないように支えてみる。
まったく、でっかい図体して困った男だ。さっき支えられてた私に言えた義理でもないけど。

「ゲコ! ゲコゲコ!」
酒のにおいにやられたのか、蛙たちも名前の通りに引っ繰り返って、げこーげこーと独特ないびきをかいて眠っている。
蛙もどうやら酒に弱い、いわゆる下戸の口というやつらしい。駄洒落みたいな馬鹿馬鹿しい存在だな。

そうこうしている内にパレードも佳境を迎えたのか、巨大なノルシュトロム市長像に向けて、円錐状の物体が轟音を響かせて無数の球体を発射している。


【ビッグカーニバル】
ブランシェット家の狩狼道具のひとつ。形状は巨大なパーティークラッカーで、大量の熱した散弾を発射する一撃必殺の広範囲武器。


本来は獣の群れを迎撃するために開発されたものだけど、今は見ての通り、お祭りの出し物へと成り下がっている。もしかすると成り上がったと称するべきかもしれない。
粉砕された市長の像と歓声に湧く見物人たちを見ていると、後ろ暗くて血生臭い使われ方よりはずっと正しい気もしてくる。

まあ、後で取り返すんだけどね……。



パレードはまだまだ続く。
私は破壊された壁やら建物やらの瓦礫に腰かけて、表通りを練り歩くよくわからない生き物たちの行列を眺めている。
この町のどこに隠れていたのか、半魚人だの蛙人だの二足歩行の豚だの山羊頭蹄脚の怪物だの、幽霊だのゾンビだの、実に様々な生き物たちが蠢いている。
ちょうど私の太腿の上にも、酔っぱらって潰れた駄犬っぽい男がいるけど。

「やれやれ、なんで私が……」
レイルの雨に濡れた犬みたいな汗ばんだ髪の毛を撫でながら、膝枕にうつ伏せで突っ伏している駄犬を見下ろす。
さっき介抱してもらったお礼だからな、勘違いするんじゃないぞ、私の太腿はそんなに安くないんだからと、人差し指をピンと伸ばして頭の天辺の旋毛をぐりぐりと押す。
うううう、とゾンビみたいな呻き声を発するレイルに、ついつい笑みを浮かべてしまう。
しかし、そんなちょっとした楽しい時間は続くわけがないのだ。

「やばい、吐きそう……」
「ちょっと待って! せめて膝から降りるまで我慢して!」
慌ててレイルの服の肩のあたりを掴んで、強引に起こそうと引っ張ったのが完全に裏目に出た。首ががくんと動いた直後、彼の口の中からどばっと大量の酸っぱい臭いのする液体が溢れ出る。

「げべごぼうぉえぇぇ!」
「きゃあああああ!!!」

あまりに突然だったので、年相応の普通の学校に通うような女学生たちと大差ない情けない悲鳴を上げてしまう。

ああ、なんて情けない――

思わず涙ぐんでしまうし、うっすら一筋涙が毀れてしまう。
来年のパレードは避難して部屋に引きこもろうと心に決めながら、空へと登ろうとでもしているのか、ドッタンバッタンと飛び跳ねている色々な生き物たちをいつまでも眺めていたのだった。


ちなみにレイルからは翌日土下座までされたけど、こんなことで怒ったりはしないのだ。
なんていうか色々と台無しだなあって思ったけど。


今回の回収物
・ビッグカーニバル
大量の熱した散弾を発射する巨大クラッカー。橙色。
威力:A 射程:C 速度:A 防御:― 弾数:1 追加:―


(続く)


(U'ᄌ')U'ᄌ')U'ᄌ')

狩狼官の少女のお話、第32話です。
春はキ印な季節です回とラブコメっぽさ出してみよう回を合体させたら、なんかこんなのになりました。
キ印要素が強いのよ……。

ウルもたまには年相応に照れたりするわけですので、今回は結構照れさせてみました。そういうの書くの苦手なんですけどね!

あと終章突入ってことで、タイトル絵を変えました。
終章1発目にもってくる話ではないよね! 知ってる!

次回も変な話になる予定ですが、お付き合いください。