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短編小説「いも煮ピルグリム」

この世界はすべて我らのものだ
広大な空と呼ぶ天蓋の端から端まで
地平の果てまで、我らの目の届く範囲にあるものはすべて我らのものだ
この世界に奪われてもよい土地などひとつもない
この世界に失われていい文字などひとつもない
この世界に犠牲にしていい民などひとりもいない
どれだけ痩せこけた荒れ地でも、どれだけ拙い言葉でも、どれだけ愚かな者でも、自ら手放していいものなどひとつとしてないのだ
金貨一枚、鉄釘一本、骨一欠片、この世界のすべては我らのものだ
誰にも渡してなるものか
どれだけ鉱石を積まれても、どれだけ美酒を注がれても、どれだけ契約を持ち掛けられても、この世界が我らのものである限り、譲っても構わない線など存在しないのだ
1本たりともだ

           初代コロカシア修道会主教 プラータ・カルタブラ


最悪。思ったより遅くなっちゃった。
空を見上げれば青黒く、欠けた月が浮かんでる。
街の灯りはまだ消えてないから店は開いてると思うけど、このままだと空白地帯を通る時間が真夜中になっちゃう。
宿があったら朝まで時間を潰すのもアリだけど、宿代を取るかお金を取るか、悩ましいとこだよねー。

よし、とりあえず街に着いたら考えよう。宿があるかもわかんないしね。


私たちは旅をしている。
正確には私と、背中のキャンピングバッグとは別の、私の背丈程もあるキャスター付きハードケースの中で眠っている相棒とのふたり旅。


「水と食糧とランタン油、あったらでいいのでアルコール、それと布が余ってたら布も売って欲しいです!」
カウンターの向こうにいる店主に笑顔で話しかける。誰彼問わず笑顔で話しかけるなんてしたら、なめられてトラブルに巻き込まれちゃうけど、こういうお店でさしで接する時は相手の警戒を解くために笑顔で接するべし。半年くらい前に遭った旅人さんに教えてもらった旅の秘訣その1。
争いは起こらないのが一番。店主はクマさんくらい大きいし、カウンターの奥には私の背よりもずっと長い猟銃や大ぶりの鉈が何本も並んでる。お店もところどころ人の頭くらいの穴が開いてるし、たぶん前に強盗が来たりしてこうなったんだと思う。
「お嬢ちゃん、旅人かい?」
「まあ、そんなとこっすねー」
「そうかい、大変だな。ほら、これはおまけだ」
店主はそう言って、水筒に入った水と干し肉、少量の米、ランタン用の油、酒瓶が1本、端切れのような布が数枚、それと顔を隠せるような布製のフェイスマスクをカウンターに置く。これ着けて女ってバレないようにな、っていう意味だと思う。
私は思わず一礼して、言葉と一緒に感謝の気持ちを伝えた。
「構わねえよ。ところでお嬢ちゃん、この辺には宿がないんだ。かといって廃墟はやめといた方がいい。たまに妙な連中が勝手に使ってるからな」
「ありがとう、おじさん。まあ、その辺はなんとかします」

かつて宿というものは、お金を払って旅人の安全を買う、そんな場所だった。だけど、画一的に作られた部屋割り、知らない者同士が壁一枚を挟んで使っている状況、宿主がこっそり行う客に話せない秘密のアルバイト、そういった条件が重なって、今では安全とは言い難い罠だらけの場所となっちゃった。
民泊なんてもっと危険で、誰がどんな仕掛けをしてるかわかんないし、建物の中がどうなってるかもわかんない。まだホテルのほうが安心できる。
そういうわけで今日は出来そうな場所があったら野宿、もしくは朝まで眠気に耐えながら移動。
「できれば朝まで時間潰したいけど、そんな場所も……」
辺りを見回しても、数えるくらいの灯りのついた建物、それより圧倒的に多い数の廃墟と空き家。自警団っぽい人たちが鉄パイプや斧を持って歩いてるし、野宿は素直に諦めた方がよさそう。無理無理、怖いし。
ぐぎゅるるるる。
そうこうしている内にお腹の虫が自己主張してきた。まったくもー、お前ってやつは困ったお腹だぜー。

「というわけで、なにか食べるもの下さい」
灯りに引き寄せられる虫みたいに近くの建物に寄ってみると、そこはギリギリ潰れてない感じのバルだった。店内には気の良さそうなマスターとお客さんが数人、テーブルにはまだ料理が出ていないみたいで、お酒もそんなに置いてなさそう。お酒は飲めないから別にいいけど。
「えー、なになに、旅人さん!? ちっちゃーい! かわいー!」
まだ素面っぽいけどテンション高めなお姉さんが抱きついてくる。むぎゅうぅぅ、息苦しい。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「パタタ・ポム・カルトッフェルです。そのとおり旅人です」
「ねえねえ、ひとりで旅してるの? なんで? 危なくないの?」
「えーと、色々事情がありまして」
旅人が珍しいのかな? それとも変な人なのかな? よくわからないけど、いったん放して欲しい、動けないから。
「お嬢ちゃん、悪いが見ての通りの有り様でね。今日はみんなで芋煮を食べるんだ。それでも良かったら食ってくかい?」
「芋煮! はい、食べます!」
大当たりじゃん、芋煮。ここしばらく干し肉と乾パンしか食べてなかったから、お芋食べれるのってすごいラッキーだと思う。
しかも汁物でしょ、大当たりすぎない?
「じゃあ、決を採りまーす! ジャンヤの人!」
お姉さん含めて3人が手を挙げる。
「ゾゼヤの人!」
今度はマスター含めて3人が手を挙げる。
ん? なにこれ? なにやってんの?
「パタタちゃん、パタタちゃん。芋煮はやっぱりジャンヤだよね?」
なんでテーブルに料理が出てなかったのかわかった。
これは芋煮戦争だ!

説明しよう、芋煮戦争とは!?
芋煮とは非常に地域性が出る料理である。味はジャンヤかゾゼヤか、お肉の種類は、具だくさんかキノコたくさんか、それともシンプルに圧倒的お芋推しなのか、他の野菜は何を入れるのか。
非常に奥深く、バリエーションに富み、しかも不思議と譲られないものがある。
そんなお互い譲れない好みと伝統から起きてしまうのが芋煮戦争なのだ!

頭の中で誰かが代弁してくれた気がするけど、とにかく芋煮戦争が目の前で繰り広げられている。正直なところ、どちらにも素晴らしさがあるし、どっちもおいしい。
けれど私も譲れないものがある。
「ちなみに、芋はボタ芋ですか!?」
場が更にざわっとした。ふたつに分かれていた場が、一気にかき乱される水の一滴。いいや、これは芋のひとしずくだ!
「パタタちゃん、ボタ芋派なの? 芋煮といえばヌビ芋でしょ!」
「待て、ボタ芋は断然ありだろう」
「いいや、ドモ芋もいけるぞ!」
あえて説明するまでもないけど、ボタ芋はホクホクした食感が特徴的な、丸っこくて痩せた土地でも育つお芋の中のお芋。
ヌビ芋は小ぶりで粘り気があり、食べる人を多少選ぶけど、これもなかなかにおいしいお芋。
ドモ芋は他の芋よりも強い甘みがあり、焼くとおやつの代わりになる、これも素晴らしきお芋。
そして、どの芋もゾゼヤにもジャンヤにも合う。
これまた言うまでもないけど、ゾゼヤは豆を潰して発酵させたペースト状の調味料、ジャンヤも豆から作ってるけど液体状の調味料。ちなみにどっちもおいしい。

神の与えしお芋様と人類の発明品で争うなんて、人間はなんていうか、
「愚かだろ?」
「そう、それっす。いやいや、そんなこと思ってないです!」
マスターが不意にかけてきた声に、思わず素直に返しちゃった。もちろん馬鹿な争いしてるなんて思ってないよ、ちょっとだけ思ったけど。でも、ちょっとだけだよ。
「こうやって馬鹿なケンカしてればいいんだよ。なんせ今日は最後の晩餐だからな」
「最後? どういうことっすか?」
これ、私が混ざっても大丈夫なやつ?

明日、みんなでこの街を離れる。マスターが寂しそうにぼそりと呟いた。
見る限り街は寂しそうだし、廃墟も空き家も多い。さっきの店の店主の言葉通りなら、治安もかなり悪そう。おまけに空白地帯も目と鼻の先、バルの中の和気あいあいとした雰囲気とは正反対に、安全とは程遠い場所。
きっとこの先も、今日よりマシな日が来ないまま滅んでいく街だと思う。
「お嬢ちゃん、この辺は宿もないだろ。どうせこいつら朝まで飲んでるから、適当にその辺で休んでもらっても構わんよ」
「マジですか!? ありがとうございます!」
これまで何人もの旅人を見送ってきたマスターが、私としてはありがたすぎる提案をしてくる。
この街って宿がないから、自警団に見つからないように空き家に忍び込む、夜の空白地帯を通る、選択肢がその2つしかないと思ってた。
ちなみに空白地帯のほうが正直ヤバい。ヤバいし恐ろしい。
なにが恐ろしいって、まず誰も管理していないこと。人の手から離れてるから、危険な野生動物もいるし、肉食動物に襲われても誰にも助けてもらえない。これがひとつ。
次に、旅人や輸送隊を襲う野盗の活動が活発なのと、街を襲撃する強盗団の類が潜んでいること。肉食動物はお腹を空かせてなければ襲ってこないけど、人間は満腹だろうがなんだろうが目の前に獲物がいたら狩りつくさないと気が済まない。ある意味で野犬や大猿よりも恐ろしい。
実際はもっと恐ろしいこともなくはないけど、とにかくこの2つだけでも危険極まりないの。
だから、せめて視界が確保できる明るい時間帯に、野盗や野生動物に遭遇しないようにルートを選びながら通り抜けるしかない。それでも危険度はかなり高いんだけどね。

「このままじゃ埒が明かない! パタタちゃん、せめてジャンヤかゾゼヤか決めてくれない!?」
「俺は絶対にゾゼヤ味にドモ芋だ!」
「ジャンヤ味にヌビ芋に決まってるだろうが!」
人には譲れないものがある。例えば芋煮の汁とか、芋煮の芋とか、芋の切り方とか大きさとか。それが、ここで一緒に過ごしてきた人たちで食べる最後の芋煮ともなれば、尚更そこの一線は絶対に譲れなくなる。だって相手に一番おいしいと思う芋煮を食べて欲しいもん。
でもね、みんなが同じくらい強い気持ちでいるから、絶対に譲れないんだから、争いに決着はつかない。
だけど私は争いを終わらせる。自分に嘘をつかず、誰も傷つけない方法で。
「はい、せっかくなんで色んな芋煮が食べたいです!」
争いが終わらないなら、終止符を打てばいい。私は最良と思われる選択肢を投げかけた。
どうせならみんなで楽しく食べたいよね。


「はいよ、お待ちどおさん」
テーブルに色んな種類の芋煮が並んでいる。結局、芋は芋でそれぞれ煮込んで、スープも何種類か作って、しばらく鍋で芋を浸け込んだ後、焼けた石を投げ込んで熱を加えた。マスター、料理上手。あとで何か教えてもらいたいな。
他のみんなには芋煮を皿にたっぷり、とまではいかないけど、なるべく多く盛って、私はちょっとだけお皿に乗せた。
お皿に乗ったお芋を前にして、指先を首の下に六角形を描くように動かし、静かに瞳を閉じて両手を合わせる。
「神よ、今宵も我らへのお恵みに感謝します」
私たちは食事、睡眠、その他いろんな場面で神様に祈りを捧げる。子どもの頃からそう教えられてきたし、世界には人間の存在を超えた神様みたいなものが存在してると思う。
人間に味方してくれるとは限らないけど、美味しい食べ物はたくさんもたらしてくれた。それだけでもある程度神だよね。
「そういえば俺たちも、以前は飯食う度に神に祈ってたなぁ」
「久しぶりにお祈りでもしとく?」
私の祈る姿を見て、マスターやお姉さんも同じように祈り始めた。
みんなで祈りを捧げて、美味しいご飯を食べる。かつてこの世界のどこにでもあった、平凡で平穏な光景が今ここにある。
「感謝します、お芋の神様」
「誰に感謝してんのよ!」
そう、こういうちょっとしたボケツッコミみたいなやり取りも。


この世界は壊れてしまった。でも、本当はもっとずっと前から壊れていたんだと思う。
私のお母さんのお爺さんの、そのまたお爺さんの大先生のお師匠様のお婆さんの、さらにお爺さんのもっともっと昔の時代、世界の半分が突然、炎をまとって移動する大地によって焼き尽くされたらしい。
世界もいきなり半分になると、まず元々住んでいた人と移民の間で争いが起きるし、次はどさくさに便乗した勢力同士の争いが勃発するし、世界が半分になるということは食料も土地も半分になるということなので、水と食べ物と資源と家をめぐる争いが上から下まで例外なく起きる。
争いはやがて地位、人種、性別、主義、信仰、あらゆる理由で起こることになって、明らかにキャパシティオーバーな世界は荒れるに任せて荒れ果てた。
そんな愚かな人類の頭をハンマーでぶっ叩くような大災害が起こり、世界は文字通り2つにも3つにも大地ごと割れ、それまでどうにか人類としての形を保たせていた首都を破壊し、文明を破壊し、技術を奪い、知識を奪い、食い扶持と尊厳を奪い、もうやけくそになってしまった人類は、いよいよ絶滅の危機に瀕するとこまで落ちぶれてしまったわけ。
そして5年くらい前、人類はふたつの選択肢を与えられることになった。
ひとつは赤子以外の人類をすべて滅ぼして、一度最初から何もない状態で始めてしまう。
ひとつは現行人類の中から次の時代に行ける者を選び、人類が今後も生存するのに必要な人材だけを生かす。
前者を選んだのが唯一残った宗教団体コロカシア修道会、後者が王族直属軍事組織クレデク騎士団。
どちらがマシかと問われれば後者なんだろうけど、99%の人類はどのみち殺されるので、どっちみち悪魔と変わりないよね。

そして彼らは行動に移った。

コロカシア修道会は配給と称して難民を集め、八方から町ごと焼き払った。
クレデク騎士団は選別と称して町を襲撃し、徹底的な人種管理の下、内側から町を掃討した。
その結果、町という概念は失われ、かろうじて難を逃れた小規模区画である街と広大な何もない大地、空白地帯が生まれた。
空白地帯には、偶然にも絶滅から免れたわずかな人たちが逃げ込んだけど、コロカシア修道会もクレデク騎士団も目的はなにがなんでも遂行しようとする連中だ。なんせ人類の99%を滅ぼそうとしているのだから、意気込みと目的意識が違いすぎる。
そして空白地帯を襲うのが武装集団による動く領土とも呼ぶべき集合体、通称イニャム。
空白地帯で最も恐ろしいのがイニャム、動物も植物も人間も建物も、通った場所をしつこく粘り強く隅々まで草の1本も残らないレベルで滅ぼしていく
圧倒的な数の暴力。
今の世界は奴らに滅ぼされるか、奴らから逃げ続けるか、そのどっちかを繰り返しながら続いてる。
もちろん私たち旅人も例外なく。


「ねえ、なんか外が明るくない?」
「もう朝か? そんな時間じゃないぞ」
街の目と鼻の先にある空白地帯、そこから何かの群れが炎をまとって波のように動いていた。炎の波は通った場所を焼き払い、ありとあらゆる生命を殺し、草の1本まで根絶やしにしていく。まるで動く領土みたいに。
「イニャム」
望遠鏡を覗き込むと、修道士姿の連中と軍隊を思わせる格好の連中が混ざっている。コロカシア修道会とクレデク騎士団の混成集団。滅ぼしても滅ぼしても滅びない人類に業を煮やした連中は、いったん自分たちと互いの保護対象以外を力を合わせて滅ぼし、最後に互いを滅ぼすことに決めた。多分そういう理由で組んでるんだと思う。
「全員、持てる荷物を持って今すぐ逃げるぞ。自警団の連中にも連絡しろ。急げ!」
マスターの指示で、みんなが鍋を叩いたり、大声を出したりして、街のみんなにイニャムの襲来を告げる。
前の店の店主が馬車を用意して、食糧や毛布、調理道具、他にもあれこれ、積めるだけ積んでいく。自警団も、空き家や廃墟に潜んでいた余所者たちも、全員慌てながらも逃げる準備をしてる。
何度も見た忌々しい光景、突然現れて、勝手にめちゃくちゃに壊して、滅ぼすだけ滅ぼしたら別の場所に移動する、最悪の災害よりも酷い惨劇。そういうのが嫌で旅をしてるし、そういうのが許せなくて旅をしてる。
「パタタちゃん、今すぐ逃げるよ!」
「お姉さん、最初に私の旅の目的聞いたでしょ?」
こんなところで旅を終えるわけにもいかないんだよ。私にも目的地があるんだ。
「あいつらが大嫌いなの。だから、あいつらの親玉をぶっ殺してやろうと思って、ここまで旅して来たの」

自分の背丈ほどもあるハードケースを開く。
この中には普段は眠っている私の相棒がいる。
殉教6号、正式名称コロカシア6型対物火砲。これが私の相棒の名前。
150センチのハードケースの中で本体、銃床、銃身、スコープ、弾倉、脚の6つに分解された敬虔なコロカシアの信徒。
組み立てれば全長2メートル70センチ、重量50キロを超す人類史上最大級の怪物となる鉄と硝煙の狂信者。
それ故に、なによりも強く、どこよりも遠く、意地よりも重い。
そして誰よりも無残な最期を遂げる殉教者たちの最後の一振り。
「パタタちゃん、なにそれ!?」
「あいつらをぶっ殺すための相棒です!」
スコープの向こう、領土のど真ん中に修道服の老いた男が見える。お前らなんて人間じゃない。コロカシアの信徒でもない。ケダモノですらない。ケダモノ以下のくそったれだ!

馬鹿でっかい轟音と共に弾丸が飛んでいった。


「主教様。どうして世界は私たちのものなのに、神様は世界を壊すし、修道会は人間を殺すんですか?」
「カルトッフェルくん、大変いい質問だ。初代主教プラータ・カルタブラ殿は、この世界はすべて我々のものだと公言した。誰にも奪わせないし譲らないと宣言した。事実、彼は神が世界の半分を焼き払っても信念を曲げなかった。きっとまだ立ち上がれたからだ。立って顔を上げて吠えることが出来たからだ。しかし現状、我々にはもはや、そんな意地すら残っていない。打つ手もなくなった。腹が減って綺麗事を吐く力もなくなった。終わったのだ。終わっているのだよ、カルトッフェルくん。人類は詰んだのだ。狭い世界で自らを食らい合い、結果このざまだ。それでも我々は未だに支配する側に立っている。ゆえに滅ぼすのだ。せめて次の人類がうまくやるために、一切合切すべて滅ぼすのだよ」
「わかりません」
「そうかね。カルトッフェルくん、君はまだ若い。年齢的には幼いと言ってもいい。そうだね、旅に出たまえ。旅をして世界を見て、それでもまだ私たちが間違ってると思ったら、その時は君が2代目プラータ・カルタブラになりたまえ」


撃ち込んだ弾丸は30発を超えた。
スコープの向こうでは大混乱が起こっている。手を組んだ敵同士が、予期せぬタイミングで攻撃を受ける。頭を撃たれて手足だけになったバケモノは、統率を失って自滅するか、立て直すしかない。
領土は驚きで群れに代わり、群れは疑心暗鬼で群れでなくなり、ただ数が多いだけのなにかに成り下がる。
どれだけ目的意識が強かろうと、統率がなければそれは意思がただ集まっているだけに過ぎない。だから足が止まる、仮に止まらなくても確実に動きは鈍る。どっちみち絶好のチャンスが訪れる。

「マスター、頃合いっす! 逃げます!」
急いで馬車に相棒を積んで、奴らが踏みつぶした土地とは別方向に逃げ出した。馬車は景気よく駆けだし、街はどんどん遠ざかっていく。
しばらくスコープ越しに動きを探ったけど、どうやら奴らの追撃はなさそう。頭を失ってどうしていいかわからなくなってるみたい。慌てて後退しながら、物陰を探して右往左往してる。
あいつらは慣れ過ぎたんだ。数と武器で一方的に圧し潰してたから、弱いものでも追い詰められたら牙をむくっていう、当たり前のことすら忘れてしまったんだ。
「バーカ! バカ馬鹿ヴァーカ! そのまま震えてろ!」
私は中指を立てながら、イニャムに向かって叫んだ。
同じ馬車に乗ったお姉さんが、興奮の混じった黄色い歓声を上げて抱き着いてくる。むぎゅぅぅぅ。
「すごい! パタタちゃん、意味わかんない! でもすごい!」
「お嬢ちゃん、このまま俺たちとどっかに移住しないか?」
それも悪くないけど、私の旅はまだ途中なんだよね。もし無事に旅を終えたら、その時は終身名誉お芋大臣に任命してもらって、毎日お芋料理を食べさせてもらおうかな。
「気持ちと芋煮だけもらっておきます!」
「おう! いくらでも食べな!」
「いただきます!」
私は鍋に残ったすっかり冷めた芋煮を口に放り込んで、じっくりと甘じょっぱさを味わった。


私たちは旅をしている。長い長い旅。
いずれ石碑に名を刻み、歴史に足跡を残す、そんな旅を。


(旅は続く、またそのうち)


🥔🍠🥔🍠🥔🍠🥔🍠🥔🍠🥔🍠🥔🍠🥔🍠🥔🍠🥔🍠🥔🍠🥔🍠🍲

ポストアポカリプスが好きなのでポストアポカリプスを書きました。
ポストアポカリプスが好きな人が読んだら、ポカチクされそうな気もしますがポストアポカリプスです。

以下、本編で出し損ねた設定です

Q.パタタちゃんはなんでお芋大臣になりたいんですか?
A.芋より美味しいものを食べたことがないからです

Q.殉教6号の弾の補充はどうしてるんですか?
A.世界各地の戦場跡に殉死した信徒が残した弾丸が隠してあるので、運が良ければ盗掘、回収されていたら自作してます。重心が折れたら鉄の加工技術がないのでバイバイです。

Q.お姉さんはレズですか?
A.レズです。好みのタイプは小動物系女子です。

Q.パタタちゃんは長生きできますか?
A.70歳くらいまで生きて、世界を救ったお芋畑の主となり、最後は芋餅をのどに詰まらせて天に召されます。ある意味で寿命です。

では、またです!