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短編小説「竜と葡萄酒と世界の終わり」

「まったく、困ったことになったな」
先生が困っているんだか単純に面倒でしかないのかわからない顔で、窓の外で一昨日から降り続けている雨を眺めている。
強く激しい、空と海が引っ繰り返ったような雨。この世の終わりのような雨。外は大量の、もはや大量という言葉では追いつかない巨大な水が、地の果てまで拡がっている。海と陸の境目はすでに無い。島のように海面から突き出しているのは、かつて山だったものだ。この館がある人里遠く離れた山嶺も、海に飲み込まれるのは時間の問題だろう。
「先生、のんびりしてる場合じゃありません。さっさと逃げましょう」
「それもそうだ。じゃあ、ちょっと持ち出す本とお酒を選んでくるから」
「早くしてくださいね!」
外ではすべての音を掻き消し、すべての大地を埋め尽くすようなような雨が降り続いている。こういう雨を、きっと世界の終わり、或いは神々の怒り、とでも言うのだろう。


話は1週間前に遡る。
いつものように先生が起きるまでに朝ごはんの準備をしていると、普段は鉄鍋を棒で叩き鳴らさないと起きないのに、髪をまとめる時間も惜しむ焦り具合で先生が部屋から飛び出してきた。
「カナンちゃん、聞いてくれ! 大変なことになったのだよ!」
「なんですか? 部屋に蜘蛛でも出たんですか?」
ちなみに先生は虫全般が苦手だ。虫が苦手だけでなく、朝も起きれないし魚も捌けないし、部屋の片付けもろくに出来ない。計画的なお金の使い方も出来ないし、待ち合わせの時間も守れた例がない。
おおよそ生活力は生まれたての赤子並、見た目はその辺を歩いている小柄な若い娘、それが私の師であるこの人の正体だ。
しかし一歩外に出れば、世間では悪魔や怪物の類の如く恐れられる存在でもある。このジウスドゥラ大陸において、どんなに低く見積もっても五指に数えられないことのない大魔道士ノア。
そして私は、その大魔道士の唯一の弟子だ。ちなみに住み込みで身の回りのお世話もしている。
「さっき夢の中で竜が話しかけてきたんだけど」
「どっちのですか?」
「雌の方」
魔法には幾つか種類があるけど、共通しているのは、人間とは異なる世界にいる超常の存在の力を借りることだ。
超常の存在、その名の通り人間を大きく超越した存在で、人々は太古の昔より彼らを神々と呼び、恐れ、敬い、崇め奉ってきた。その中に竜と呼ばれる存在がいて、先生は万物を知る竜の女王と価値ある竜の王と懇意にしている。
超常の存在である竜と対話できる。先生は以前、大国の王様に対して町娘がいきなり訪ねて飯食って帰るようなもの、と言っていたけど、その例えは私からしたら謙遜に卑下と遠慮を重ねたようなものだ。
「でだね、万物を知る竜の女王が言ったわけだよ。超常の存在の大多数が、人類を快く思っていないって」
「世界の終わりじゃないですか」
寝汗で絡まった緋色の髪に櫛を通す指先に力が入る。先生が尻尾を踏まれた猫みたいな小さい悲鳴をあげるが、そんなことより世界が大変だ。
なにせ相手は超常の存在だ。私たち魔道士が行使している魔法、例えば私の扱う黒魔法は、超常の存在の力を借りて自然法則に干渉して、空気を燃やしたり水を凍らせたり、雷を発生させたり、大地を揺るがしたりするけど、借りている力は僅かなものらしい。先生が言うには湖に吐いた唾くらいの量だそうだ。
「でだ、奴らは1週間後に世界を水没させるらしいのな」
「なんですか、その微妙な猶予期間」
「価値ある竜の王が説得したそうだ。お前たちの怒りもわかるが、天才大魔道士ノアには猶予を与えるべきだ。なぜなら彼女には人類の滅亡を遅らせるほどの価値がある。なぜなら彼女は聡明で知的で、おまけに美しく、しかも……ちょっとカナンちゃん、聞いてるのかね?」
後半は先生が盛っているからどうでもいいとして、どうして急に超常の存在が怒り出したのか。
魔道士が彼らの力を借りるのが気にくわない? だったら最初から貸さなければいいだけだ。
人類の歴史が血に塗れているから? それこそ今更過ぎる。
なんとなくそんな気分? それが一番しっくりくるかもしれない。私だって機嫌がよければ部屋に入ってきた蟻くらい見逃すし、機嫌が悪ければ雑草くらい踏みつける。
あれこれ悩みながら髪を整えていると、先生が私の手を握り、頭を後ろに倒す姿勢で視線を向ける。
「そういうわけで1週間したら世界が水没するわけだけど、どうしたらいいと思う?」
「どうしたらって、どこまで沈むかわからないですし、船でも作るしかないですよね」
「そうなんだけど」
どうするも何も、山の上に逃げても、それ以上に水かさが増したら逃げようがないわけだから、船で水に浮かぶ以外に選択肢はない。
しかし先生はいまいち乗り気じゃないみたいだ。理由は私にだってよくわかる。どんな大きな船でも乗れる人数には限りがあるし、どんな方法で選んでも席の奪い合いは避けられない。切り捨てる命だって出てくるわけなので、正直気分はよくない。
先生が難しい顔をして、眉間にしわを寄せて、口をへの字にしてつぐんでいる。
「でも先生、これはきっと、偉大なる大魔道士である先生に課せられた使命でしょうから」
「知らない人と同じ船とか寝つきが悪くなる」
思った以上にしょうもない理由だった。今更呆れたりしないけど。前も枕が変わったから一睡も出来なかったとかで、来客の前でよだれ垂らして居眠りしてたし。

「というわけで、船の製造は大工に頼んでおきましたから、誰を乗せるか考えましょう」
先生の前に紙と羽根ペン、少しでも気分よく考えてもらうために葡萄酒と蜜漬けにした干し果実を置いて、さらに町役場で調べてきた住民のおおよその人数と職業のリストも用意した。
船の製造にかかる材木は多すぎるくらいに用意したし、前金を多めに払って数日中に完成させる約束も取り付けた。移動も含めて3日ほど費やしたけど、我ながら完璧な仕事ぶりだ。
「カナンちゃん、魔道士としてもなかなかの腕だけど、秘書として完璧すぎて心配になる。もしかして引き抜きの話とか来てる? そんなの駄目だ、ボクは一生面倒見てもらうつもりなんだから」
「じゃあ、私は乗船確定ですね」
乗船確定者、
ノア(大魔道士/女/見た目10代半ば)
カナン(黒魔道士/女/15歳)
さらさらっと紙に走り書く。まあ、これは想定通り。大魔道士の弟子なのだから、それくらいの特権というか便宜は図られてもいいはずだから。
「ねえ、カナンちゃん。乗船出来るのはボクたちだけっていうのはどうだろう?」
「どうだろうじゃなくて、ダメに決まってるじゃないですか。一応理由聞きますけど、どうしてですか?」
「風呂上がりに服着るのめんどくさい」
じろっと先生に目線を向けて、言わずもがな却下であることを伝える。
私たちだけでは家も建てられないし、服も縫えない。料理は少しは出来るけど、牛や豚を育てたこともない。私たちだけだと、あっという間に生活が破綻してしまう。
豊かな生活を満たす為に必要そうな人に印をつけていると、先生はもう飽きたのか、蜜漬けの果実を齧りながら、あごをテーブルの上に乗せて、足をバタバタと前後させている姿が目に入る。
「先生、早々に飽きたところすみませんけど、他に乗せる人たちを選びましょう」
「張り切ってるところ悪いけど、ちゃんと理解した上で考えてる?」
「勿論です」
私だって自分なりに考えてる。世界は水没した後、どれくらいかかるかわからないけど、やがて水は引く。水が引いた後は町を再建しないといけない。それに必要なのは畑を耕し家畜を育てる農家、家を建て直す大工、木材を集めるために木こりも必要だし、船大工も漁師にも働いてもらわないといけない。やがて子どもも産まれるだろうから医者も必要だ。町がある程度再建した頃には法律や治安、娯楽、宗教も必要になるし、そのうち墓を作る日も来る。
何年も先を見越して、今この町にある技術や知識はなるべく持っていかないといけない。それに家畜と食糧、飲み水、布地に紙、金属、即席で作るのが難しい道具。船に乗せなきゃいけないものは山積みだ。
ある程度は昨日のうちに書き出してある。この先話し合っている内に気づくこともあるだろうから、柔軟さも持ち合わせて慎重に、食糧が不足しないように多すぎず、かといって再建の手が足りないこともないよう少なすぎず、適切な人数と人材を選ばないといけない。
「わかってるならいいけど、乗せる人を選ぶってことは、水没することが知られるってことだからね」
「でも助かる人が出るだけマシじゃないですか?」
「まあ、そういう考え方もあるけど」
先生がまだ乗り気にならないのか、テーブルに頬を乗せたまま、カリカリと蜜漬け果実を齧っている。まったく先生は何をそんなに嫌がっているのか。期限も残り4日に迫っているというのに。
「正直言うとね、ボクは他の人間を乗せなくてもいいと思ってるんだよ」
「裸でうろうろ出来ないからですか?」
「違うよ。なんていうか、平等じゃないと思わないかね?」
そう言いながら椅子から立ち上がり、棚から木盤と水晶を加工した駒とサイコロを取り出し、テーブルの上に並べて誘ってくる。もしかして先生、意味深な物言いをして遊びたいだけなのか。
「例えばだね、このゲームではボクたちはサイコロの目に従って進むから、どのマス目に止まるかわからないし、なにが起きるのかもわからないわけだよ。実際は丸暗記するくらいやり込み過ぎてるから大体のことはわかるし、生活の中でも経験の積み重ねで、通り雨が来そうだとか、海が荒れそうだ、くらいはわかるけど」
サイコロを振って駒を進め、止まったマス目に書かれた『貴族の屋敷の前で金貨を1枚拾う』の文章を指さし、紙の上にさらさらっと金貨+1と書き殴る。やはり遊びたいだけなのか。
「世の中の幸福も不幸も、事前に知らされることなんてほとんどないわけだ。今回の水没が大雨なのか、地面から水が湧くのか、海面が急上昇するのか知らないけど、それは人間が経験と知識で気づくべきだろう? でも、今回は超常の存在が教えてきたものだ。ボクが空や海を観察して気づいたわけじゃない」
先生はたまに妙なことを言い出す。超常の存在と対話できるせいで、感性までそっちに引っ張られているのかもしれない。
でも私は、知っていることは教えてあげるべきだと思う。それに、本当に竜の言った通り人間が滅んだら、この世界はきっと酷く空しくてつまらないものになるに違いない。
いざとなったら先生抜きで、私だけで準備を進めないといけない。内心でそう覚悟を決めると同時に、ドアがコンコンとノックされた。

わざわざ先生を、というか私たちの住む館を訪ねてくる者は限りなく少ない。
まず立地的な問題として、夏でも肌寒く冬は分厚い雪で覆われる山嶺に館は建っている。これは先生が覗かれるのが嫌という理由からだ。
次に治安的な問題として、先生は中身はこんなでも大陸指折りの魔道士だ。火薬の詰まった樽に自ら手を突っ込みたい者などいない。
3つ目に法的な問題として、魔道士は個人とみなされない。魔法は国家の共有財産と法的には見なされている。従って魔法を使う魔道士も、財産の管理者と分類され、個人が私的に独断で魔法を利用してはならない、と表向きは定められている。
例えば先生に何か頼みごとをするとなれば、役場に陳情し、議会を通して判断を下し、国の承認を得て初めて、先生への依頼が認められる。
現実には先生は自由気ままな人なので、金策が必要、もとい気まぐれで人助けをして若干の謝礼を要求することもあるけど、魔道士側から勝手に力を貸すのは不問とされている。
この3点の問題から先生を訪ねてくる者は少ない。言い換えれば王族などの存在が国家そのもの、国の承認を後回しにしても許されるほど地位や権力の持ち主、そもそも法に縛られていないアウトロー、そういった範囲の者なら訪ねてくるわけだ。
「とりあえず先生、部屋着から着替えましょう」
「えー。着替えめんどくさい」
テーブルの上の木盤と駒をさっと片づけて、先生を寝室まで押し込み、よれよれの部屋着から外向きの格好に着替えさせる。師をよく見せるのも弟子の仕事だ。裾の広がったドレスを着せて、貴族の令嬢と並べても見劣りしないように指輪や鉱石で着飾り、ついでに私も見習い用の無駄な装飾のない黒いローブを羽織る。
「先生、準備万端です」
「いつもながら着せ替え人形みたいな気分だ」
口を尖らせて不満を垂れる先生を椅子に座らせ、厄介そうな予感を抱かせる客人の待つドアを開くと、そこには想像以上に大勢の人影が並んでいた。見た目からして無法者に商人、平民のふりをした貴族、それに荷物持ちの従者たち。
人混みを嫌う先生が、先ほどよりも更に不機嫌そうに目を細めて、ドアの外を睨んでいる。
「それぞれの代表者だけお入りください」
数名まで絞れば先生も我慢できるだろう。代表者のみに入室を許し、それ以外の人たちには館の外で待ってもらうように告げる。ここまで登ってきたのだから当然不平不満も出てくるが、向こうも大魔道士の機嫌を損ねる真似はしたくない。数分程で納得し、おとなしく従ってくれた。
入室したのは4名。海賊の女頭目に商業ギルドの若き代表、それに王様と王子様。アウトローに権力者に国家だ。どれもひと癖もふた癖もある厄介者ともいえるし、利害が一致すれば心強い後ろ盾になるともいえる。
「私はアトラ、海賊団【獅子頭と大鷲】の頭目だ。大魔道士が船を作ってるって耳にしてね、私たちの縄張りに手を出すのかどうかが知りたい」
「僕はゴーフェルの商業ギルド【石臼と鉄柱】総代のハシースだ。大魔道士様がうちの傘下の船大工に、ずいぶんと羽振りのいい仕事を振ってきてね。儲かりそうな話なら僕も一枚噛ませてもらいたい」
「余はネフィリムの王、大アラトラト。こちらは息子で第一王子の小アラトラト。大魔道士殿が海の覇権に乗り出したと噂に聞いたものでな。我が国も海に面している、確認もせずに放置するわけにはいかんのだ」
訪ねてきた理由は、各々の利権と勢力への影響の確認、といったところだ。それにしても耳が早い、というか漏れるのが早いというか。先生の一挙手一投足、すべてが監視されているのかもしれない。
これは水没の話が漏れるのも時間の問題だ。むしろ彼らにも教えて、助かる人数を増やすべきなのか。
先生にちらっと視線を向けると、口元に人差し指を添えて黙っている。確かにそれも一理ある。彼らはあくまでも自分たちの利益を最優先するだろう。王であれば敵対者は船に乗せないし、商人も自分たちが最大限儲かるように裏で小細工を弄するだろう。海賊はもはや言うまでもない、彼女は筋金入りの略奪者だ。
「実はだね、ボクもたまには船旅をしてみようと思ってね。別にお前たちの飯碗に手を突っ込むつもりはないぞ」
先生の言葉を聞いて、海賊は安堵を、王様は不快を、王子様は怒りを、それぞれ顔に浮かべている。唯一商人だけが仮面を崩さず、テーブルの上の紙に目を向けている。しまった、片づけ忘れてた。
でも表から見えるのは先生と私の名前、それと何名かの名前の羅列、それに金貨+1という意味不明な走り書き。さすがに水没までは辿り着けないと思う。
「大魔道士様、大人数での船旅がしたいなら手配しようか。そうだ、そこの海賊に護衛を頼むのはどうだろう。大魔道士と行く世界一安全な船の旅、なかなか割のいい仕事になりそうだ」
そう言いながら自然な仕草で紙を1枚2枚とめくり、にやりと企みを隠さない類の笑みを浮かべる。
「大魔道士様、あなたは人づきあいが苦手と耳にしているが、ずいぶんと知り合いが多いんだね? それとも船旅自体が嘘、だったりするのかな?」
「これだから商人は嫌いだ。別に弟子以外の人間が好きなわけでもないけどな」
先生は仕方ないといった仕草で両手を広げて、そっとテーブルの上の紙をめくった。

俄かには信じがたい、そう最初に口にしたのは大アラトラトだ。
それはそうだろう。万物を知る竜の女王が告げて1週間の後、すでに3日が経っているから残り4日、たった4日で世界が水没してしまう。普通の人が口にしたら冗談か病人の妄想としか思われない。しかし大魔道士が言ったのであれば、信じがたかろうが無視できない。それくらい魔道士の地位は高いし、世界の価値観の根底には魔法の存在がある。
もっというと神とも呼ばれる超常の存在、この世界が彼らの箱庭のようなものであることは、それなりの年齢に達した大人であれば誰もが理解している。
「だとしたら、急ぎ備えねばならない。今ある船をかき集めて、ありったけの物資を積み込み、乗せる人間は……そうだ、乗せる者はどうやって選ぶ? 地位か? 血統か? それとも職業か?」
大アラトラトに続いて切り出したのは小アラトラトだ。王族はさすがにこの辺りの判断が速い。
でも速いだけで空回っている車輪と同じだ、というのは先生の言葉だ。
私の隣で退屈なのか面倒なのか、なんともいえない顔でテーブルを囲む4人の来客を眺めている。
「先生、どういうことですか?」
「言ったとおりだよ。あいつらは王族だし、商人だし、無法者だ。普段から腹の底では煙たがって睨み合ってる連中が、世界の危機なので手を取り合おう、って出来るわけがないのだよ。それに」
「それに?」
4人はまず船に乗せるべき物資や家畜を選んでいる。牛豚羊は当然として、愛玩動物である犬や猫、一見すると食糧にも生活にも関係ない猿や、人間にとって危険の多い獅子や虎。多少の雑然さはあるものの、思いのほか順調に話が進んでいる。おそらく1時間もすれば家畜の選別は終るだろう。
「でも先生、順調ですよ」
「カナンちゃん、ボクはちょっと部屋で休んでくるから、あいつらが館を荒らしたりしないように見張っておいて」
そう言って先生が部屋に戻ってから、ちょうど1時間。彼らは家畜の選別を終えて、船に乗り込む者の選別を始めた。
そこからは済し崩しに場が乱れ、さっきまで順調だった話の流れも完全に止まってしまった。
大アラトラトはこう言った。
「必要なのは王と貴族だ。支配者階級である我々がいないで、いったい誰が世の中を治めるのだ」
小アラトラトが続けざまに言った。
「それに軍隊もだ。秩序があってこその再建だ。秩序を司り、治安を守る軍隊失くして再建など出来ない」
ハシースがこう反論した。
「いいや、再建に必要なのは技術者だ。農家に大工、鍛冶屋、機織り、手に職のあるものが必要だ。ろくに働いたこともない貴族や脳みそまで筋肉で出来た軍人が、水没した世界で役に立つものか」
アトラがそこに口を挟む。
「なんだい? だったら技術者以外は乗せないって言うのかい? 私たちが海賊なんぞに身を落したのも、元はといえば他人の食い扶持奪った商業ギルドと重税課した王様のせいだろうよ」
先生の予想通り、話は混迷を極めた。
それぞれの言い分があるのはお互いわかっている、けれど言い分を通したいからそっちの誰かを降ろせ、そんな話は飲めるわけがない。それにもっと突き詰めると、同じ農家でも誰をどういう基準で乗せて、どういう基準で降ろすのか。
どんな選択をしても正解ではないし、そもそも正解なんてないわけだ。
「まったく馬鹿みたいだと思わないか。あいつら、揃いも揃ってこいつを乗せろあいつを乗せろって言ってるけど、自分たちが降ろされる可能性なんて考えもしてないんだからな」
いつの間にか部屋から出てきた先生が、言い争う4人に意地悪そうな視線を向けている。
もしこの場にナイフの1本でも置けば、あっという間に血の惨劇が始まるだろう。それくらい人間というものは本質的に理解し合えないし、理解できても譲り合えない。
きっと世界が終わるその直前まで、無駄に争って無意味に罵り合うのだ。
超常の存在が滅ぼそう、って思う気持ちも少しだけ理解できる。
「なんで超常の存在は、今更人間を滅ぼそうって決めたんですかね?」
「人間は増長しすぎた、我らの力を借りるだけでなく、勝手に門を開けて我らそのものを顎で使おうとしている、これは耐え難い屈辱だ、なんて言ったらしい。まったく尻の穴が小さい奴らだな」
「それって先生のせいなのでは?」
「えー、ボク以外にも召喚魔法の使い手はいるはずだよ」
召喚魔法。神々など超常の存在を、そのまま現実世界に召喚するための門を開く鍵を作り出す魔法。力を借りるだけの他の魔法とは明らかに一線を画している。それ故に代償も大きく、通常向こう側から一方的にしか開かない門の仕様を書き換える鍵の作成には、肉体や寿命など莫大な代価が必要となる。ほんのわずかな時間、しかも爪の先ほどを呼び出しただけで、都市がひとつ滅んだ事例もある。
けれど、超常の存在と心が繋がっていれば、平たく言うと気心が知れていれば、向こうから門を開いてくれる。これは人間の側からしたら間違いなく偉業だけど、傍目には耐え難い屈辱なのかもしれない。
「あの人たちには絶対言わないでおきましょう」
「ボクのせいじゃないのに」
いいや、きっと先生のせいです。

話し合いは纏まることもなく、やがて大臣・指揮官・法律家・資産家・宗教家・学者も館に押し寄せ、テーブルを囲む人数は10人にまで増えた。
避難に使える大型船は海賊船を含めて約50隻、その内の4分の3がギルドの貿易船で、残りの半数が王家管轄の軍の補給船だ。
私が注文した船はそれらよりも遥かに大きいので、主に家畜と餌と水を乗せることになったようだ。
「このままでは埒が明かない。王族と貴族、資産家、これら上流階級の方々をどれだけ乗せるかは一旦置いておいて、再建に必要な人材がどれくらいかだが、このままでは仮に職業別に均等に労働従事者を分割したとしても、100人に1人も乗せることが出来ない」
「ならばこうしましょう。まずは年齢と体力で区切る、乗船資格者は若くて健康な働き者と定義するとして、年齢は40歳以下。もっと範囲を狭めるなら30歳以下でもいいが、こうなると技術レベルの平均値が下がる」
「各職業の中でも腕利きや指導者とされる者は40歳まで適用する。これでどうだろう」
「異議なし。では、次に労働者の家族だが、再建後の繁栄のためには一定数以上のつがいが必要になる。しかも血が濃くなりすぎないように、最初は血統が遠い方が望ましい。となると、一組のつがい、これに対してその兄弟及び配偶者は取り除かねばならないな」
「つがいの優先順位はどうする? 子どものいない家庭と既にいる家庭、どちらを優先する?」
「効率的であるのは既に子供がいるつがいだが、5歳以下の子どもが安全に暮らせる環境が出来るまでは産まれていない方が望ましい場合もある」
「人種はどうする? この国は多民族国家だ、選別の結果次第では余計な不満を作り出すことになる。であるならば、王と同じ民族を優先するべきではないか」
「待て。ネフィリムは元々交易を主体とした国家だ。特に商業都市ゴーフェルは人種のるつぼだ。職業によっては技術の継承者が代々親子間から選ばれているものもある。人種を絞るのは不可能だ」
「それに人種を制限するとして、夫婦間で人種が異なる場合や混血の場合はどうなる。せっかくのつがいを引き離すなど逆効果だ」
「ならば肌の色だけでも制限するか。頭の痛い人種問題を少しは解決できるかもしれないぞ」
「いいや、最終的な乗船者数の3割以下まで抑えれば、確実に多数決で勝てる。なるべく不満が出ないように再建を進めたいが、仮に問題が起きても数で勝れば脅威にはならない」
「そうなると兵士の数が一定以上必要だ。しかし国に仕える兵士は、ある意味で兄弟であり家族だ。軍隊をどう分割する?」
「労働者以外を養う余裕はない。はっきり言っておくが、王族だけでも足手まといだ」
「ならば労働力にならない赤子も無駄ということになるな」
「赤子は将来的には有望な労働力だ。次世代失くして再建も復興もない。軍隊が必要なら、労働者にその役割を振り分ければいい。肉体労働は訓練にもなるし、そういう政策を取る国もあるそうだ」
「資産家は必要なのか? 金を右から左に運ぶだけの人間は、これからの世界に不要だ」
「馬鹿な。食糧、家畜、工業製品、労働力、個人間で曖昧だった価値観を統一したのは金だ。金を巧みに扱えるものがいなければ、国家は瞬く間に破綻するぞ」
「宗教はどうする? 大半の宗教は超常の存在を崇めているが、中には一個人や過去の偉人を崇拝する者もある。宗教は根源的な価値観に影響する」
「宗教を言うのであれば、魔道士の扱いをどうする。魔道士は我々の生活水準の維持には欠かせないが、彼らはもっぱら個人主義者で自由主義者だ」
「待て。魔道士とは絶対に敵対してはならない。彼らはある意味で一国と並ぶ存在だ。それに国内の魔法の素養のある者はおよそ1000人。1隻当たり20人、むしろ魔道士を乗船させることで互いへの抑止力になるかもしれんぞ」
「その話はよそう。理由は、ここが大魔道士殿の館だからだ。彼女の機嫌を損ねると、文字通り我々の首が飛ぶ」
「では、次に船に押し寄せる連中をどう排除するかだが……」
一事が万事この調子だ。まるで紙の上で御託を並べているかのような、おおよそ血の通っていない、頭の中でこの場をまとめるためだけに捏ね繰り回した、机の上で紙に書き記しただけの理屈だ。こんな方法で選別を進めたら、暴動も起きるだろうし、限られた乗船券を奪い合うために殺し合いも起きるだろう。
人間は愚かだし、少なからず同じように人を選ぼうとした私も、彼らに負けず劣らず馬鹿だ。
先生は選ぶのをめんどくさがったのではない、選ぶことを放棄したわけでもない。そもそも初めから誰を救って誰を見捨てるなんて選択肢、誰も持っていいものではないのだ。そんな権利など初めから持っていなかったのだ。
自分の愚かさに涙が出てくる。
魔道士だからって自惚れていた。超常の存在の力をほんの少し借りているだけなのに、先生と比べたら未熟で貧弱で取るに足らない程度なのに。
「よしよし。これでひとつ賢くなったね」
先生が頭を優しく撫でてくる。
「ボクはカナンちゃんよりはババアだからな。人間が醜いのも知ってるし、きっとこいつらが水没を免れても、いずれ戦争を起こすのも知ってる。それを踏まえた上でもう1回聞くけど、ボクは他の人間を乗せなくてもいいと思うんだが、カナンちゃんはどうだろう」
首を縦にも横にも触れない。どうしたらいいのかわからない。見殺しになんて出来ないし、かといって選ぶことも出来ない。
今の私は、ただ惨めに泣くことしかできない小娘でしかない。


「まったく、困ったことになったな」
先生が困っているんだか単純に面倒でしかないのかわからない顔で、窓の外で一昨日から降り続けている雨を眺めている。
強く激しい、空と海が引っ繰り返ったような雨。この世の終わりのような雨。外は大量の、もはや大量という言葉では追いつかない巨大な水が、地の果てまで拡がっている。海と陸の境目はすでに無い。島のように海面から突き出しているのはかつて山だったものだ。この館がある人里遠く離れた山嶺も、海に飲み込まれるのは時間の問題だろう。
「先生、のんびりしてる場合じゃありません。さっさと逃げましょう」
「それもそうだ。じゃあ、ちょっと持ち出す本とお酒を選んでくるから」
「早くしてくださいね!」
外ではすべての音を掻き消し、すべての大地を埋め尽くすようなような雨が降り続いている。こういう雨を、きっと世界の終わり、或いは神々の怒り、とでも言うのだろう。
あの日から4日間、世界は荒れに荒れた。自暴自棄になって略奪や犯罪に走る者、クーデターを企てて王城を破壊した者、この期に及んで金をかき集めて水に流された者、市民から首に縄を掛けられて吊るされた者。
麻のように荒れた世界はすべてを隠すように水に浸かり、自力で難を逃れた人々は山頂まで避難して、雨が止むのを待っている。
私たちが用意した船は結局暴動の中で壊され、とっくに逃げた海賊と漁師以外は、怒りと混乱で自分たちの船まで殴り壊してしまった。結局人間は最後の最後まで愚かでどうしようもない存在だったのだ。もちろん全部が全部じゃないけど、大きな濁流のような流れの中ではそうだったのだ。
「ごめんごめん、おまたせー」
先生が葡萄酒と蜜漬けの果実を両手に、部屋の扉から顔を出す。その背後には、館の大きさに相応しくない巨大な竜が2頭。全ての色を混ぜ合わせたような黒い鱗の竜と、昼間の太陽のように眩しい白金の鱗の竜。
「カナンちゃん、こいつらが万物を知る竜の女王と価値ある竜の王だ。おい、お前ら、ボクの弟子に挨拶しろ」
「やあ、カナンちゃん。竜の女王だよ」
「ちょっと待て、ノア。俺たちもこれでも結構忙しいんだ。しょうもない用事なら帰るぞ」
竜が思いのほか気さくに先生に話しかけている。竜、もっと威厳と威圧感に満ちてると思ったけど、いや、見た目はまさしく、あらゆる存在の頂点にふさわしい姿なんだけど、どうも雰囲気がその辺の酒場のおじさんみたいで空気が緩む。
「さて、ここにお前らの欲しがってた葡萄酒と書物があるわけだが」
「おお、まさしく15年物の葡萄酒」
「人間の空想を記した本か」
先生が部屋から飛び出しながら2頭の竜の前に葡萄酒と書物をかざし、さっと両手を体の後ろに回す。竜の顔が、竜の表情なんてわかりようもないけど、どことなくしょんぼりした様にも見える。
「欲しかったらボクを手伝ってくれ。今回の世界水没させた奴、そいつと話がしたい」
「ジウスドゥラ大陸の名を冠する永遠の生命を貪る蛇か。超常の存在の中でも、結構な堅物だぞ」
「とは言ってもなあ、我らにそんな義理はないし、いくらお前の頼みでも聞けるものと聞けないものがあるぞ」
それはそうだ。どう考えても竜の言ってることが正しい。むしろ、超常の存在を顎でこき使うような真似をしようとする先生こそどうかしてる。
しかし先生は竜の意見など全く意に介さず、
「なに言ってるんだ、お前ら。普通はだな、友達だったら無条件で力を貸すもんだぞ。そこに気を遣ってお土産までつけたんだ、四の五の言わずにボクを手伝え」
などと暴言を吐く始末。
まさか今までもこんな調子で竜と対話してたのだろうか。だとしたら超常の存在が見るに堪えず、同じ世界の同士への態度を許せず、人間を滅ぼそうと思っても不思議ではない。
しかし竜は竜で、そんなやり取りには慣れ切っているのか、怒る様子どころか苛立った様子さえ見せない。
「なるほど、確かにそうだな」
「わかった、ちょっと待ってろ」
部屋の奥に竜が引っ込んで10分ほど、私と先生が椅子に腰かけて待っていると、部屋の中から竜よりも遥かに巨大な自らの尾に齧りついた巨大な蛇が姿を現す。もはや館は建物の体を成していないほど壊れているし、巨大な蛇は生物の埒を外れたほど大きい。
「お前がジウスドゥラ大陸の名を冠する永遠の生命を貪る蛇か。ちょっとこの水没、どうにかしろ」
「人間よ。我らを恐れぬ不届きな人間よ。汝に問う、何故我が貴様らの世界を救わねばならんのだ」
蛇が尾から口を放し、裂けてしまうほどに大きく広げて、今にも丸呑みしかねない勢いでこちらを向く。
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと片付けろ。いいか、自分でこぼした水の後始末は自分でやる。それくらい3歳のガキでも知ってるぞ」
いや、あなたは自分の使った食器も1度も片づけたことないし、こぼした水も毎回私が拭いてる。でも、今は絶対に口に出さない方がいいので黙っておこう。
「そもそもだな、超常の存在がやらかしたことを、人間が尻拭いするのが間違いなんだ。お前のケツはお前が拭け。便所紙くらいなら貸してやるぞ」
「しかしだな、貴様は我に対して不遜すぎやしないか」
「なに言ってる。ボクはお前に酒を奢られたことも小遣いを貰ったこともないぞ。貸し借りのない対等な相手に、なんで媚びへつらわないといけないんだ? 常識で考えたらわかるだろ」
「ぬうぅ」
「わかったなら、さっさと水をどうにかしろ」
どうやら心が通じ合ったらしく、永遠の生命を貪る蛇は、その頭を雲のはるか上まで起き上がらせ、ゆっくりと静かに世界を埋め尽くす水を吸い込んでいった。


万物を知る竜の女王は語った。
我らは対等に話せる気心の知れたものが欲しかったのだと。初めは自分たちの作りだした箱庭の世界に、ちょっとだけ手を入れてみたかった。
しかし人間は超常の存在のもたらす恩恵の大きさに、我らを神として崇め奉り、自分たちもそれが当たり前になって、いつしか人間を低俗で愚かで弱い生き物として接するようになった。
門を開く代価など最初は求めていなかった。しかし人間が大きな代価を支払ったことで、なんとなくそうしなければいけない空気になってしまった。
そこに何十年か前に現れたのが、ひとりの魔道士だった。
魔道士はこう言った。
「門がこっちから開かないとかおかしいだろ。ボクをなめてんのか」
まるで恐れを知らぬ魔道士を気に入った竜の女王は、すぐに友人になった。その翌日、もう1頭の竜も秒で陥落され、魔道士は人類史上初の代価無しに召喚を成功させる大魔道士として、地上の果てまで名を残した。
やがて何を思ったのか、ちょっと竜の力を借りて小娘の姿にまで若返った。
その翌日、街に降りた魔道士は最初の弟子を取った。


「結局だね、超常の存在たちも、あれはあれで俗っぽい願いがあるってことなのだよ」
先生が宿屋の椅子にふんぞり返って、焼いた魚を齧っている。うっかり熱さに口から身をこぼす姿は、とてもじゃないけど他人に見せられるような姿ではない。
結局のところ世界は終わる寸前にまでなった。水に浸かった土地はなにもかも駄目になったし、建物もほとんどが流された。
ありったけの水を吸い込んだ後に蛇が吐き出した命は、戻るところに戻ったものもあれば、戻らずに天に召された魂も少なくはない。
おおよそ超常の存在が願ったような状態にまで壊されてしまったわけだ。
先生と私の住んでいた館も、まだ修理の目途が立っていない為、今は僅かなお金をやり繰りしながら地味で質素な宿暮らし。
「カナンちゃん、これも修行の一環だよ。若いうちの苦労は買ってでもしろって言うだろ、苦労なんてしない方がいいに決まってるけどな」
「先生、喋るか食べるかどっちかにしましょう。床が食べカスで汚れてます」
先生がすっかり骨だけになった焼き魚を皿に置いて、部屋着の裾をバサバサと振り回し、食べカスを床に撒き散らかす。自分の後始末は自分でやれって説教された蛇が見たら、嫌みのひとつも言いたくなる光景だ。
「そういえば先生、あんなに簡単に解決出来るんだったら、最初からそうしとけばよかったんじゃないですか?」
「あれなー、失敗してたら寿命全部持ってかれるとこだったのだよ。ボクの命と人類とを比べて、どう考えてもボクの命のほうが大事だから、最初はあんなことするつもりじゃなかった」
「だったらどうして……」
先生が居心地が悪そうに、口をへの字に曲げて、しばらく答えるべきかどうか迷った末に、
「秘密。ちょっと果実茶もらってくる」
そう言うや否や、先生はドアを叩き開けて、宿の厨房へと走っていった。
床には魚の食べかすが転がっている。私の一日は今日も、先生のお世話から始まるのだった。


(終わり/でも世界は終わらない)


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というわけで、毎回どういうわけだってツッコミが入りそうだけど、今回も筆が乗ったので短編を書きました。もはや短編の長さでもないね、ごめんなさい。
私は謀議っていうナチスが会議して飯を食ってるだけの映画が好きなんだけど、じゃあ派手な力を持った連中が会議ばっかりしてたら面白いのでは、と思って会議ばっかりする短編にしました。
おかげで設定がいっぱい無駄になりました。以下に特にノアとカナンまわりの設定を記しておきます。

ノア
実年齢100歳近い大魔道士。生活力はないし、基本的にわがままで不遜。魔道士ギルド「太古の聖樹」の長でもあるが、実権はすでに別の老魔道士に奪われている。でも特に問題なし。超常の存在の力を借りて10代半ばまで若返り、寿命もリセットされたため、あと80年は問題なく生きられる。いわゆる強くてニューゲーム状態。

カナン
ノアの弟子、15歳の黒魔道士の少女。両親は魔法の才はない。魔法の才は突然変異的に身につくので、今のところ血統や遺伝が関係するかは不明。魔法が使えると判明するまでは、両親の跡を継いでパン屋になろうと思っていた。下位の黒魔法以外にも精霊魔法も使える。

召喚魔法
神々など超常の存在をそのまま現実世界に召喚する門を開く鍵を作り出す魔法。通常、門は超常の存在が向こう側から一方的にしか開かない性質があるが、門の仕様を一時的に書き換える鍵を作り出して無理矢理召喚する。
通常鍵の作成には肉体や寿命など莫大な代価が必要となるが、超常の存在と心が繋がった者であれば、召喚する超常の側の力を行使して代価無しに鍵を作成できる。
ノアは元ネタ的にワタリガラスの超常の存在とも心が繋がってるけど、特に出番が思いつかなかった。正直なところ竜もどっちかだけでよかった。

黒魔法
超常の存在の力を借りて自然法則に干渉する魔法。主に温度変化(炎・冷気)や発電(雷)、地震、毒等に応用されるが、高度な魔道士になると風化や分解、消滅まで可能とする。
カナンがランタンに火をつける程度には使おうとか考えてたけど、そんな場面はなかった。

白魔法
超常の存在の力を借りて現実世界の一部を平行世界と入れ替える魔法、主に病気や怪我の治癒で使われているが、寿命などの両方の世界でいずれ失われるものは克服できない。
ノアが使えるけど、特に怪我しなかったので出番はなかった。

獣化魔法
超常の存在の力を体内に取り込み人間の肉体を変質させてモンスターの技を行使する魔法、変質した肉体は戻らない。
大アラトラトの護衛に使わせようとか思ってたけど、そもそも護衛の出番がなかった。

時魔法(高位次元魔法)
超常の存在の力を借りて4次元に干渉して時間に干渉する魔法。使用しすぎると魔道士そのものが4次元世界に取り込まれ、3次元に回帰できない可能性がある。最初、ノアの若さの秘訣に利用しようと思ったけど、4次元の概念がめんどくさいのと、4次元で大体どうにかなりそうなので出番はなくなった。

生命魔法
超常の存在の力を借りて他者の生命力を奪い取る魔法で、自身の生命力を他者に渡すことも出来る。また奪い取った生命を死体に提供して蘇生するネクロマンサーの秘術もこれに依る。
これもノアの若さの秘訣に利用できそうだったけど、手段に難があり過ぎるので却下した。

精霊魔法
現実世界に存在する超常未満生命以上の存在、精霊の力を借りる魔法。出来ることは精霊の性質や気分に依存する。
カナンには炎の契約精霊がいたけど、特に出番がなかった。ノアは泥の精霊と鉱石の精霊と契約してる設定。

精神魔法・呪術
超常の存在の力を借りて遠く離れた相手の精神に影響を及ぼす魔法。屋内物っていう話の都合上、出る幕はなかった。
大アラトラトを呪うぞって脅す展開もちょっと考えてたけど以下略。