映画「すばらしき世界」(洋題『Under The Open Sky』)のネタバレ感想

西川美和監督作品「すばらしき世界」を観てきました。

是枝裕和監督の下で学んだ社会派とあって、心にズシンときて考えさせられる社会問題が散りばめられており、非常に良い映画だったと思います。

主人公の三上の生い立ちについては既視感があって、それは新井英樹《THE WORLD IS MINE.》における主役・モンの境遇(彼は施設にすら入れなかったが)だったと気が付いた。物語後半にも出てくる保護施設の雰囲気や入所している子供たち(の将来)を想うと非常にやるせない気持ちになった。三上のキレやすい性格が幼少期の虐待と直接関係するかは別にして、実際にADHDや自閉症スペクトラムの少年が極道の道に入ることは少なくはないと聞いている。そういう意味で三上は確実に社会的弱者だ。ましてや人生の半分を少年院や刑務所で過ごしてきた人は社会性に乏しく、世の中に馴染むことは容易でない。まともに学校を出ても働き口が無い現代、前科者で粗暴な人が就ける仕事は、公共性の高い仕事かボランティア、もしくは親分宅の庭仕事くらいだろう。それをこれまでの人生の総括だと言ってしまうのは容易である以上に酷だと思う。「自業自得」を言葉に発していいのは当事者のみで、他者が当事者に投げかける言葉ではないのだ。

だからこそ八方ふさがりで自暴自棄になった三上が、福岡の兄弟分を頼ってしまったのは観ている誰もが「しかたねぇよな」と思ってしまったはずだ。台所で髪を洗い、カップラーメンを手繰る生活しか許されない前科者が、ウェルカムドリンク付きの高級車に出迎えられ特殊浴場に向かい、その後は豪華な食事の並ぶ卓で義兄弟に歓迎されるのだ、住む世界が違う。それでも兄弟分のおかみさんに「世の中は辛抱の連続だけど『空は広い』と言うじゃありませんか。(洋題に繋がる台詞)」という旨で諭され、元の日常に戻って行けたのは、三上が「暴対法」という反社への現実を目の当たりにし、津乃田と施設を訪れた事で唯一心の支えとしてきた「母の迎えてくれる(という幻想)」が潰えたからに違いない。歳月は流れ、時代は変わったのだ。

東京に戻った三上は行政の手助けを得ながら老人福祉施設での就職を決めて社会復帰を果たす。それは同時に辛抱を重ね、間隔を遮断して自分を殺し、世の中に溶け込む事だった。職場イジメを受ける障害を持つ若者(実はそれほど聖人ではない)との交流や元妻との再会を約束し、物語はクライマックスを迎える・・・

三上は、これまでの人生において世の中を「すばらしき世界」と感じたことはなかったと思う。そして、良き仲間に恵まれ再就職が決まり始まった第二の人生は、自分のために感情を抑え弱きを救えない新しい人生は、果たして「すばらしき世界」なのでしょうか。それは私にとっても同じ事だと思いました。

その他の雑な感想として「六角精児、最初嫌な店長だったけどマジいい人」「北村 有起哉、最初嫌な役人だったけどマジいい人」「長澤まさみ要る?(でもエロい)」「マスゴミ」でした。

全体的な感想としては、このやりきれない世の中で折り合いをつけて生きていく事の虚しさと諦めと同時に誰か(自分は家族)を大事してに生きていこうという気持ちが強まった気がします。「万引き家族」を観た後のような、複雑な思いでした。

最後に、この物語が包括する社会の諸問題は次の通りでしょうか。その他にも自分が気が付かない事象が含まれているかもしれませんが、それに気づけないのは幸せなのかそれとも不幸せなのか・・

①元受刑者の社会復帰問題②ネグレクト・児童虐待③シングルマザー/貧困と性風俗④反社会的勢力の実情⑤生活保護受給等に係る社会保障制度問題⑥外国人労働者問題⑦職場内イジメ⑧知的障害者の就業問題⑨おやじ狩り⑩メディアのバラエティー化と陳腐化⑪社会的弱者に対する行政の対応

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